記事の概要
誰よりも深く世界各地の蒸留所を解説する
【蒸留所解説】シリーズ
今回は「ザ・グレンリベット蒸留所」になります!
Points!
「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
政府公認第1号/ジョージ・スミス/「THE」
ザ・グレンリベットの特徴
ノンピート/フルーティ/最強のバランス感/柑橘/バニラ/パイナップル
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\\執筆者情報//
初谷(はつがい)
ウイスキーに関わるあらゆる情報をまとめ,「ウイスキーを知りながらより深く楽しめる記事」を発信しています。
【Shop】ウイスキー専門店『Drinkable books』
【経歴】東京都立大卒|元公務員・ネット酒屋開業
【資格】JWRC公認ウイスキーエキスパート|ウイスキー検定2級
【その他】バンド「Candid moment」のドラマー
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ザ・グレンリベット蒸留所
ザ・グレンリベット蒸留所の立地・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所諸元
創業年 | 1824年(公式) |
所有会社 | ペルノ・リカール社 |
地域分類 | スペイサイド リベット地区 |
年間生産量 | 2,100万リットル |
発酵槽 | ステンレス製16基 オレゴンパイン製16基 |
ポットスチル | 初留14基・再留14基 |
仕込み水 | ジョシーズウェル(井戸) |
ブレンド先 | シーバスリーガル ロイヤルサルートなど |
「ザ・グレンリベット蒸留所」蒸留所の立地と概要
ポイント
ザ・グレンリベット蒸留所はスペイサイドのリベット地区に位置しています。より具体的にはかつてよりウイスキーの密造が栄えていたマレー州内のスペイサイドの奥地,リベット川の流れる渓谷に建てられています。
この地は良質な水が潤沢にあり,ピートも豊富で冷涼な気候のため,ウイスキー作りには最適な環境です。そのためまだ密造が蔓延っていた18世紀頃から,既に最大で200を超える密造所があったとされており,その様相から「密造者の谷」とも呼ばれる場所でした。
そんな密造者の中でも抜群の美味しさを誇り,違法ながらも当時の国王ジョージ4世が愛飲していたのがこのグレンリベットであり,その後スコットランド初の政府公認蒸留所となったことで合法にその地位を確立しました。詳しい話は後ほど…
ちなみにグレンリベットという名称はゲール語に語源があるとされていますが,複数の解釈があり,「平穏な谷(Glen Liobhait)」とする説や,「輝く川の谷(Glen Libheit)」とする説などがあります。一応日本で有名なのは前者ですね。
「ザ・グレンリベット蒸留所」蒸留所の歴史
ザ・グレンリベット蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1774年 | アンドリュー・スミスがアッパードラミン農場にグレンリベットの前身となる蒸留所を建設し、密造を始める |
1817年 | アンドリューから息子のジョージ・スミスへと蒸留所が引き継がれる |
1822年 | 当時国王であったジョージ4世が密造酒のグレンリベットを口にしたところ、虜になってしまう。 |
1823年 | スコットランドの酒税法が改正され、ウイスキーにかかる税金が引き下げられる |
1824年 | グレンリベット蒸留所が政府公認第1号となる |
1840年 | ジョージが蒸留所建設予定地としてデルナボ農場を購入する |
1845年 | ジョージがミンモア農場を借地する |
1850年 | ジョージがデルナボ農場に2番目の農場を建設する |
1858年 | アンドリューが建設したアッパードラミンの蒸留所が全焼してしまう ジョージが借地していたミンモア農場を買収する |
1859年 | デルナボ農場に建てた蒸留所を閉鎖し、ミンモア農場に新たな蒸留所をオープンする この場所が現在でも使われている |
1871年 | ジョージ・スミスが亡くなる 蒸留所の運営は息子のジョン・ゴードン・スミスと孫のジョージ・スミス・グラントに引き継がれる |
1881年 | 「グレンリベット」の名を無断で使用する他企業に対して訴訟を起こす |
1884年 | 勝訴し、スミス家及びブレンダーのアンドリューアッシャーのみに「ザ・グレンリベット」の名前を使用する権利が与えられた |
1890年 | 火災によって建物の一部が消失してしまい、設備の取替が行われた |
1896年 | ポットスチルが2基増設された |
1901年 | ジョンが亡くなり、主要な経営がジョージに引き継がれる |
1953年 | グレングラント社と合併し、ザ・グレンリベット&グレングラント社が創設される |
1966年 | フロアモルティングが廃止される |
1970年 | 同社がロングモーン社及びヒルトムソン&Co社を取り込み、グレンリベットディスティラーズ社が創設される |
1978年 | カナダのシーグラム社に4600万ポンドで買収される ビジターセンターが建設される |
1982年 | ポットスチルの加熱方式がガス直火から蒸気間接加熱に変更される |
2001年 | ペルノ・リカール社がシーグラム社のスコッチ部門である、シーバス・ブラザーズ社を買収する 現在もシーバス・ブラザーズ社がペルノ・リカール社のもとで生産活動を行っている |
2009年 | グレンリベットの生産量を75%増強するべく、1000万ポンドをかけた増設が決定される |
2010年 | 第2蒸留棟が竣工する |
2018年 | 第3蒸留棟が竣工する |
ザ・グレンリベットに纏わるストーリー
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「ザ・グレンリベット蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
2,100万L - 仕込み水
ジョシーズウェル(井戸) - モルトスター
クリスプ,ブートモルト - ピーテッドレベル
ノンピート - マッシュタン材質
ステンレス製フルロイター - マッシュタン容量
13.5トン - ウォッシュバック
ステンレス製14基
オレゴンパイン製14基 - 酵母
マウリ社製,リキッドタイプ - ウォッシュバック容量
59,100L
- 発酵時間
54時間 - スチル加熱方式
蒸気間接加熱 - ポットスチル(初留)
ランタン型14基 - ウォッシュスチル容量
15,000L - ポットスチル(再留)
ランタン型14基 - スピリッツスチル容量
9,500L - コンデンサー
シェル&チューブ - 本留の度数
68-70% - ウェアハウス形式
ダンネージ式
生産工程全体の共通事項
ザ・グレンリベット蒸留所の生産棟は現在3棟に分かれており,元来の第一蒸留棟,2010年に竣工した第二蒸留棟,2018年に竣工した第三蒸留棟も構成となっています。設備の導入年次こそ異なりますが,マッシュタンやポットスチルのサイズは等しくなっています。
製麦について
出典:whisky.com / whiskysaga.com
ポイント
ザ・グレンリベット蒸留所では1966年まではフロアモルティングによる自社製麦が行われていましたが,現在は製麦工程を外部のクリスプ社やブートモルト社を筆頭とした専門業社(モルトスター)に委託しており,そこから原料のモルトを購入しています。
グレンリベットは古くのピーティなウイスキーが主流であった時代から,現代のスペイサイドモルトらしいフルーティなスタイルのウイスキーを一貫して生産しており,今でもノンピートタイプの麦芽のみが原料とされています。
用意された原料のモルトは,ポルテウス社製のローラー式モルトミルで粉砕してグリストとされたのち,糖化の工程へと進みます!
↓工程の詳細な解説↓
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糖化について
出典:whisky.com / whiskysaga.com
ポイント
ザ・グレンリベット蒸留所では仕込み水としてジョシーズウェルという井戸の湧水が採用されています。マッシュタンはブリッグズ社製のものが2基あり,各々1バッチあたり13.5トンと巨大なステンレス製のフルロイタータンになります。
ここが特徴!
- 糖化1バッチ分のウォートが1基のウォッシュバック(容量59,100L)に投入されるとのことなので,グリスト1トンあたり4,350L程度のウォートが得られていると考えられる
- ウォートはEBC8〜20程度の比較的薄い色味となり,最終的なウイスキーのすっきりとしたテイストに寄与する
次の工程は発酵になります!
↓工程の詳細な解説↓
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発酵について
出典:whisky.com
ポイント
ザ・グレンリベット蒸留所には容量59,100リットルでステンレス製のウォッシュバックが16基,オレゴンパイン製のウォッシュバックが16基設置されています。酵母は一般的なディスティラーズ酵母であり,マウリ社製のリキッドタイプのものになります。
ここが特徴!
- 発酵時間が54時間と概ね一般的な水準のため,乳酸醗酵があまり生じず,複雑で重めのテイストが多く残る
- ウォッシュのアルコール度数は8〜9%程度となる
次の工程は蒸留になります!
↓工程の詳細な解説↓
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蒸留について
出典:whisky.com / whiskysaga.com
ポイント
ザ・グレンリベット蒸留所には容量15,000リットルのウォッシュスチルが14基,容量9,500リットルのスピリッツスチルが14基設置されています。
ポットスチルが収められているスチルハウスは増改築によって合計3棟に分かれており,元来の第一蒸留棟に4対8基が,第二蒸留棟に3対6基,第三蒸留棟に7対14基が設置されています。
形状は新旧問わず同じとされており,ネックの長いランタン型で,ラインアームは下向きに伸びています。加熱方式は蒸気による間接加熱方式,コンデンサーはシェル&チューブ方式が採用されています。
ここが特徴!
- ランタン型のポットスチルは蒸気の環流を促してヘビーな香気成分をカットしやすくなるが,下向きのラインアームはこれとは逆の影響を与える
- スチル容量一杯にウォッシュがチャージされるが,ランタン型の形状によって蒸気の銅との接触面積が増大され,不快な香気の除去が進行しやすくなる
- ウォッシュはウォッシュバック1基から60,000リットル程度確保されるため,これが概ね初留4回分に該当するものと考えられる
- チャージに対して一般的には「蒸留液:残留物=1:2」となることからローワインは5,000リットル程度となり,初留2回分が再留1回分に該当しているものと考えられる
次の工程は熟成になります!
↓工程の詳細な解説↓
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熟成について
出典:whisky.com / グレンリベット公式
ポイント
ザ・グレンリベット蒸留所の敷地内には伝統的なダンネージ式のウェアハウスが建てられています。熟成に使用される樽はヨーロピアンオークやアメリカンオークの樽が主であり,フィニッシュ用にラム樽やコニャック樽なども一部使用されています。
蒸留によって得られたニューポットは,通常加水によってアルコール度数を63.5%に調整されたのちに樽詰めされて,ウェアハウスにて長い時間を眠ることとなります。
↓工程の詳細な解説↓
オフィシャルボトル一覧
ザ・グレンリベット蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
ザ・グレンリベット12年
ポイント
「ザ・グレンリベット12年」はザ・グレンリベット蒸留所の公式シングルモルトのうち,最もスタンダードかつ代表的なボトルになります。
アメリカンオーク樽で熟成された原酒を主軸とし,ヨーロピアンオーク樽で熟成された原酒を丁寧にバッティング。伝統的なグレンリベットらしいスムースかつフルーティなテイストが表現されています。
文字通り政府公認シングルモルトの起源であるとともに,近年ではウイスキーの年鑑にて「最高級のモルト」とも称された,スコットランドを代表する最大のシングルモルトになります。
香り
クリーミーなバニラ/パイナップル/オレンジ/爽やかでどこか懐かしい夏/程よい酸味感
味わい
ナッツ感/オレンジ中心の柑橘系/トロピカル/ウッディなバニラ/ミネラル感/クリーン/チョコレート
余韻
優しいウッディ感や草原のような自然の香りが長く続く
ザ・グレンリベット
ファウンダーズリザーブ
ポイント
「ファウンダーズリザーブ」はザ・グレンリベット蒸留所の公式シングルモルトのうち,最もリーズナブルなノンエイジタイプのボトルになります。
その原酒はリフィルのオーク樽およびファーストフィルのアメリカンオーク樽で熟成された原酒で構成されており,リフィル樽由来の柔らかな甘さと1stフィル樽らしい力強さの調和がとれたテイストが特徴となります。
ザ・グレンリベット
カリビアンリザーブ
ポイント
「ザ・グレンリベット カリビアンリザーブ」は構成原酒の一部に対してカリビアンラムを詰めていた樽でのフィニッシュを適用するという,ユニークな試みの元に生み出されたボトルになります。
このボトルにはカリブの人々の愉快な文化にインスピレーションを受け,新しいことにチャレンジしていくというグレンリベットの意思が反映されています。
グレンリベットらしいフルーティさに加えて,カリビアンラムに由来する濃厚な甘みとトロピカルな南国感が強調されており,レーズンとはちみつが際立つ美味なるテイストとなりました。
ザ・グレンリベット14年
コニャックカスク
ポイント
「ザ・グレンリベット14年コニャックカスク」はブレンドの一部にコニャックカスクでフィニッシュされた原酒が使用された,14年熟成のボトルになります。
具体的にはバーボン樽とシェリー樽で14年間熟成された原酒のうち,その一部を高品質なコニャックカスクで半年以上フィニッシュすることで作られています。
スペイサイドらしいバニラ感や柑橘系のフルーツ香に,コニャックらしいブドウ園の香りが優しく感じられ,元来のフルーティなテイストがより際立ちました。
ザ・グレンリベット15年
ポイント
「ザ・グレンリベット15年」はフランスのドルドーニュ地方で採取されたリムザンという木材製のフレンチオークの樽で熟成された原酒によって構成される,15年熟成のシングルモルトになります。
実はウイスキーの製造にフレンチオーク樽を初めて使用した蒸留所こそがグレンリベットであり,このボトルではユニークなスパイス感や香ばしいアーモンドの要素が巧みに引き出されています。
ザ・グレンリベット18年
ポイント
「ザ・グレンリベット18年」はマスターディスティラーのアラン・ウィンチェスター氏が様々樽のタイプの組み合わせで作り上げている,18年熟成のボトルになります。
具体的には1stフィル,2ndフィルのアメリカンオーク樽,シェリー樽で熟成された原酒が使用され,エレガントなバランス感を重視した豪勢なシングルモルトが完成しました。
紛れもなくザ・グレンリベットの真の品質と個性が発揮されたボトルであり,リッチかつ濃厚でフルーティな甘さが色濃く表現されています。
ザ・グレンリベット21年
ポイント
「ザ・グレンリベット21年」はアメリカンオーク樽とシェリー樽で21年以上熟成された原酒で構成されており,バッチごとの風味に多少の異なりがある,レアでユニークなウイスキーになります。
グレンリベットらしいアメリカンオーク由来のクリーミーな甘さをベースとし,リッチなドライフルーツやシナモン,ジンジャーなどのスパイス香が綺麗に溶け込んだテイストとなっています。
ザ・グレンリベット25年
ポイント
「ザ・グレンリベット25年」は常設の公式ラインナップでは最も長い25年以上の熟成を経て,その魅力を伸ばし続けた選ばれし僅かなウイスキーで構成された極上のボトルになります。
熟成に使用される樽はオロロソシェリー樽のみであり,繊細なシェリーの甘さやダークチョコレートなどの濃厚かつフルボディなテイストが表現されています。余韻はリッチかつエレガントで永遠に続く…
このボトルを持っていること自体,飲むことと同じだけの価値があり,特別なひと時を深く記憶に刻み込んでくれる崇高なウイスキーです。
ザ・グレンリベット
ナデューラファーストフィル
ポイント
「ナデューラシリーズ」はナチュラルを意味するゲール語のナデューラを題したシリーズであり,1800年代から続く伝統的な製法を守り,樽の個性を最大限に引き出したナチュラルな風味にこだわった個性的なボトルが展開されています。
この「ファーストフィル」は,1stフィルのアメリカンオーク樽原酒を少量バッチでバッティングすることで作られており,バニラやトロピカルフルーツ,バナナなどの力強いテイストが表現されています。
知らぬ間に公式サイトに販売終了と書かれていたので,興味のある人は早めの購入を検討した方が良いかもしれません。
ザ・グレンリベット
ナデューラピーテッド
ポイント
「ナデューラピーテッド」は上記のファーストフィルと同じナデューラシリーズのボトルであり,アイラ島産のピーティー原酒を詰めていた樽で熟成された原酒が使用されています。
例に漏れず少量バッチで構成されており,本来のグレンリベットとはかけ離れたクセのあるテイストを樽から獲得し,伝統的なスタイルが隠し持っていたポテンシャルが最大限にプッシュされた斬新な個性を呈しました。
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参考資料
参考サイト:whisky.com / scotchwhisky.com / サントリー公式 / グレンリベット公式 / malt-whisky-madness.com / whiskysaga.com / whiskys.co.jp / distilando.com