北海道の余市蒸留所を、代表的なボトル・場所・歴史・製法の順に解説します。
2026年11月時点の状況
通常どおり稼働しており、2025年9月に約70億円をかけた貯蔵施設などの増設が発表され、2026年8月には製樽能力を約3倍にする新しい製樽棟が完成しました。2026年4月からは正式名称が「北海道余市蒸溜所」に変わっています。
「シングルモルト余市」は2024年4月にメーカー希望小売価格が7,000円(税別)に上がりましたが、2026年10月にはAmazonでの販売が再開され、6,500円前後で買えるようになっています。また2026年6月には、余市の石炭直火蒸留をテーマにした限定品「竹鶴ピュアモルト エッセンシャルズ 2026」(国内1万本)が発売されました。蒸留所のガイドツアーは無料で、公式サイトからの事前予約制です。
- 世界でもほとんど残っていない石炭直火蒸留と、ストレートヘッドのポットスチル
- スコットランドから輸入した麦芽を使い、レギュラーピーテッドが中心。自社の樽工場で手入れした樽で熟成
- 力強いピートスモークに、潮風と石炭直火の香ばしさ、柑橘の甘さが重なる味わい
代表的なボトル:シングルモルト余市

余市蒸留所のモルト原酒だけで造る、年数表記のない定番のシングルモルトです(700ml・45%)。竹鶴政孝がスコットランドに近い理想の土地として選んだ余市の個性を、いちばん素直に味わえる1本です。
力強いピートスモークと、石炭直火蒸留による香ばしいロースト感が持ち味。そこに柑橘のような果実の香りが加わり、重たさの中にもバランスのよさがあります。余市を試すなら、まずこのボトルからがおすすめです。
| 香り | 樽由来のオーク/モルティな甘み/柑橘/力強いピートスモーク/潮風 |
|---|---|
| 味わい | 力強いピートスモーク/穏やかな潮風/柑橘の甘み/ウッディでビター/香ばしいロースト感。余韻はウッディな温かみとピートスモークが長く続く |
そのほかのオフィシャルボトル(5)
シングルモルト余市 ノンピーテッド(2021年):ピートを焚かない麦芽で仕込んだ数量限定品。すでに終売です。

シングルモルト余市 アップルブランデーウッドフィニッシュ(2020年):ニッカのアップルブランデー樽で仕上げた数量限定品。すでに終売です。

シングルモルト余市 リミテッドエディション2019:2019年の数量限定品。すでに終売です。
シングルモルト余市 マンサニーリャウッドフィニッシュ(2018年):マンサニーリャ(シェリーの一種)の樽で仕上げた数量限定品。すでに終売です。
シングルモルト余市 モスカテルウッドフィニッシュ(2017年):モスカテルワインの樽で仕上げた数量限定品。すでに終売です。
余市蒸留所の基本データ
| 創業年 | 1934年(ウイスキーの生産は1936年から) |
|---|---|
| 所有会社 | ニッカウヰスキー(アサヒグループ) |
| 稼働状況 | 稼働中(2026年4月から正式名称は「北海道余市蒸溜所」) |
| 地域 | 日本・北海道余市町 |
| 年間生産能力 | 約200万リットル |
| 主なブレンド先 | ブラックニッカ、竹鶴ピュアモルト、ザ・ニッカ、セッションなど |
場所:海と山に囲まれた余市町
余市蒸留所は、北海道の積丹半島の付け根にある余市町にあります。JR余市駅から歩いて3分ほど、日本海の海岸までは1kmほどの距離です。余市町はかつてニシン漁で栄えた町で、周りの山にはミズナラも自生しています。
竹鶴政孝がこの地を選んだのは、余市川の豊かな水やピートの産地が近いことに加え、比較的緯度が高く、海に面して三方を山に囲まれた環境がスコットランドのハイランドに似ていたからです。
約13万2,000㎡の敷地には、創業当時の石造りの建物が今も並びます。2021年には蒸留棟やキルン塔などが国の重要文化財に答申されました。敷地内には旧竹鶴邸やニッカミュージアムもあり、見学のあとに有料のテイスティングバーで原酒を味わうこともできます。
歴史
| 1934年 | 竹鶴政孝が大日本果汁株式会社を設立し、余市に蒸留所を建設 |
|---|---|
| 1936年 | ウイスキーの製造免許を取得し、生産を開始 |
| 1940年 | 第1号「ニッカウヰスキー」を発売 |
| 1952年 | 社名を「ニッカウヰスキー」に変更 |
| 1989年 | 「シングルモルト余市」を発売 |
| 2001年 | アサヒビールの傘下に |
| 2008年 | 「シングルモルト余市1987」がワールド・ウイスキー・アワードで世界最高賞 |
| 2021年 | ニッカミュージアムが開館。施設が国の重要文化財に答申 |
| 2025年 | 約70億円をかけた貯蔵施設などの増設を発表 |
| 2026年 | 正式名称が「北海道余市蒸溜所」に。新しい製樽棟が完成 |
くわしい年表を見る
| 西暦年 | 内容 |
|---|---|
| 1934年 | 竹鶴政孝氏がサントリーを離れて大日本果汁株式会社を設立する 北海道にて余市蒸留所が竣工する |
| 1935年 | 初・再留を兼ねる1基のポットスチルが設置される |
| 1936年 | 大日本果汁がウイスキーとブランデーの生産免許を取得する 同年の秋頃よりウイスキーの生産が始まる |
| 1940年 | 第一号「ニッカウヰスキー」がリリースされる |
| 1952年 | 大日本果汁株式会社が名称変更により「ニッカウヰスキー株式会社」となる |
| 1974年 | 自社でのモルティング作業が廃止される |
| 1980年 | 社名変更以前の北海道の元本社事務所が街の指定文化財となる |
| 1986年 | 旧貯蔵庫を改装して「竹鶴資料館」が開設される |
| 1989年 | 「シングルモルト余市」がリリースされる |
| 1998年 | 竹鶴資料館が「ウイスキー博物館」へとリニューアルされる |
| 2001年 | ニッカウヰスキー社がアサヒビール社傘下となる |
| 2001年 | 余市蒸留所がSMWS認定のモルトウイスキー蒸留所となる |
| 2004年 | 「ニッカウヰスキー余市蒸留所」として北海道遺産に選定される |
| 2008年 | 「シングルモルト余市1987」がワールドウイスキーアワードで世界最高賞を受賞する |
| 2016年 | 西川浩一工場長がアイコンズオブウイスキーの「ワールド・ベスト・ディスティラリー・マネージャー」を受賞する |
| 2020年 | 敷地内にて蒸留廃液を活用したバイオガス発電施設が新たに建設される |
| 2021年 | 余市蒸留所の見学施設であるウイスキー博物館の一部が「ニッカミュージアム」にリニューアルされる |
| 2025年 | ニッカが余市に約70億円を投じ、貯蔵施設などを増設すると発表する |
| 2026年 | 正式名称が「北海道余市蒸溜所」となる(4月) 製樽能力を約3倍にする新しい製樽棟が完成する(8月) |
ウイスキーが売れるまでを支えたりんごジュース
余市が選ばれた理由には、りんごの産地だったこともあります。ウイスキーは造ってから売れるまで何年もかかるため、竹鶴はまず地元のりんごでジュースを造って資金を確保しようと考えました。1935年に発売したものの、濁りが出たことで多くが返品されてしまいます。
そこで竹鶴は、返品されたジュースからアップルワインを造って販売し、資金の問題を乗り越えました。こうして山崎蒸留所の初期のスチルも手がけた大阪の渡辺銅鉄工所に、最初のポットスチルを発注できたといわれます。アップルワインは今もニッカの定番として売られています。

製法の特徴
| 年間生産能力 | 約200万リットル |
|---|---|
| 仕込み水 | 余市川の伏流水(硬度20程度の軟水) |
| 麦芽 | スコットランドから輸入(1974年まで自社で製麦) |
| ピート | ノンピート/レギュラー(5〜15ppm)/ヘビリー(20ppm以上) |
| 糖化 | ステンレス製セミロイタータン(1回6.5トン) |
| 発酵槽 | ステンレス製10基(各40,000リットル) |
| 発酵時間 | 約72時間 |
| ポットスチル | ストレートヘッド型。初留4基(7,000リットル・10,000リットル各2基)・再留2基(10,000リットル・13,000リットル各1基) |
| 加熱方式 | 石炭直火(再留は蒸気との併用) |
| 冷却器 | ワームタブ(再留1基のみシェル&チューブ) |
| 熟成 | ダンネージ式・ラック式の貯蔵庫26棟 |
| 樽詰め度数 | 63〜65% |
蒸留:石炭直火とストレートヘッドのスチル
余市の最大の個性は、創業から続く石炭直火蒸留です。スチルの下で石炭を燃やし、職人が火力を見ながら加減します。スコットランドでもかつては主流でしたが、温度の管理が難しく手間もかかるため、蒸気で間接的に温める方式に置き換わっていきました。
余市でも2003年ごろ、環境への配慮から対応を迫られました。安く済む蒸気式への切り替えではなく、集じん設備を設けて石炭直火を残す道を選んだとされています。直火で釜の底が焦げることで生まれる香ばしさが、余市の重厚な味わいにつながっています。
スチルは首がまっすぐなストレートヘッド型で、ラインアームはほとんどが下向き。重い成分も残りやすく、力強い原酒になります。冷却には昔ながらのワームタブを使います。
原料:ピートの強さを3段階で使い分ける
1974年までは自社で製麦し、石狩産のピートを焚いていましたが、現在はスコットランドから麦芽を輸入しています。ピートの強さはノンピート・レギュラー・ヘビリーの3段階で、ふだんはレギュラーピーテッドが中心。年末にかけてヘビリーピーテッドの仕込みを行います。
熟成:樽工場と新樽の長期熟成
敷地には土の床に樽を2段まで積むダンネージ式などの貯蔵庫が並びます。蒸留所内には樽工場があり、樽の修理や内側を焦がし直す作業を自前で行っています。この樽工場でつくる新樽を、20年ほどの長期熟成に使うこともあります。
2026年8月には製樽能力を約3倍にする新しい製樽棟が完成し、2025年に発表された貯蔵施設の増設とあわせて、長期熟成の原酒を増やす体制が整いつつあります。
日本のほかの蒸留所・竹鶴ゆかりの蒸留所
参考:JWIC / 余市蒸溜所公式 / whisky.com / 北海道新聞(2025年9月11日) / 北海道新聞(2026年2月3日) / 北海道新聞(2026年8月6日) / アサヒビール(2026年5月1日) / pricey.jp / グルメWatch(2026年10月25日) / 文化庁(2021年11月19日) / 北海道公式観光サイト
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