記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回は「ブラドノック蒸留所」になります!
Points!
「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
10回を超える所有者変更/野生のラン/最大規模の個人所有蒸留所
の特徴
軽やか/シトラス/モルティ/ウエハース/レモン/バナナ/バニラ/はちみつ
ブラドノック蒸留所
ブラドノック蒸留所の立地・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所の概要
創業年 | 1817年 |
所有会社 | デイビッド・プライアー氏 (個人所有) |
地域分類 | スコットランド ローランド |
発酵槽 | ダグラスファー製6基 |
ポットスチル | 初留2基・再留2基 |
仕込み水 | ブラドノック川 |
ブレンド先 | リアルマッケンジー ベルなど |
「ブラドノック蒸留所」蒸留所の立地
ポイント
ブラドノック蒸留所はローランド地方に位置しています。より具体的にはマッカース半島の付け根にあるウィグタウンのはずれに建っており,スコットランドでは最南端の蒸留所になります。
その立地からハイランドと比較しても幾らか温暖であり,熟成の進行も適度に進むことから,作られるウイスキーも異なる個性を呈することとなります。また蒸留所付近の森には野生のランが自生しており、植物学上でも貴重な環境を有します。
また蒸留所の建物はウイスキー作りのみならず,音楽のライブイベントに使用されることもよくあるため,観光に合わせてエンターテイメントを楽しむ機会を提供してくれる蒸留所です。
歴史上で所有者の変遷が激しかったブラドノックですが,現在は地域に適合した伝統的なローランドモルトらしさを重要視しており,ライトボディで穀物の甘味が強いウイスキーは作られています。
ちなみにブラドノックはゲール後で「花の場所」を意味しています。
「ブラドノック蒸留所」蒸留所の歴史
ブラドノック蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1817年 | マクラレンド家のジョンとトーマスがブラドノックの農場にブラドノック蒸留所を創業した |
1905年 | 蒸留所が閉鎖される |
1911年 | 蒸留所がアイルランドのダンヴィル社によって買収される |
1937年 | DCL社より会社買収の話が持ち掛けられるが、断り会社をたたみ、再び蒸留所が閉鎖される 蒸留所がロス&コールター社によって買収されるが、設備の一部が売り払われてしまう |
1956年 | 蒸留所はABグラント社の元に移り、生産が再開される |
1964年 | 蒸留所がマクガウン、キャメロンらによって買収される |
1966年 | ポットスチルが増設されて計4台体制となる |
1973年 | 蒸留所がインバーハウスディスティラーズ社によって買収される |
1983年 | 蒸留所がアーサーベル&サンズ社によって買収される |
1988年 | アーサーベル社がギネス社によって買収される 生産はUD社(現在のディアジオ)によって行われるようになる ビジターセンターが開設される |
1993年 | 蒸留所が閉鎖される |
1994年 | 蒸留所が北アイルランドのレイモンドアームストロング氏によって買収される |
2000年 | レイモンドの元で生産が再開される |
2015年 | 蒸留所がオーストラリアのデイビッド・プライアー氏が経営権を獲得する マッシュタン・ウォッシュバック・ポットスチル等の主要な設備の多くを最新のものに取り替える工事が始まる |
2017年 | 新設備の導入が完了して生産が再開される この時点で蒸留所誕生から203周年を迎える |
2019年 | マスターディスティラーと称されるニックサベージ氏がブラドノックチームに加入する 最先端のビジターセンターが開設される |
「ブラドノック蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
150万L - 仕込み水
ブラドノック川 - モルトスター
様々 - ピーテッドレベル
ノンピート
ピーテッド(35ppm) - マッシュタン材質
ステンレス製セミロイター - マッシュタン容量
1バッチ5トン - ウォッシュバック
ダグラスファー製6基 - 酵母
ケリー社,ドライ
- ウォッシュバック容量
26,000L
(張込み23,000L) - 発酵時間
75時間程度 - スチル加熱方式
蒸気間接加熱 - ポットスチル(初留)
ストレート型2基 - ポットスチル(再留)
バルジ型2基 - コンデンサー
シェル&チューブ - 本留の度数
63.4% - ウェアハウス形式
ダンネージ式
製麦について
ポイント
ブラドノック蒸留所では自社製麦を行っておらす,通常ノンピートタイプのモルトを製麦の専門業者(モルトスター)から仕入れています。
なお年間で2週間程度はピーテッドタイプのモルトを仕込んでおり、そのフェノール値は約35ppmのヘビリーピーテッドタイプとなります。
麦芽の粉砕にはアードベッグ蒸留所などにも設置されているロバートボビー社製のモルトミルが使用されています。
このミルで原料のモルトを粉砕し、グリストとしたのちに糖化の工程へと進みます!
↓工程の詳細な解説↓
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糖化について
ポイント
ブラドノック蒸留所では仕込み水にブラドノック川の水を使用しています。マッシュタンは1バッチあたり5トンのグリスト容量を誇る、ステンレス製のセミロイタータンになります。
製麦によって得られたグリストは,1回目のお湯と混合されたのちにマッシュタンへと投入され,2,3回目のお湯をスパージングすることで糖化が進められます。この糖化手法はワンステップ・インフュージョン法と呼ばれています。
糖化では各回のお湯との接触ごとに,糖類を含有したウォートという溶液が抽出されており,通常は糖類を多く含有する1,2回目のウォートが発酵に回され,3回目のウォートは次回の糖化バッチにてお湯と混合して注がれることとなります。
次の工程は発酵になります!
↓工程の詳細な解説↓
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発酵について
ポイント
ブラドノック蒸留所には容量26,000リットル(張込み23,000リットル)で,ダグラスファー製のウォッシュバックが6基設置されています。使用される酵母はケリー社製のドライタイプのディスティラーズ酵母です。
糖化で得られたウォートは,熱交換器を介して20度前後まで冷却したのち、酵母と共にウォッシュバックに投入することで発酵が始まります。
発酵時間は約75時間程度と比較的長めに設定されているため、乳酸発酵が進行し,最終的には多様なフルーティさを呈する香味成分を多く含有した原酒を得ることができます。
発酵が完了するとアルコール度数7〜9%程度となったウォッシュを得ることができます。
次の工程は蒸留になります!
↓工程の詳細な解説↓
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蒸留について
ポイント
ブラドノック蒸留所には容量14,000リットル(張込み12,500リットル)でストレート型のウォッシュスチルが2基、容量10,500リットル(9,500リットル)でバルジ型のスピリッツスチルが2基設置されています。
ウォッシュスチルでは環流が少なくヘビーな酒質が得られるのに対し、スピリッツスチルでは雑味を含む蒸気が膨らみで環流するためライトかつクリーンな蒸気成分が凝縮されています。
スチルの加熱方式は蒸気による間接加熱方式、冷却方式はシェル&チューブ方式が採用されています。
特徴的な部分としてポットエール(初留廃液)とスペントリース(再留廃液)でもろみを60度程度に加熱してから初留釜に投入されています!
−初留−
発酵によって得られたウォッシュはウォッシュスチルへと投入され,初留が行われます。またブラドノックでは前回バッチのポットエールとスペントリースも,約66℃に加熱した状態で初留器に投入します。
初留ではウォッシュに含まれるアルコールの全量が抽出され,アルコール度数が20%強程度となったローワインを得ることができます。
−再留・ミドルカット−
続いてローワインは,前回蒸留時にカットされた前留・後留と共にスピリッツスチルへと投入され,再留が行われます。
再留によって得られるニューポットはスピリッツセイフと呼ばれる箱を経由し,その中でアルコール度数や含有成分の好ましくない蒸留初期・終期の蒸留液(前留・後留と言う)がカットされ,性質の優れた中間の本留のみが確保されます。
この作業はミドルカットと言い,後留のアルコール度数が1%となるまで継続されます。ブラドノックにおいて最終的に得られる本留はアルコール度数が約70%程度となり,樽詰めされるまではスピリッツレシーバーという容器に一時貯蔵されます。
次の工程は熟成になります!
↓工程の詳細な解説↓
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熟成について
ポイント
ブラドノック蒸留所ではダンネージ式のウェアハウスを活用して熟成が行われています。
熟成に使用される樽はバーボン樽がメインですが、一部のボトルではワイン樽やオロロソシェリー樽熟成の原酒が使用されています!
オフィシャルボトル一覧
ブラドノック蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
ブラドノック10年
ポイント
元々はブラドノック蒸留所の最もスタンダードなボトルでしたが、2021年末ごろからひっそりと終売となっていました…
蒸留所の立地がスコットランド最南端で比較的暖かい立地であるため,どこか暖かさ思わせる華やかなフルーティさを持っています。
非常にライトな口当たりですが、フレッシュなシトラス感やスパイシーさ、そしてフローラルな香りが特徴的です!
香り
繊細なフローラルさ/シトラス/若々しい柑橘のフレッシュさ/バニラ/スパイシー
味わい
穀物の甘味/華々しさ/スパイシー/オーク感/シトラス/フレッシュ/軽やか/バニラ/ナッツ
余韻
クリーンでうっすらとした甘味/シトラスのような爽快感/キレが良い
ブラドノック11年
ポイント
ブラドノックの現行ラインナップの中で最もスタンダードなボトルになります。リリースは2020年でした。
バーボン樽及びカリフォルニア産の赤ワイン樽で11年以上熟成された原酒が使用されています。
ブラドノックの持つ華やかなフローラル感はそのままに、バーボン樽由来のバニラ感、ワイン樽由来のチェリー感が卓越しています。
ブラドノック サムサラ
ポイント
サムサラは「生まれ変わり」の意味を持つ言葉であり、蒸留所の生産活動の再開を象徴したボトルになります。
バーボン樽と赤ワイン樽で最低8年以上熟成された原酒が使用されています。
スペイサイドモルトのような華やかさがありながら、ローランドモルトの穀物的な甘さがしっかりと生きています!
ブラドノック アデラ15年
ポイント
ヘブライ語で「気品」を意味するアデラの名を冠し、その名の通りに品の良さを感じることができるプレミアムなボトルです。
オロロソシェリー樽で15年以上熟成された原酒が使用されており,ブラドノックの華やかさに加えてシェリーの甘さが付与されています。
ブラドノック タリア27年
ポイント
タリアは「天からの優しい水」という意味を持っており,27年という長期熟成によって気高いエレガントさが表現された至高のブラドノックになります。
熟成にはファーストフィルのオーク樽が使用されており、強力なバニラ感や柑橘ジャムの甘さを感じることができます。また昨今のご時世の中では,熟成年数の割に格安であるように思います!
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参考資料