記事の概要
ウイスキーが人気となった背景の一つには,シェリー樽やバーボン樽のように使用する樽の諸元によって様々な個性を出すことができる点が大きな要因として存在します。そして最近では,どんどんと新たな美味しさが追求されるようになり,より多種多様な樽での熟成を試みるケースが多くみられるようになってきました。
そこで今回は『赤ワイン樽』によって熟成されたウイスキーに着目し,より大人びた美味しさが表現されているウイスキーを全部で10本ご紹介していきたいと思います!
\\執筆者情報//
初谷(はつがい)
ウイスキーに関わるあらゆる情報をまとめ,「ウイスキーを知りながらより深く楽しめる記事」を発信しています。
【Shop】ウイスキー専門店『Drinkable books』
【経歴】東京都立大卒|元公務員・ネット酒屋開業
【資格】JWRC公認ウイスキーエキスパート|ウイスキー検定2級
【その他】バンド「Candid moment」のドラマー
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ウイスキーの風味と熟成樽の関係
この記事では『ワイン樽』熟成のウイスキーに着目してボトルの紹介を行っていきますが,本題に入る前にまずは,改めて”ウイスキーの熟成に使用される樽の種類とそれらがウイスキーにどのような風味を与えるのか?”という点について,簡潔にまとめていきます。
熟成に使用される樽と風味
ウイスキーの熟成はオークで作られた樽で行うのが一般的ですが,実際には材質(木の産地や品種)や樽の履歴(以前にどんなお酒を詰めていたのか)などによって,原酒に付与される風味の系統が大きく変化してきます。
それでは実際にオークの品種や樽の履歴が実際にどのような風味を作り出しているのかを見ていきましょう!
オークの品種と風味
- アメリカンホワイトオーク材
バニラ/カラメル/はちみつ/ヘーゼルナッツ
- スパニッシュオーク材
レーズン/ドライフルーツ/シナモン/チョコ
- フレンチオーク材
濃いレーズン/渋み/スパイシー
- ミズナラ(ジャパニーズオーク)材
白檀/お線香/和風の香ばしい甘さ
樽の履歴と風味
- シェリー酒
ドライフルーツ/レーズン/チョコ/サルファリー
- バーボン
バニラ/ウッディ/はちみつ/ナッツ/キャラメル
- ラム酒
黒糖/焦がした砂糖/強い甘み
- ワイン
ぶどう/タンニン/華やかな果実香
熟成年数と風味
ウイスキーの一大産地であるスコットランドでは、ウイスキーを名乗るためには3年以上の期間を木樽で熟成させる必要があります。実際にウイスキーを樽に詰めてを長い期間熟成させた場合、樽から溶出する様々な成分や空気との接触によって,どんどんと深い味わいが付与されていくことが分かっています。
ここでは樽から溶出する成分に着目し,それによって付与される風味の例をいくつか挙げてみます!
樽材由来成分と風味
- グルコース(樽のセルロース由来)
カラメルのような甘さ
- 多糖類(樽のヘミセルロース由来)
バター/ココナッツ/カラメル/アーモンド
- フェノール類(樽のリグニン由来)
バニラ/スパイシー
- タンニン
渋み
- ラクトン
ボディの厚み/甘い香り
『ワイン樽』熟成の大人びた美味しさのウイスキー10選
アイル・オブ・ジュラ
レッドワインカスク
度数 | 40% |
容量 | 700ml |
種類 | シングルモルト |
地域 | スコットランド ジュラ島 |
ポイント
「アイル・オブ・ジュラ」は,スコットランドのジュラ島に所在する,エンペラドール社傘下のアイル・オブ・ジュラ蒸留所が生産を手がけるシングルモルトウイスキーのブランドになります。
ジュラ島はアイラ島との間に海峡を隔てる東北側に位置する島であり,人口が僅か200人程度と少ないながら,5,000頭を越える鹿が生息しているということで,鹿の島の意味を持つジュラの名がついています。そのウイスキー作りは近隣のアイラモルトとは大きく異なり,基本的に麦芽は本土産のノンピートタイプのものを使用。そして蒸留を高さが8メートルにも達する巨大なポットスチルで行っているということで,非常に軽くてフルーティな香味を得やすくなっているのが特徴です。
そしてこのアイル・オブ・ジュラ レッドワインカスクは,バーボン樽での熟成後,ヨーロッパ産の赤ワイン樽でフィニッシュされた原酒による少々特殊なリリース。その味わいでは,ジュラの本質でもある軽やかなボディの上に,ベリー系の赤を連想させるフルーツ感や,赤ワインらしいスパイシー感などを感じることができます。
香り
サルタナレーズン|バニラキャラメル|ダークフルーツ|樽香|ヘザーハニー
味わい
ベリーフルーツ|ストロベリー|蜂蜜タンニン感|滑らかバニラ|シナモン感
▽
リンドーズシングルモルト
STRワインカスク
度数 | 49% |
容量 | 700ml |
種類 | シングルモルト |
地域 | スコットランド ローランド |
ポイント
『リンドーズ』は,スコットランドのローランド地方に所在する,リンドーズアビー蒸留所が生産を手がけるシングルモルトウイスキーのブランドになります。
同蒸留所の敷地の横には,スコッチウイスキーに関する最古の記録に登場するリンドーズ修道院の跡地があり,まさしくウイスキーの起源の地に復活した蒸留所であるということができます。そのウイスキー作りでは,創業時に助力を得たジムスワン博士の知見が根強く生かされており,100時間を越える長い発酵時間や,蒸留器については,1基の大きめの初留器に対して,2基の小さめの再留器があるなど,独自のこだわりを見せます。
そしてこのリンドーズSTRワインカスクは,ジムスワン博士が考案したSTR赤ワイン樽での熟成を経た原酒が使用された特別なボトル。その味わいでは,プラムやベリーのような瑞々しいフルーツの要素や,クリームのような滑らかな甘みなど,STR赤ワイン樽由来の力強い香味の数々を感じることができます。
香り
アプリコット|スパイス|トフィー|ウッディ|カスタード|プラム&ベリー|シナモン
味わい
シナモンスパイス|プラム&ベリー|ウッディ|ややスモーキー|はちみつ|キャラメル
▽
タムナヴーリン
レッドワインカスク
度数 | 40% |
容量 | 700ml |
種類 | シングルモルト |
地域 | スコットランド スペイサイド |
ポイント
『タムナヴーリン』は,スコットランドのスペイサイド地方に所在する,エンペラドール社傘下のタムナヴーリン蒸留所が生産を手がけるシングルモルトウイスキーのブランドになります。
同蒸留所で作られるウイスキーの多くはホワイト&マッカイを筆頭としたブレンデッド用とされており,そのウイスキー作りも基本的に,大量生産に適した伝統に忠実なものとされてきました。しかしながら所有者がエンペラドール社となってからはシングルモルトとしてのリリースも積極的に行われるようになり,特にシェリー樽やワイン樽などの多彩なカスクフィニッシュに注力されるようになりました。
そしてこのボトルに関しては,一般的なアメリカンオーク樽での熟成の後,カベルネソーヴィニヨンのフレンチワイン樽でフィニッシュされた原酒が使用された逸品。その味わいでは,花畑や果樹園を思わせる華やかな要素の数々や,適度なタンニン感やスパイス感など,ワインとの共通点を感じる多彩な風味をバランスよく感じることができます。
香り
華やかフローラル|果樹園のフルーツ|柑橘ジャム|シナモン|アーモンド
味わい
瑞々しい柑橘|プラム|レッドベリー|ジンジャーブレッド|タンニン|バナナ
▽
ブナハーブン
エリーナグレーネ
度数 | 46.3% |
容量 | 1,000ml |
種類 | シングルモルト |
地域 | スコットランド アイラ島 |
ポイント
『ブナハーブン』は,スコットランドのアイラ島に所在する,ブナハーブン蒸留所が生産を手がけるシングルモルトウイスキーのブランドになります。
アイラ島に所在する多くの蒸留所では,地元産のピートを活用したスモーキーなモルトが生産されているのは周知の事実ですが,このブナハーブンはその型に当てはまらない少々特殊な蒸留所。そのウイスキー作りでは,生産量全体の約6割程度がノンピートタイプの麦芽を原料としており,アイラ島の沿岸部という環境の要因を感じさせつつも,スモーキーテイストの少ないウイスキーが多く生み出されています。
そしてこのエリーナグレーネは,本来は免税店向けの限定ボトルで,ノンピートタイプの原酒のうち,イタリアンワイン樽やフレンチワイン樽などをはじめとした,様々なワイン樽で熟成された原酒が使用された逸品。その味わいでは,ライトなボディにべたっと張り付く高貴なフルーツの甘みや,コーヒーのような奥深い苦味など,スイートアンドビターの美麗なコントラストを感じることができます。
香り
高貴なフルーティ|スパイシー|ワイン|クローブスパイス|コーヒーの苦味|樽
味わい
ワインっぽい果実感|タンニンと酸味|シナモン&クローブ|奥深いコーヒー感
▽
ブラックボトル・ダブルカスク
度数 | 46.3% |
容量 | 700ml |
種類 | ブレンデッド |
地域 | スコットランド |
キーモルト | ブナハーブン,トバモリー レダイグ,ディーンストン |
ポイント
『ブラックボトル』は,スコットランドのディステルグループ社が生産を手がける,ブレンデッドスコッチウイスキーのブランドになります。
ブランドの創設は1879年,ゴードングラハム氏によるものであり,当初はアイラ島のモルト原酒にフィーチャーした構成でしたが,所有者の変更に合わせてその構成は移り変わってきました。現在はアイラ島のブナハーブンを中心とし,レダイグを含めたトバモリー蒸留所や,ハイランドのディーンストン蒸留所の原酒も使用されており,意外にも華やかな風味で高い評価を獲得してきた実力派のブランドです。
そしてこのブラックボトルダブルカスクは,同ブランドのアルケミーシリーズのうち,シェリー樽で熟成されたモルト原酒と,赤ワイン樽で熟成されたグレーン原酒が使用された逸品。その味わいでは,チェリーやラズベリーのような甘酸っぱい果実感や,穀物,コーヒー,スパイシーなど,シェリー樽とワイン樽の両方の魅力をしっかりと感じることができます。
香り
ブルーベリー|チェリー|りんごと洋梨|麦芽感|カシス|くるみ|苦いコーヒー
味わい
チェリー&ラズベリー|バニラクリーム|カシス|コーヒー|ブラウンシュガー
▽
超百・ワインカスク
度数 | 43% |
容量 | 700ml |
種類 | ブレンデッドモルト |
地域 | 日本 |
ポイント
『越百』は,日本の本坊酒造社が駒ヶ岳蒸留所の原酒をベースとして生産している,ブレンデッドモルトウイスキーのブランドになります。ブランド名には複数の由来があり,例えば駒ヶ岳蒸留所の近傍,中央アルプスに連なる山の一つである越百山や,蒸留所から見える夜景から,どこか宇宙っぽいコスモというワードが連想されたこと,などが挙げられるとのことです。
そしてこの超百・ワインカスクフィニッシュは,数年に一度リリースされる数量限定商品であり,国内外のモルト原酒をヴァッティングした通常のコスモを,赤ワイン樽でフィニッシュすることで作られる逸品。その味わいではビビッドな赤色を連想させるフルーツの要素や,樽系の苦味,メープルシロップのような甘みなど,色鮮やかな華やかさを楽しむことができます。
香り
ベリー&レーズン|ウッディなビター感|蜂蜜|バニラクリーム|ワインっぽさ
味わい
チェリー|ベリー系の酸味感|タンニン|スパイシー|メープルシロップ|レーズン
▽
リージェント
度数 | 47% |
容量 | 750ml |
地域 | アメリカ ケンタッキー州 |
ポイント
『リージェント』は,日本のサントリー社が生産を手がける,ジムビーム蒸留所の原酒を使用した特殊なアメリカンウイスキーのブランドになります。同ブランドのキャッチコピーは「ケンタッキーの伝統と,日本のブレンド技術の融合」ということで,既存の概念に縛られない新たな香味作りが行われているのがポイント。
通常のバーボンウイスキーの製造では,新樽での熟成が義務付けられていましたが,このリージェントはそこから逸脱し,サントリー社の技術をフル活用したシェリー樽と赤ワイン樽によるフィニッシュが実施されています。その味わいでは,ストレートバーボンらしい分厚いボディを基調としつつ,ワイン樽由来のベリー感やタンニン感などの力強さ,そしてシェリー樽の華やかな果実感など,満足感に長けたパワフルな風味が魅力となっています。
香り
パワフル溶剤感|ゴツいバニラ|ラム感|ダークチョコレート|スパイス|メロン
味わい
溶剤感|ダークチョコレート|レーズン|アーモンドバニラ|ウッディ|スパイス
▽
M&Hエレメンツ
レッドワインカスク
度数 | 46% |
容量 | 700ml |
種類 | シングルモルト |
地域 | イスラエル |
ポイント
『M&H』は,イスラエルのテルアビブに所在する,ミルク&ハニー蒸留所が生産を手がけるシングルモルトウイスキーのブランドになります。
そのウイスキー作りは,基本的にスコットランドの伝統的な手法を踏襲していますが,イスラエルは晴天日数が年間300日にも及び,地中海性の非常に温暖な気候となっているため,スコットランドよりも急速に原酒の熟成が進行します。よって年間のエンジェルズシェアは平均12%にも達するということで,原酒の多くは若い段階から円熟感の獲得を実現しており,実際に急速にその人気を高めてきています。
そしてこのM&Hレッドワインカスクについては,使用する樽の諸元にこだわったエレメンツシリーズの一角であり,イスラエル産の赤ワイン樽で熟成された原酒が使用された逸品。その味わいでは,真っ赤なドライフルーツような甘みや,温かみを感じるジンジャースパイス,そして渋みを感じる樽香など,若さを感じさせない奥深い風味を感じることができます。
香り
赤いドライフルーツ|ジンジャー|樽香|ココナッツ|ミネラル感|渋みスパイス
味わい
濃いワイン感|ウッディ|バニラ|蜂蜜|ダークレーズン|ジンジャースパイス
▽
スターワード・トゥーフォールド
度数 | 40% |
容量 | 700ml |
種類 | ブレンデッド |
地域 | オーストラリア |
ポイント
『スターワード』は,オーストラリアのメルボルン,ドックランズ地区に所在する蒸留所が生産を手がける,オーストラリアンウイスキーのブランドになります。
ブランドの創設は2007年のことで,デイヴィッド・ヴィターレ氏が「世界中の人に誇りを持って提供できるオーストラリアならではのウイスキーを作る」という単純明快な夢から発展してきました。そのウイスキー作りでは,オーストラリア産の大麦や小麦を原料に活用しつつ,温暖な気候の元で,オーストラリア産の赤ワイン樽を活用した熟成を行っているのがポイントです。
そしてこのスターワード・トゥーフォールドは,赤ワイン樽熟成の同ブランドの特徴をよく反映した,ブランドの最もベーシックなラインナップのひとつ。その味わいでは,暖かい気候を連想させる南国フルーツの要素や,ワインを想起させるベリー系のフレッシュな果実やタンニンの渋みなどを感じることができます。
香り
南国の黒糖感|ウッディな樽感|バニラ|ベリーフルーツ|シナモンスパイス
味わい
糖蜜の甘み|レーズン|タンニンの渋み|シナモンスパイシー|ベリー|バニラ
▽
カバラン・ヴィーニョバリック
度数 | 54% |
容量 | 700ml |
種類 | シングルモルト |
地域 | 台湾 |
ポイント
『カバラン』は,台湾に所在するカバラン蒸留所が生産を手がけるシングルモルトウイスキーのブランドになります。
同蒸留所は2006年の創業時に,著名なコンサルタントであったジムスワン博士の助力を受けており,台湾という業界の馴染みがない立地において本格的なシングルモルト作りが開始されました。無論そのウイスキーは完全に無名でしたが,2010年にエジンバラで行われたブラインドティスティング大会で快勝を果たしたことで一躍有名となり,その後,このヴィーニョバリックは2015年に世界一のシングルモルトに輝くに至りました。
そんなこのボトルの特徴は,各国の最高級ワインが貯蔵された小型の樽”バリック”によって熟成された非常に希少な原酒が使用されている点にあります。その味わいでは,バニラやキャラメルのような滑らかな甘みや,ベリーやレーズンの華やかな甘み,そして奥深くリッチなスパイシー感など,圧倒的な存在感の強さ感じることができます。
香り
バニラ|キャラメル|ワイン系ベリー感|ウッディ|レーズン|カスタード|柑橘
味わい
アーモンドチョコレート|ハーブ|樽香カラメル|ドライフルーツ|スパイシー