【特集】トラベイグ蒸留所|場所・歴史・製法・種類と味わい|ウイスキーラウンドアップ

記事の概要

世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。

今回は「トラベイグ蒸留所」になります!

Points!
「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」

キーワード

スカイ島2番目の蒸留所|ウェルテンパードピート

トラベイグの特徴

スカイ島の潮風|薬品臭の無いピートスモーク|土っぽさ|柑橘|胡椒スパイス

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初谷(はつがい)

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トラベイグ蒸留所

トラベイグ蒸留所の立地と概要・歴史・製法についてまとめていきます。

蒸留所諸元

創業年2017年
所有会社ハイドンホールディングス社
(モスバーン・ディスティラーズ社)
地域分類スコットランド,アイランズ
(スカイ島)
年間生産量50万リットル
発酵槽ダグラスファー製8基
ポットスチル初留1基・再留1基
仕込み水オルト・グレアン・トラベイグ川
オルト・ブレアッキ川
ブレンド先

「トラベイグ蒸留所」蒸留所の立地と概要

出典:whisky.com

ポイント

トラベイグ蒸留所』はスコットランドの北西に浮かぶスカイ島に所在しており,一般的なウイスキーの地域分類では”アイランズ”に括られています。

 蒸留所の周辺環境は海を望める丘の上。そして民家や車通りすらない辺境の地と言っても差し支えない場所。
 建物や土地は古くから農家として使用されてきた経歴があり,蒸留所の創業が決定してからは,当初の建物を保存しつつ改装するような形で建設工事が実施されました。

 またスカイ島はへブリディーズ諸島で2番目に大きな島としても知られており,人口も9,000人を超える程度と,アイラ島の3,000人強と比較しても割と規模の大きな島ですが,これまで島内に存在した蒸留所は1830年から続く「タリスカー蒸留所」のみでした。
 そんなタリスカーの創業から実に約200年近い時を経て,2017年に満を持して創業されたのが,今回の主題に掲げる『トラベイグ蒸留所』になります。

 ちなみに「トラベイグ」のゲール語の語源については,シングルモルトスコッチ大全によると「海を見下ろす高台」の意味を持っているとされており,実際の蒸留所の立地を見ても納得のネーミングですね。

「トラベイグ蒸留所」蒸留所の歴史

トラベイグ蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!

西暦年内容
1972年サー・イアン・ノーブル氏がスカイ島に移住し,81平方キロメートルにも及ぶ土地を購入する
1976年ノーブル氏がブレンダー兼ボトラーの「プラバン・ナ・リンネ社」を設立する
2002年ノーブル氏が島内の農場を蒸留所に転換する計画の許可を得る
2010年ノーブル氏が死去する
事業はモスバーン・ディスティラーズ社に引き継がれる
2013年未亡人のレディ・ノーブル氏との契約ののち,蒸留所の建設が開始される
2017年蒸留所が完成し,同年1月にウイスキーの生産が開始される
2019年蒸留所のマスコットとして子ヤギの「ゴーティ」が採用される
2021年同年2月,「レガシーシリーズ2017」と題した初のシングルモルトがリリースされる

トラベイグに纏わるストーリー

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「トラベイグ蒸留所」製法の特徴

  • 年間生産量
    50万L
  • 仕込み水
    オルト・グレアン・トラベイグ川
    オルト・ブレアッキ川
  • モルトスター
    シンプソンズ社
  • ピーテッドレベル
    ヘビリーピーテッド
    (50〜75ppm)
  • マッシュタン材質
    ステンレス製セミロイター
  • マッシュタン容量
    1.5トン
  • ウォッシュバック
    ダグラスファー製8基
  • ウォッシュバック容量
    8,000L
  • 酵母
    ドライタイプ
  • 発酵時間
    90時間
  • スチル加熱方式
    蒸気間接加熱
  • ポットスチル(初留)
    バルジ型1基
  • ウォッシュスチル容量
    8,000L
  • ポットスチル(再留)
    バルジ型1基
  • スピリッツスチル容量
    5,000L
  • コンデンサー
    シェル&チューブ
  • 本留の度数
    約72%
  • ウェアハウス形式
    パラタイズ式,ダンネージ式

製麦について

出典:whisky.com

ポイント

 トラベイグ蒸留所では創業時より自社製麦が行われておらず,原料の大麦はシンプソンズ社を筆頭とした専門のモルトスターから仕入れています。
 蒸留所の職人たちは,大麦に対する深い知見を持っていることが知られており,品質へのこだわりはもちろん,1つの品種に拘らない自由な発想の導入が心掛けられています。

 ピーテッドレベルについては,フェノール値50〜75ppmにも達するヘビリーピーテッドタイプとされており,スカイ島らしい荒々しい個性を最大限に活かす工夫が見て取れます。
 しかしモルトの乾燥を慎重に行うことにより,「ウェルテンパードピート」と呼ばれる整然とした薬品臭の無いテイストスタイルを持ち味としています。

 用意された原料のモルトはローラー式のモルトミルで粉砕し,グリストとされます。一般的にグリストはその粒径によってハスク(粗)・グリッツ(中)・フラワー(細)に分類され,それぞれの構成比は「2:7:1」とされます。

次の工程は糖化になります!

↓工程の詳細な解説↓

糖化について

出典:whisky.com

ポイント

 トラベイグ蒸留所では,仕込み水としてオルト・グレアン・トラベイグ川の水及び,オルト・ブレアッキ川の水を採用しています。
 マッシュタンは1バッチあたり1.5トンのグリスト容量を誇る,ステンレス製のセミロイタータンであり,1バッチにつき約6,000リットルのウォートを抽出することができます。

ここが特徴!

  • ウォートは透き通った状態で確保されており,これは最終的なウイスキーの軽くすっきりとした酒質に寄与する

次の工程は発酵になります!

↓工程の詳細な解説↓

発酵について

出典:whisky.com

ポイント

 トラベイグ蒸留所には,スウェーデン産のダグラスファーで作られた,容量8,000リットルの木製ウォッシュバックが計8基設置されています。
 発酵時に添加される酵母はドライタイプのディスティラーズ酵母が中心とされており,発酵にかける時間は約90時間と非常に長めに設定されています。

ここが特徴!

  • 木製のウォッシュバックでは,野生酵母等の独自の自然発生微生物の影響が働き,より環境に根差した個性が育まれやすい
  • 90時間という長い発酵時間では,後半に乳酸発酵の影響が卓越すると考えられ,これは最終的なウイスキーのフルーティなテイストに寄与する

次の工程は蒸留になります!

↓工程の詳細な解説↓

蒸留について

出典:whisky.com

ポイント

 トラベイグ蒸留所には容量8,000リットルでバルジ型のウォッシュスチルが1基,容量5,000リットルでバルジ型のスピリッツスチルが1基設置されています。
 両者ともにフォーサイス社製で,加熱方式は蒸気による間接加熱方式,コンデンサーはシェル&チューブ方式とされており,ラインアームはやや下向きとなっています。

 最も特徴的なポイントは,建物の構造上の都合で2基のポットスチルが互いに向かい合うように設置されている点にあり,大きめな初留器”イアン・ノーブル”,小さめの再留器は”レディ・ノーブル”と名付けられています。
 余談までに,蒸留所のスタッフは蒸留の際にスチルが互いに語り合っているようにも見えると話しているそうですね。

ここが特徴!

  • バルジ型のポットスチルでは蒸気の環流が促進されることから,軽くすっきりとした酒質が得られやすく,下向きのラインアームでは反対に重く複雑な香味を多く獲得しやすい

次の工程は熟成になります!

↓工程の詳細な解説↓

熟成について

出典:whisky.com

ポイント

 トラベイグ蒸留所には貯蔵容量に優れた近代的なパラタイズ式のウェアハウス(90%)と,伝統的なダンネージ式のウェアハウス(10%)が敷地内に併設されています。

 使用される樽については具体的に言及されていませんが,過去リリースされた2種類のボトルでは1stフィルのバーボン樽とリフィルバーボン樽が使用されていました。

 蒸留によって得られたニューポットを加水によってアルコール度数64%に調整したのちに樽詰めされ,スカイ島の潮風を受けるウェアハウスにて長い時間を眠ることとなります。

↓工程の詳細な解説↓

オフィシャルボトル一覧

トラベイグ蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!

トラベイグ
シングルモルト2017

ポイント

トラベイグ シングルモルト2017』は2021年に満を持して数量限定発売された,トラベイグ蒸留所初のオフィシャルシングルモルトになります。

 使用される原酒はコンチェルト種の大麦を原料とし,蒸留直後の段階でフェノール値55〜60ppm程度のヘビリーピーテッドタイプ。その後バーボン樽で3〜4年程度熟成され,最終的なウイスキーはフェノール値16ppm程度となります。
 アルコール度数は高めの46%で,冷却濾過や着色は無しのこだわりのボトリングですね。

 テイストはスモーキーながらもアイラ島南岸のモルトのような薬品臭はあまり無く,どちらかと言えばボウモアのような土っぽさがあるのが特徴。そこにスカイ島らしい荒々しさやスパイシーさが加わり,見事な完成度を感じさせてくれます。

 ちなみに既に蒸留所の公式サイトには完売の記載があるため,今市場にあるものが売り切れると入手する術が無くなると考えられます。

Tasting Note

  • 香り

スカイ島の潮風|乾いたピートスモーク|強い柑橘とバニラ|草っぽいフローラル|胡椒スパイス

  • 味わい

強い潮風|土っぽいピートスモーク|爽快なハーブ|スパイシー|オレンジ風味|モルティ

  • 余韻

力強い煙っぽさと華やかな柑橘感


トラベイグ
アルト・グラン

ポイント

トラベイグ アルト・グラン・レガシー セカンドエディション』は2023年4月に日本でリリースされたトラベイグ蒸留所のオフィシャルシングルモルト,そのセカンドリリースになります。

 今作はコンチェルト種,ローリエイト種の大麦を原料とし,ニューポットのフェノール値は77ppm,最終的なウイスキーのフェノール値は17ppmとされており,度数は46%,冷却濾過や着色は無しのこだわりのボトリングです。

 樽構成については1stフィル(80%),2ndフィル(20%)のバーボン樽を含む30樽程度のスモールバッチで構成されており,1作目と同じく”ウェルテンパードピート”と形容される,薬品臭の少ないマイルドなスモーク感を特徴としています。

 今作もスモールバッチゆえに,ボトル数には限りがあるものと考えられますので,購入を希望される方は早めの行動が鍵となってきそうです。

Tasting Note

  • 香り

強いレモンのフレッシュ感|土っぽいピートスモーク|海の塩辛さ|バニラと穀物感

  • 味わい

乾いた強いピートスモーク|荒々しい塩辛さ|焦がした木|胡椒スパイス|オレンジ柑橘|モルティ

  • 余韻

ピートスモーク|潮風|フレッシュな柑橘

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参考資料

参考サイト:whisky.comscotchwhisky.comトラベイグ公式