記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回は「プルトニー蒸留所」になります!
Points!
「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
ニシン漁の街ウィック/マリンタイムモルト/奇妙な形状のポットスチル
プルトニーの特徴
極甘ケーキ/ソルティ/キャラメル/潮風の香り/メープルシロップ/バニラ
\\執筆者情報//
初谷(はつがい)
ウイスキーに関わるあらゆる情報をまとめ,「ウイスキーを知りながらより深く楽しめる記事」を発信しています。
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【経歴】東京都立大卒|元公務員・ネット酒屋開業
【資格】JWRC公認ウイスキーエキスパート|ウイスキー検定2級
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プルトニー蒸留所
プルトニー蒸留所の立地・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所の概要
創業年 | 1826年 |
所有会社 | インターナショナルビバレッジホールディングス社 |
地域分類 | 北ハイランド |
発酵槽 | ステンレス製7基 |
ポットスチル | 初留1基・再留1基 |
仕込み水 | ヘンプリッグス湖 |
ブレンド先 | バランタイン インバーハウス |
「プルトニー蒸留所」蒸留所の立地
ポイント
プルトニー蒸留所はスコットランドの北ハイランドに位置しています。より具体的にはニシン漁で有名なウィックの街の南部に建っており,2013年に北端のサーソーにウルフバーン蒸留所は出来るまでは,本土最北端の蒸留所としてその名を馳せていました。
ウィックの街は1800年代初頭よりニシン漁と貿易によって大きく発展し始め,人口が爆発的に増加したことによってウィック川の南岸部で住宅の建設ラッシュが発生。そうして新たにできた街は水産委員会のウィリアム・プルトニー氏にちなんで「プルトニータウン」と名付けられました。
また人口の増加に伴うウイスキーの需要が拡大によって,1826年にプルトニータウンで創業されたのがプルトニー蒸留所であり,その後ニシン漁とともに産業として大きく発展したことから「ウィックの街は金(プルトニー)と銀(ニシン)で成り立っている」と表現されるようになりました。
ちなみにプルトニーが建てられた場所が海岸に近い場所であったことから,各種生産工程において海からの潮風の影響を強く受けており,その原酒は独特なブリニー感を獲得しています。このことから公式にも「マリンタイムモルト(海のモルト)」としてブランディングが行われています。
「プルトニー蒸留所」蒸留所の歴史
プルトニー蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1826年 | ジェームズ・ヘンダーソンによってプルトニー蒸留所が設立された |
1920年 | 1世紀にわたる家族経営を終え、蒸留所がジェームズ・ワトソン社に買収される |
1922年 | ニシン漁従事者の増加に伴い、アル中患者が増加したため、ウィックの街で独自の禁酒法が施行される |
1924年 | 蒸留所がジョン・デュワー&サンズ社へと売却される |
1930年 | ウイスキー市場の低迷に耐えかねて蒸留所が閉鎖を余儀なくされる |
1947年 | ウィックの街で施行されていた禁酒法が解除される |
1951年 | 地元の弁護士であるロバート・カミングが蒸留所を買い取り、生産を再開させる |
1958年 | カミングにより、蒸留所の改装が行われてフロアモルティングが廃止される カミングは蒸留所をハイラムウォーカー社へと売却した |
1961年 | 会社合併により、アライドドメク社が所有者となる |
1995年 | 蒸留所がインバーハウス・ディスティラーズ社に買収される キャッチコピーが「北のマンサニージャ」から「マリンタイムモルト」に変更される |
1997年 | オールドプルトニー12年がオフィシャルボトルとしてリリースされる |
2001年 | パシフィック・スピリッツ社がインバーハウス社を買収する |
2004年 | 17年熟成のオフィシャルボトルがリリースされる |
2005年 | 21年熟成のオフィシャルボトルがリリースされる |
2006年 | インターナショナルビバレッジホールディングス社がパシフィック・スピリッツ社を買収する |
2014年 | 老朽化したマッシュタンが撤去・新設される |
2016年 | ウォッシュバックが全てステンレス製のものに置き換えられる |
プルトニーに纏わるストーリー
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「プルトニー蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
180万L - 仕込み水
ヘンプリッグス湖 - モルトスター
ベアーズ社など - ピーテッドレベル
ノンピート - マッシュタン材質
ステンレス製セミロイター - マッシュタン容量
1バッチ5トン - ウォッシュバック
ステンレス製7基 - 酵母
ドライタイプ - ウォッシュバック容量
23,500L - 発酵時間
通常60時間,ロング110時間
- スチル加熱方式
蒸気間接加熱 - ポットスチル(初留)
特殊形状1基 - ウォッシュスチル容量
21,707L(張込み15,000L) - ポットスチル(再留)
バルジ型1基 - スピリッツスチル容量
17,343L(張込み13,500L) - コンデンサー
屋外ワームタブ - 本留の度数
69% - 樽詰め度数
69% - ウェアハウス形式
ダンネージ式3棟,ラック式2棟
製麦について
ポイント
プルトニー蒸留所では1958年まで自社でのフロアモルティングが行われていましたが,現在は製麦工程をベアーズ社を中心とした外部の専門業社(モルトスター)に委託しています。ピーテッドレベルは全てノンピートとされています。
プルトニーのウイスキーが「マリンタイムモルト(海のモルト)」と称されていることから,どことなくアイラモルトのような風味を連想してしまいますが,実際はノンピートタイプなので甘味が主体のフルーティなテイストとなります。
用意された原料のモルトは,ポルテウス社製の4ローラー式モルトミルで粉砕してグリストとされます。粉砕のサイクルは2時間半ごとに5トン,12日間で160トンと莫大。最終的にグリスト1トンからは約410リットルのニューポットが得られます。
糖化の工程へと進みます!
↓工程の詳細な解説↓
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糖化について
ポイント
プルトニー蒸留所では仕込み水としてヘンプリッグス湖の水を採用しています。マッシュタンは1バッチあたり5トンのグリスト容量を誇るステンレス製のセミロイタータンになります。
2014年以前は鋳鉄製のマッシュタンが使用されていましたが,漏れが生じるほどに老朽化していたため,新品のセミロイタータンに取り替えられています。
ここが特徴!
- 初回のお湯の温度は酵素が最もよく働く68.5℃
- グリスト内の糖類を最大限に回収するためにお湯の回数が4回とされている
次の工程は発酵になります!
↓工程の詳細な解説↓
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発酵について
ポイント
プルトニー蒸留所には容量23,500リットルでステンレス製のウォッシュバックが7基設置されています。使用される酵母は通常のディスティラーズ酵母でドライタイプのものになります。
ウォッシュバックについて2016年まではコールテン鋼製5基・ステンレス製1基という体制でしたが,設備のリニューアルを行い,現在はステンレス製7基の体制となっています。
ここが特徴!
- 発酵時間が通常60時間,ロングで110時間と長めに設定されている
次の工程は蒸留になります!
↓工程の詳細な解説↓
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蒸留について
ポイント
プルトニー蒸留所には容量21,707リットル(張込み15,000リットル)のウォッシュスチルが1基,容量17,343リットル(張込み13,500リットル)のスピリッツスチルが1基設置されています。
スチルの加熱方式はバイオマスエネルギーを活用して発生させた蒸気による間接加熱方式,コンデンサーは伝統的な屋外設置のワームタブ方式が採用されています。
形状について再留器はスリムなバルジ型で,ラインアームはネックから水平に伸びたのちに捻るように下に傾き,再び水平となって屋外のコンデンサーへと伸びています。
一方で初留器はまるでUFOかのような奇天烈な見た目をしており,巨大な還流ボールと途中で寸断されたネックが特徴的。ラインアームは切断されたネックの横から真っ直ぐに屋外のコンデンサーに向かって伸びています。
余談ですが,初留器のネックが切断された背景には,スチルの運び込みの際に天井の正しい高さを把握できておらず,ネックを切らなければ設置自体ができなかったという微笑ましいエピソードがあります。
ここが特徴!
- 屋外設置のワームタブでは液化がゆっくりと進行することから,ニューポットが銅管を流れる時間が短くなる。よって重く複雑なテイストが保持される
- 奇妙な初留器形状によって蒸気の還流・銅との接触が確保され,不快な香気の流出が最小限となる
- 初留が強い火力にて急速に行われることから,ヘビーかつ度数が30%と高めなローワインが得られる
- 再留はゆっくりとした速度で行われることから,軽やかでフルーティな蒸気のみが厳選される
次の工程は熟成になります!
↓工程の詳細な解説↓
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熟成について
ポイント
プルトニー蒸留所には伝統的なダンネージ式のウェアハウスが3棟,貯蔵容量に優れた近代的なラック式のウェアハウスが2棟建てられています。倉庫のひとつはかつてニシン用の樽を作る工場として使われていた時期があります。
熟成に使用される樽はアメリカンオークのバーボン樽が9割程度を占め,残りは主にフィニッシュに使用されるスパニッシュオークのシェリー樽が中心とされています。
プルトニーのウェアハウスは海岸に程近く,低温・高湿度の環境に加えて,海からの潮風の影響を強く受けることから「マリンタイムモルト」らしい沿岸の個性が付与されています。
蒸留によって得られたニューポットは加水を行わずに樽詰めされたのち,ウェアハウスにて長い時間を眠ることとなります。
↓工程の詳細な解説↓
オフィシャルボトル一覧
プルトニー蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
オールドプルトニー12年
ポイント
「オールドプルトニー12年」はプルトニー蒸留所の公式シングルモルトのうち最もスタンダードなボトルであり,「マリンタイムモルト」の代表です。
その構成は上質なアメリカンオーク樽(2ndフィル)で12年以上熟成された原酒とされており,立地に由来する潮風の印象と樽由来のクリーミーな印象が融合した塩キャラメル感を特徴としています。
そのテイストは「個性的」と表現されますが,それは潮感と共にあまりにも濃厚な甘さが感じられるのが非常に珍しいという意味であり,飲む人を選ぶような負の印象は皆無なのでその点はご安心を。
香り
ダークなキャラメル/シトラス/塩バニラ/クリーミー/潮の香り
味わい
ハニー/塩キャラメル/潮っぽさ/フルボディ/クリーム/熟した果実/スパイシー
余韻
ボディのわりに濃厚な塩キャラメル感が長く続く
オールドプルトニー ハダート
ポイント
「オールドプルトニー ハダート」は2ndフィルのバーボン樽でメインの熟成を行ったのち,ピーティなウイスキーを詰めていた樽でフィニッシュをかけた特殊な原酒で構成されています。
プルトニーのモルトは全てノンピートタイプであるため甘くフルーティなテイストとなりますが,特異的なフィニッシュによって香ばしいスモーキー感との親和を感じることができます。
香り
ウッディなスモーク感/ハニー/青りんご/バニラ/キャラメル/ソルティ
味わい
バニラ/キャラメル/ウッディ/スモーキー/リッチな甘さ/潮感
余韻
優しいピート感と塩バニラ感が長く続く
オールドプルトニー15年
ポイント
「オールドプルトニー15年」はバーボン樽でメインの熟成を行ったのち,1stフィルのスパニッシュオーク製オロロソシェリー樽でフィニッシュをかけた原酒が使用されています。
15年という熟成期間を冠するこのボトルは,純粋な12年の進化ではなく,プルトニーのマリンタイムモルトらしい個性にシェリー樽の甘さが加えられたより複雑な仕上がりとなっています。
元来の塩キャラメルのテイストと,シェリー樽由来のドライフルーツの甘さや芳醇なスパイス香が織りなす見事なバランス感は必見です。
香り
バランスが良い/ドライフルーツ/ハニー/キャラメル/バニラ/チョコ/フローラル/塩気
味わい
ショートケーキ/チョコ/キャラメル/ダーク/スパイス/潮味
余韻
スパイシーさと潮風のような心地よさが深く長く続く
オールドプルトニー18年
ポイント
「オールドプルトニー18年」は2ndフィルのバーボン樽でメインの熟成を行ったのち,1stフィルのスパニッシュオーク製オロロソシェリー樽でフィニッシュをかけた原酒で構成されています。
その樽構成から15年の正統進化にあたるボトルとも評することができ,18年という長い熟成期間によって円熟感や芳醇な奥深さが卓越。飲みやすく心温まるウイスキーとなりました。
香り
チョコレート/リッチバニラ/フルーティ/フローラル/キャラメル/シトラス/潮風
味わい
チョコレートケーキ/はちみつ/フローラル/シトラス/潮感/キャラメル
余韻
甘味と塩味が渦巻きながら長く続く
オールドプルトニー25年
ポイント
「オールドプルトニー25年」はプルトニー蒸留所の公式シングルモルトのうち,最も長熟な部類に入る豪華絢爛なボトルです。
バーボン樽熟成とシェリー樽フィニッシュが施された原酒が使用されていることから,方向性は15年や18年と同じですが,より長い四半世紀に及ぶ熟成期間の中,沿岸の潮風を受け続けたその風味はまさにマリンタイムモルトの究極と表現することができるでしょう。
香り
深い熟成感/マイルドスパイシー/チョコレート/塩キャラメル/トフィー/焼き林檎
味わい
ビターチョコ/リッチバニラ/ラムレーズン/塩キャラメル/ドライフルーツケーキ/エキゾチックウッディ
余韻
甘くもありウッディでもある/長くスパイシーな余韻
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参考資料
参考サイト:whisky.com / scotchwhisky.com / 公式サイト