記事の概要
「バランタイン(Ballantine's)」
は甘くフルーティな飲みやすさを特徴としており,初心者向けのリーズナブルなボトルから長期熟成の高級ラインナップまで,多彩な種類を有する世界的なブレンデッドウイスキーブランドです。
世界中のウイスキーファンに愛される「バランタイン」について,この記事ではその歴史や製法,ボトルラインナップまで,全容がよくわかるように解説していきます。
\\執筆者情報//
初谷(はつがい)
ウイスキーに関わるあらゆる情報をまとめ,「ウイスキーを知りながらより深く楽しめる記事」を発信しています。
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【経歴】東京都立大卒|元公務員・ネット酒屋開業
【資格】JWRC公認ウイスキーエキスパート|ウイスキー検定2級
【その他】バンド「Candid moment」のドラマー
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バランタインとは…?
「バランタイン」はスコットランドのブレンデッドウイスキーブランドのひとつであり,スコットランド国内で作られた40種類(蒸留所)を超えるモルトウイスキーとグレーンウイスキーを使用して作られています。
このモルトウイスキーとグレーンウイスキーというのは,スコットランドにおいて原料穀物などの違いによって区別されるウイスキーの種別であり,細かくは次のような定義があります。
バランタインを含むブレンデッドウイスキーにおいて,その味わいの大きな方向性を決定づけるのは各蒸留所の個性を色濃く反映したモルトウイスキーの存在であり,特にテイストの中核を担うモルトウイスキーのことを「キーモルト」と呼びます。
ブレンデッドの楽しみ方として,お気に入りの銘柄に出会ったらそのキーモルトを飲み進めていくというのも非常にメジャーであり,共通点やルーツを探ることでより深い魅力に気づくきっかけを得ることができます。
「魔法の七本柱」の謎
バランタインのキーモルトは日本において,バランタイン17年が誕生した1937年(日本に導入されたのは1950年ごろ)以降「魔法の七本柱」と称される「アードベッグ・グレンカダム・グレンバーギ・スキャパ・バルブレア・プルトニー・ミルトンダフ」が使用されている,と言われていましたが,最近では懐疑的な意見が多く見受けられています。
この「魔法の七本柱」と言う表現は1988年に正規代理店となったサントリー社の記事内に「ジョージ・ロバートソン氏が最初に選んだのはSWAが「バランタインの壮大な7」と称した蒸留所のモルトだった」という文言で登場しており,魔法の七本柱が実際に使用された時期が存在した可能性は高いですが,その期間は不明瞭。
現実的には年代によってブランドや各蒸留所の所有者変遷の中で移り変わっていたと考えるのが妥当であり,現在の公式情報では「スキャパ・グレンバーギ・ミルトンダフ・グレントファース」の4種類がキーモルトとされています。
一応「魔法の七本柱」については不確定な部分が多いので,私の考察を次の通り示しておきます。
現在のキーモルト
前述の通り,現在のバランタインのキーモルトとして確定しているのは「スキャパ・グレンバーギ・ミルトンダフ・グレントファース」の4種類になります。この4種類の蒸留所の特徴を簡単に説明しておきます。
4銘柄ともにシングルモルトリリースがあまり多くありませんが,原酒不足のスキャパ以外はバランタイン公式からシングルモルトがリリースされているので要チェック。
ミルトンダフ
ミルトンダフはスコットランドで最も良質な大麦の産地エリアに位置する蒸留所になります。ノンピートタイプの麦芽のみを原料とし,フルーティさと樽由来のスパイシー感を特徴とした甘みの強い原酒が作られています。
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グレンバーギ
グレンバーギ蒸留所は1810年創業の歴史の深い蒸留所です。生産量が非常に少なく,作られる原酒のほとんどがバランタイン専用です。柑橘系のフルーティ感が特徴的です。
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グレントファース
グレントファース蒸留所はスペイサイドのキース周辺に位置しています。周囲にはとても清廉な湧水が豊富であり,グレントファースはスペイサイドモルトらしい華やかフルーティ&甘い系の味わいです。
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スキャパ
スキャパ蒸留所はスコットランド本島の北にあるオークニー諸島に位置しています。独特なローモンドスチルでの蒸留を行っており,軽やかでありながら複雑で広がりのあるフルーティさを持った味わいが特徴的です。
バランタインの歴史
バランタインブランドの歴史を年表形式でまとめていきます。
西暦年 | 内容 |
---|---|
1822年 | 当時13歳のジョージ・バランタイン氏がエジンバラの商人であるアンドリュー・ハンターのもとで年季奉公(住込み)の修行を開始する |
1827年 | ジョージ氏がエジンバラで小さな食料品店を設立し,ウイスキーの取り扱いをはじめた |
1831年 | 業績好調を受けてジョージ氏の店は近くのキャンドル・メーカーズ・ロウに移転した |
1836年 | 店は更なる人気を獲得し店舗をサウス・ブリッジに移動させる そこで貴族や上流階級の人が高級ウイスキーを購入するようになる |
1853年 | エジンバラのウイスキー商であるアンドリュー・アッシャー氏がヴァッテッドモルトを製造したことを受け,グレーンとモルトを混合する現在のブレンデッドスタイルの探求を進める |
1865年 | エジンバラの店舗の運営を息子のアートボルド氏に引き継ぐ |
1869年 | ジョージ氏ともう一人の息子であるジョージジュニア氏はグラスゴーに移り住み,ウイスキーのブレンディングにのめり込む 並行してグラスゴーでジョージ・バランタイン&サンズ社としてウイスキー卸売業を成功させる |
1891年 | ジョージ・バランタイン氏が82歳で亡くなる ブレンデッドウイスキー事業は息子のジョージジュニア氏に引き継がれる |
1895年 | ジョージらのウイスキーがヴィクトリア女王によって王家御用達の称号を賜る |
1910年 | ブランドの主力となる「バランタイン ファイネスト」が発売される |
1919年 | バランタインブランドがジェームズ・バークレー社とRAマッキンレー社に買収される |
1935年 | ジョージ・バランタイン&サンズ社がハイラムウォーカー社に買収される |
1936年 | ハイラムウォーカー社がグレンバーギやミルトンダフなどの蒸留所を買収する |
1937年 | バランタイン17年がリリースされる(日本への輸入は1950年代より開始) |
1938年 | バランタインがスコットランドの紋章院より,現在まで使用される豪華な紋章を授かる バランタイン用のグレーン原酒を作る目的でダンバートン蒸留所が創業される |
1952年 | 1950年初頭より海外出張を経験した日本人がバランタイン17年を持ち帰り,話題を呼んでいたことを受け,初めてバランタイン17年が日本に出荷される |
1986年 | バランタインのウイスキーが世界ベストセラーウイスキーの第3位に選出される |
1987年 | 長らくブランドを所有していたハイラムウォーカー社がアライド・ライオンズ社に買収される |
1994年 | アライド・ライオンズ社がスペインのドメク社を買収し,アライド・ドメク社が形成される |
2002年 | バランタインのグレーン原酒を担うダンバートン蒸留所が閉鎖され,以降グレーンの生産はグラスゴーのストラスクライド蒸留所で行われるようになる |
2005年 | バランタインブランドがアライドドメク社と共にペルノリカール社に買収される |
2012年 | バランタイン40年がアジアでリリースされる |
バランタインに纏わるストーリー
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ボトルラインナップ
バランタインブランドのオフィシャルラインナップを一挙にご紹介します!
バランタイン
ファイネスト
ポイント
「バランタイン ファイネスト」はバランタインブランドの中でも最もスタンダードかつリーズナブルなボトルであり,世界各地で愛されている代表作でもあります。
そのウイスキーは40種類を超えるスコットランドのモルト原酒によって構成されており,豊かかつ滑らか,軽くも重くもない,そして極端なスモーキーさや木香を突き詰めていない中庸な飲みやすさを個性とした,誰からも愛されうるボトルです。
ファイネストから12年までのボトルラベルに採用されているV字のデザインは,「シェブロンシェイプラベル」と呼ばれており,紋章学において「保護」と「信頼できる働きを成した建築家」を意味しています。
受賞歴:IWSC2022金賞
香り
バニラ/はちみつ/クリーミー/柑橘フルーツ/若いりんご/僅かにピートスモーク
味わい
バニラ/芳醇な樽香/はちみつ/優しい柑橘/キャラメル/薄くビターなピート感
バランタイン
バレルスムース
ポイント
「バランタイン バレルスムース」はバレルスムース用の原酒に内側を丁寧に焼き上げたアメリカンオーク樽でフィニッシュを施すことで製作されており,バニラやキャラメルのようなクリーミーな甘さを特徴としたボトルになります。
ファイネストと同じく40種類を超えるモルトの個性により,甘さをベースに微かなスモーキーテイストが表現され,口当たりの良いクラフト感のある特徴的な仕上がりとなっています。
香り
バニラ/濃いキャラメル/ナッツ感/深くリッチ/優しいピートスモーク/香ばしいコゲ感
味わい
バニラとキャラメルの強い甘さ/香ばしいアーモンド/コーヒーのビター感/はちみつ/ごく僅かにピート感
バランタイン7年
ポイント
「バランタイン7年」は2021年の3月にラインナップに加わった新規の銘柄であり,ブランド創始者のジョージ・バランタイン氏が初めて年数表記ありのボトルを作成した際に7年熟成の原酒を使用したことにちなんで生み出されました。
そのウイスキーはオーク樽で7年間の熟成を経たのち,バーボン樽で半年以上のフィニッシュをかけた原酒で構成されており,伝統的なスコッチウイスキーらしい芳醇で甘いテイストが表現されています。
個人的には常備酒として最適なボトルだと感じており,濃いめのハイボールで飲んだ際の満足感は素晴らしい。
受賞歴:ISC2022金賞
香り
甘いバニラ/濃いオレンジ/はちみつ/ウッディ/青リンゴ/バナナタルト/ナッティ/薄くピートスモーク
味わい
優しいバニラ/はちみつ/青リンゴと梨/ウッディなビター/オレンジ粒入りクッキー
バランタイン12年
ポイント
「バランタイン12年」は12年以上の熟成を経た,40種類を超えるスコットランド産の原酒をもとに構成されており,上品かつラグジュアリーなバランタインの中でも中位に位置するボトルになります。
ファーネストと比較しても円熟感がしっかりとあり,ネガティブな要素の抑えられていることから,バランタインブランドの中で最もスコッチウイスキーの入門者に優しいボトルということが出来るかと思います。
受賞歴:ISC2021金賞
香り
濃いバニラ/フローラル/多彩なフルーツ香/ソフトにウッディ/スパイシー/極小ピートスモーク
味わい
バニラ/はちみつ/フローラル/ドライなウッドスモーク/花畑/スパイシー/僅かなピート感
バランタインマスターズ
ポイント
「バランタインマスターズ」は年数表記なしのノンヴィンテージスタイルとして,長期熟成モルト原酒と比較的若めのグレーン原酒をブレンドすることにより,円熟感とフレッシュさの両立が図られたボトルになります。
制作に際しては現在の第5代マスターブレンダーのサンディ・ヒスロップ氏が,かつての第3代マスターブレンダーであるジャック・ガウディ氏がプライベートで嗜んだ味わいをイメージしてブレンドを行ったとのことで,ブレンダーの技術の粋が集約された仕上がりとなっています。
香り
オレンジの甘さ/若いりんご感/クリーミーなバニラ/カカオ系の香ばしいビター感/優しいピートスモーク
味わい
フルボデイの甘さ/オレンジ/円熟したフルーツ感/若い酸味感/カカオ/スパイス感/適度なスモーキー感
バランタイン17年
ポイント
「バランタイン17年」は1937年より販売されているバランタインの代表作であり,17年熟成以上で40種類を超えるモルト・グレーン原酒のみで構成されたエレガントなボトルになります。
原酒の中でもテイストの中核を担うキーモルトは「スキャパ・グレンバーギ・ミルトンダフ・グレントファース」の4種類であり,甘くフルーティなテイストを軸に端正なバランスの良さを有しています。
またスコッチウイスキーを代表するような王道のテイストであることから,「The Scotch」とも呼ばれるボトルであり,その人気・知名度は計り知れません。
香り
甘い柑橘/オレンジ/フレッシュなレモン/ナシ/ビター/ウッディ/はちみつ/バニラ/微かなピートスモーク
味わい
オレンジの甘さ/バニラ感/キャラメル/ナシ/花の蜜/シロップ/潮感/モルティ/はちみつ/焦がしたオークの香ばしさ/ビター
バランタイン17年
トリビュートリリース
ポイント
この「トリビュートリリース」は,日本限定販売の特殊なラインナップであり,バランタインのブレンダーであるサンディ・ヒスロップ氏が直々にそのブレンドを行ったウイスキーになります。
通常の17年ではリフィルのアメリカンオーク樽で熟成が行われていますが,このボトルではヨーロピアンオーク樽と1stフィルのアメリカンオーク樽で熟成された原酒がフィーチャーされており,多彩な風味のハーモニーが生み出されました。
またボトリングに際して冷却濾過を施さないノンチルフィルタードとし,48%という高めのアルコール度数を維持することにより,樽熟成で養われた芳醇かつ贅沢な個性がそのまま表現されています。
受賞歴:ISC2022金賞
香り
フレッシュなシトラス/オレンジジャム/はちみつ/ダークキャラメル/スパイシー感/濃いウッディ感
味わい
滑らかなバニラ/オレンジ/アップルパイ/シナモン系スパイス感/香ばしいウッディ感/はちみつ/僅かなピートスモーク
バランタイン21年
ポイント
「バランタイン21年」は同ブランドの中でも長熟かつ高級ラインナップに位置するボトルであり,酒齢21年を超えている40種類以上のモルト・グレーン原酒で構成されています。
濃厚な甘さや華やかなフルーティさがテイストの軸となっており,僅かなスモーキーさとのバランスが整った圧巻の完成度を誇ります。
またラインナップに加わったのが2007年と最近ながら,亜種のようなボトルも複数存在しており,同じ年数の中で「ゴールデンゼストエディション」や「ヨーロピアンオークエディション」,「アメリカンオークエディション」などがあります。
香り
白桃/多彩な砂糖漬けフルーツ/花畑系フローラル/バニラ/はちみつ/香ばしいナッツ感
味わい
繊細な甘み/柑橘のフレッシュな甘さ/砂糖をまぶしたドライフルーツ/アーモンド/クリーミーなバニラ/ごく僅かなピートスモーク
バランタイン30年
ポイント
「バランタイン30年」は30年を超える超長熟の原酒で構成されるバランタインブランドの中でも,最高峰に鎮座する熟成の極みを迎えたウイスキーになります。
30年の熟成期間の中で,圧倒的な円熟感とともに幾層にも重なる多重的な複雑さを呈し,エレガントな華やかさを有しながらもその全容を感受するのは困難なほど。
香り
砂糖をまぶしたドライフルーツ/バニラ/ダークキャラメル/ナッツ感/エステリー/フローラル/メープルシロップ/磐石な樽香
味わい
フルボディな甘み/ジューシーかつ熟したフルーツ/ドライフルーツ/ビターチョコレート/シナモン系スポイス感/円熟した樽香
\\執筆者情報//
ウイスキーに関わるあらゆる情報をまとめ,「ウイスキーを知りながらより深く楽しめる記事」を発信しています。
【経歴】東京都立大卒|24歳
【資格】ウイスキーエキスパート合格|ウイスキー検定2級
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参考サイト:サントリー公式 / バランタイン公式 / scotchwhiskycom