記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回は「タリスカー蒸留所」になります!
Points!
「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
ミストアイランド/キングオブドリンク/クラシックモルト
タリスカーの特徴
ミディアムピーテッド/黒胡椒の強いスパイス香/沿岸に打ち付ける波の潮感/モルティ
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\\執筆者情報//
初谷(はつがい)
ウイスキーに関わるあらゆる情報をまとめ,「ウイスキーを知りながらより深く楽しめる記事」を発信しています。
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【経歴】東京都立大卒|元公務員・ネット酒屋開業
【資格】JWRC公認ウイスキーエキスパート|ウイスキー検定2級
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タリスカー蒸留所
タリスカー蒸留所の立地と概要・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所諸元
創業年 | 1830年 |
所有会社 | ディアジオ社 |
地域分類 | スコットランド,スカイ島 |
年間生産量 | 330万リットル |
発酵槽 | オレゴンパイン製8基 |
ポットスチル | 初留2基・再留3基 |
仕込み水 | ホークヒルの地下泉 |
ブレンド先 | アイル・オブ・スカイ,ジョニーウォーカーなど |
「タリスカー蒸留所」蒸留所の立地と概要
出典:google map
ポイント
タリスカー蒸留所はスコットランド西部に浮かぶインナーへブリティーズ諸島最大の島であるスカイ島に所在しています。より具体的には島の西岸側にあるカーボストの村の中,ロッホハーポートという入江の汽水域沿岸に建っています。
蒸留所の緯度については北緯約57度と,日本の札幌の北緯43度と比較してもかなり北側に位置していることがわかりますが,島の周囲を流れるメキシコ湾流の影響があるため,意外にも冬季ですら0℃を下回ることは稀です。
スカイ島は島でありながら切り立った高い山が多く,濃霧や雲が非常に発生しやすい環境であることから別名「ミストアイランド(霧の島)」と呼ばれることもあります。また特に冬場において外海が激しく荒れるため,波が沿岸の切り立った岩場に打ち付けて弾ける情景はタリスカーの風味との関連を感じさせます。ちなみにスカイ(Skye)は古代ノース語において「翼の形をした」という意味を持っているとされており,島を引き目で見ると確かに片翼のように見えますね。
タリスカーのシングルモルトは世界中に多くのファンを抱えているだけあり,近年では年間5〜6万人にも及ぶ観光客が蒸留所を訪れており,実際にビジターセンターや公式ツアーも充実しています。スカイ島自体が雄大な自然と古城や湖などの観光資源に長けているため旅の目標地点としても相応しいでしょう。
最後に「タリスカー(Talisker)」という名称の語源については,古代ノース語の「Thalas Gair(傾いた大岩)」に由来するものとされており,創業者のマカスキル兄弟が蒸留所の建設時に滞在したタリスカーハウスにちなんで名付けられたとされています。
「タリスカー蒸留所」蒸留所の歴史
タリスカー蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1825年 | マカスキル兄弟(ヒューとケネス)が蒸留所用地としてスカイ島に土地を貸借する |
1830年 | マカスキル兄弟によってタリスカー蒸留所が創業される |
1843年 | 経営がうまく行かず,土地のリースを放棄することとなる |
1848年 | マカスキル兄弟が破産し,土地及び蒸留所は本土の銀行に譲渡される |
1857年 | 蒸留所がドナルド・マクレナン氏へと売却される |
1863年 | 操業が思うように行かず,マクレナン氏は蒸留所の売却先を探し始める |
1867年 | 最終的にグラスゴーのアンダーソン&Co社が蒸留所の経営権を取得する |
1879年 | 同社を経営するジョン・アンダーソン氏が架空のウイスキー樽を販売したとして投獄される |
1880年 | 蒸留所はアレクサンダー・グリゴール・アラン氏とロデリック・ケンプ氏へと引き継がれる |
1892年 | ロデリック・ケンプ氏がマッカラン蒸留所建設という大義名分のもと,タリスカーの株式を売却する この時点でタリスカーの筆頭所有者はアレクサンダー・グリゴール・アラン氏である |
1894年 | タリスカー・ディスティラリー社が創設される |
1895年 | アレクサンダー・グリゴール・アラン氏が亡くなる 蒸留所は彼のビジネスパートナーであるトーマス・マッケンジー氏に引き継がれる |
1898年 | タリスカー・ディスティラリー社がダルユーイン−グレンリベットディスティラーズ社とインペリアルディスティラーズ社と合併し,ダルユーイン・タリスカーディスティラーズ社が形成される |
1916年 | トーマス・マッケンジー氏が亡くなる 蒸留所はジョンウォーカー&サンズ社などからなるウイスキー関連の共同企業体(のちのDCL社)の傘下となる |
1925年 | 共同企業体がDCL社へと発展する |
1928年 | タリスカーの3回蒸留が廃止される |
1960年 | 蒸留所で火災が発生し,大規模な修理作業が開始される |
1962年 | 蒸留所の復旧が完了し,生産が再開される |
1972年 | 自社によるフロアモルティングが廃止され,以降はグレンオード製麦所から原料を購入するようになる |
1986年 | DCL社がギネス社に買収され,UD社が発足する |
1989年 | タリスカー10年がUD社のクラシックモルトシリーズに選出される |
1997年 | ギネス社がグランドメトロポリタングループを買収し,ディアジオ社が設立される |
1998年 | 新たなマッシュタンとワームタブが導入される |
2004年 | タリスカー18年がコアレンジに加わる |
2005年 | タリスカー蒸留所175周年記念 |
2007年 | タリスカー18年がWWAにて世界のベストシングルモルトウイスキーに選出された |
2013年 | ビジターセンターのアップグレードに100万ポンドの投資がなされる |
タリスカーに纏わるストーリー
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「タリスカー蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
330万リットル - 仕込み水
ホークヒルの地下泉 - モルトスター
グレンオード製麦所 - ピーテッドレベル
ミディアムピーテッド - マッシュタン材質
ステンレス製セミロイター - マッシュタン容量
1バッチ8トン - ウォッシュバック
オレゴンパイン製8基 - 酵母
プレス状ディスティラーズ酵母 - ウォッシュバック容量
53,000リットル
- 発酵時間
70時間 - スチル加熱方式
蒸気間接加熱 - ポットスチル(初留)
バルジ型2基 - ウォッシュスチル容量
14,706L(張込み約11,000L) - ポットスチル(再留)
ストレート型3基 - スピリッツスチル容量
11,204L(張込み約7,400L) - コンデンサー
ワームタブ方式 - 本留の度数
69〜71% - ウェアハウス形式
63.5%
製麦について
出典:google map
ポイント
タリスカー蒸留所では1972年までフロアモルティングによる自社製麦が行われていましたが,現在は製麦工程を同じディアジオ系列のグレンオード製麦所に委託し,そこから原料のモルトを購入しています。
ピーテッドレベルについてはヘビリーピーテッドタイプ75%とノンピートタイプ25%を混合して使用しているため,結果としてフェノール値は20〜25ppm程度のミディアムピーテッドとなります。
用意された原料のモルトはポルテウス社製のローラー式モルトミルで粉砕してグリスト(ハスク:グリッツ:フラワー=20:71:9)とされたのち,次の糖化の工程へと進みます!
↓工程の詳細な解説↓
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糖化について
出典:whisky.com / google map
ポイント
タリスカー蒸留所では仕込み水として蒸留所の背後にあるホークヒル(Cnoc nan Speirag)の地下泉の水が採用されています。マッシュタンは1バッチあたり8トンのグリスト容量を誇るステンレス製のセミロイタータンになります。
糖化1バッチで得られるウォートの総量は約38,000リットルとなっており,次の発酵工程ではこのウォートが1基のウォッシュバック(容量53,000リットル)に投入されることとなります。
ここが特徴!
- お湯の温度と量について,1回目が63.5℃で28,000リットル,2回目が75℃で9,000リットル,3回目は85℃で31,000リットルとされています
- ウォートは比較的クリアな色味で確保されており,一般的にこのようなウォートからはライトなテイストが得られる
次の工程は発酵になります!
↓工程の詳細な解説↓
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発酵について
出典:whisky.com / google map
ポイント
タリスカー蒸留所には容量53,000リットルでオレゴンパイン製のウォッシュバックが8基設置されています。使用される酵母はプレス状で一般的なディスティラーズ酵母になります。
ここが特徴!
- 発酵時間は70時間とやや長めに設定されている
次の工程は蒸留になります!
↓工程の詳細な解説↓
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蒸留について
出典:whisky.com / google map
ポイント
タリスカー蒸留所には容量14,706リットル(張込み約11,000リットル)でバルジ型のウォッシュスチルが2基,容量11,024リットル(張込み約7,400リットル)でストレート型のスピリッツスチルが3基設置されています。
スチルの加熱方式は蒸気による間接加熱方式,コンデンサーは伝統的なワームタブ方式が採用されています。また初留器・再留器ともにラインアームは地面と水平です。ちなみに1928年までは3回蒸留が採用されていたり,1972年までは石炭直火加熱が採用されていたりした時期もありました。
ここが特徴!
- 初留後に得られるローワインの度数は23%となる
- ミドルカットについては74〜65%の間がミドルとして確保される
- 一般的にチャージに対して「蒸留液:残留物=1:2」程度となることから,初留からは3,700リットル程度のローワインが得られているものと考えられ,初留2回分が再留1回分に該当することとなる
- 伝統的なワームタブ式コンデンサーでは,比較的蒸気の液化が遅く,単管であることから銅との接触が比較的少なくなる。よって比較的重めの酒質が得られるとされている
次の工程は熟成になります!
↓工程の詳細な解説↓
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熟成について
出典:whisky.com
ポイント
タリスカー蒸留所には伝統的なダンネージ式のウェアハウスが3棟設置されています。しかし現在生産される原酒の樽詰めは蒸留所で行っておらず,本土のグラスゴー郊外で行われているため,熟成もほとんどがそこで行われています。蒸留所のウェアハウスで熟成される原酒は特別なリリース用とされているため,空きが出来ると本土にある樽が輸送されて補充されることとなります。
熟成に使用される樽はバーボン樽が主とされていますが,バーボン樽をひと回り大きく組み直したホグスヘッドやヨーロピアンオークのシェリーバットなども一部使用されています。蒸留によって得られたニューポットは加水によってアルコール度数を63.5%に調整したのちに樽詰めされ,ウェアハウスで長い時間を眠ることとなります。
↓工程の詳細な解説↓
オフィシャルボトル一覧
タリスカー蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
タリスカー10年
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ポイント
「タリスカー10年」は当蒸留所の公式シングルモルトのうち,最もスタンダードな代表作的ボトルになります。その構成はリフィルバーボン樽で熟成された原酒のみとされています。
タリスカーのシングルモルトは「King of drinks(酒の王様)」と称されるほどに個性的なテイストを有しており,ミストアイランドとも呼ばれるスカイ島の厳しい自然環境が見事に反映されています。実際に蒸留所が海沿いのロッホハーポートの入江に位置していることもあり,その風味は海の潮風そのもののような力強くスパイシーな印象に長けています。
初心者にとってはやや受け入れ難い個性的なテイストではありますが,反対にその強い個性によって数多のコアなファンを抱えていることも事実。避けては通ることのできないアイランズモルトの代表格と言えるでしょう。
香り
海水の塩気/生牡蠣/柑橘の甘み/力強いピートスモーク/胡椒系のスパイス感
味わい
強力なピートスモーク/力強いモルティ/芳醇なドライフルーツ/激しいペッパースパイス/海らしい潮風
余韻
濃密なピートスモークと胡椒のスパイス感が長く続く
タリスカー スカイ
ポイント
「タリスカー スカイ」は当蒸留所の免税店向けの公式リリースですが,日本国内でも流通しています。若めの原酒主体のノンエイジという印象は残りますが,トーステッドアメリカンオーク樽熟成による強いウッディ感とタリスカーらしい海感とスパイシーさが強く感じられる構成です。
スタンダードな10年と比較すると若干荒々しさが目立ち,悪く言えば尖っているということになるかもしれませんが,スカイ島の厳しい自然を感じるという意味合いではベストでしょう。
タリスカー ストーム
ポイント
「タリスカー ストーム」はその名の通りスカイ島の嵐を表現したかのような,荒々しい潮の香りとブラックペッパーのスパイシーさに特化したノンエイジのボトルになります。ひとくち飲めばタリスカーの生まれ故郷であるスカイ島の沿岸部,そのごつごつした岩場の情景を感じることができるでしょう。
香りでは甘美なピートスモークとモルティな甘さが活きていますが,味わいでは甘みと共に強烈なスパイス感が荒れ狂い,文字通り熱くなるような感覚を覚えます。激しさに振り切ったスカイ島の個性ですね。
タリスカー ポートリー
ポイント
「タリスカー ポートリー」の”ポートリー”はかつてポートワイン貿易で栄えていたスカイ島最大の港町であり,このボトルはその名を冠しているだけに,実際にポートワイン樽でフィニッシュされた特別な原酒が使用されたシングルモルトになります。このフィニッシュの前にはアメリカンオーク樽とヨーロピアンオークのリフィル・ヘビーチャー樽で熟成されているとのこと。
タリスカーらしい潮や胡椒のテイストはそのままに,ポートワイン樽由来のベリー系のフルーティな香りが融合することで,一見交わることの無いように思える両者が見事なコントラストを演出。潮風とフルーティさが活きたバランスの良い仕上がりです。
タリスカー18年
ポイント
「タリスカー18年」は2004年の発売以来多くのウイスキー愛好家の間で好評の逸品であり,アメリカンオークのリフィル樽原酒が7割,ヨーロピアンオークのリフィルシェリー樽原酒が3割で構成されています。
また2007年のWWAで合計158ものボトルからブラインドテイスティングによって最高のウイスキーを選出する機会において,タリスカー18年はなんと第1位に選出された経歴を有し,そのテイストの完成度は客観的な指標から見ても十分過ぎるほど。
具体的な風味としては,桃やオレンジのようなフルーティな甘みが第一印象として出てくるのに対して,時間の経過と共にピートスモークや潮の要素のようなタリスカーらしさが前に押し出されてくるような印象。個性的でありながらエレガントで美しい…
タリスカー25年
ポイント
「タリスカー25年」はアメリカンオークのリフィル樽で熟成された原酒のうち,タリスカー独自のこだわりのアルコール度数である45.8%となった原酒をカスクストレングスでボトリング流することで作られる,非常に希少なボトルになります。
その希少さ故に,かつてはスペシャルリリースとして不定期リリースされていた超希少なボトルでしたが,現在ではブランドの成長と共に年1回のボトリングが可能となり,定期的なリリースがなされています。(とはいえ世界中で人気のためすぐ売り切れてしまいます。)
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参考資料
参考サイト:whisky.com / scotchwhisky.com / mhdkk.com / diffordsguide.com / scotchwhisky.net / malt-whisky-madness.com / タリスカー公式