記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回は「ラフロイグ蒸留所」になります!
Points!
「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
イアン・ハンター/ベッシー・ウィリアムソン/皇太子御用達
ラフロイグの特徴
「Love it or hate it」/圧倒的なピート/強い薬品臭/潮風/バニラ/柑橘フルーツ
↓↓『動画化』しました!↓↓
\\執筆者情報//
初谷(はつがい)
ウイスキーに関わるあらゆる情報をまとめ,「ウイスキーを知りながらより深く楽しめる記事」を発信しています。
【Shop】ウイスキー専門店『Drinkable books』
【経歴】東京都立大卒|元公務員・ネット酒屋開業
【資格】JWRC公認ウイスキーエキスパート|ウイスキー検定2級
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ラフロイグ蒸留所
ラフロイグ蒸留所の立地と概要・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所諸元
創業年 | 1815年 |
所有会社 | ビームサントリー社 |
地域分類 | スコットランド,アイラ島 |
年間生産量 | 330万リットル |
発酵槽 | ステンレス製6基 |
ポットスチル | 初留3基・再留4基 |
仕込み水 | キルブライト川のダム湖 |
ブレンド先 | ロングジョン,アイラミストなど |
「ラフロイグ蒸留所」蒸留所の立地と概要
出典:whisky.com
ポイント
ラフロイグ蒸留所はスコットランドのアイラ島に位置しています。より具体的にはアイラ島南岸部にあるポートエレン港からA846号線を東に2キロ程度進んだ沿岸部に建っています。
蒸留所のほど近くにはアードベッグ蒸留所やラガヴーリン蒸留所も所在していますが,3箇所とも個性の粋を極めたような独創的なウイスキーを作っていることから「キルダルトン3兄弟」として比較される機会がしばしばあります。
またラフロイグでは仕込み水をキルブライト川のダム湖から引いていますが,過去に一度この仕込み水を嫌がらせで断たれたことがあり,その経験から流域の土地を購入し,人間を含めた水源に影響を与える全ての要因が排除されています。
ちなみにラフロイグ(Laphroaig)という名称にはゲール語に語源があるとする説が複数あり,日本でよく見かける「広い入江の美しいくぼ地(ラベル記載の英語の和訳)」とする説や,「大きな湾のくぼ地(Lag a' Mhor aig)」とする説,「洞窟のある谷間(Lag Fròig)」とする説などがあります。
「ラフロイグ蒸留所」蒸留所の歴史
ラフロイグ蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1815年 | ジョンストン兄弟(アレクサンダーとドナルド)によってラフロイグ蒸留所が創業される |
1826年 | 蒸留所が政府公認となる |
1836年 | ドナルド・ジョンストン氏が蒸留所の完全な所有権を取得する |
1847年 | ドナルド氏が所内の事故にて亡くなる 蒸留所は叔父のジョン・ジョンストン氏らが一時的に管理する |
1857年 | ドナルド氏の息子のデュガルド氏が蒸留所を引き継ぐ |
1877年 | デュガルド氏が亡くなる 蒸留所は妹のイザベラ・ジョンストン氏とその夫のサンディ・ジョンストン氏が引き継ぐ |
1881年 | アレクサンダー氏(創業者兄弟の片割れ)が亡くなる |
1887年 | サンディ氏が亡くなる 蒸留所は妻のイザベラ氏,姉妹のウィリアム・ハンター氏,キャサリン・ジョンストン氏など,ジョンストン家ゆかりの人物に引き継がれる |
1908年 | ジョンストン家最後の末裔であるイアン・ハンター氏がアイラ島に帰郷し,蒸留所の経営者に着任する ピーターマッキーとの揉め事に終止符が打たれる |
1923年 | ポットスチルが2基増設されて計4基体制となる |
1928年 | 1887年より蒸留所の共同所有者であったイザベラ氏とキャサリン氏が亡くなり,イアン氏が蒸留所の単独所有者となる |
1950年 | イアン氏によってラフロイグを運営するD・ジョンストン&カンパニー社が設立される |
1954年 | イアン氏が亡くなり,蒸留所の運営はイアン氏の秘書を務めていたエリザベス・ウィリアムソン氏(通称ベッシー)に引き継がれる 彼女は業界初の女性蒸留所オーナー兼経営者となった |
1962年 | シェンリー・インターナショナル社の傘下のシーガー・エヴァンス社がラフロイグの買収に着手する |
1967年 | 蒸留所がシーガーエヴァンス社(のちにロングジョンインターナショナル社となる)によって完全に買収される ポットスチルが1基増設される |
1972年 | 買収後も蒸留所のマネージャーを務めていたベッシーが引退し,ジョン・マクドゥーガル氏が役職を引き継ぐ ポットスチルが2基増設されて計7基体制となる |
1975年 | シーガー・エヴァンス社が英国のウィットブレッド社に買収される |
1982年 | ベッシーが亡くなる |
1989年 | ウィットブレッド社の蒸留部門がアライド・ライオンズ社に買収される |
1994年 | チャールズ皇太子によってラフロイグが王家御用達を授かる ファンクラブのフレンズオブラフロイグが設立される アライドライオンズ社がペドロドメク社を合併してアライド・ドメク社となる |
2005年 | アライド・ドメク社がペルノリカール社に買収され,直後ラフロイグはフォーチュンブランズ社傘下のジムビームブランズ社へと売却された |
2006年 | ジムビームブランズ社が名称変更によりビーム・グローバル社となる |
2008年 | チャールズ皇太子が還暦祝いの一貫して再びラフロイグを訪れる |
2011年 | ビーム・グローバル社がフォーチュンブランズから独立し,ビーム社となる |
2014年 | 日本のサントリー社がビーム社を買収する |
2015年 | ラフロイグ蒸留所創業200周年を記念して15年熟成のシングルモルトが限定リリースされる |
ラフロイグに纏わるストーリー
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「ラフロイグ蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
330万リットル - 仕込み水
キルブライト川のダム湖 - モルトサプライ
自社製麦,ポートエレン,クリスプ - ピーテッドレベル
35ppm以上 - マッシュタン材質
ステンレス製フルロイター - マッシュタン容量
1バッチ5.5トン - ウォート量
1バッチ27,000L - ウォッシュバック
ステンレス製6基 - 酵母
マウリ社製リキッドタイプ - ウォッシュバック容量
53,000L(仕込み2回分) - 発酵時間
平均55時間
- スチル加熱方式
蒸気間接加熱 - ポットスチル(初留)
ストレート型3基 - ウォッシュスチル容量
10,500L - ポットスチル(再留)
ランタン型4基 - スピリッツスチル容量
4,700L(3基)
9,400L(1基) - コンデンサー
シェル&チューブ - ミドルカット
72〜60%(平均68.5%) - 樽詰め度数
63.5% - ウェアハウス形式
ダンネージ,ラック
製麦について
出典:whisky.com
ポイント
ラフロイグ蒸留所では現在もフロアモルティングによる自社製麦が行われており,実際に原料の15%程度が賄われています。残りの85%は島内のポートエレン製麦所や本土のクリスプ社を筆頭とした外部の製麦専門業者(モルトスター)に委託し,そこから購入することで賄っています。
ピーテッドレベルについては全てへビリーピーテッドタイプですが,自社製麦のものではフェノール値45-55ppm程度,外部から購入するものでは35-40ppm程度と分けられており,両者を混合して使用しています。
ピートももちろんアイラ島産で,4〜9月にかけて職人の手作業によって切り出されていますが,島内でもハンドカットによってピートを採取している蒸留所はラフロイグしか残されていません。
ちなみにアイラ島のピートはヘザーやシダ,コケ,海藻などによって構成されており,独特の塩味やヨード香を醸し出すことで知られています。これに加えて湿った状態のまま手作業によって確保されることから,焚かれる際には煙を多く噴出し,麦芽に多くの香味が移されます。
用意された原料のモルトはポルテウス社製のローラー式モルトミルで粉砕してグリストとしたのち,糖化の工程へと進みます!
↓工程の詳細な解説↓
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糖化について
出典:whisky.com
ポイント
ラフロイグ蒸留所では仕込み水としてキルブライト川のダム湖の水が採用されています。マッシュタンはフォーサイス社製で,1バッチあたり5.5トンのグリスト容量を誇るステンレス製のフルロイタータンになります。
糖化1バッチで得られるウォートの総量は概ね27,000リットル程度となり,のちの発酵工程では2バッチ分が1基のウォッシュバックに投入されます。
特徴と考察
- お湯の温度について1回目は67℃,2回目は80℃,3回目は90℃に設定されている
- ウォートが澄んだ色味で確保されることから,一般的にはウイスキーのライトなテイストに寄与する
次の工程は発酵になります!
↓工程の詳細な解説↓
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発酵について
出典:whisky.com
ポイント
ラフロイグ蒸留所には容量53,000リットルでステンレス製のウォッシュバックが6基設置されています。使用される酵母は一般的なディスティラーズ酵母で,マウリ社製のリキッドタイプのものになります。
特徴と考察
- 発酵時間は55時間とスコッチで一般的な水準の設定であり,ウォッシュの度数は8.5%になる
次の工程は蒸留になります!
↓工程の詳細な解説↓
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蒸留について
出典:whisky.com
ポイント
ラフロイグ蒸留所には容量10,500リットルでストレート型のウォッシュスチルが3基,スピリッツスチルは全てくびれの強いランタン型で,容量4,700リットルのものが3基,容量9,400リットルのものが1基の合計4基が設置されています。
初留・再留でスチル形状は異なりますが,どれもラインアームが15度ほど上向きに接続されており,最大限蒸気を環流させる工夫が見て取れます。加熱方式は蒸気による間接加熱方式,コンデンサーはシェル&チューブ方式が採用されています。
特徴と考察
- 再留釜の形状が大きな環流を生み出す特徴を持っていることから,比較的軽い香味成分を有する蒸気のみがコンデンサーへと流出する
- ウォッシュバック1基から得られる約53,000リットルのウォッシュは,初留5回分に該当する
- 一般的にチャージに対して「蒸留液:残留物=1:2」となることから,初留では概ね3,500リットルのローワイン(度数22%)が得られるものと考えられる
- ローワインは前回再留の廃液とともに,ひとつのローワインレシーバーに一時保管・混合されて次回の再留を待つ
- 再留釜は計4基あり,形状も小さめが3基,その倍のサイズが1基という複雑な構成のため,再留はローワインレシーバーに貯められた溶液から変則的に行われているものと推察できる
- ミドルカットについて,ヘッドが業界最長クラスの45分間に渡ってカットされ,テールカットはフェノール成分を最大限に確保するために,60%未満というかなり低くめの度数に設定されている
次の工程は熟成になります!
↓工程の詳細な解説↓
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熟成について
出典:whisky.com
ポイント
ラフロイグ蒸留所で生産される原酒は70%程度がシングルモルト用とされ,残りはバランタインやティーチャーズなどのブレンデッドウイスキー用とされており,このうちシングルモルト用の原酒が敷地内のウェアハウスで熟成されます。
蒸留所併設のウェアハウスは海のそばの潮風の影響を強く受ける立地であり,それら形式としては伝統的なダンネージ式と貯蔵容量に優れた近代的なラック式が混在しています。
使用される樽は90%以上が1stフィルのバーボン樽ですが,一部特殊な試みとしてサイズの小さなクォーターカスクやスペインのオロロソシェリー樽,ペドロヒメネスシェリー樽なども活用されています。
蒸留によって得られたニューポットは,加水によってアルコール度数を63.5%に調整したのちに樽詰めされ,ウェアハウスにて長い時間を眠ることとなります。
↓工程の詳細な解説↓
オフィシャルボトル一覧
ラフロイグ蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
ラフロイグ10年
ポイント
「ラフロイグ10年」は当蒸留所の公式シングルモルトのうち,最もスタンダードかつ代表作的なボトルであり,その構成は強いこだわりから1stフィルのバーボン樽原酒のみとされています。
バーボン樽へのこだわりは,かつての蒸留所のマネージャーであるイアン・ハンター氏が,顧客の北米市場との繋がりから熟成にバーボン樽を使用することを想起し,スコットランドで最も早くそれを実践した歴史的背景に敬意を示すものです。
そのテイストは圧倒的なピートスモークと薬品のように強烈なヨード臭の応酬であり,「Love it or hate it(好むか嫌悪するか)」とも言われる超ド級の個性を有しています。しかしひとたびこの嫌悪の壁を乗り越えると,バニラやフルーツ香などの優しい風味もしっかりと感じ取ることができ,文字通りラフロイグの虜になってしまうでしょう。我こそはと思う方は是非。
香り
圧倒的なピートスモーク/薬品系のヨード香/強い潮風/柑橘フルーツ/バニラ/モルティ
味わい
鬼ピートスモーク/薬品系ヨード/潮風/はちみつ/オレンジ/スパイシー/僅かにバニラ/ウッディ
余韻
ドライなピートスモークと強烈な薬品臭が長く残る
ラフロイグ25年
ポイント
「ラフロイグ25年」は限定リリースながら近年ではほぼ毎年発売されている長熟タイプのボトルであり,全てカスクストレングスでボトリングされますが,樽構成は年度により異なります。
直近の2022リリースではオロロソシェリー樽とバーボン樽で四半世紀に渡って熟成された原酒が使用されており,第一印象にくるラフロイグらしい個性はそのままに,多彩なフルーツ香やシェリーの甘さなどが立体的に広がります。
購入時はどの年度のボトルなのかを注視していただき,最新ボトルはリリースのタイミングで樽構成などを確認してみると良いでしょう。
ラフロイグ
セレクトカスク
ポイント
「ラフロイグ セレクトカスク」では多彩な樽で熟成された原酒がノンエイジでボトリングされており,当蒸留所の公式リリースの中では最もリーズナブルなボトルになります。
具体的な構成についてはオロロソシェリーバット,ペドロヒメネスでシーズニングしたホグスヘッド樽,1stフィルのバーボン樽,サイズの小さなクォーターカスクで熟成されたのち,アメリカンオークのバージン樽でフィニッシュという珍しいものとなっています。
そのテイストはスモーキーさやヨード感こそ際立つものの,10年と比較すれば優しめであり,バニラやフルーツ系の甘みも感じやすい印象です。ラフロイグの中では入門者向けですね。
ラフロイグ
クォーターカスク
ポイント
「ラフロイグ クォーターカスク」は通常のアメリカンオークのバーボン樽で熟成されたのち,バーボン樽を小さく組み直したクォーターカスクで再度熟成された原酒で構成されています。
クォーターカスクは19世紀の馬による輸送時に利用されていた小樽でしたが,当時のマスターディスティラーがこの樽をウイスキーの熟成に転用し,それが現在も伝統として採用されています。
小樽による熟成では原酒の容積に対する樽内部の表面積の割合が増大することから,熟成が早まるとされており,ノンエイジながらもバニラやココナッツ,そしてスパイシーさなどの奥深いテイストが表現されています。
ラフロイグ ロア
ポイント
「ラフロイグ ロア」は毎年数量限定でリリースされるスモールバッチで作られたボトルですが,英国の蒸留所公式サイトとサントリーのサイトで,原酒構成に関する説明が異なっています。
英国サイトではバーボン樽やシェリー樽を含む5種類の樽にて,7〜21年間熟成された原酒がブレンドされていると記載されています。一方でサントリーのサイトではヨーロピアンオークの新樽で熟成したのちに1stフィルのバーボン樽で再度熟成された原酒をはじめとし,バーボン樽でフィニッシュされた数種のモルト原酒が使用されていると記載されています。
おそらく英国版の大まかな説明の内部に日本版記載の原酒が含まれているものと考えられ,そのテイストにはヨーロピアンオークらしいビターチョコレートやスパイシーな風味,バーボン樽らしいクリーミーな甘みなどが表現されています。
ラフロイグ
ペドロヒメネスカスク
ポイント
「ラフロイグ ペドロヒメネスカスク」は免税店向けのリリースですが,まれに国内でも見かけることがあるラフロイグの公式シングルモルトです。
その構成はメーカーズマーク製のバーボン樽で5〜7年熟成し,続いてクォーターカスクで7〜9ヶ月再度熟成。そして最後にペドロヒメネスシェリー樽で約1年間のフィニッシュを経た原酒とされています。
テイストではシェリー樽らしい赤い果実やスパイシーな風味がしっかりと出ており,同じラフロイグらしさがりながら,スタンダードな10年とは確かな違いを感じることができるでしょう。
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参考資料
参考サイト:ラフロイグ公式 / whisky.com / scotchwhisjy.com / malt-whisky-madness.com / scotchwhisky.net / whiskygeeks.sg / ballantines.ne.jp / whiskymag.jp