記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回は「ベンリアック蒸留所」になります!
Points!
「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
2度の閉鎖から復活|フロアモルティング|時代に合わせたウイスキー作り
ベンリアックの特徴
ノンピート&ピーテッド|3回蒸留(ごく一部)|多彩な樽を使用|華やかで果樹園のフルーツ軍団のよう
\\執筆者情報//
初谷(はつがい)
ウイスキーに関わるあらゆる情報をまとめ,「ウイスキーを知りながらより深く楽しめる記事」を発信しています。
【Shop】ウイスキー専門店『Drinkable books』
【経歴】東京都立大卒|元公務員・ネット酒屋開業
【資格】JWRC公認ウイスキーエキスパート|ウイスキー検定2級
【その他】バンド「Candid moment」のドラマー
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ベンリアック蒸留所
ベンリアック蒸留所の立地と概要・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所諸元
創業年 | 1897年 |
所有会社 | ブラウンフォーマン社 |
地域分類 | スコットランド スペイサイド,エルギン地区 |
年間生産量 | 280万リットル |
発酵槽 | ステンレス製8基 |
ポットスチル | 初留2基・再留2基 |
仕込み水 | バーンサイドスプリング |
ブレンド先 | サムシングスペシャル,クイーンアンなど |
「ベンリアック蒸留所」立地と概要
出典:google map
ポイント
ベンリアック蒸留所はスペイサイド地方のエルギン地区に位置しています。より具体的にはエルギンの街の南側,ロセスの街との中間付近であり,スペイサイド全体を引き目に見ると,中心の蒸留所密集地帯の北端付近に建っています。
蒸留所にはショップやツアーなども充実しており,ガイド付きの見学会や,モルティングから樽詰めに渡る各工程の体験,ウェアハウス内でのワイン樽原酒の試飲など,ベンリアックを深く楽しめる観光資源が公式に運営されています。
また,今でこそ多彩な原酒を作り分けるクリエイティブな蒸留所としてその名を馳せるベンリアックですが,その秘訣は,創業直後と2000年代初頭に計2度の閉鎖を経験している点にあると考えられ,時代ごとのニーズに合わせたウイスキー作りを自在に行うことによって,類稀な多様性を獲得しました。
ちなみにベンリアックという名称は,ゲール語に語源があると考えられますが,確定的な情報は公式からも言及されていません。諸説あるうちのひとつとして,ベンは「山(Beann)」を意味し,リアックは「まだら模様(Riabhach)」を意味するとする説がよく見かけられますが,特にリアックの意味については複数の解釈の余地があります。
「ベンリアック蒸留所」歴史
ベンリアック蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1897年 | ジョン・ダフ&Co社がベンリアック蒸留所を設立する |
1899年 | ブレンダー企業のパティソンズ社の倒産を受けて,蒸留所が閉鎖される モルティングはロングモーンのために継続されていた |
1965年 | 蒸留所がザ・グレンリベット・ディスティラーズ社によって買収される |
1966年 | ウイスキーの生産が再開される |
1972年 | ピーテッドタイプの原酒の製造が始められる |
1978年 | 蒸留所がシーグラム社の傘下となる |
1985年 | ポットスチルが2基から4基に増設される |
1994年 | ベンリアック10年がオフィシャルリリースされる |
1998年 | 自社でのモルティングが廃止される |
2001年 | 蒸留所がシーグラム社と共にペルノリカール社に買収される |
2002年 | 蒸留所が閉鎖される |
2003年 | ビリー・ウォーカー氏らが共同企業体としてベンリアック・ディスティラーズ社を設立し,蒸留所を買収する ウイスキーの生産もこの年に再開された |
2008年 | ベンリアック社がグレンドロナック蒸留所を買収する |
2013年 | 所内でのフロアモルティングが再開される ベンリアックシャがグレングラッサ蒸留所を買収する |
2015年 | ベンリアックがグローバル・ウイスキーディスティラー・オブ・ザ・イヤーを受賞する |
2016年 | 蒸留所がベンリアック社と共に,アメリカのブラウンフォーマン社に買収される |
ベンリアックに纏わるストーリー
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「ベンリアック蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
280万L - 仕込み水
バーンサイド・スプリングス - モルトスター
自社製麦,ポートゴードン製麦所 - ピーテッドレベル
ノンピート
(稀にピーテッド) - マッシュタン材質
ステンレス製
レーキ&プラウ式 - マッシュタン容量
5.8トン - ウォッシュバック
ステンレス製8基 - 酵母
マウリ社製リキッドタイプ - ウォッシュバック容量
30,000L
- 発酵時間
48〜50時間 - スチル加熱方式
蒸気間接加熱 - ポットスチル(初留)
ストレート型2基 - ウォッシュスチル容量
19,000L(張込み15,000L) - ポットスチル(再留)
ストレート型2基 - スピリッツスチル容量
14,000L(張込み9,800L) - コンデンサー
シェル&チューブ方式 - 本留の度数
68% - ウェアハウス形式
ダンネージ式5棟
製麦について
出典:whisky.com
ポイント
ベンリアック蒸留所では,創業時より自社でのフロアモルティングが実施されており,1998年に一度廃止されましたが,2013年に少量ながら再開されています。
自社製麦で賄いきれない原料の一部は,専門の製麦業者(モルトスター)であるクリスプ社のポートゴードン製麦所からも仕入れています。
大麦の品種はオプティック種とコンチェルト種を採用し,ピーテッドレベルはノンピートタイプを主としています。
また1960年代後期にはブレンド需要に応えるべく,ヘビリーピーテッドタイプの麦芽を仕込んでいた時期がありましたが,現在も年に4週間程度はフェノール値55ppmのヘビリーピーテッド麦芽が仕込まれています。
ちなみにピートはハイランド産であり,アイラ島などのヨード感主体のスモーキーさとは異なる,内陸系の香ばしい煙たさを呈します。
用意された原料のモルトはポルテウス社製のローラー式モルトミルで粉砕し,グリストとされます。一般的にグリストはその粒径によってハスク(粗)・グリッツ(中)・フラワー(細)に分類され,それぞれの構成比は「2:7:1」とされます。
次の工程は糖化になります!
↓工程の詳細な解説↓
▼
糖化について
出典:whisky.com
ポイント
ベンリアック蒸留所では,仕込み水としてバーンサイドスプリングスの水(硬水)を採用しています。マッシュタンは1バッチあたり5.8トンのグリスト容量を誇る蓋付きのステンレス製で,旧型のレーキ&プラウ式のタンになります。
ここが特徴!
- お湯の回数は3回が一般的だが,ベンリアックでは4回に分けて実施することで,グリストに含有される糖類の抽出量が最大化されている
- お湯の温度について,1回目から順に65℃→75℃→85℃→90℃に設定されている
- ウォッシュバックサイズから逆算するに,1バッチのウォート総量は30,000L程度になると考えられ,グリスト1トンあたり5,170Lのウォートが得られていると推察できる
次の工程は発酵になります!
↓工程の詳細な解説↓
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発酵について
出典:whisky.com
ポイント
ベンリアック蒸留所には,容量30,000リットルでステンレス製のウォッシュバックが8基設置されています。酵母はマウリ社製のディスティラーズ酵母で,品質管理が容易で効率性に優れたリキッドタイプとされています。
ここが特徴!
- 発酵時間は一般的な水準に近い50時間程度とされており,乳酸発酵の影響をあまり受けず,ウォッシュが複雑かつ重めのフルーティテイストを獲得している
- ウォッシュのアルコール度数は約8%となる
次の工程は蒸留になります!
↓工程の詳細な解説↓
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蒸留について
出典:whisky.com
ポイント
ベンリアック蒸留所で使用される2対4基のポットスチルはどれもストレート型であり,ウォッシュスチルは容量19,000リットル(張込みは15,000リットル),スピリッツスチルは容量14,000リットル(張込みは9,800L)になります。
加熱方式は蒸気による間接加熱方式,コンデンサーは屋外設置のシェル&チューブ方式が採用されています。またスピリッツセイフはフォーサイス社製で,1975年から使用される古い手動式です。
ベンリアックでは,年に4週間程度にピーテッドタイプの原酒を製作していますが,その生産が終わると概ね1週間程度かけてスチルとスピリッツセイフを洗浄し,残留ピートが完全に除去されます。
また年に一度,1週間だけはかつて実施されていた3回蒸留も行われており,空港免税店向けの原酒として毎年25,000リットル程度が生産されています。
ここが特徴!
- 蒸留工程は自動化されておらず,ミドルカットも職人の技術によって執り行われている
- ストレート型のポットスチルでは,蒸気の環流が生じにくいが,蒸留スピードを遅めにすることで,軽やかな香味を呈する低沸点成分が多く確保されている
- 一般的にチャージに対して「蒸留液:残留物=1:2」程度となることから,初留では5,000リットル程度のローワインが得られているものと考えられる
次の工程は熟成になります!
↓工程の詳細な解説↓
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熟成について
出典:whisky.com
ポイント
ベンリアック蒸留所には,土の床と石の壁を特徴とし,創業時から残る伝統的なダンネージ式のウェアハウスと,貯蔵効率に長けた近代的なラック式のウェアハウスが併設されています。
原酒を詰める樽は非常に多彩な種類が設定されており,バーボン樽やシェリー樽はもちろん,マルサラワイン樽,ポート樽,フレンチワイン樽,ラム樽など数えきれないほどです。
また樽の使用回数については,蓋(鏡という)で判断することができ,緑が1stフィル,青が2ndフィル,赤が3rdフィル,白は4thフィル以降とされており,使用されるたびに塗り替えられています。塗装されていない樽には,ワインの名称が記載されており,それを見ることでどのワイン樽かを見分けることができます。
↓工程の詳細な解説↓
オフィシャルボトル一覧
ベンリアック蒸留所のオフィシャルボトル(コアレンジのみ)を紹介していきます!
※スペシャルリリース等は公式サイトをチェック
ベンリアック オリジナル・テン
ポイント
「ベンリアック オリジナル・テン」は当蒸留所の最もスタンダードなオフィシャルシングルモルトであり,バーボン樽・シェリー樽・バージンオーク樽の3種類の樽で10年以上熟成された原酒によって構成されています。
またベンリアックはわずかにスモーキータイプの原酒も生産していますが,このボトルでは主流なノンピートタイプの原酒が採用されており,スペイサイドらしい華やかさを最大の魅力としています。
そのテイストについて深く言及すると,まるで果樹園のような甘美なフルーツの味わいをそのキャラクターとし,バーボン樽系のウッディ感やはちみつ,バニラクリームの甘さを感じることができます。
多種多様な原酒を作り分けるベンリアックですが,このボトルがその核心に位置するテイストを最も愚直に表現しているボトルと言えるでしょう。
Official Tasting Note
- 香り
豊かな果樹園の果実|蜂蜜|トーストしたオーク
- 味わい
ナシ|ネクタリン(桃の1種)|モルティ|アーモンド|スパイス|バニラ
ベンリアック スモーキー・テン
ポイント
「ベンリアック スモーキー・テン」は,ノンピートのオリジナル・テンに対し,ノンピート原酒の他に,当蒸留所が年に1ヶ月だけ生産するピーテッドタイプの原酒が織り交ぜられたオフィシャルシングルモルトになります。
オリジナル・テンと同様に3種の樽で10年以上熟成された原酒が使用されていますが,樽材の種類は異なっており,このスモーキー・テンではバーボン樽,ジャマイカ産のラム樽,トーステッドバージンオーク樽が使用されています。
そのテイストは決して煙たさ一辺倒とはなっておらず,ベンリアックらしい果樹園のような華やかさをベースに,香ばしいハイランド系のピートスモークがほのかに漂う印象で,どことなくウッディな煙たさに感じられます。
Official Tasting Note
- 香り
果樹園の完熟フルーツ|シロップ|ドーナツグレーズ|スモーク|オーク|スパイス
- 味わい
スモークアップルウッド|ハニー|メープル|スパイシー|洋梨|ウッディ
ベンリアック トゥエルブ
ポイント
「ベンリアック トゥエルブ」はシェリー樽・バーボン樽・ポート樽の3種類の樽で12年以上熟成された原酒によって構成されたオフィシャルシングルモルトになります。
各樽の原酒を巧みなバランスでブレンドすることにより,シェリー系ウイスキーの魅力を存分に引き出し,第一印象に感じられるベイクドフルーツのような濃密な甘さと,余韻にかけてのサルタナやモカのテイストを最大の魅力としています。
Official Tasting Note
- 香り
濃厚なメープルハニー|ココア|ベイクドフルーツ|森林
- 味わい
マラスキーノチェリー|ベイクドオレンジ|ヘーゼルナッツ|サルタナ|スパイシー|モカ
ベンリアック スモーキー・トゥエルブ
ポイント
「ベンリアック スモーキー・トゥエルブ」は,ノンピート原酒とピーテッド原酒を併用し,バーボン樽・シェリー樽・マルサラワイン樽の3つの樽で12年以上熟成された原酒から作られるオフィシャルシングルモルトになります。
ピーテッドレベルと樽材の違いから,原酒のベクトルは6つに分かれていますが,巧みなブレンド技術によってフルーティ&スモーキーの見事なバランスが表現されています。
また奥行きの方向にはスパイシー,ウッディ,クリーミーなどの多層的な立体感を感じることができ,これは間違いなくベンリアックの多様性の賜物と言えるでしょう。
Official Tasting Note
- 香り
スモークバニラ|焦げ感|レッドオレンジ|トーストアーモンド|スパイシー
- 味わい
ダークチョコ|フルーツピール|ブラウンシュガー|スモークオーク|カカオ|オレンジ
ベンリアック21年
ポイント
「ベンリアック21年」は,ノンピーテッド・ピーテッド双方の原酒のうち,バーボン樽・シェリー樽・バージンオーク樽・ボルドー赤ワイン樽の4種類の樽にて,21年以上熟成された原酒によって構成される,長熟のオフィシャルシングルモルトになります。
長い熟成期間の中で,原酒たちは各々の樽に由来する個性を強く獲得し,ピーテッド原酒のスモーク感は柔和な丸みを帯びているため,巧みなブレンドによって馴染みの良いエレガントなテイストが完成しています。
果樹園,ウッデイ,スモーキーなどの全ての要素が一体化し,互いの繋がりを感じさせる完璧なバランス感のラグジュアリーなウイスキーです。
Official Tasting Note
- 香り
ベリーフルーツ|果樹園のりんご|自然の蜂蜜|オーク|スパイシー
- 味わい
ぶどうの砂糖漬け|濃いココア|スモーク木の実|洋梨|カラメル|はちみつ|ほのかなスパイス
ベンリアック25年
ポイント
「ベンリアック25年」は当蒸留所のコアレンジの中では最長熟のボトルであり,ノンピート・ピーテッド双方の原酒のうち,シェリー樽・バーボン樽・バージンオーク樽・マデイラワイン樽の4種の樽で25年以上熟成された原酒の組み合わせで作られています。
25年の間にスモーキーテイストが,ベンリアックらしい果実感やモルティ,ウッディ感とよく馴染み,まるでキャラメリゼされているかのように輝いて感じられます。また各種の樽の個性が最大限に引き出されているため,感じられる要素は際限なく広がり,長く残る多層的な余韻を楽しむことができます。
Official Tasting Note
- 香り
スモーク|アプリコット|ダークチェリー|チョコレート|ヘーゼルナッツ|トフィー
- 味わい
ベイクドフルーツ|トーステッドオーク|オレンジ|シナモンスパイス|キャラメリゼスモーク
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参考資料
参考サイト:ベンリアック公式|whisky.com|scotchwhisjy.com|scotchwhisky.net|malt-whisky-madness.com|whiskyforeveryone.blogspot.com