記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回は「グレンロセス蒸留所」になります!
Points!
「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
度重なる火事|墓地が隣接|ブレンドのトップドレッサー
グレンロセスの特徴
ノンピート|シェリー樽|甘くフルーティ|オレンジ|ドライフルーツ|シナモン|りんご
\\執筆者情報//
初谷(はつがい)
ウイスキーに関わるあらゆる情報をまとめ,「ウイスキーを知りながらより深く楽しめる記事」を発信しています。
【Shop】ウイスキー専門店『Drinkable books』
【経歴】東京都立大卒|元公務員・ネット酒屋開業
【資格】JWRC公認ウイスキーエキスパート|ウイスキー検定2級
【その他】バンド「Candid moment」のドラマー
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グレンロセス蒸留所
グレンロセス蒸留所の立地と概要・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所諸元
創業年 | 1878年 |
所有会社 | エドリントングループ社 |
地域分類 | スコットランド スペイサイド▶︎ローゼス地区 |
年間生産量 | 560万リットル |
発酵槽 | オレゴンパイン製12基・ステンレス製8基 |
ポットスチル | 初留5基・再留5基 |
仕込み水 | アードキャニー, フェアリーズウェル |
ブレンド先 | カティサーク,フェイマスグラウス |
「グレンロセス蒸留所」蒸留所の立地と概要
出典:whisky.com
ポイント
グレンロセス蒸留所はスコットランドのスペイサイド地方,ローゼス地区に位置しています。ローゼスの街は決して大きくはない規模の街ですが,古くからウイスキー作りの中心地のひとつとして繁栄していました。
具体的なアクセスとしては,クライゲラキからエルギンに向かう幹線道路A941号線の中間地点であり,大都市のエジンバラからは270km,時間にして3時間半程度で到達することができます。
蒸留所建屋には町の共同墓地が隣接しており,かつて建物の拡張工事を起因として,墓地に眠る「バイウェイ」という黒人の幽霊が出るとして大きな話題を呼んだことがありました。(この話の詳細は後ほど…)
またグレンロセスは創業時に融資を受けた銀行が倒産し,当初想定よりも小規模での創業となっていたり,度重なる火事に見舞われていたりと,歴史上多くの苦難を抱えていました。
しかし,そのウイスキー自体は早くから高く評価されており,ブレンドの「トップドレッサー」として多くのブレンデッドブランドに使用されてきました。今ではカティサークやフェイマスグラウスのキーモルトとして有名です。
ちなみにグレンロセスという名称は,その立地が「ローゼス川の谷」であることから命名されたと考えられます。さらにローゼスの語源を辿ると,ゲール語で「丸い形の砦(Rathes)」という意味になるとされています。
「グレンロセス蒸留所」蒸留所の歴史
グレンロセス蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1878年 | ジェームズ・スチュアート&Co社らによってローゼス地区に蒸留所が建設される |
1879年 | 蒸留所創業に資金援助を行っていたグラスゴーの銀行が倒産する 蒸留所はウィリアム・グラント&Co社の元で,当初の予定から規模を縮小してオープンされた ※グレンフィディックのウィリアム・グラント&サンズ社とは異なる |
1884年 | 蒸留所名が「グレンロセス・グレンリベット」に変更される |
1887年 | ウィリアム・グラント&Co社がブナハーブンを所有するアイラ・ディスティラーズと合併し,ハイランド・ディスティラーズ社が創設される |
1896年 | 蒸留器,キルンの増築工事が開始される(ポットスチル2→4) |
1897年 | 蒸留所で火災が発生する |
1903年 | 蒸留所で爆発が起き,設備の多くが破壊される |
1922年 | 蒸留所で火災が発生する 今回は91万リットルの原酒が失われた |
1929年 | ウォール街大暴落の影響により,蒸留所が一時閉鎖されが,すぐに再開される |
1962年 | 蒸留所で火災が発生する 復旧を契機に蒸留所の拡張工事が開始される(ポットスチル4→6) スチルの加熱方式が直火から蒸気間接加熱に変更される |
1979年 | 蒸留器が増設される(ポットスチル6→8) |
1987年 | カティサークを手がけるベリー・ブラザーズ&ラッド社がグレンロセスをポートフォリオに加える |
1989年 | 蒸留器が増設される(ポットスチル8→10) |
1993年 | ベリー・ブラザーズ社がグレンロセスのブランドを刷新し,シングルモルトが単一のヴィンテージ表記でリリースされるようになる |
1999年 | エドリントングループ社がハイランドディスティラーズ社を買収する |
2010年 | ベリー・ブラザーズ&ラッド社が,カティサークブランドと引き換えに,グレンロセスにブランド所有権を獲得する 蒸留所はエドリントン所有のままであり,グレンロセスはブレンド向きの「トップドレッサー」としてカティサーク以外のブレンデッドにも採用されている |
2017年 | エドリントン社がグレンロセスのブランドを買い戻す (蒸留所・ブランドともにエドリントン傘下に落ち着いた) |
2018年 | 1993年から続くヴィンテージ表記のオフィシャルシングルモルトが廃止される 以降は10年・12年・18年・25年を含む一連の年数表記のラインナップが設定された |
グレンロセスに纏わるストーリー
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「グレンロセス蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
560万L - 仕込み水
アードキャニー,フェアリーズウェル - モルトスター
タムドゥー - ピーテッドレベル
ノンピート - マッシュタン材質
ステンレス製ロイタータン - マッシュタン容量
1バッチ5.5トン - ウォッシュバック
オレゴンパイン製12基
ステンレス製8基 - ウォッシュバック容量
24,000L - 酵母
クリーム状
- 発酵時間
55〜60時間 - スチル加熱方式
蒸気間接加熱 - ポットスチル(初留)
バルジ型5基 - ウォッシュスチル容量
12,000L - ポットスチル(再留)
バルジ型5基 - スピリッツスチル容量
14,000L - コンデンサー
シェル&チューブ方式 - 本留の度数
68〜72% - ウェアハウス形式
ダンネージ式,ラック式
製麦について
ポイント
グレンロセス蒸留所にはキルンが現存していますが,現在は自社製麦が行われておらず,製麦工程は外部のモルトスターであるタムドゥー製麦所に委託しています。
ピーテッドレベルについては,スペイサイドモルトらしくノンピートタイプとされており,華やかでフルーティなテイストのウイスキーが生産されています。
用意された原料のモルトはローラー式のモルトミルで粉砕し,グリストとされます。一般的にグリストはその粒径によってハスク(粗)・グリッツ(中)・フラワー(細)に分類され,それぞれの構成比は「2:7:1」とされます。
次の工程は糖化になります!
↓工程の詳細な解説↓
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糖化について
出典:whisky.com
ポイント
グレンロセス蒸留所では仕込み水として,ローゼスの街の背後の丘にあるアードキャニーとフェアリーズウェルという泉の水を採用しています。
マッシュタンは1バッチあたり5.5トンのグリスト容量を誇る,ステンレス製のロイタータンが設置されています。
ここが特徴!
- ウォッシュバック容量が24,000Lのため,糖化1バッチ5.5トンのグリストからは24,000Lのウォートが得られていると考えられ,その場合グリスト1トンから4,350Lのウォートが得られていると推察できる
次の工程は発酵になります!
↓工程の詳細な解説↓
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発酵について
出典:whisky.com | google map
ポイント
グレンロセス蒸留所には容量24,000リットルのウォッシュバックが合計20基設置されており,うち12基がオレゴンパイン製,8基がステンレス製になります。酵母は一般的なクリーム状のディスティラーズ酵母が使用されています。
ここが特徴!
- 発酵時間は55〜60時間程度と,やや長めに設定されており,適度に乳酸発酵の影響を受けていると考えられる
- ウォッシュのアルコール度数は約8%となる
次の工程は蒸留になります!
↓工程の詳細な解説↓
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蒸留について
出典:whisky.com | google map
ポイント
グレンロセス蒸留所のポットスチルは背の高いバルジ型を特徴としており,容量12,000リットルのウォッシュスチルが5基,容量14,000リットルのスピリッツスチルが5基設置されています。
加熱方式は1962年以前は直火加熱,以降は蒸気による間接加熱方式が,コンデンサーはシェル&チューブ方式が採用されています。
ここが特徴!
- バルジ型かつ背の高いポットスチルの形状は,蒸気を多く環流させることにより,軽くフルーティー香味を呈するアルコールを厳選することができる
- ポットスチルの容量について「初留<再留」となっている点が非常に珍しい
- 他のスコッチと比較して,ゆっくりとした速度で蒸留が行われていることから,不純物をあまり含有ぜす,すっきりとした酒質に寄与する成分をより多く確保することができる
- ミドルカットにおいて厳選される本留は留出液の20%程度となり,度数は68〜72%程度となる
次の工程は熟成になります!
↓工程の詳細な解説↓
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熟成について
出典:whisky.com
ポイント
グレンロセス蒸留所には,伝統的なダンネージ式のウェアハウスと,貯蔵容量に優れた近代的なラック式のウェアハウスが敷地内に併設されており,40,000樽程度の貯蔵容量を有しています。
またグレンロセスは蒸留所内にクーパレッジ(樽工場)を持つ珍しい蒸留所のひとつでもあり,樽の扱いに非常に長けているのがポイント。熟成に使用される樽は,厳選されたシェリー樽をメインとしていますが,わずかにバーボン樽も活用されています。
原酒の樽詰めに際しては,加水によってアルコール度数を63.5%に調整する蒸留所が多く存在しますが,グレンロセスではニューポットをそのままの状態で樽詰めしています。
またボトリング時にカラーリングを施しておらず,グレンロセスのウイスキーはどれも樽から付与された自然な色味で販売されています。
↓工程の詳細な解説↓
オフィシャルボトル一覧
グレンロセス蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
グレンロセスの公式シングルモルトについて,BBR社の時代には,ヴィンテージ表記のボトルやリザーブシリーズとして販売されていました。しかし2018年からは新たに「ソレオシリーズ」として,一連の熟成年数表記のラインナップに改められています。
この「ソレオ」はスペインのアンダルシア地方におけるシェリーの作成工程のうち,原料のぶどうを天日干しする伝統手法のことを指しており,シェリー樽熟成に重きを置いているグレンロセスのこだわりが込められています。
※グレンロセスはヴィンテージ表記のBBR社時代は日本でも正規に流通していましたが,エドリントン傘下となって以降,日本では正規に流通されていないのが玉に瑕。並行品としては入手可能なので,欲しいと思った時に購入しておくようにしましょう。
グレンロセス10年
ポイント
「グレンロセス10年」は,当蒸留所のオフィシャルシングルモルトのうち,最もスタンダードなボトルになります。ソレオシリーズの入門グレードとして,シェリー樽で10年以上熟成された原酒によって構成されています。
レーズンやオレンジピールなどの華やかなテイストをベースとし,僅かな乳酸感やスパイシー感がアクセントに加わる,重厚さを感じるボディの厚みが特徴。ボトルの見た目と同じく,丸みを感じる飲みやすいテイストが魅力的です。
Tasting Note
- 香り
レーズン|オレンジピール|多彩なフルーツ|フローラル|スパイシー|ウッディ
- 味わい
ドライフルーツ|オレンジの酸味|乳酸|りんご|花畑と草原|弱スパイス|芳醇な樽|キャラメル
- 余韻
ほのかな柑橘と乳酸の酸味と軽快なスパイシーさが長く残る
グレンロセス12年
ポイント
「グレンロセス12年」は当蒸留所のオフィシャルラインナップ「ソレオシリーズ」の一角であり,シェリー樽で12年以上熟成された原酒のみによって構成されたシングルモルトになります。
スタンダードな10年から正当な進化を重ね,熟成なトロピカルフルーツのような陽気なテイストを獲得。ぶどうを天日干しする「ソレオ」のイメージに違わない晴々しさが魅力的です。是非甘さの際立つロックでお楽しみください。
Tasting Note
- 香り
芳醇なシェリー|りんごとメロン|フローラル|ウッディ|トロピカルバナナ|シナモンスパイス
- 味わい
バナナ|レーズン|レモン系柑橘感|メロン|シナモン|カラメル|チョコ|僅かにサルファリー
- 余韻
フルーティな甘さと軽やかなスパイス感が長く続く
グレンロセス18年
ポイント
「グレンロセス18年」は当蒸留所の「ソレオシリーズ」の一角として,18年以上に渡り,シェリー樽で熟成された原酒が100%使用された,長熟のシングルモルトになります。
10年,12年と同じく,100%シェリー樽原酒のみによって構成されているため,テイストはその延長線上に位置しています。多くの要素が香ばしさと奥深さを獲得し,スイート・ビター・スパイシーの調和の取れた風味が魅力的です。
Tasting Note
- 香り
オレンジマーマレード|ドライフルーツ|バニラ|洋梨とりんご|アーモンド|カカオ
- 味わい
フローラル|オレンジ|濃いレーズン|ビターチョコ|ウッドスパイス|ナッティ
- 余韻
スイート&スパイシーの卓越したバランスを保持した明るい余韻
グレンロセス25年
ポイント
「グレンロセス25年」は当蒸留所の「ソレオシリーズ」の頂点に位置するボトルであり,100%シェリー樽にて,25年以上熟成された原酒のみによって構成されています。
その中でも特に,樽の個性を原酒に強く付与することで知られるファーストフィル樽の比率が高めに設定されており,エレガンスの極みに到達しているボトルです。
その味わいはまるでデザートのように濃厚であり,10年〜18年でも感じられた数々の要素が,より贅沢に,より優美に昇華されています。繊細ながらも多層的で奥深い味わいは多くの感動を誘発してくれます。
Tasting Note
- 香り
トロピカルなパイン|砂糖付けドライフルーツ|焼きりんご|薔薇園|ウッドスモーク|スパイス
- 味わい
桃のドライフルーツ|果樹園|南国の花畑|パイナップル|タンニンの木感|ウエハース|スパイシー
- 余韻
香ばしいナッツと重厚なベリー感がとても長く続く
グレンロセス
メーカーズカット
ポイント
「グレンロセス メーカーズカット」は当蒸留所唯一のノンエイジタイプのオフィシャルシングルモルトであり,ファーストフィルのシェリー樽で熟成された原酒のみによって構成されています。
樽の個性が強く出る1stフィル樽原酒かつ,48.8%という高めのアルコール度数でボトリングされているため,グレンロセスに潜在していた力強さをダイレクトに感じることができます。
リッチな口当たりとスパイシーな荒々しさ,そしてそれらに比例するように主張を強める圧巻なシェリーの甘みの応酬が非常に個性的。主に国外で高評価を受けているインパクトを是非体感してみましょう。
Tasting Note
- 香り
サルファリー|ドライレーズン|オレンジ|カカオの濃いビターチョコ|ブラウンシュガー|スパイシー|ウッディ
- 味わい
複雑なスパイス|カスタード|フルーツバスケット|サルファリー|ナッツチョコ|ウッドスモーク|スパイシー
- 余韻
圧巻のシェリーと圧巻のウッディネス|長く香ばしくスパイシー
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参考資料
参考サイト:グレンロセス公式|whisky.com|scotchwhisky.com