記事の概要
スコッチウイスキーは世界中のウイスキー産業のなかでも傑出した存在となっています。
スコットランドはイギリスを構成する4つの地域のひとつであり、面積は北海道と同程度であるにもかかわらず、ウイスキーの全消費量の60%程度がここで作られています。
スコッチウイスキーが繁栄した背景には、ウイスキーづくりに適したスコットランドの風土や、地域により蒸留所の個性を育む自然環境も多様性を有していたところが大きいでしょう。
この記事ではスコッチウイスキーとはどのようなものなのか、理解が深められるように知識をまとめていきます!
定義
現在、スコッチウイスキーは2009年にイギリスで定められたスコッチウイスキー規則によって以下のように定義されています。
定義
ⅰ.原料として水、酵母、大麦麦芽及びその他の穀物を原料とすること。
ⅱ.スコットランドの蒸留所で糖化・発酵・蒸留を行うこと。
ⅲ.アルコール度数94.8%以下で蒸留すること。
ⅳ.容量700リットル以下のオーク樽で熟成させること。
ⅴ.スコットランド国内の保税倉庫で3年以上熟成させること。
ⅵ.添加物は水及びスピリットカラメルのみとすること。
ⅶ.アルコール度数40%以上で瓶詰めすること。
主要な製品の種類
スコッチウイスキーは原料と製法の違いによりモルトウイスキーとグレーンウイスキーに大別されています。これらを混合したものが製品として発売されていますが、この混合の仕方によって種類が分けられているため、それぞれまとめていきます。
ブレンデッドウイスキー
モルトウイスキーとグレーンウイスキーを混ぜ合わせて瓶詰めした製品のこと。
スコッチウイスキーの生産量のうち8割以上がこのブレンデッドウイスキーである。
シングルモルトウイスキー
単一の蒸留所で作られたモルトウイスキーのみについて、複数の樽で熟成させた原酒を混ぜ合わせて瓶詰めした製品のこと。
ブレンデッドモルトウイスキー
複数の蒸留所で作られたモルトウイスキーのみを混ぜて瓶詰めした製品のこと。
シングルグレーンウイスキー
単一の蒸留所で作られたグレーンウイスキーのみについて、複数の樽で熟成させた原酒を混ぜ合わせて瓶詰めしたもの。
【マメ知識】シングルカスクって何なに?
シングルモルトウイスキーのなかにはボトルにシングルカスクと表記されているものがあります。このシングルカスクとは1つの樽のみから瓶詰したことを表しています。さらに加水を行わわずに瓶詰めしたものは、カスクストレングスと表記されます。
どんな歴史があるの?
スコッチウイスキーの歴史について見ていきます。
1400年代ーウイスキーの始まりー
スコットランドにおけるウイスキーに関する最古の記録は1494年の財務省の記録でした。
この中で「修道士ジョンコーに8ボルのモルトを与え、アクアヴィテを造らしむ」という記載がなされているが、このアクアヴィテという言葉をゲール語にするとウシュクベーハとなり、これがウイスキーの語源とされてます。
1600-1700年代ー密造の時代ー
スコットランドにてウイスキーに対する課税が1644年に始まりました。
その後、1707年にはスコットランド王国とイングランド王国は合同し、新たに成立したグレートブリテン王国の一部となります。
この頃にはウイスキーに対する課税が大幅に強化されており、多くのスコットランド人はイングランド人に対して反感を覚えるようになってしまいます。
このような背景からスコットランド人は政府への抵抗の意味も込めてウイスキーの密造を行うようになりました。
【マメ知識】樽熟成の発見
ウイスキーの密造が盛んだった時代、密造酒を隠すために樽が使用されていた。当時の人々は樽に詰められたウイスキーは琥珀色を帯び、まろやかな味になることが発見し、現在では蒸留後に樽で熟成を行うという製法が確立された。
1800年代ー重税からの解放ー
1823年には酒税法の改正が行われ、ウイスキーに対する税率が引き下げられました。
これは、当時の国王であるジョージ4世が密造酒であった「ザ・グレンリベット」を愛飲していたが、王が密造酒を好む状況を良くないと判断した側近の機転によるものであったとされています。
酒税法の改正に伴い、ジョージスミスが経営するザ・グレンリベット蒸留所が政府公認第一号となり、その後続々と政府公認となる蒸留所の数が増えていきました。
1826年にはスコットランド人であるロバートスタインによって連続式蒸留器が発明され、これによってウイスキーの大量生産が可能となりました。
この連続式蒸留器はローランド地方の生産者によって多く活用され、大量生産に当たって原料を大麦より安価な穀物とした、グレーンウイスキーの生産が増大しました。
一方でハイランド地方では連続式蒸留器を活用せず、従来通りの材料・製法でモルトウイスキーを生産していました。
1860年には異なるウイスキーを混ぜ合わせてはいけないという法律が改正されたことにより、モルトウイスキーとグレーンウイスキーを混ぜ合わせたブレンデッドウイスキーが誕生することとなりました。
1870年ごろには、ヨーロッパで主にフランス国内にてブドウが害虫により壊滅的な被害を受けたことでワインやブランデーが生産できなくなってしまいます。
そこで、イギリスにおいて中・上流階級内でウイスキーが流行しするようになり、イギリス全国に広まることになりました。
1900年代以降ー現在にかけてー
1905年にはロンドンのイズリントン地区の裁判所によって、グレーンウイスキー及びそれを使用したブレンデッドウイスキーはスコッチウイスキーではないとの判断を下し、衝撃が広がりました。
しかし、生産者からの強い要求によって王立委員会によってその判決は覆されることになり、この時の結論を基に現在のスコッチウイスキーの定義が定められています。
その後、世界大戦やアメリカの禁酒法の影響から多くの蒸留所が閉鎖されてしまうが、第二次世界大戦後にはアメリカからのスコッチウイスキーの需要も戻り、消費量は回復することとなります。
現在では、長い歴史を持つスコッチウイスキーの輸出規模は6000億円ほどにも上り、特に年代物のスコッチウイスキー等は非常に高値で取引されているものも多くなっています。
地域による分類
近年、ウイスキー人気に伴いスコットランド内でも新規参入や閉鎖蒸留所の再開などが増加しており、蒸留所の数はおよそ140箇所近くとなっています。
また、これらの蒸留所はその属する地域ごとに風土や気候を反映した異なる特徴を持ったウイスキーを生産しています。
一般にスコッチウイスキーの産地は6つの地域に分けて紹介されます。
ここでは地域ごとに特徴や蒸留所をまとめていきます。(ここではモルトウイスキーの蒸留所のみ紹介しています。)
ハイランド地方
東のダンディーと西のグリーノックを結んだ線の北側をハイランドといいます。非常に広大な面積を誇ることから、一般的にさらに東西南北に分けて考えます。
また広大な土地ゆえ、作られるウイスキーもヘビーなものからライトなものまで様々となっています。
ハイランドに属する代表的な蒸留所を下表にまとめておきます。
南ハイランド
アバフェルディ | ブレアアソール | ディーンストン |
グレンタレット | タリバーディン | ストラスアーン |
エドラダワー | グレンゴイン | ロッホローモンド |
東ハイランド
アードモア | フェッターケアン | グレンドロナック |
グレンギリ― | グレングラッサ | ノックドゥー |
マクダフ | ロイヤルロッホナガ |
西ハイランド
アードナムルッカン | べンネヴィス | オーバン |
スペイサイド地方
スペイサイドは地理的にはハイランド地方に含まれているが、スコットランドの蒸留所のうちおよそ半数を有していているため、通常ハイランドとは区別して紹介される。本記事ではスペイサイドをさらに7地区に分けて蒸留所をリストアップしています。
スペイサイド地方のウイスキーは総じて非常にフルーティかつフローラルであり、バランス感に富んでいるのが特徴です。
スペイサイドに属する蒸留所を地区ごとに下表にまとめておきます。
エルギン地区
ベンリアック | グレンバーギ | グレンエルギン |
グレンロッシー | グレンマレイ | リンクウッド |
ロングモーン | マノックモア | ミルトンダフ |
ローズアイル |
バッキー地区
インチガワー |
フォレス地区
ベンロマック |
キース地区
オフロスク | オルトモア | グレンキース |
グレントファース | ストラスアイラ | ストラスミル |
ローゼス地区
グレングラント | グレンロセス | グレンスペイ |
スペイバーン |
リベット地区
ブレイバル | ザ・グレンリベット | タムナブーリン |
トミントール |
アイランズ
アイランズモルトはアイラ島以外のスコットランドに浮かぶ島々で作られるウイスキーの総称です。
主要な蒸留所は7箇所あるが、それぞれの島で育まれた個性的な味わいを持っているため、特徴を端的に表すことができないため、島育ちの個性派と捉えておきましょう。
アイランズの蒸留所を下表にまとめておきます。
ローランド地方
ローランド地方はエジンバラやグラスゴーなどの大都市が多く所在するスコットランドの南西部に当たる地域です。
ローランドではアイリッシュウイスキーのように3回蒸留を行っている蒸留所もあり、非常にライトな酒質のものが多くなっています。
ローランドに位置する蒸留所を下表にまとめておきます。
オーヘントッシャン | ブラドノック | グレンキンチー |
ダフトミル | アルサベイ | アナンデール |
エデンミル | キングスバーンズ |
【マメ知識】グレーンウイスキー発祥の地
かつてローランドのウイスキー業者はハイランドの業者と激しく競争していた。しかし、ハイランドの風味豊かなウイスキーに勝ることはできなかった。そこで、ローランドでは連続式蒸留器の積極的な導入やトウモロコシを原料として活用するなど、安価かつ大量生産できるウイスキーの製造に切り替えたのであった。これが現在のグレーンウイスキーである。
アイラ島
スコットランドの西岸に連なるへブリティーズ諸島、その最南端であるアイラ島で作られたウイスキーをアイラモルトといいます。アイラ島は日本の淡路島と同程度の面積だが、8か所の蒸留所を有しています。
島の気候が比較的温暖であり大麦の生育に適していることや、島の4分の1がピート層であることからウイスキー造りが盛んとなった地域です。
アイラモルトにはピート由来の強力なスモーキー感や、独特な潮っぽさがあり、熱狂的な人気を集めています。
アイラ島の蒸留所を下表にまとめておきます。
アードベッグ | ボウモア | ブルックラディ |
ブナハーブン | カリラ | キルホーマン |
ラガヴーリン | ラフロイグ | アードナッホー |
【マメ知識】ピートってなに?
ピートは野草や水生生物が炭化した泥炭のこと。泥炭は炭化度が少ない石炭である。多くのアイラモルトでは原料の大麦麦芽を乾燥させる際の燃料にこのピートを使用しており、その過程で独特のスモーキーさが付与されている。
ちなみにアイラ島は全島の4分の1がピート湿原でおおわれている。
キャンベルタウン
キャンベルタウンはスコットランドの南西にあるキンタイア半島の端にある都市です。
かつては人口5000人に対して30の蒸留所を有しており、かの竹鶴政孝も研修で訪れたことがあった地です。しかし、その後衰退してしまい現在では3か所の蒸留所が稼働しています。
港町であるキャンベルタウンで生産されるウイスキーの特徴はブリ二―と表現される塩辛さである。香りも強く、ボディも厚い非常に満足度の高い印象のあるウイスキーです。
キャンベルタウンの3つの蒸留所は下表にまとめておきます。
グレンガイル | グレンスコシア | スプリングバンク |
ブレンデッドウイスキー
ブレンデッドウイスキーは上記で紹介した蒸留所で作られるモルトウイスキーとグレーンウイスキーを混ぜ合わせたものでした。
スコッチウイスキーの売り上げランキングでは上位20位までがすべてブレンデッドウイスキーとなっており、21位に初めてシングルモルトのザ・グレンリベットが登場しています。
このことからブレンデッドウイスキーがどれだけ大きな市場を有しているかわかります。
ここでは、世界中で大量に消費されているブレンデッドウイスキーの中でも有名で日本でもよく見る銘柄を下表にまとめておきます。
ジョニーウォーカー | バランタイン | シーバスリーガル |
グランツ | バット69 | デュワーズ |
J&B | ブラック&ホワイト | オールドパー |
ベル | ホワイトホース | ティーチャーズ |
参考資料