【第4弾】ウイスキーの製法解説「発酵編」|ウイスキーラウンドアップ

記事の概要

ウイスキーの製法については「ウイスキーの製法」という記事で簡単にまとめています。

予めご一読頂くと,より理解が深まるかと思います!

この記事では製造工程のうち,「発酵(ファーメンテーション)」についてより詳細に解説していきます。

【前回記事】ウイスキーの製法解説「糖化編」

\\執筆者情報//

whisky_roundupのアバター

初谷(はつがい)

ウイスキーに関わるあらゆる情報をまとめ,「ウイスキーを知りながらより深く楽しめる記事」を発信しています。
【Shop】The whisky shop Drinkable books
【経歴】東京都立大卒|元公務員・ネット酒屋開業
【資格】JWRC公認ウイスキーエキスパート|ウイスキー検定2級
【その他】バンド「Candid moment」のドラマー

各種SNSも運用中!

「発酵」とは…?

出典:whisky.com

前回の「糖化編」の中で,原料の大麦は粉砕され,お湯と混合されることで糖類を多く含んだ糖液(ウォート)を得ることができました。

発酵(ファーメンテーション)は,このウォートに酵母を添加することでアルコール発酵を生じさせ,ビール状でアルコール度数7〜8%程度の「ウォッシュを得る工程になります。この際にエタノールのみではなくカルボニル化合物や酸,エステル類などのウイスキーの香味を形成する成分を発生させることもまた目的としています。

またモルトウイスキー製造においては,ウォートの煮沸を行わないことが一般的なので,溶液中には多様な微生物が存在しています。よってウォッシュバック(発酵槽)の中では,アルコール発酵が酵母とその他の微生物の競争の中で進行していくこととなります。

発酵の反応自体は,ウォートを酵母と共にウォッシュバックに投入したときから始まり,時間経過と共に「酵母の増殖→発酵最盛期→酵母の死滅」と反応が進行していきます。

ここでは各段階でどのような事象が起きているのか,順を追って解説していきます!

「発酵」各段階の詳細

酵母増殖期

酵母増殖期は概ね「酵母投入〜15時間の間」に該当します。

酵母を投入した段階では,溶液中に環境由来の多様な微生物が共存しています。ここから発酵最盛期にかけては,酵母のアルコール発酵と競争する形で,微生物の作用も生じていきます。

ここで微生物の作用が卓越してしまうと,腐敗が進行して不快な香気成分の痕跡がウォッシュに残る可能性があります。そのため物理的に大量の酵母を投入することで,酵母のアルコール発酵が優位な状態とし,良好な発酵環境が確保されます。

このような良好な発酵環境下では,蒸留所ごとに発生する自然由来の微生物の作用が,所謂独自の香気成分の個性に繋がっていきます。

酵母の動向に着目すると,増殖期においては酵母が発酵性糖類やアミノ酸を食べて爆発的に増殖していきます。よって溶液中の糖とアミノ酸は減少し,酵母の数は概ね4〜10倍程度まで増加します。

酵母の増殖が終わるタイミングではアルコール度数が概ね5%程度となっており,これまで多様に存在していた微生物のうち,アルコール耐性のないものは競争から脱落していくこととなります。

発酵最盛期

発酵最盛期は概ね「15時間〜40時間の間」に該当します。

酵母増殖期の末期(12時間)頃から発酵最盛期の前半にかけては,アルコール発酵が一気に進行し,温度の上昇とともにエタノールと二酸化炭素の生成量が爆増していきます。

この時に溶液は目に見えて激しく泡立っており,これを放置してしまうと「発酵槽の蓋が飛んでいってしまう」なんてこともあるとか。そのため通常は発酵槽に備わるスイッチャーと呼ばれる泡切り回転ブレードで炭酸の泡を潰すことでこれを回避しています。

良好な発酵では概ね36時間程度経過した時点で,ウォートに存在していた発酵性糖類が全てアルコールに変化しています。またここまでに酵母の種類に依存する様々な香気成分も副次的に生成されています。

酵母死滅期

酵母死滅期は概ね「40時間以降」に該当します。

発酵最盛期を過ぎてアルコール発酵の終了にかけては酵母の死滅が始まり,代わって乳酸菌を中心とし,発酵槽に生息する微生物や野生酵母などの影響が生じ始めます。

特に乳酸菌は酵母が資化できずに溶液中に残存した非発酵性糖類を糧に増殖し,乳酸発酵を行い,乳酸および乳酸菌特有の香味が生成されていきます。一方で乳酸菌以外のその他の微生物は蒸留所ごとの香気個性を養う役目を果たします。

また死滅した酵母の体内に存在していたアミノ酸や脂肪酸も,徐々に溶液中に流出していき,乳酸菌やその他微生物の糧となります。

通常は発酵時間が長ければ長いほど,含有される乳酸が多くなるため,ウォッシュの酸味感が増していきます。

この乳酸は直接的にウイスキーの風味に関係するわけではなく,蒸留の際にポットスチル内部の銅表面をキレイに保つ役割を果たします。そしてその壁面がウォッシュの蒸気と触れ,銅が触媒として働くことで重い香気を除去する反応が進行します。

要するに発酵時間が長いと,最終的に出来上がるウイスキーは重い風味が除去されており,軽くスッキリとしたテイストに仕上がることとなります。

発酵が終了するとアルコール度数7〜9%程度のウォッシュが完成し,これらは一度ウォッシュチャージャーというタンクに送られ,次の蒸留工程の準備をします。


発酵の周辺知識

酵母について

ウイスキーは「穀物・水・酵母」の3種類を原料に作られています。酵母はこの一角を担う重要な要素です。

詳細な解説は「ウイスキーの原料」に着目した記事で行っています!ここで書くと長くなってしまうので,興味のある方は下記の記事をご参照ください…!

ウイスキーの製法解説
↓「原料編」↓


発酵に使用する設備

  • 発酵槽(ウォッシュバック)

ウォッシュバックは実際に発酵を行う円筒状の容器のことで,容量は1万〜10万リットル程度まで多様。材質についても金属製や木製など蒸留所によってまちまちとなっています。また発酵に伴う爆発的な泡立ちへの対策として,桶上部にスイッチャーという泡切り用の回転ブレードが装備されている場合がほとんどです。

特に桶の材質はウイスキーの風味と大きく関わる部分であり,金属製(主にステンレス)では洗浄や微生物の管理が容易であることから,ある程度ウォッシュの特徴に均一性を持たせることができます。一方オレゴンパインやダグラスファーなどの木製では保湿性に優れ,乳酸菌や独自の微生物が養われており,その環境に由来する風味が生成されることがあります。

木製ウォッシュバック
出典:whisky.com
ステンレス製ウォッシュバック
出典:whisky.com

次回の記事
ウイスキーの製法解説「蒸留編」

各種SNS運用中!
フォローしてね👍

参考資料

参考サイト:whisky.com