記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回は「ロングモーン蒸留所」になります!
Points!
「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
竹鶴政孝|シークレットスペイサイド|ベンリアックの弟分
ロングモーンの特徴
ノンピート|華やかなフルーツ香|クリーミーな甘み|優しい樽香|トロピカル
\\執筆者情報//
初谷(はつがい)
ウイスキーに関わるあらゆる情報をまとめ,「ウイスキーを知りながらより深く楽しめる記事」を発信しています。
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【経歴】東京都立大卒|元公務員・ネット酒屋開業
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ロングモーン蒸留所
ロングモーン蒸留所の立地と概要・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所諸元
創業年 | 1894年 |
所有会社 | ペルノリカール社 |
地域分類 | スコットランド スペイサイド,エルギン地区 |
年間生産量 | 450万リットル |
発酵槽 | ステンレス製10基 |
ポットスチル | 初留4基・再留4基 |
仕込み水 | ミルビュイズの泉 |
ブレンド先 | シーバスリーガル,100パイパーズ,パスポートなど |
「ロングモーン蒸留所」蒸留所の立地と概要
出典:whisky.com
ポイント
『ロングモーン蒸留所』はスコットランドのスペイサイド,エルギン地区に所在しています。
より具体的にはエルギンとロセスの街を縦に結ぶ幹線道路のA941号線の沿線,エルギンの街から南に5kmほどの場所に建てられています。
周辺地域は著名な大麦の産地であり,ピートの採取も可能。そして蒸留所が創業された19世紀の後半には鉄道輸送も容易な地域であったことから,ウイスキー作りを実施するには最適な土地でした。
またロングモーン蒸留所は,1919年に日本のウイスキー界の伝説的人物”竹鶴政孝氏”が修行を積んだ蒸留所としても広く知られており,ジャパニーズウイスキーの礎とも言える銘蒸留所。
特に余市蒸留所のポットスチルは,一説には石炭直火蒸留が行われていた時代のロングモーンに似せて作られたと言われており,そのDNAは現在まで廃れることなく引き継がれています。
ちなみにロングモーンという名称はゲール語に語源を持つとする説が複数あり,「Lann Morgrann(湿地にある教会)」や「Lann Morgan(モーガン教会)」,「Lhanmorgund(聖人の場所)」などと考えられるとのこと。
また西暦625年に亡くなったメルナノーグという宣教師を讃えて作られた「聖マルノック教会(The church of St.Marnoch)」を英語化してロングモーンとなったと言われることもあります。
「ロングモーン蒸留所」蒸留所の歴史
ロングモーン蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1893年 | 以前にグレンロッシーを創業したジョン・ダフ氏によって,ロングモーン蒸留所の建設が開始される |
1894年 | ロングモーン蒸留所が創業される |
1898年 | ジョン・ダフ氏がロングモーンの隣にベンリアック蒸留所を創業することを決心する |
1899年 | 業界の不安定化により,ジョン・ダフ氏はロングモーンをジェームズ・R・グラント氏らに売却する |
1920年 | 日本より”竹鶴政孝”氏が1週間の研修を受講するべく来訪 |
1970年 | フロアモルティングが廃止される |
1972年 | 会社の合併により,ロングモーン・グレンリベット・グレングラントが,ザ・グレンリベット・ディスティラーズ社に包含される ポットスチルが4基から6基に増設される |
1974年 | ポットスチルが6基から8基に増設される |
1978年 | ロングモーンを所有するザ・グレンリベット・ディスティラーズ社がシーグラム社に買収される |
1994年 | スチルの加熱方式が直火加熱式から蒸気間接加熱式に改められる |
2001年 | ペルノ・リカール社がシーバス・ブラザーズ社のウイスキーポートフォリオを買収する |
2007年 | ロングモーン16年が発売される |
2012年 | 改修工事によってマッシュタン,ウォッシュバックがアップグレードされる |
「ロングモーン蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
450万L - 仕込み水
ミルビュイズの泉 - モルトスター
ベアーズ社,ブート社 - ピーテッドレベル
ノンピートタイプ - マッシュタン材質
ステンレス製フルロイター - マッシュタン容量
1バッチ8.5トン - ウォッシュバック
ステンレス製10基 - ウォッシュバック容量
39,000L - 酵母
ケリー社製
- 発酵時間
50時間 - スチル加熱方式
蒸気間接加熱 - ポットスチル(初留)
ストレート型4基 - ウォッシュスチル容量
9,750L - ポットスチル(再留)
ストレート型4基 - スピリッツスチル容量
7,200L - コンデンサー
シェル&チューブ方式 - 本留の度数
約72% - ウェアハウス形式
ダンネージ式
ペルノリカールの熟成庫
製麦について
出典:whisky.com
ポイント
ロングモーン蒸留所では,かつて所内での自社製麦が実施されていましたが,こちらは1970年に廃止されており,以降1999年までは兄弟蒸留所とも言えるベンリアック蒸留所にてフロアモルティングが行われていました。
また現在は自社製麦は行われておらず,原料の大麦麦芽はベアーズ社やブートモルト社を筆頭とした製麦の専門業社(モルトスター)から仕入れています。
大麦の諸元については,地元レアック・オ・マレイ産のものを中心に採用し,ピーテッドレベルはスペイサイドらしくノンピートタイプとされています。
しかしながら,かつてのフロアモルティング時代には,マノックヒルの苔から採取されたピートが使用されていた時期もあるようです。
用意された原料のモルトはローラー式のモルトミルで粉砕し,グリストとされます。一般的にグリストはその粒径によってハスク(粗)・グリッツ(中)・フラワー(細)に分類され,それぞれの構成比は「2:7:1」とされます。
次の工程は糖化になります!
↓工程の詳細な解説↓
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糖化について
出典:whisky.com
ポイント
ロングモーン蒸留所では,仕込み水としてミルビュイズの泉の水が採用されています。
マッシュタンはブリッグズ社製で,1バッチ当たり8.5トンのグリスト容量を誇るステンレス製フルロイタータンとされており,2012年の改修工事に際に導入された最新鋭のものになります。
またウォートの抽出は,コンピューターの管理のもとで5時間程度かけて行われ,1バッチにおけるその総量は約39,000リットルとなっています。
ここが特徴!
- グリスト1トンあたりのウォート収量は約4,588リットルと計算でき,これは通常よりも少なめ・濃いめの水準と言える
次の工程は発酵になります!
↓工程の詳細な解説↓
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発酵について
出典:whisky.com
ポイント
ロングモーン蒸留所には,容量39,000リットルでステンレス製のウォッシュバックが合計10基設置されています。これらのウォッシュバックは,マッシュタンと同様に2012年の改修工事の際に設置された最新鋭のものです。
また発酵時に添加される酵母はケリー社製とされており,発酵にかける時間は50時間と概ね一般的な水準になります。
ここが特徴!
- 50時間の発酵時間では,乳酸発酵があまり生じないと考えられるため,複雑かつ重厚な風味が錬成されやすい
- ステンレス製ウォッシュバックでは,独自の常在微生物群の影響があまりなく,維持管理製や品質の均一性に優位性が生まれる
次の工程は蒸留になります!
↓工程の詳細な解説↓
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蒸留について
出典:whisky.com
ポイント
ロングモーン蒸留所のポットスチルは全てストレート型であり,容量9,750リットルのウォッシュスチルが4基,容量7,200リットルのスピリッツスチルが4基設置されています。
コンデンサーはシェル&チューブ方式,そして加熱方式は今でこそ全て蒸気による間接加熱方式ですが,1992までは4基のウォッシュスチルにおいて石炭直火加熱が実施されていました。
またウォッシュスチルにはエクスターナルヒーティングが採用されており,ウォッシュの予熱を通して,エネルギー効率の最適化が図られています。
ここが特徴!
- ストレート型のポットスチルでは,形状由来の蒸気の環流が生じづらいため,比較的ヘビーな香味成分を多く得やすい
次の工程は熟成になります!
↓工程の詳細な解説↓
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熟成について
出典:whisky.com
ポイント
ロングモーン蒸留所には。敷地内にダンネージ式のウェアハウスが併設されています。
しかしながらペルノリカール社のブレンド用とされる大部分の原酒は,キースやマルベンにある同社の保税倉庫に輸送され,現地で熟成・ボトリングされることとなります。
↓工程の詳細な解説↓
オフィシャルボトル一覧
ロングモーン蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
ロングモーン18年
ポイント
『ロングモーン18年』は,ペルノリカール社が手がける18年熟成以上の希少なシングルモルトを厳選した”シークレット・スペイサイドコレクション”からリリースされる,当蒸留所の標準的なボトルになります。
同シリーズにはロングモーンの23年や25年の上位版が含まれる他,グレンキースやキャパドニック(閉鎖)など,オフィシャルリリースがほとんどないブレンド主体のモルトがリリースされています。
原酒はアメリカンオークバレルとホグスヘッドで熟成されたものが使用されており,マンゴーやトフィーなど,甘くトロピカルな風味を多く感じることができます。
Tasting Note
- 香り
トロピカルなマンゴーとパイン|アップル|バニラ|トフィー|柑橘の酸味|オークの香ばしさ
- 味わい
マンゴー|パインの酸味|桃味の飴|アップルパイ|オークのビター感|蜂蜜|バタースコッチ
- 余韻
ウッディなスパイシー感|華やかで繊細なフルーツ香
ロングモーン23年
ポイント
『ロングモーン23年』は,18年と同様に”シークレット・スペイサイドコレクション”に含まれるボトルになります。
原酒の樽構成はアメリカンオークバレルとホグスヘッドということで,まさしく18年の正統進化にあたる構成。
バニラやトフィー甘みはよりクリーミーに,元来強力なフルーティテイストはより緻密かつ濃厚に,余韻にかけてはジンジャーのスパイス香が卓越したバランスの良いラグジュアリーな風味が最大の魅力です。
Tasting Note
- 香り
ミルクチョコwithオレンジ|芳醇な木のアロマ|クリーミーなトフィー|洋梨とオレンジ|ジンジャースパイス
- 味わい
多彩なフルーツ香|レモンタルト|ジンジャーシロップ|バニラアイス|ウッディなビター|チョコレート
- 余韻
暖かみを感じるジンジャースパイス|心地いいフルーティ感
ロングモーン16年
ポイント
『ロングモーン16年』は以前当蒸留所のフラッグシップボトルとして販売されていたボトルですが,現在は廃盤となってしまった商品になります。
特殊な開き方をする化粧箱と,金属パーツに飾られたボトルのネックなど,類稀な高級感を誇る外観が印象的なゴージャスなデザインが印象的。
原酒の樽構成が明かされたいませんが,ボトリングはノンチルフィルタードで行われ,青リンゴやメープルシロップのような濃い甘みを基調に,ほのかにシェリーが香る繊細かつリッチなテイストが最大の魅力です。
Tasting Note
- 香り
洋梨や青リンゴ|柑橘フルーティ|バニラアイス|ウエハース|メープルシロップ|薄くシェリー
- 味わい
青リンゴの甘み|レモンの皮のビター|フローラルな蜂蜜|オレンジピール|爽快なハーバル
- 余韻
ビターなウッディネスとシナモンスパイス
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参考資料
参考サイト:whisky.com|scotchwhisky.com|malt-whisky-madness.com