今日のデュワーズブランドは主にアメリカでスコッチウイスキーの代名詞的な人気を誇っていますが，その背景にはジョン・デュワー氏の息子であるトーマス・ロバート氏（通称トミー）の暗躍がありました。
　デュワー氏亡き後のデュワーズの運営は，子息のアレクサンダー氏とトミーに引き継がれていましたが，アレクサンダー氏がブレンディング技術に長けていたのに対し，トミーは広告戦略を得意としていました。

　そんなトミーはデュワーズを世界中に流通させることを目的として1891年より世界を巡ることとなりますが，この途中にスコットランド生まれで鉄鋼王とも呼ばれた友人のアンドリュー・カーネギー氏を通じてアメリカ大統領のベンジャミン・ハリソン氏にデュワーズをプレゼントする機会を得ました。より正確には「友人の大統領に最良のウイスキーを送るように」と記されたカーネギー氏名義の手紙をデュワーズに送ってもらい，デュワーズの樽をアメリカに発送するという流れでこれが実現することとなります。

　しかし当時のアメリカでは自国のバーボンウイスキーなどを応援すべきという自国至上主義的な風潮が強く，「大統領がスコッチウイスキーを飲むことはあってはならないだろう」という非難が新聞等のメディアを通して拡散されました。
　この非難の殺到という逆境は，ポジティブに捉えれば名前を得る最大のチャンスにもなり得るものであり，現代の「炎上商法」的なノリで広告費を一切かけることなくデュワーズの名前はアメリカ全土に広まることとなります。

　そして最初はスコッチの買い求めを批判していた人々も「本来バーボンの発展を応援するべき大統領が所望するスコッチウイスキーとは一体どんなものなのか…？』と徐々に興味を示すようになり，実際にデュワーズが美味しかったことから，デュワーズは瞬く間にアメリカ全土でその人気を獲得することができました。

　そんな歴史的背景もあり，アメリカでは「スコッチウイスキーといえばデュワーズ」と言われるほどの人気銘柄となりました。

（※ハイボールの起源は諸説あります。あくまでこれはその中のひとつです。）

　デュワーズを世界に広めた立役者であるトーマス・ロバート氏（通称トミー）ですが，彼が世界中を飛び回っていた1891年のこと。
　ちょうどニューヨークに滞在していた際，トミーは友人とともにウイスキーを楽しもうととあるサロンに向かいました。

　そこでウイスキーを注文したわけですが，実際に提供されたウイスキーの容器が小さかったため，トミーはウェイターに対して「もっと背の高い（high）グラスにしてくれないか？そうすればもっと楽しめる（have a ball）」と言いました。

have a ballという表現は日本人にとってあまり馴染みありませんが，ballが球の他に舞踏会という意味も持ち合わせており，熟語としては「とても楽しい」という意味になります。

　そんなエピソードから高いグラス（High）と，とても楽しい（Have a ball）を掛け合わせて「ハイボール（high ball）」が生み出されたとされています。