記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回は「グレンガイル蒸留所」になります!
Points!
「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
スプリングバンクの兄弟分/キルケラン/ミッチェル家
グレンガイルの特徴
ライトリーピーテッド/キャンベルタウンらしいブリニー/ビスケット感/柑橘/ドライフルーツ
↓↓『動画化』しました!↓↓
\\執筆者情報//
初谷(はつがい)
ウイスキーに関わるあらゆる情報をまとめ,「ウイスキーを知りながらより深く楽しめる記事」を発信しています。
【Shop】ウイスキー専門店『Drinkable books』
【経歴】東京都立大卒|元公務員・ネット酒屋開業
【資格】JWRC公認ウイスキーエキスパート|ウイスキー検定2級
【その他】バンド「Candid moment」のドラマー
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グレンガイル蒸留所
グレンガイル蒸留所の立地と概要・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所諸元
創業年 | 1872年(2004年) |
所有会社 | J&Aミッチェル社 |
地域分類 | スコットランド,キャンベルタウン |
年間生産量 | 約10万L程度 (能力は年間75万L) |
発酵槽 | カラ松製2基 ダグラスファー製2基 |
ポットスチル | 初留1基・再留1基 |
仕込み水 | クロスヒル湖 |
ブレンド先 | キャンベルタウンロッホなど |
「グレンガイル蒸留所」蒸留所の立地と概要
出典:google map
ポイント
グレンガイル蒸留所はスコットランドの南西部,キンタイア半島の先端にあるキャンベルタウンに所在しています。このキンタイア半島はグラスゴーからは240km程度離れていますが,同緯度帯の東側にはアラン島,西側にはアイラ島が浮かんでいます。
また歩いて7分程度の距離には所有者を同じJ&Aミッチェル社とし,かつてグレンガイルと共にミッチェル家の祖先によって創業された歴史を持つスプリングバンク蒸留所があり,現在も製麦や熟成はスプリングバンクで行われています。
またキャンベルタウンは1900年代初頭までは海上輸送の拠点として使われており,ウイスキー作りの拠点として栄えていた時代がありました。一時期は狭い街の中に30を超える蒸留所が存在していたことから「世界のウイスキーの首都」とも呼ばれていました。
しかし1920年代に主要な取引先であるアメリカが禁酒法体制に入ると,その影響がもろに波及してしまい,スプリングバンクとグレンスコシアを残して他の全ての蒸留所が閉鎖されてしましました。もちろんグレンガイルも例外ではなく,一度全ての生産設備が撤去され,沈黙していた時期があります。(詳くは後述…)
「グレンガイル蒸留所」蒸留所の歴史
グレンガイル蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1872年 | ウィリアム・ミッチェル氏によってグレンガイル蒸留所が創業される |
1919年 | 蒸留所がウエスト・ハイランドモルト・ディスティラリーズ社に買収される |
1925年 | 蒸留所が閉鎖される 在庫の樽はオークションで売却された |
1929年 | 既に在庫の尽きたウェアハウスがガソリンスタンドとガレージとして改装される |
1941年 | グレンスコシアを所有していたブロッホブラザーズが蒸留所名とブランドを取得する しかし戦争による困難な経済情勢下において生産が再開されることはなかった |
1957年 | キャンベル・ヘンダーソン氏が蒸留所の再建のライセンスを申請するが,頓挫してしまう |
1970年 | かつての生産設備が全て撤去される 以降農民協同組合の飼料倉庫やガレージとして利用されていた |
2000年 | 蒸留所がスプリングバンクの所有者であるJ&Aミッチェル社に買収される |
2004年 | 80年の沈黙を経て,遂に生産が再開される |
2007年 | 「キルケラン」というブランド名でシングルモルトがリリースされる |
グレンガイルに纏わるストーリー
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「グレンガイル蒸留所」製法の特徴
- 年間生産能力
75万L(実生産量は10万L程度) - 仕込み水
クロスヒル湖 - モルトサプライ
スプリングバンク - ピーテッドレベル
ライト8割,ヘビー2割 - マッシュタン材質
ステンレス製セミロイター - マッシュタン容量
1バッチ4.5トン - ウォッシュバック
カラ松製2基,ダグラスファー製2基 - ウォッシュバック容量
30,000L(張込み25,000L) - 発酵時間
72〜110時間
- スチル加熱方式
蒸気間接加熱 - ポットスチル(初留)
ストレート型1基 - ウォッシュスチル容量
18,000L(張込み11,000L) - ポットスチル(再留)
ストレート型1基 - スピリッツスチル容量
15,000L(張込み10,800L) - コンデンサー
シェル&チューブ方式 - 本留の度数
68〜69% - 樽詰め度数
63〜64% - ウェアハウス形式
ダンネージ式,ラック式
製麦について
出典:whisky.com
ポイント
グレンガイル蒸留所では所内での製麦は行われていません。原料のモルトは系列のスプリングバンク蒸留所がフロアモルティングによって精製したものを採用しています。
ピーテッドレベルについては全体の80%ほどがスプリングバンクでも使用されているライトリーピーテッドタイプ(10〜12ppm)とされており,ピート乾燥6時間・熱風乾燥30時間で作られています。
残りの20%はフェノール値84ppmのヘビリーピーテッドタイプとされています。特にヘビリーピーテッドタイプの原酒は「ピートインプログレス」シリーズとして独自のボトルがリリースされています。
モルトの粉砕を行うモルトミルはローラー式のボビーミルであり,2000年以降の蒸留所再建時にクライゲラキ蒸留所から転用されているものになります。用意された原料のモルトは,このミルで粉砕してグリストとしたのち,次の糖化の工程へと進みます!
↓工程の詳細な解説↓
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糖化について
出典:whisky.com
ポイント
グレンガイル蒸留所では仕込み水としてスプリングバンクと同じく,町の南側の丘にあるクロスヒル湖の水を採用しています。
マッシュタンは蒸留所再建の際に新たに設置されたフォーサイス社製のものであり,1バッチあたり4.5トンのグリスト容量を誇るステンレス製のセミロイタータンになります。
ここが特徴!
- 糖化1バッチは7〜8時間程度で完結する
- 発酵時の張込みが25,000リットルであることから,グリスト1トンあたり5,500リットル程度のウォートが得られているものと考えられる
次の工程は発酵になります!
↓工程の詳細な解説↓
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発酵について
出典:whisky.com
ポイント
グレンガイル蒸留所には容量30,000リットル(張込み25,000リットル)でカラ松製のウォッシュバックが2基,同様のサイズでダグラスファー製のウォッシュバックが2基設置されています。酵母は一般的なディスティラーズ酵母になります。
ここが特徴!
- 発酵時間が72〜110時間と比較的長めに設定されていることから,発酵終期には乳酸発酵が卓越してくる
- ウォッシュのアルコール度数は約5%となる
次の工程は蒸留になります!
↓工程の詳細な解説↓
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蒸留について
出典:whisky.com
ポイント
グレンガイル蒸留所には容量18,000リットル(張込み11,000リットル)でストレート型のウォッシュスチルが1基,容量15,000リットル(張込み10,800リットル)でストレート型のスピリッツスチルが1基設置されています。
これらのポットスチルは元々1977年に閉鎖されてしまった北ハイランドのベンウィヴィス蒸留所で使用されていたものが転用されています。実際にはよりクリーンな酒質を得ることを目的として,搬入時にネック上部を継ぎ足すことにより,背が高く改造されました。
ここが特徴!
- 初留ではアルコール度数5%のウォッシュから度数21〜23%程度のローワインが得られる
- 背の高いスチルでは,蒸気と内面の銅の接触面積が増大するため,銅を触媒とした不快な香味の除去が進行しやすくなる
次の工程は熟成になります!
↓工程の詳細な解説↓
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熟成について
出典:whisky.com
ポイント
グレンガイル蒸留所には敷地内にウェアハウスが存在していませんが,ごく近隣にある系列のスプリングバンク蒸留所にある6棟の伝統的なダンネージ式のウェアハウス及び,2棟の貯蔵容量に優れたラック式のウェアハウスにて熟成が行われています。
使用される樽はバーボン樽とシェリー樽が主とされていますが,ポート樽やマデイラ樽,ラム樽などが使用されることもあります。
樽詰め作業は蒸留所内で行われており,蒸留によって得られたニューポットは加水によってアルコール度数を63.5%に調整したのちに樽に詰められ,トラクターによってスプリングバンクのウェアハウスに安置されます。
↓工程の詳細な解説↓
オフィシャルボトル一覧
グレンガイル蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
キルケラン12年
ポイント
「キルケラン12年」はグレンガイル蒸留所のオフィシャルシングルモルトのうち,最もスタンダードかつ代表作的なボトルになります。グレンガイルのウイスキーは長らくワークインプログレスシリーズという形で,スタイルの完成に向けた途中経過のウイスキーとして毎年限定発売されていましたが,この12年のリリースを以ってひとつの完成形となりました。
その構成はバーボン樽原酒70%とシェリー樽原酒30%とされており,樽由来の香味のバランス感は抜群。ライトリーピーテッドスタイルとキャンベルタウンらしい潮風の印象がスパイスとして非常によく働き,飲みやすいながらも個性の際立つテイストが完成しています。
常設ラインナップではありますが,リリース数が非常に少なく,需要に供給が追いついていないのが玉に瑕。口にする機会に恵まれたならば必飲のボトルです。
香り
オーク香/トースト感/ドライフルーツ/プリンのカラメル/モルティ/チェリー/ピートスモーク
味わい
ドライフルーツ/ウッディ感/カスタードクリーム/モルティ/ややブリニー/甘美なピートスモーク
余韻
フレッシュな柑橘感やキャンベルタウンらしいオイリーかつブリニーな余韻
キルケラン8年
カスクストレングス
ポイント
「キルケラン8年カスクストレングス」では8年以上熟成されたグレンガイルの原酒が,加水されることのないそのままのアルコール度数でボトリングされています。樽構成はリリースによって異なり,これまでバーボン樽原酒のみのボトルや,シェリー樽原酒のみのボトルなどが発売されていました。
ライトリーピーテッドの原酒が使用されている点は共通しており,またカスクストレングス故に,各種の樽で養われたグレンガイルの個性をダイレクトに感じることができます。
キルケラン
ヘビリーピーテッド
ポイント
「キルケランヘビリーピーテッド」は”ピート・イン・プログレス”シリーズとして2016年から限定販売されているボトルであり,フェノール値84ppmという圧倒的なスモーキーさを呈する原酒がフィーチャーされています。
現在はバッチ6までリリースされており,各バッチごとに樽構成が少し異なっているのが特徴。基本的にはバーボン樽原種8割,シェリー樽原酒2割程度の構成の場合が多くなっています。
テイストの特徴としては圧倒的なスモーキーさはもちろんのことですが,煙たさ一辺倒とはならず,キャンベルタウンらしいブリニー感やビスケットのようなモルティな甘みが非常に強く感じられます。アイラモルトとは異なり,華やかな印象をしっかりと感じるのが面白いところ。
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参考資料
参考サイト:グレンガイル公式 / whisky.com / scotchwhisky.com / whiskipedia.com