記事の概要
数あるウイスキーの中には非常に個性的なスモーキーさを特徴としているものがあります。
ウイスキーを飲み始めたばかりの方にとっては初心者不向き酒として既にご存じの方も多いかもしれませんが,アイラ島で生産される「アイラモルト」をはじめとしたウイスキーたちですね。
今回はそんな個性的なウイスキーを「初心者が最初に飲んでみる」という視点から,おすすめできそうなボトルをシングルモルト・ブレンデッド問わず計5本紹介していこうと思います!
スモーキーな風味はなぜ生まれる?
ウイスキーは基本的に穀物・水・酵母のみを原料として生産されています。これらのうちスモーキーな風味が生み出される秘訣は「穀物」に隠されています。
より正確には「製麦」という,アルコールが実際に生じる発酵工程に向けて,原料の穀物に糖類を蓄えさせる工程でスモーキーさが生み出されることとなります。
具体的な解説には製麦工程の説明が必要となるため,ここでは簡単に「製麦」の解説をしておきます!詳細な説明は別記事でもまとめているのでお時間のある時に覗いてみてください。
製麦工程について
大麦に含有されるデンプンはそのままでは発酵させることができません。そのため大麦自身に含まれる酵素を活性化させてデンプンを発酵可能な糖類へと変化させる必要があるのです。
この大麦のデンプンを糖類に変化させる工程が「製麦」になります。
ここではまず製麦工程の全体の流れを以下の図の通り示します。そしてその流れに従って各工程の概要をまとめていくこととします!
先にお伝えしておくと,スモーキーさの秘訣は「乾燥」にあります。ささっと知りたい方は乾燥だけにでも注目してみてくださいね。
収穫〜選粒
ポイント
スコッチ業界では一般的に春蒔きの二条大麦が原料として使用されているため,収穫は8月中旬ごろとなります。
収穫時で大麦の含水率が約20%となっているため,これを風乾にて13%程度まで落とします。
大麦は収穫後1〜2ヶ月間は発芽しないドーマンシーと呼ばれる期間があるため一時保管されます。
この期間を終えたのち今後の発芽を均等にするために,大麦をサイズごとに分類する選粒作業が行われることとなります。
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浸麦
ポイント
選粒を終えた大麦はスティープと呼ばれる水槽へと移されます。
この中で数時間おきに水を入れては抜いてを繰り返す「ウェット&ドライ」という作業を2〜3日間繰り返します。
この工程を終えると大麦の含水率は45%となり,目視可能な程度に幼根が生じ始めた段階で,発芽の準備が整います。
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発芽
ポイント
浸麦を終えた大麦は発芽室(形式はまちまち)へと移され,温度一定の環境下で絶えず攪拌することで,全ての大麦を空気と接触させます。
この作業は概ね1週間に渡って断続的に行われ,大麦の根っこの長さが全長の3分の2くらいになると発芽工程は終了となります。
この発芽の際には,大麦自身よりデンプンを糖に変える酵素が発生しています。この酵素が活性化した状態の大麦を「グリーンモルト」と呼びます。
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乾燥
ポイント
発芽させた大麦はそのまま放置しておくと,せっかく生じさせた糖類が成長に使われて失われてしまいます。
そこで大麦を乾燥させることで成長を止めてしまうのがこの工程です。乾燥の原理としては,大麦麦芽をメッシュ状の床に置き,その下から熱源を焚くといった形になります。
熱源には主に無煙炭とピート(泥炭)が使用されますが,特にこのピートから出る煙には,スモーキーな風味を感じさせるフェノール化合物が多く含有されています。
よってピートを炊くことで乾燥された大麦麦芽は,そのフェノール化合物を多く吸収していることとなり,最終的にはスモーキーな風味のウイスキーが出来上がるのです。
このフェノール化合物の含有量からスモーキーさの度合いを示すのが「ppm」という指標であり,10ppmでは軽めのスモーキー,25ppmではちょっとクセ強,40ppmではかなりクセありといった肌感となります。
ピートについて深掘り
ピートはシダやヘザーなどの植物が堆積し,長い時間の中で炭化してできる泥炭のことになります。
一般に「ピートは15cm堆積するのに1000年かかる」とも言われています。
そんな長い時間をかけて育まれるピートですが,スコットランドには豊富に存在しており,特にヘブリディーズ諸島などでは家庭用燃料としても使用されています。そんな背景からウイスキーの生産にもピートが燃料として使われるようになりました。
ピートの採取はピートボグと呼ばれる湿原にて,概ね4〜5月にかけて行われており,採取後3ヶ月程度自然乾燥させると燃料として使用できるようになるようです。
単にピートと言っても元となる植物の構成が地域によって変わってきます。もちろんそれに伴ってウイスキーの風味も大きく変わることとなります。
例えば海岸沿いのピートは海藻が多く含まれていて正露丸を思わせるヨード香が得られ,内陸のピートでは海藻が少ないことから燻製香が,ヘザーが多く含まれているとヘザーハニーのような甘めの煙たさが得られることとなります。
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除根
ポイント
乾燥が完了した麦芽は,水分の再吸収を防止するために根を取り除く必要があります。
この除根は乾燥後であれば簡単に行うことができるため,モルトスクリーナーと呼ばれる専用の除根機にてスピーディーに行うことが可能です。
取り除かれた根には栄養が豊富に含まれるため,家畜の飼料などに再利用されることが多いです。
【初心者でも飲める】スモーキー系ウイスキー5選
前談が長くなってしまいましたが,早速今回の本題「初心者でも飲める美味しいスモーキー系ウイスキー」を5本紹介していきます!
アイラミスト8年
ポイント
アイラミストはアイラ島のラフロイグをキーモルトとし,スペイサイドモルト(グレンリベット)とグレーン原酒をブレンドしたブレンデッドウイスキーのひとつになります。
ラフロイグは俗にいう正露丸系のヨード感がとても強力なウイスキーの代表的存在であり,やはり初心者の方々の中にはハードルが高いと感じる人が多いように感じています。
しかしその超個性派であるラフロイグを,華やかなスペイサイドモルトとヴァッティングすることで,個性をマイルドにし,飲みやすく仕上げられたボトルこそが「アイラミスト」なのです。
ウイスキーを飲んでいく上で,ラフロイグをはじめとした正露丸系のクセありウイスキーは避けて通ることはできぬと思いますので,まずはこのボトルで慣れていくのが非常にベターな選択だと感じています!
アイラモルトの入門にもってこいの1本ですね!
香り
コゲ感/ラフロイグ調のヨード系ピートスモーク/バニラ/柑橘の果実香/はちみつ/ローストナッツ/潮風
味わい
柑橘系フルーツ/シナモン系スパイシー/ヘザーハニー感/ピートスモーク/ヨード香/潮感/ナッティ
余韻
バランス良く心地よいピートスモークとほのかな潮風の香りが緩やかに長く続く
ボウモア12年
ポイント
ボウモア蒸留所は1779年にアイラ島で創業した,スコッチで2番目に長い歴史を誇る蒸留所です。
大麦こそ島外から仕入れていますが,それ以外の生産工程を全て自社で行っており,麦芽の乾燥に使用するピートも自社のピートボグ由来という,長い歴史の元で生み出された伝統を感じさせる蒸留所になります。
このピートボグは比較的高地にあるため,海藻の含有量が比較的少ないため正露丸のようなキツイ要素は薄く,内陸系の薫香が特徴的です。
フェノール値は概ね25〜40ppm程度の振れ幅であり,クセの強さは中庸。個性派でありながらエレガントな風味を持つボウモアは「アイラの女王」とも呼ばれており,アイラモルトで最初に飲むならば真っ先ボウモアをおすすめしたいところ!
「ボウモア12年」はボウモアの公式ボトルの中でも最もスタンダードな12年熟成のシングルモルトになります!
香り
優しい内陸系ピートスモーク/オレンジの甘さ/柑橘のフレッシュ感/はちみつ/バニラ/ドライ/潮風のニュアンス
味わい
スモーキーな薫香/内陸のピートスモーク/オレンジ/ダークチョコ/ドライ/潮風
余韻
香ばしく優しいスモーク感と柑橘の繊細な甘さが長く続く
ボウモア蒸留所の解説
キルホーマン
マキヤーベイ
ポイント
キルホーマン蒸留所はアイラ島北西部のロックサイドファームという農場の中で,2005年に創業した比較的新興の蒸留所になります。
原料の大麦の30%程度は蒸留所周辺の畑で採れたものを使用し,自社にて伝統的なフロアモルティングを行っている数少ない蒸留所のひとつです。
麦芽の乾燥に使用するピートもアイラ島のものであり,自社内で作られるウイスキーのフェノール値は20ppmと中庸なスモーキーレベルとなっています。またこれとは別にポートエレン社より50ppmのヘビリーピーテッド麦芽も仕入れて使用しています。
今回紹介するマキヤーベイは50ppmの大麦麦芽を原料とした原酒を中心に構成されている,キルホーマン蒸留所の最もスタンダードなボトルになります。
フェノール値こそ高いですがスモーク感は香ばしい程度であり,多様な甘みもあることから非常に飲みやすいのが特徴的なウイスキーです!
香り
ピートスモーク/オレンジマーマレード/塩キャラメル/パイナップル/バニラ/はちみつ
味わい
香ばしく優しいピートスモーク/トフィー/オレンジピール/カラメル/モルティな甘み/チョコ
余韻
優しく奥深い,そして香ばしいスモーキー感がとても長く続く
キルホーマン蒸留所の解説
ハイランドパーク12年
ポイント
ハイランドパーク蒸留所はスコットランドの最北端に浮かぶオークニー諸島に建てられており,そのシングルモルトはアイランズモルトに分類されます。今回紹介しているシングルモルトの中では唯一アイラ島以外からの選出となりました。
ハイランドパークでは自社製麦の実施に伴って,オークニーで採れるピートを使用して麦芽の乾燥を行っているのですが,このピートはアイラ島のものとは大きく構成が違っています。
具体的にはアイラ島のピートが堆積した海藻などからできているのに対して,オークニーのピートは堆積したヘザーの花によって構成されているため,アロマティックな華やかさのあるスモーク感が特徴となっています。
一般的なアイラモルトのガツンとくる個性と比較して,幅広い華やかな香味とスモーク感が連動しているハイランドパークは,スモーキー系の入門に適正があると言えるでしょう!
ハイランドパーク12年は同蒸留所の最もスタンダードなボトルになります!是非お試しください!
香り
洋梨/若いりんご/ヘザーハニー/バニラ/濃密なピートスモーク/潮風やソルティな要素
味わい
ヘザーハニー/オレンジ/青リンゴ/バニラ/スパイシー/香ばしいピートスモーク/ほのかな潮風
余韻
甘さとスモーキーのバランスが良く,とても長い余韻
アードベッグTEN
ポイント
アードベッグ蒸留所はアイラ島南岸部に位置しており,海岸から吹き込む潮風の影響が濃い環境のもとウイスキーを生産しています。
原料となる麦芽はポートエレン社から仕入れており,そのフェノール値は55〜65ppmとかなり高めに設定されています。しかしながら蒸留器に精留機が取り付けられており,実際に生産されるウイスキーのフェノール値は20ppm程度まで抑えられています。
クセあり系ウイスキーの代表格として扱われることの多いアードベッグですが,以外にもフルーティな香味と繊細な甘みが強く感じられる,卓越したバランス感があるシングルモルトであります。
このクセと甘さ&フルーティのバランス感は「ピーティーパラドックス」とも呼ばれるほどで,個人的な肌感としては,初心者にこそお勧めしたいアイラ島のシングルモルトです!見た目の邪悪な印象に騙されないで!!
香り
海系のヨード香/燻製/炭火焙煎コーヒー/トフィー/チョコ/柑橘の甘さ/麦芽の甘さ/薬品
味わい
強くも優しいスモーキー/モルティな甘さ/柑橘系フルーツの甘さ/フレッシュ&ドライ/バニラ/はちみつ/ヨード/潮風
余韻
柑橘の甘苦さと優しいスモーキー感が長く続く
アードベッグ蒸留所の解説
アードベッグTENのレビュー