【特集】グレントファース蒸留所(Glentauchers)|場所・歴史・製法・味と種類|ウイスキーラウンドアップ

記事の概要

世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。

今回は「グレントファース蒸留所」になります!

Points!
「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」

キーワード

バランタインのキー蒸留所/ジェームズ・ブキャナン/研修センター

グレントファースの特徴

ノンピート/バランタインの繊細なフルーティさ/ナッツ/ウッディ/柑橘

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初谷(はつがい)

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グレントファース蒸留所

グレントファース蒸留所の立地・歴史・製法についてまとめていきます。

蒸留所の概要

創業年1898年
所有会社ペルノリカール社
地域分類スペイサイド,キース地区
年間生産量420万リットル
発酵槽オレゴンパイン製6基
ポットスチル初留3基・再留3基
仕込み水ロザリー川,マルベンの泉
ブレンド先バランタイン,シーバスリーガル

「グレントファース蒸留所」蒸留所の立地

出典:whisky.com

ポイント

グレントファース蒸留所はスペイサイドのキース地区に位置しています。より具体的にはキースから幹線道路A95号線を西に進み,8キロほどの距離にあるマルベンという集落のすぐ近くに建てられています。

主要な道路沿いの立地であることに加えて,1964年までは背後に鉄道が通っていたため,鉄道輸送が主体の時代には輸送コストの面で多大な利益を享受していました。

道路を挟んだ向かい側にはトファーズウッドと呼ばれる森があり,この地名と谷を表すゲール語のグレンを合わせて,グレントファース(トファーズ森の谷間)という名称になったと考えられています。

著名なブレンデッドスコッチ「バランタイン」のキーモルトとして重要な役割を果たしていますが,ビジターセンターや見学ツアーがなく,原酒もほぼ全てがブレンデッド用であることから,マイナーな地位に落ち着いている蒸留所でもあります。

「グレントファース蒸留所」蒸留所の歴史

グレントファース蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!

西暦年内容
1897年ジェームズ・ブキャナン&Co社WPローリー社の共同出資により,グレントファース蒸留所の建設が始まる
1898年蒸留所が完成し,5月に製麦が,6月に糖化が始められる
1903年グレントファース・グレンリベットディスティラリー社が設立され,蒸留所の所有者となる
1906年ジェームズ・ブキャナン&Co社が蒸留所の所有権を獲得する
1910年1910年代に連続式蒸留器でモルト原酒を作る実験が行われるが,上手くいかなかったのですぐに中止された
1923年同年以降1925年にかけて,大規模な改修工事が行われる
この際に著名な建築家であるチャールズ・ドイグ氏の設計のもと,煉瓦造りのウェアハウスが新築された
1925年ジェームズ・ブキャナン社がDCL社に合併される
1955年生産設備の動力確保のため,蒸気タービンが導入される
1958年動力源として電気が使用されるようになる
1965年ポットスチルが増設されて計6基体制となる
1969年モルティングフロアが閉鎖される
1985年ウイスキー不人気時代の影響により,蒸留所が閉鎖される
1989年蒸留所がアライドディスティラーズ社に買収される
1992年生産が再開される
2005年蒸留所がペルノリカール社傘下のシーバスブラザーズ社に買収される
以降バランタインブランドのキーモルトとなる
2007年マッシュタンが最新のステンレス製フルロイタータンに交換される
2017年バランタインブランドより,グレントファース15年がリリースされる

グレントファースに纏わるストーリー

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「グレントファース蒸留所」製法の特徴

  • 年間生産量
    420万L
  • 仕込み水
    ロザリー川,マルベン川
  • モルトスター
    モルソン・クアーズ社など
  • ピーテッドレベル
    ノンピート
  • マッシュタン材質
    ステンレス製フルロイター
  • マッシュタン容量
    1バッチ12.2トン
  • ウォッシュバック
    オレゴンパイン製6基
  • 酵母
    ケリー社製,リキッドタイプ
  • ウォッシュバック容量
    60,000L(張込み56,000L)
  • 発酵時間
    60時間
  • スチル加熱方式
    蒸気間接加熱
  • ポットスチル(初留)
    ストレート型3基
  • ウォッシュスチル容量
    17,875L(張込み9,400L)
  • ポットスチル(再留)
    ストレート型3基
  • スピリッツスチル容量
    14,700L(6,700L)
  • コンデンサー
    シェル&チューブ式
  • 本留の度数
    68.5%
  • ウェアハウス形式
    ダンネージ式など

製造工程全体の共通事項

グレントファース蒸留所の各種生産工程は,年間420万リットルの決して小規模とは言えない生産能力ながら,現在も昔ながらの人の手によるマニュアル操作にて行われています。

そのため実際にペルノリカール社の新人たちは,このグレントファースでウイスキー作りのノウハウを学ぶらしく,研修センターとしての役割も果たしている稀有な蒸留所になります。


製麦について

ポイント

グレントファース蒸留所では1969年以前はフロアモルティングによる自社製麦が行われていましたが,現在は製麦工程を外部のモルソン・クアーズ社を筆頭とした専門業社(モルトスター)に委託し,そこから原料のモルトを購入しています。

モルソン・クアーズはアメリカとカナダの会社が合併してできたビールを扱う会社であり,同じく大麦を原料としているビール事業の傍らで製麦事業も行っています。同社の日本法人が2021年末で撤退をしたことが話題となっていましたね…

ピーテッドレベルは,バランタインブランドの甘く華やかな風味に寄与するべく,全てノンピートタイプとされています。実際に原酒のほぼ全てがブレンデッド用となります。

用意された原料のモルトはローラー式のモルトミルで粉砕してグリストとされたのち,糖化の工程へと進みます!

↓工程の詳細な解説↓

糖化について

ポイント

グレントファース蒸留所では仕込み水としてロザリー川およびマルベンの泉の水を採用しています。マッシュタンは1バッチあたり12.2トンの莫大なグリスト容量を誇るステンレス製のフルロイタータンになります。

このマッシュタンを収めるマッシュハウスは1923年-1925年に一度大規模な改修が行われ,その後の1965-1966年にかけて再建された履歴があり,マッシュタンも2007年に最新のフルロイタータンに交換されています。

ポイントと考察

  • ウォートがクリアな色味となることから,雑味の少ないクリーンな酒質に寄与する
  • 一般論(グリスト1トン→ウォート5,000リットル)に当てはめれば,1バッチ12.2トンのグリストからは60,000リットル程度のウォートが得られていると考えられる

次の工程は発酵になります!

↓工程の詳細な解説↓

発酵について

ポイント

グレントファース蒸留所には容量60,000リットル(張込み56,000リットル)でオレゴンパイン製のウォッシュバックが6基設置されています。発酵時に添加される酵母は一般的なディスティラーズ酵母であり,ケリー社製のリキッドタイプのものになります。

ポイントと考察

  • 発酵時間が60時間とやや長めに設定されていることから,適度に乳酸発酵が生じ,風味がすっきりする
  • 糖化1バッチで概ね60,000リットルのウォートが得られていると推察できることから,これがウォッシュバック1基分に該当するものと考えられる

次の工程は蒸留になります!

↓工程の詳細な解説↓

蒸留について

出典:whisky.com

ポイント

グレントファース蒸留所には容量17,875リットル(張込み9,400リットル)のウォッシュスチルが3基,容量14,700リットル(張込み6,700リットル)のスピリッツスチルが3基設置されています。

形状はどれもストレート型であり,ポット部はややスリムながらネックは太めの印象で,ラインアームは下向きに伸びています。加熱方式は蒸気による間接加熱方式,コンデンサーはシェル&チューブ方式が採用されています。

再留後のミドルカットを行うスピリッツセイフは,各スピリッツスチルに対して1基ずつの計3基設置されており,それぞれ独立して稼働させることが可能です。

ポイントと考察

  • ストレート型スチルや下向きのラインアームでは,蒸気の環流があまり生じないため,重めの香味を呈する成分が流出しやすい
  • 初留・再留ともにスチル容量の半分以下のチャージで蒸留を行うため,蒸気の銅との接触面積が増大し,不快な香気の除去が進行しやすい。
  • チャージに対して通常「蒸留液:残留物=1:2」となることから,ローワインは3,000リットル強程度得られ,初留2回分が再留1回分に該当すると考えられる。
  • 1基の発酵槽から得られた56,000リットルのウォッシュは概ね初留6回分,再留3回分に該当してると考えられる。

次の工程は熟成になります!

↓工程の詳細な解説↓

熟成について

出典:whisky.com / google map

ポイント

グレントファース蒸留所には煉瓦造りの伝統的なダンネージ式のウェアハウスがありますが,これは1923-1925年の蒸留所改修工事の際,チャールズ・ドイグ氏の設計の元で新設されたものになります。

熟成に使用されている樽は明かされていませんが,バランタインブランドからリリースされたグレントファース15年がシェリー樽とバーボン樽のテイストを有していたことから,この両者は主だって使用されているものと思われます。

蒸留によって得られたニューポットは,通常加水によって樽熟成に適したアルコール度数の63.5%に調整されたのちに樽詰めされて,ウェアハウスにて長い時間を眠ることとなります。

↓工程の詳細な解説↓

オフィシャルボトル一覧

グレントファース蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!

バランタイン シングルモルト
グレントファース15年

ポイント

グレントファース15年」はバランタインブランドから限定リリースされる蒸留所の公式シングルモルトであり,唯一のオフィシャルボトル的な存在になります。

バランタインのキーモルトとなったのは比較的最近のことであり,2000年代にペルノリカール社によって買収された時よりキーモルトとして抜擢されました。

公式によれば,グレントファースはバランタインの繊細な後味を構成する重要な要素であるとされており,ヘザーやベリーのような華やかな系のテイストを特徴としています。

香り

煮込んだアップル/ドライ/ナッツ/シトラス/ベリー系の赤い果実/ウッドスモーク/繊細

味わい

濃厚なりんご/強いナッツ感/ウッディなビター感/カシスフルーツ/植物系自然感/ラズベリーの酸味

余韻

華やかなフルーティさとビターなウッディ感が長く残る

-参考-
【公式テイスティングノート】
香り

ソフトベリーや柑橘系
味わい

ラズベリー,カシス
余韻

滑らかで繊細,長く続く甘美な余韻

バランタイン公式

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参考資料

参考サイト:whisky.com / scotchwhisky.com / scotchwhisky.net / malt-whisky-madness.com / whiskys.co.uk / バランタイン公式