はじめに
ウイスキーの製造工程において,木樽による熟成が最終的なウイスキーの味わいを決定付ける大きな要因となっていることは,既に多くの人の知るところになっているものと思います。
そんなウイスキーの熟成工程でしばしば活用される「シェリー樽」というのは,主にスペインで作られるシェリー酒を詰めていた履歴を持つ樽のことを指しており,それらで熟成されたウイスキーが濃い琥珀のような色味やドライフルーツのような濃密な甘みを獲得することから,今ではシェリー樽熟成のウイスキーが多大な人気を獲得するに至っています。
またシェリー樽使用に纏わる歴史については,かつてシェリー酒が樽詰状態で輸送されていた18世紀の頃まで遡ることができ,その当時では,シェリーの輸送が樽詰め状態で行われていたため,その空き樽がウイスキーの熟成に転用されていました。しかし今日のシェリー酒の輸送は瓶詰め状態となっているため,シェリーの空き樽は発生しなくなってしましました。よって今では,成形した樽に意図的にシェリー酒を詰め込み,シーズニングをすることによってシェリー樽が製造されるケースがほとんどとなっています。
この記事では,そのようなシェリー樽での熟成にこだわって作られている華やかかつフルーティな味わいを特徴とした,本当に美味しいウイスキーを全部で10本ご紹介していきます!
▽動画バージョンもあります▽
\\執筆者情報//
初谷(はつがい)
ウイスキーに関わるあらゆる情報をまとめ,「ウイスキーを知りながらより深く楽しめる記事」を発信しています。
【Shop】ウイスキー専門店『Drinkable books』
【経歴】東京都立大卒|元公務員・ネット酒屋開業
【資格】JWRC公認ウイスキーエキスパート|ウイスキー検定2級
【その他】バンド「Candid moment」のドラマー
各種SNSも運用中!
本当に美味しい『シェリー樽』熟成のウイスキー10選
グレンファークラス12年
種別 | シングルモルト |
度数 | 43% |
容量 | 700ml |
地域 | スコットランド スペイサイド |
ポイント
『グレンファークラス』は,スコットランドのスペイサイド地方に建つ,グレンファークラス蒸留所が手がけるシングルモルトウイスキーのブランドになります。
同蒸留所は,スコッチ業界でも珍しい家族経営によって継続的に運営されている蒸留所であり,規模感こそ大手には劣るものの,オロロソシェリー樽をふんだんに活用する伝統的なハウススタイルと高い品質が評価され,世界中から愛されるブランドとしての地位を確立しています。また単にシェリー樽といっても木材の種類や,使用回数の違いなどによって幅広い個性が表現されており,ネガティブな要素を見せず,シェリー樽熟成ウイスキーの甘く華やかな魅力がしっかりと引き出されているのが特徴です。
そしてこの「グレンファークラス12年」は,同蒸留所の最も標準的なオフィシャルラインナップとして広く知られており,とても豊かな砂糖漬けフルーツのような濃い甘みが感じられるのが最大の魅力。個人的には,シェリー樽熟成ウイスキーの魅力を知りたい人に向けて真っ先にオススメしたいボトルです。
▽テイスティングノート▽
香り
濃いレーズン|芳醇なシェリー香|ウッドスパイス|りんご|蜂蜜|ビターチョコレート
味わい
砂糖漬けドライフルーツ|カラメル|ウッディ|暖かいシナモンスパイス|ビターチョコ|軽快な柑橘感
タムドゥー12年
種別 | シングルモルト |
度数 | 43% |
容量 | 700ml |
地域 | スコットランド スペイサイド |
ポイント
『タムドゥー』はスコットランドのスペイサイド地方にて,1897年に創業され,現在はイアンマクロード社傘下のタムドゥー蒸留所が生産を手がける,シングルモルトウイスキーのブランドになります。またタムドゥーは,シェリー系の風味を個性としている人気のブレンデッドウイスキー,フェイマスグラウスのキーモルトとして採用されていることでも有名です。
同蒸留所は,1900年代中頃や2010年から2012年の間など一時的に閉鎖されていた時期がありましたが,高品質なシェリー樽のみを活用した熟成スタイルはずっと継続されているのが最大の特徴になります。加えてそのシェリー樽の多くが,より強い樽の要素を原酒に付与することが知られているファーストフィルの樽とされており,非常に豊かな果実の甘みを持ったウイスキーが多く生産されています。
そしてこのタムドゥー12年は,当蒸留所の最もスタンダードなオフィシャルラインナップであり,100%シェリー樽熟成原酒によって構成されている非常に贅沢なウイスキーになります。しかし単にシェリー樽と言っても,アメリカンオークとヨーロピアンオーク,ファーストフィルとリフィル等,多種多様な材質や使用回数の樽を活用することにより,非常に複雑かつ完成度の高い味わいが表現されているのが強い魅力となっています!
▽テイスティングノート▽
香り
華やかレーズン|赤いベリー|ほのかな樽感|紅茶マフィン|蜂蜜|シナモンスパイス
味わい
メープルシロップ|濃密なドライフルーツ|ウッディな苦味|スパイシー|僅かに香ばしくサルファリー
M&Hエレメンツ・シェリーカスク
種別 | シングルモルト |
度数 | 46% |
容量 | 700ml |
地域 | イスラエル テルアビブ |
ポイント
『M&H(ミルク&ハニー)』は,イスラエルのテルアビブにて,2012年に創業されたミルク&ハニー蒸留所が手がけるシングルモルトウイスキーのブランドになります。
蒸留所の創業に際しては,かつて台湾のカバランなどを大成功に導いた立役者として有名なジム・スワン博士のコンサルタントを受けており,イスラエルに建つ初めての蒸留所でありながら,本場であるスコットランドの規則を遵守した本格的なウイスキー作りが展開されています。その最もユニークなポイントは,スコットランドとは完全に異なる地中海性の温暖な気候にあり,年間300日にも及ぶ晴天日と乾燥した大気により,熟成工程における年間のエンジェルズシェアが平均12%にも達するとのことです。そのような環境下では,樽詰めされた原酒は短い時間で多くの要素を樽から吸収し,3年程度の熟成期間であっても,深く複雑な風味を持った円熟感のあるウイスキーを完成させることが可能となっています。
そしてこの「M&Hエレメンツ シェリーカスク」は,スペイン産のオロロソとペドロヒメネスのシェリー樽で熟成された原酒によって構成されており,濃く強力なシェリーの甘みをダイレクトに感じることができる非常に魅力的な一本です。またその客観的な評価も凄まじく,2023年のWWAにおいて,ワールドベストシングルモルトを受賞したことにより,世界で一番美味しいシングルモルトウイスキーというタイトルを掻っ攫った超新星でもあります。ぜひ早めに買っておくことをお勧めします!
▽テイスティングノート▽
香り
濃いドライフルーツ|甘い木のスパイス|キャラメル|フレッシュなレモン感|温暖な南国っぽさ
味わい
砂糖漬けドライフルーツ|ビターチョコ|胡椒|ざらざら穀物|南国フルーツ|ウッディな煙
アラン シェリーカスク
種別 | シングルモルト |
度数 | 55.8% |
容量 | 700ml |
地域 | スコットランド アラン島 |
ポイント
『アラン』はスコットランドの南西部,キャンベルタウンで有名なキンタイア半島のすぐ東側に浮かぶアラン島にて,1994年から稼働しているロックランザ蒸留所が生産を手がけるシングルモルトウイスキーのブランドになります。
アイランズモルトはどれも島の環境を由来とする豊かかつ独特な個性を持っているのが特徴ですが,アラン島の周辺環境については,メキシコ湾流の影響による比較的温暖な気温,山の澄み切った空気,海から吹く潮風など,熟成に良い影響を与える要素が多いのがポイントです。実際に熟成工程では,数種類のウェアハウス形式と多様な種類の樽を使い分けることにより,魅力的な環境要因をうまく原酒に反映し,フルーティ&フローラルで華やかながらも,力強く個性的なウイスキーを作り出すことに成功しています。
そしてこの「アランシェリーカスク」に関しては,全期間をファーストフィルのシェリーホグスヘッドで熟成させた原酒が,カスクストレングスでボトリングされているのがポイント。アランのフルーティ&フローラルな風味をベースとし,シェリー樽由来の強烈なレーズンの甘みやスパイシーさなどが強く加わった巷で大人気のウイスキーです。
▽テイスティングノート▽
香り
香水系フローラル|レーズン|力強いタンニン|ビターチョコ&ウッディ|ミネラル感
味わい
濃いレーズン|香ばしいコゲ感|タンニン|ナッツ|ビターキャラメル|フローラル|硬水ミネラル|ウッディ
ザ・マッカラン12年 シェリーオーク
種別 | シングルモルト |
度数 | 40% |
容量 | 700ml |
地域 | スコットランド スペイサイド |
ポイント
『ザ・マッカラン』は,1824年からスペイサイド地方で稼働を続け,現在はエドリントン社によって運営されている,ザ・マッカラン蒸留所が生産を手がけるシングルモルトウイスキーのブランドになります。
マッカランのウイスキーは,その上質すぎる味わいから「シングルモルトのロールスロイス」という異名がつけられていますが,その秘訣は原料から各種製造工程までの随所に熱く伝統的な職人魂が凝らされているところにあります。例えば原料の大麦や酵母は須く華やかな香味を呈する高品質なもののみを採用し,スコットランド最小級の小型ポットスチルで丁寧に蒸留を実施。そして熟成工程では,マッカラン最大の特徴とも言えるシェリー樽の製造に関しては,木材の選定からシーズニング等を含めた成形におよそ6年もの歳月をかけるなど桁違いのこだわりっぷりがあります。
この「マッカラン12年シェリーオーク」は,蒸留所を代表する最もスタンダードなボトルであり,全期間を最高品質のシェリー樽で過ごした貴重な原酒のみによって構成されているのが特徴。ロールスロイスの異名に相応しい,エレガントに煌めく宝石のようなドライフルーツ感や,力強くスパイシーなウッディ感など,圧倒的な存在感を捉えることができます。よってこのボトルは,シェリー樽系ウイスキーを最も代表している存在であると言えるでしょう。
▽テイスティングノート▽
香り
砂糖漬けドライフルーツ|強いウッディ&スパイシー|バニラアイス|ジンジャー|カラメル
味わい
濃いドライフルーツ|ウッディな苦味|フローラル|ビターキャラメル|ジンジャー|木の煙
キルホーマン サナイグ
種別 | シングルモルト |
度数 | 46% |
容量 | 700ml |
地域 | スコットランド アイラ島 |
ポイント
『キルホーマン』は,スコットランドの南西部に浮かぶアイラ島で2005年から操業している,キルホーマン蒸留所が生産を手がけるシングルモルトウイスキーのブランドになります。
当蒸留所の最大の特徴は,ウイスキーの全製造工程を所内で完結できる点にあり,伝統的なモルティングフロアや,アイラ島内産のピートをふんだんに活用した製麦から,熟成やボトリングまで,文字通り”100%アイラ島産のウイスキー”を作ることが可能となっています。またキルホーマンの各種ボトルの名称には,蒸留所近傍の湖などの名称が採用されていますが,この「サナイグ」は蒸留所の北西に位置する岩が多いごつごつした入江の名称を由来としています。
そんな「キルホーマン サナイグ」に使用される原酒は,オロロソシェリー樽で熟成された原酒の比率を高めにした構成とされており,キルホーマンらしいヘビリーピーテッドの強烈なスモーキーテイストや柑橘,ドライな穀物感をベースに,シェリー樽由来の濃密なレーズンの甘みが融合した,圧倒的なキャラ立ちを見せています。アイラ×シェリーの組み合わせは,スタープレイヤーが犇くオールスターのような組み合わせですが,ハマると最高に美味しく,このサナイグも見事な完成度となっているので,スモーキー耐性のある方には是非とも試していただきたいところです。
▽テイスティングノート▽
香り
重厚なピートスモーク|甘いレーズン|木の甘み|オレンジピール|アプリコットジャム
味わい
完熟プラム|ウッディビター|シナモンスパイス|強烈なスモーキー感|ダークチョコレート
グレンドロナック12年
種別 | シングルモルト |
度数 | 43% |
容量 | 700ml |
地域 | スコットランド 東ハイランド |
ポイント
『グレンドロナック』は,スコットランドの東ハイランドにて1826年から操業している,グレンドロナック蒸留所が生産を手がけるシングルモルトウイスキーのブランドになります。
同蒸留所のウイスキー作りの特徴としては,ノンピート麦芽を原料とし,ゆっくりと蒸留することで華やかな香味成分を多く確保している他,熟成工程において,全体の85%程度に多種多様なシェリー樽を活用するなど,フルーティな風味を活かす工夫が凝らされています。
この「グレンドロナック12年」は,スペイン産の最高級なオロロソ,ペドロヒメネスを詰めていたシェリー樽にて,12年以上の熟成が施された原酒が採用されており,辛口と甘口の両者のシェリーの魅力がバランスよく反映されているのがポイント。味わいではバニラやレーズンのような力強いフルボディな甘みのファーストインプレッションに始まり,余韻にかけてはビターかつスパイシーな樽感が主張を強めてくるなど,深い満足感が感じられます。
巷では値上がりが続いているマッカランの代替としても名が挙がるほどにその風味は高く評価されており,マッカランと比べれば,よりドライな後味をすっきりと楽しむことができる今後のシェリー系ウイスキー筆頭候補です。
▽テイスティングノート▽
香り
甘い穀物感|濃いレーズン|シナモンスパイス|ビターキャラメル|香ばしいナッツ|ジンジャー
味わい
柑橘の皮|ドライフルーツ|ショコラ|暖かいスパイス感|ドライなナッツ|パンっぽい穀物の甘み
カバラン トリプルシェリーカスク
種別 | シングルモルト |
度数 | 40% |
容量 | 700ml |
地域 | 台湾 |
ポイント
『カバラン』は,業界の著名人であるジムスワン博士のコンサルを受け,2006年から台湾では初めてとなるウイスキーの製造を始めたカバラン蒸留所が生産を手がけるシングルモルトウイスキーのブランドになります。
これは創業からまだ日が浅い2010年のことですが,エジンバラで開催されたブラインドテイスティング大会において,同蒸留所のカバラン・クラシック・シングルモルトというボトルが優勝を果たしたことにより,世界中にその名声が轟くに至りました。このようなスピード出世が実現された背景には,スコットランドよりも気温が15度ほど高い台湾の温暖な環境の効力があり,スコットランドのウイスキーの3分の1程度の熟成期間であっても,深くどっしりとした円熟感が得ることが可能となっています。
そしてこの「カバラン トリプルシェリーカスク」は,そんな台湾の温暖な環境において,オロロソ,ペドロヒメネス,モスカテルの3種類のシェリー樽で熟成された原酒のみによって構成されているのがポイント。その味わいでは,カバラン特有の南国系の甘みを主軸に,ビロードのような精細なシェリーの甘みや,キャラメリゼナッツのような香ばしい香味を持った,多層的な美味しさが表現されています。
▽テイスティングノート▽
香り
熟したベリー感|ドライフルーツ|ミルクチョコ|シナモン&クローブ|豊かな樽香|ウッディなビター感
味わい
極甘ドライフルーツ|メープルシロップ|蜂蜜|シナモンスパイス|キャラメリゼナッツ|ビターチョコ&ウッディ
アルモリック シェリーカスク
種別 | シングルモルト |
度数 | 46% |
容量 | 700ml |
地域 | フランス |
ポイント
『アルモリック』はフランスのブルターニュ地方にて1994年からフランス初となるウイスキー作りを始めた,ヴァレンギエム蒸留所が生産を手がけるシングルモルトウイスキーのブランドであり,通称ではブルターニュウイスキーとも呼ばれています。
そのウイスキー作りの特色としては,原料は主にフランス国内産でノンピートタイプの大麦麦芽とし,ランタン型とバルジ型の2基のポットスチルにて,伝統的な2回蒸留が行われており,本場スコットランドのシングルモルトにも遜色のない本格的なウイスキーが生み出されています。
この「アルモリック シェリーカスク」は,全期間をオロロソシェリー樽で熟成された原酒のみによって構成されており,ISC2021で金賞を獲得した経歴を持つ実力派のボトルです。その風味では,アルモリックらしい軽快かつスパイシーなオークの香りや,バニラやプラム系の甘さをベースとしつつ,シェリー樽に由来するドライフルーツの強い甘みや,シナモンのようなスパイス感が加わっており,原酒本来のフルーティな魅力が最大限に引き出されています。
▽テイスティングノート▽
香り
ドライフルーツ|プルーン|カラメル|スパイシーなオーク感|穀物の甘み|花畑フローラル
味わい
甘いレーズン|クリームブリュレ|穀物感|ドライな木香|スパイシー|樽系の深い苦味
ベンロマック10年
種別 | シングルモルト |
度数 | 43% |
容量 | 700ml |
地域 | スコットランド スペイサイド |
ポイント
『ベンロマック』はスペイサイドのフォレス地区に建つ,著名なボトラー企業のゴードン&マクファイル社所有のベンロマック蒸留所が生産を手がけるシングルモルトウイスキーのブランドになります。同蒸留所は1983年に一度閉鎖・解体されていましたが,1993年にGM社が買収し,本格的な設備の実装を経て1998年の10月から改めてウイスキー作りが再開されていました。
新生ベンロマックの世間的な評価は非常に高く,2018年のWWAにおいては,ベンロマック15年がベスト・スコッチ・スペイサイドに輝いており,生産再開から僅か10年足らずでスペイサイドのTOPに君臨することとなっています。そのウイスキー作りの特色は,古くの時代の伝統的なスペイサイドモルトに倣った,フェノール値8〜12ppm程度のライトリーピーテッドスタイルを採用し,GM社の卓越した樽熟成の知見を最大限に活かした,変幻自在な風味作りが行われています。
そしてこの「ベンロマック10年」では,バーボンバレル原酒を80%,シェリーホグスヘッド原酒を20%採用し,最後にファーストフィルのオロロソシェリー樽で1年間のフィニッシュを施した,こだわりの原酒によって構成されているのがポイント。その味わいでは,甘さや苦味,フルーティやスモーキーなど,相対する要素が多々存在していながら,バランスと調和が保たれており,飽くことのない満足感の塊のような魅力が感じられます。
▽テイスティングノート▽
香り
ヘザー系のピート感|青リンゴ|柑橘|麦芽糖|ダークフルーツ|バニラ|大自然の蜂蜜
味わい
柑橘ジャム|重厚なドライフルーツ|花畑系の蜂蜜|ヘザー系ピートスモーク|麦芽|トフィ|ジンジャー