記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回は「グレンカダム蒸留所」になります!
Points!
「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
大麦のクリーム|ブレンディング工場|古い設備
グレンカダムの特徴
ノンピート|バーボン樽中心|クリーミー|フルーティ
\\執筆者情報//
初谷(はつがい)
ウイスキーに関わるあらゆる情報をまとめ,「ウイスキーを知りながらより深く楽しめる記事」を発信しています。
【Shop】ウイスキー専門店『Drinkable books』
【経歴】東京都立大卒|元公務員・ネット酒屋開業
【資格】JWRC公認ウイスキーエキスパート|ウイスキー検定2級
【その他】バンド「Candid moment」のドラマー
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グレンカダム蒸留所
グレンカダム蒸留所の立地と概要・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所諸元
創業年 | 1825年 |
所有会社 | アンガスダンディー社 |
地域分類 | スコットランド,東ハイランド |
年間生産量 | 130万リットル |
発酵槽 | ステンレス製6基 |
ポットスチル | 初留1基・再留1基 |
仕込み水 | ムーランズの泉 |
ブレンド先 | クリーム・オブ・ザ・バーレイ スチュワーツなど |
「グレンカダム蒸留所」立地と概要
出典:whisky.com
ポイント
グレンカダム蒸留所はスコットランドの東ハイランド,アンガス地方の中心地に当たるブレヒンの街に建てられています。
ブレヒンの街はアンガス地方の最も古い街のひとつであり,10世紀以前から残る高さ30mのラウンドタワーや,1150年に建てられた教会などが現存しています。
また同じ町内では,かつてノースポートという蒸留所も稼働していましたが,こちらは1983年に閉鎖されており,現在はグレンカダムを残すのみとなっています。
グレンカダムのウイスキーは,かつてスチュワーツ・クリームオブザバーレイというブレンデッドウイスキーのキーモルトを務めていましたが,このクリームオブザバーレイ(大麦のクリーム)という名称はグレンカダムのテイストに準えて考案されたものであるらしく,実際にそのウイスキーは甘くクリーミーなテイストを魅力としています。
蒸留所内には各種生産設備の他に,所有者であるアンガスダンディ社のブレンディングセンターが併設されており,16基のブレンド用タンクを活用した「ブレンドの中枢」としての機能も果たしています。
ちなみにグレンカダムという名称の語源は定かではなく,グレンは「谷(Gleann)」を意味すると考えられますが,カダムは何らかの家の名前を指した固有名詞とのことです。
「グレンカダム蒸留所」歴史
グレンカダム蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1825年 | ジョン・クーパー氏によってグレンカダム蒸留所が創設される |
1827年 | 蒸留所がデビッド・スコット氏に買収される |
1837年 | グレンカダムの売却先が定まらず,閉鎖状態となる |
1852年 | 蒸留所がアレクサンダー・ミルン・トムソン氏に引き継がれ,生産も再開される |
1857年 | グレンカダム・ディスティラリー社が形成される |
1891年 | 蒸留所がギルモア・トンプソン社に買収される |
1954年 | ギルモア・トンプソン社が事業を畳む 蒸留所はハイラムウォーカー社へと売却される |
1988年 | ハイラムウォーカー社がアライドライオンズ社に買収される |
1994年 | 会社合併によってアライドドメク社が形成される |
2000年 | 蒸留所が閉鎖される |
2003年 | 蒸留所がアンガスダンディー社に買収され,ウイスキーの生産が再開される |
2007年 | 敷地内にブレンド工場が建設される |
2008年 | グレンカダム10年,15年がリリースされる |
2012年 | グレンカダム30年がリリースされる |
「グレンカダム蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
130万L - 仕込み水
ムーランズの泉 - モルトスター
多様 - ピーテッドレベル
ノンピート - マッシュタン材質
伝統的な鋳鉄製 - マッシュタン容量
1バッチあたり4.9トン - ウォッシュバック
ステンレス製6基 - 酵母
マウリ社製,ディスティラーズ酵母 - ウォッシュバック容量
28,000L
- 発酵時間
48時間 - スチル加熱方式
蒸気間接加熱 - ポットスチル(初留)
ストレート型1基 - ウォッシュスチル容量
12,000L - ポットスチル(再留)
ストレート型1基 - スピリッツスチル容量
12,000L - コンデンサー
シェル&チューブ方式 - 本留の度数
68% - ウェアハウス形式
ダンネージ式,ラック式
製麦について
出典:whisky.com
ポイント
グレンカダム蒸留所では,現在自社製麦が行われておらず,製麦工程は付近にある外部の専門業社(モルトスター)に委託しています。
原料大麦の乾燥には電探が使用されていないため,生産されるウイスキーのピーテッドレベルはノンピートタイプとなります。
用意された原料のモルトは,紫色に塗装された古いポルテウス社製のローラー式モルトミルで粉砕し,グリストとされます。一般的にグリストはその粒径によってハスク(粗)・グリッツ(中)・フラワー(細)に分類され,それぞれの構成比は「2:7:1」とされます。
次の工程は糖化になります!
↓工程の詳細な解説↓
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糖化について
ポイント
グレンカダム蒸留所では,仕込み水としてムーランズの泉の水を採用しています。マッシュタンは古く伝統的なスタイルの鋳鉄製のものであり,1バッチあたり4.9トンのグリストを処理することが可能です。
ちなみにムーランの泉は蒸留所から14km程度離れたところにあるため,地下の配管を介して蒸留所に移送されており,これはスコットランドでもかなり長い部類になります。
ここが特徴!
- 糖化1バッチで得られたウォートが,容量28,000Lのウォッシュバックに投入されることから,グリスト1トンあたり5,700L程度のウォートが得られていると考えられる
次の工程は発酵になります!
↓工程の詳細な解説↓
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発酵について
出典:whisky.com
ポイント
グレンカダム蒸留所には,容量28,000リットルでステンレス製のウォッシュバックが合計6基設置されています。発酵に使用される酵母はマウリ社製で,一般的なディスティラーズ酵母になります。
ここが特徴!
- 発酵前にウォートは22℃まで冷却され,発酵中は34℃まで発熱する
- 発酵時間は48時間とされており,乳酸発酵の影響を受けていない重めのテイストが得られていると考えられる
次の工程は蒸留になります!
↓工程の詳細な解説↓
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蒸留について
出典:whisky.com
ポイント
グレンカダム蒸留所には,容量12,000リットルのウォッシュスチルが1基,同じく容量12,000リットルのスピリッツスチルが1基設置されています。
形状はどちらもストレート型であり,15°程度上に傾いたラインアームを特徴としています。また加熱方式は蒸気による間接加熱方式,コンデンサーは屋外設置のシェル&チューブ方式が採用されています。
設置されている2基のポットスチルは,1825年の創業時から諸元が変更されることはなく,一般的な2回蒸留によってウイスキーが生産されています。
ここが特徴!
- ウォッシュスチルにはエクスターナルヒーティングシステムが導入されており,ウォッシュがあらかじめ余熱されてから投入されるため,エネルギー効率が良い
- スチル形状はストレート型だが,上を向いたラインアームによって蒸気の環流が促進され,軽やかな香味を呈する成分が回収しやすくなる
- ミドルカットの幅は概ね75〜65%とされている
次の工程は熟成になります!
↓工程の詳細な解説↓
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熟成について
出典:whisky.com
ポイント
グレンカダム蒸留所には合計11棟のウェアハウスが併設されており,その形態は伝統的なダンネージ式と,貯蔵容量に優れた近代的なラック式が混在しています。
熟成に使用される樽は多彩であり,一般的なバーボン樽やシェリー樽の他,ポートワイン樽などが使用されることもあります。
蒸留によって得られたニューポットは,多くの蒸留所が加水による度数の調整を実施しますが,グレンカダムではそのままのアルコール度数で樽詰めが実施されています。
↓工程の詳細な解説↓
オフィシャルボトル一覧
グレンカダム蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
※コアレンジのうち,通販で入手可能なものに限る
グレンカダムのオフィシャルボトル全てに共通する事項として,年数表記のあるボトルは,アルコール度数がこだわりの46%とされている点や,ノンカラーリングとされているのがポイントです。
グレンカダム・オリジン1825’
ポイント
「グレンカダム・オリジン1825’」は,当蒸留所のオフィシャルラインナップのうち,最もリーズナブルな入門的立ち位置のボトルになります。
1825という数字は蒸留所の創業年を表しており,古くから残る伝統的な設備を使用して生産されるトラディショナルなウイスキーが作られていることが暗に示唆されています。
その原酒は最高級のアメリカンオーク製バーボン樽で主たる熟成を終え,最高級のスペイン産オロロソシェリーバットでフィニッシュされたものとされており,グレンカダムの根幹にあるクリーミーな味わいがしっかりと表現されています。
Tasting Note
- 香り
果樹園のフルーツ|焼きりんご|シナモンスパイス|バニラ|はちみつ
- 味わい
バナナ系トロピカル感|麦芽糖|ドライパイナップル|ケーキ|スパイシー
- 余韻
洋梨やレモンのフルーティさとシナモンシュガーの甘い余韻
グレンカダム
レゼルヴァ・アンダルシア
ポイント
「グレンカダム・レゼルヴァ・アンダルシア」は,著名なシェリー酒の産地である「ヘレス」が所在するスペインのアンダルシア地方にちなんで名付けられたボトルになります。
シェリー産地の名前を冠していることからも推測できますが,原酒は伝統的なダンネージ式ウェアハウスにて,バーボン樽で熟成されたのちに,アンダルシア地方産のオロロソシェリー樽でフィニッシュされたものが採用されています。
そのテイストには,ノンピートスタイルのグレンカダムらしいフルーティなベースに加えて,シェリー樽由来のサルタナや甘いスパイス感などの華やかかつリッチな要素を多く感じることができます。
Tasting Note
- 香り
熟したフルーツ|ソフトヌガー|オーク|バニラの甘み|レーズン感
- 味わい
サルタナ|トフィー|赤りんご|クリーミーなバニラ
- 余韻
蜂蜜や黒砂糖のような甘くシルキーな余韻
グレンカダム10年
ポイント
「グレンカダム10年」は当蒸留所の熟成年数表記有りのコアレンジのうち,最もスタンダードな立ち位置であり,代表作的なボトルになります。
原酒の樽構成などは明かされていませんが,1825年から続くグレンカダムの職人技と伝統を重んじて製造されたウイスキーは,美しくバランスの整ったデリケートなフレーバーを魅力としています。
Tasting Note
- 香り
トロピカルフルーツ|フレッシュなシトラス|バニラ|ベーキングスパイス
- 味わい
南国パイナップル|レモン|ブリオッシュ|ビターな柑橘の皮|草原
- 余韻
柑橘とバニラの華やかさとスパイシーな余韻
グレンカダム13年
ポイント
「グレンカダム13年」は,当蒸留所が2000年に一度閉鎖を経験し,2003年に生産再開されてから13年経ったタイミングでリリースされた限定発売のボトルになります。
樽構成は明かされていませんが,バーボン樽原酒っぽいクリーミーなテイストを基調とし,余韻にかけてはシェリー樽原酒によくみられるナッティ感やコーヒー系のビターさを感じることができる,バランスに優れたテイストが形成されています。
Tasting Note
- 香り
クリーミー|パン系モルティ感|バター|シュガー|アーモンド|マーマレード
- 味わい
クリーミーなパンナコッタ|ビスケット|レモン|ナツメグスパイス|オイリー
- 余韻
アーモンドやココアパウダー,そして微かにコーヒーが香る大人な余韻
グレンカダム15年
ポイント
「グレンカダム15年」は当蒸留所のコアレンジの中では,若さと長熟の狭間に位置するボトルであり,食欲をそそる甘いテイストからは,多少の威厳が感じられる力作的なボトルになります。
ノンカラーリング・ノンチルフィルターのこだわりを持ってボトリングされたこのウイスキーは,IWSC等の世界的なスピリッツコンペで数々の賞を受賞しており,十分な客観的評価を受けた実力派のウイスキーであると言えるでしょう。
Tasting Note
- 香り
柑橘の皮|トーストナッツ|果樹園の果実|バニラの鞘
- 味わい
クリーミー|アーモンド|シナモンシュガー|ドライアップル|ナツメグ|ココアパウダー
- 余韻
プリンやシナモンのような,長く残るクセになる甘さが魅力の余韻
グレンカダム19年
オロロソカスクフィニッシュ
ポイント
「グレンカダム19年オロロソカスクフィニッシュ」は,当蒸留所が数量限定(6,000本)でリリースしたボトルであり,名前の通りに厳選されたオロロソシェリー樽フィニッシュの原酒によって構成されています。
主たる熟成はバーボン樽で行われており,シェリー樽フィニッシュの魅力が最も際立ったタイミングが19年であったことから,中途半端な19年という熟成年数を採用。豊かで美しいハイランドモルトとしての魅力が詰まった1本です。
Tasting Note
- 香り
焼き胡桃|ドライフルーツ|葉巻|ミルクチョコレート|甘いトフィー
- 味わい
チョコレート|レーズン|アーモンド|ヌガー|バタースコッチ|飴玉|ドライイチジク|バニラ
- 余韻
塩キャラメルとチョコに始まり,シナモンやナツメグのスパイシーさに移ろう多層的な余韻
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参考資料
参考サイト:グレンカダム公式|whisky.com|scotchwhisky.com|malt-whisky-madness.com|diffordsguide.com|scotchwhisky.net|whiskipedia.com