記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回は「ノッカンドゥ蒸留所」になります!
Points!
「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
J&Bのキーモルト/ディアジオ系列
ノッカンドゥの特徴
極小ピーテッド/ナッツ感/儚いフルーティ/繊細なフローラル
\\執筆者情報//
初谷(はつがい)
ウイスキーに関わるあらゆる情報をまとめ,「ウイスキーを知りながらより深く楽しめる記事」を発信しています。
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【経歴】東京都立大卒|元公務員・ネット酒屋開業
【資格】JWRC公認ウイスキーエキスパート|ウイスキー検定2級
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ノッカンドゥ蒸留所
ノッカンドゥ蒸留所の立地と概要・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所諸元
創業年 | 1898年 |
所有会社 | ディアジオ社 |
地域分類 | スペイサイド,スペイ川中流域 |
年間生産量 | 140万リットル |
発酵槽 | ダグラスファー製8基 |
ポットスチル | 初留2基・再留2基 |
仕込み水 | カードナックの泉 |
ブレンド先 | J&B,スペイロイヤルなど |
「ノッカンドゥ蒸留所」立地と概要
出典:whisky.com
ポイント
ノッカンドゥ蒸留所はスコットランドのスペイサイド地内,スペイ川中流域に位置しています。より具体的にはスペイ川の左岸側の人里離れた丘の上に建っており,この周辺はほど近くにカーデュ蒸留所やタムドゥー蒸留所なども所在する蒸留所密集地帯になります。
蒸留所の建物は著名な建築家のチャールズ・ドイグ氏の設計の元で作られており,今でこそ使用されていませんが,製麦時に感想を行うキルンに見られるパゴダ屋根が印象的。2017年から大規模改修工事に実施に伴う閉鎖期間がありましたが,2021年に完了し,現在は通常通り操業されています。
またスペイサイドのウイスキーはノンピートで華やかなものが多いですが,ノッカンドゥは原料のモルトにごく僅かにピート処理を施し,軽やかながらも多層的なテイストのウイスキーが作られています。しかし生産される原酒のおよそ9割がJ&Bを筆頭としたブレンデッド用とされており,シングルモルト用とされるのは全体の10%程度に留まります。
ちなみに「ノッカンドゥ(Knockando)」という名称はゲール語に語源があるとされており,「小さな黒い丘(Cnoc-an-dhu)」のことを指しています。
「ノッカンドゥ蒸留所」蒸留所の歴史
ノッカンドゥ蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1898年 | ジョン・トンプソン氏によってノッカンドゥ蒸留所が創業される 建物の設計はチャールズ・ドイグ氏が行った |
1899年 | 同年5月にウイスキーの製造が開始される |
1900年 | ウイスキー不況の情勢により,蒸留所の閉鎖を余儀なくされる |
1904年 | 蒸留所がW&Aギルビー社によって買収される 同社の元で生産が再開され,以降安定した成長を遂げる |
1962年 | W&Aギルビー社がユナイテッド・ワイン・トレーダーズ社などと合併して,インターナショナル・ディスティラーズ&ヴィントナーズ社(IDV社)が設立される 蒸留所のライセンスはIDV社傘下のジャスティリーニ&ブルックス社(J&B)に引き継がれる |
1968年 | 蒸留所の拡張により,ポットスチルが2基増設されて計4基体制となる 所内でのフロアモルティングが廃止される |
1972年 | IDV社がグランドメトロポリタングループの一部となる |
1997年 | グランドメトロポリタングループがギネス社と合併し,ディアジオ社が形成される |
2017年 | 大規模な改修が実施される 工期内は生産が止められている |
2021年 | 同年の夏頃に生産が再開される |
ノッカンドゥに纏わるストーリー
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「ノッカンドゥ蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
140万L - 仕込み水
カードナックの泉 - モルトスター
ディアジオ系列 - ピーテッドレベル
ライトピート - マッシュタン材質
ステンレス製フルロイター - マッシュタン容量
1バッチ4.4トン - ウォッシュバック
ダグラスファー製8基 - 酵母
クリーム状 - ウォッシュバック容量
21,500L - 発酵時間
50時間・100時間
- スチル加熱方式
蒸気間接加熱 - ポットスチル(初留)
バルジ型2基 - ウォッシュスチル容量
10,000L - ポットスチル(再留)
バルジ型2基 - スピリッツスチル容量
6,930L - コンデンサー
シェル&チューブ - 本留の度数
71〜72% - ウェアハウス形式
ダンネージ式5棟
製麦について
ポイント
ノッカンドゥ蒸留所では,1968年まで所内にてフロアモルティングによる製麦が実施されていましたが,現在は同じディアジオ系列の専門業社(モルトスター)に委託し,そこから原料のモルトを購入しています。
ピーテッドレベルについては,華やかなスタイルが売りのスペイサイド地内の蒸留所ではありますが,ごくわずかにピートが焚かれたライトリーピーテッドタイプとされており,主にJ&Bを筆頭としたブレンデッドウイスキーの原酒として適度な個性を有しています。
用意された原料のモルトはローラー式のモルトミルで粉砕し,グリストとされます。一般的にグリストはその粒径によってハスク(粗)・グリッツ(中)・フラワー(細)に分類され,それぞれの構成比は「2:7:1」とされます。
次の工程は糖化になります!
↓工程の詳細な解説↓
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糖化について
出典:whisky.com
ポイント
ノッカンドゥ蒸留所では仕込み水としてカードナックの泉の水が採用されています。マッシュタンは1バッチあたり4.4トンのグリスト容量を誇るステンレス製のフルロイタータンになります。
マッシングは週に16回行われており,のちの発酵工程では半分(8回分)づつに異なる発酵時間が設定されています。
またウォートは通常透明に近い状態で確保されるケースが多いですが,ノッカンドゥではナッティな風味を助長させるために,意図的に濁りのある状態で確保されています。
ここが特徴!
- 糖化1バッチ分のウォートが,21,500リットルのウォッシュバックに投入されると考えた場合,グリスト1トンからは約4,900リットル程度のウォートが得られていると推察できる
- 濁りのある状態でウォートを得た場合,最終的に完成するウイスキーのナッティなテイストに寄与するとされている
次の工程は発酵になります!
↓工程の詳細な解説↓
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発酵について
ポイント
ノッカンドゥ蒸留所には容量21,500リットルでダグラスファー製のウォッシュバックが8基設置されています。使用される酵母はクリーム状で,一般的なディスティラーズ酵母になります。
発酵時間については50時間と100時間の2種類の設定があり,週に16回行われるマッシングのうち,半分の8回分が50時間の発酵,残りの半分が100時間の発酵とされています。これらの異なる発酵時間を経たウォッシュは,最終的に別々に樽詰めをされているというわけではなく,味わいの均一性をとるために蒸留工程で混合されています。
ここが特徴!
- 50時間の発酵時間では乳酸発酵が卓越する前で発酵が終了されるため,重め・複雑めのテイストが得られていると考えられる
- 100時間の発酵では,発酵終期に乳酸発酵が卓越してくることから,軽くすっきりとしたテイストが得られていると考えられる
次の工程は蒸留になります!
↓工程の詳細な解説↓
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蒸留について
出典:whisky.com
ポイント
ノッカンドゥ蒸留所にはランタン型で容量10,000リットルのウォッシュスチルが2基,バルジ型で容量6,930リットルのスピリッツスチルが2基設置されています。詳細な形状としてはずんぐりとした太いネックを有するのがウォッシュスチル,スレンダーなネックを有するのがスピリッツスチルになります。
ラインアームはやや下向きとされており,スチルの加熱方式は蒸気による間接加熱方式,コンデンサーは屋外設置のシェル&チューブ方式が採用されています。
ここが特徴!
- ランタン型で太いネックを持つウォッシュスチルでは,アルコールを含んだ蒸気がスチル内面の銅と接触する面積が増大するため,不快な香味の除去が進行しやすいものと考えられる
- バルジ型でスレンダーなネックを有するスピリッツスチルでは,蒸気の環流が促されるため,比較的軽やかな香味を呈する成分を多く含んだ蒸気が,コンデンサーへと流出しやすくなる
次の工程は熟成になります!
↓工程の詳細な解説↓
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熟成について
出典:whisky.com
ポイント
ノッカンドゥ蒸留所には5棟のウェアハウスが併設されており,伝統的なダンネージ式と貯蔵容量に優れた近代的なラック式が混在しています。熟成に使用される樽はシェリー樽とバーボン樽が中心とされていますが,両者の使用比率はスピリッツ本来の味わいが樽の香味に支配されないように,慎重に決定されています。
蒸留によって得られたニューポットは加水によってアルコール度数を63.5℃に調整したのちに樽詰めされ,ウェアハウスにて長い時間を眠ることとなります。
↓工程の詳細な解説↓
オフィシャルボトル一覧
ノッカンドゥ蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
ノッカンドゥ12年
ポイント
「ノッカンドゥ12年」は当蒸留所の公式シングルモルトのうち元もスタンダードなボトルになります。ごくわずかにピートが焚かれたモルトを原料とし,スピリッツ本来のテイストを活かすためにバーボン樽原酒を軸に,風味が濃く出るシェリー樽熟成原酒が控えめにブレンドされることで作られています。
ライトリーピーテッドではありますが,スペイサイドモルトらしさはしっかりと残っており,デリケートなフルーティ感やフローラルな華やかさ,そしてナッツのような香ばしさが特徴的。余韻にかけてほんの僅かに感じられるピートスモークが複雑に絡み合います。
香り
オレンジピール/はちみつ/香ばしいナッツ/バニラ/フローラル/僅かにピートスモーク
味わい
デリケートなフルーツ/花畑フローラル/アーモンド/モルティ/ドライフルーツ/はちみつ/極小ピート
余韻
軽やかで繊細なフルーツ香と儚いピートスモーク/比較的短め
ノッカンドゥ15年
リッチマチュアード
ポイント
「ノッカンドゥ15年」はスタンダードな12年の正統進化,蒸留所公式ラインナップの中では中位のボトルになります。12年と同じくスピリッツの個性を活かすためにバーボン樽熟成原酒を主体とし,10%ほどに樽の風味が出やすいシェリー樽熟成の原酒が使用されています。
そのため樽由来のウッディな印象は比較的控えめであり,またライトリーピーテッドタイプのウイスキーですが,その程度は非常にライト。花のような淡く儚い華やかなフローラルテイストが特徴となっています。
ノッカンドゥ18年
スローマチュアード
ポイント
「ノッカンドゥ18年」は当蒸留所の公式ラインナップの中では,18年という長熟のボトルであり,12年や15年とは構成が少々異なります。前述の2本がバーボン樽原酒主体であったのに対し,こちらはシェリー樽原酒を主体とし,バーボン樽原酒を適度にブレンドすることで作られています。
シェリー樽によって甘く熟したフルーツのような濃密なテイストを獲得し,本来の香ばしいナッツのようなテイストもより強く感じられるようになっています。
ノッカンドゥ21年
マスターリザーブ
ポイント
「ノッカンドゥ21年」は当蒸留所の公式ラインナップの中では,ハイレンジ帯にかかる長熟ボトルになります。その構成は12年た15年と同じく,バーボン樽原酒を主体とし,10%程度シェリー樽原酒を添加することで作られています。
そのテイストも12年・15年の正統進化といった感じで,軽やかで儚いフルーティさを魅力とした飲みやすい印象ですが,長い熟成期間によってオークのウッディな甘さや内陸系ピートの香ばしさが上手く引き出されています。
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参考資料
参考サイト:whisky.com / scotchwhisky.com / distilando.com / scotchwhisky.net / malt-whisky-madness.com