【第3弾】ウイスキーの製法解説「糖化(マッシング)編」|ウイスキーラウンドアップ

記事の概要

ウイスキーの製法については「ウイスキーの製法」という記事で簡単にまとめています。

予めご一読頂くと,より理解が深まるかと思います!

この記事では製造工程のうち,「糖化」についてより詳細に解説していきます。

【前回記事】ウイスキーの製法解説「製麦編」

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初谷(はつがい)

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糖化(マッシング)とは…?

端的に前回のおさらいをすると,原料の大麦は製麦によって発芽し,糖化酵素が活性化された麦芽へと変しました。

糖化(仕込み/マッシング)は,この麦芽の粉砕物を加熱した仕込み水と混合して粥状にし,発酵に必要な糖類を多く含んだウォートと呼ばれる液体を抽出する工程になります。

糖類が生じる簡単な原理としては,麦芽内に存在していたデンプンやタンパク質が,麦芽自身の糖化酵素の働きで水に可溶な糖類やアミノ酸へと変化するというものになります。

また糖化はウォートの抽出の他にも,水に溶けない固形成分を濾過する役割も副次的に担っています。

それでは糖化の具体的な作業について解説していきます!
※記事の最後には糖類や酵素の基礎知識や糖化に使用する機器についての説明も記しておきます。

糖化の様子
出典:whisky.com

「糖化」各種作業工程

糖化は「麦芽の粉砕→麦汁の採取→冷却」という流れで行われています。順を追って確認していきましょう!

麦芽の粉砕

製麦が完了して得られた大麦麦芽(モルト)は,ベルトコンベアや空気輸送艦などを介して,ゴミや小石などを除去しながら,モルトミルという粉砕器に向けて運ばれます。

粉砕の直前には除塵機(ディストナー)によるさらに細かい不純物の除去や,精粒機(ホッパー)による麦粒の大きさごとの分類が行われています。ホッパーには重量計が備え付けられており,1回分の仕込みに必要な重さの麦芽がここで計り取られます。

そして麦芽はローラー式のモルトミル(その他の穀物にはハンマー式が使われる)へと通されて粉砕されます。この際に麦芽の殻はウォートの採取時に濾過剤としての機能を果たすため,完全に粉砕はせず,中身を破砕する程度に留められます。

粉砕された麦芽はグリストと呼ばれており,粉砕後の粒の大きさによって3段階に分類されます。具体的には「ハスク(1.4mm超)」・「グリッツ(0.2〜1.4mm)」・「フラワー(0.2mm未満)」となっており,その一般的に理想とされる構成比は「ハスク:グリッツ:フラワー=20:70:10」程度とされています。

グリスト
出典:whisky.com

糖化・ウォートの採取

糖化はグリスト加熱した仕込み水を混合することで進行します。

糖化工程内では麦芽内のデンプン酵素の働きによって水に可溶な糖類へと変化していきます。そしてこれらの糖類が多く含まれた溶液をウォートと言い,グリストと仕込み水の混合物から濾し取ることで得ることができます。

また生じる糖類には2つの種類があります。

具体的には発酵性糖類非発酵性糖類に分けられ,発酵性糖類は発酵時のアルコール収量に影響し,非発酵性糖類は多様な香味成分の元となります。

ここで糖化からウォートの採取に至るまでの作業には大きく2通りの手法が存在していますので,それぞれ説明していきます!

  • インフュージョン法

1つの糖化槽で糖化と濾過を完結させる方法で,ワンステップ・インフュージョンツーステップ・インフュージョンの2種類がありますが,ウイスキー作りで用いられるのはワンステップ・インフュージョンとなっています。

ワンステップ・インフュージョン法は次のような流れで行われています。

作業の流れ

  • グリスト仕込水(70℃)及び前回の糖化の3,4番麦汁をマッシュタンに投入する
    マッシュレイシオ(※)は1:4程度が一般的。
  • ダマが残らないようにレーキでゆっくりと攪拌する。この際マッシュの温度は65℃程度に保つ。
    ※酵素は65℃で最も効率的に働く
  • 1時間前後静置するとマッシュが上下2層に分かれ,下部に沈殿したハスクは濾過層となる。
    併せて酵素反応が進行し,デンプンは糖類に,タンパク質はアミノ酸に置き換わっていく。
  • マッシュタンの底部からウォートを濾し出し,熱交換器を介して20℃前後まで冷却された状態で発酵工程に送られる。【1番麦汁:糖度約20度】
  • 2度目の水(75℃)をグリストの2倍程度の分量で,シャワー状に散布(スパージング)し,再度濾過と冷却を行う。1番麦汁と合わせて発酵工程に送られる。【2番麦汁:糖度約5度】
    ※1番麦汁と2番麦汁を合わせると糖度約13〜14度となる。
    ※75℃のお湯を注いだ時点で多くの酵素は失活するため,残存する糖類を抽出する目的で行われる。
  • 3度目の水(85℃)をグリストの2〜4倍程度の分量でスパージングし,濾過する。ここで得られるウォートは糖類は次回の糖化に混合するため,ホットウォータータンクに保管される。
    ※4度目のスパージングを行う場合もあり,その際はグリストの2倍量で95℃程度の水を注ぐ。
  • ドラフと呼ばれる麦芽の搾りかすを取り出し,マッシュタンを洗浄する。

上記1サイクルには概ね4〜8時間程度要し,1日に3〜5回程度行うのが一般的です!また1トンのグリストからは5,000リットル程度のウォートが得られます。

マッシュレイシオはグリストと温水の分量比のこと。麦芽1トンに対して水を各回合計8トン程度が一般的。

またツーステップ・インフュージョンは主にビールの製造に活用されており,はじめの10〜20分間は約50℃の温度を保ってタンパク質分解酵素を活性化させ,その後タンの底部を加熱して約65℃まで上昇させることでデンプン分解酵素を活性化させています。このようにタンパク質とデンプンの分解を2段階で進めることからツーステップインフュージョン法と呼ばれています。

  • デコクション法

デコクションは「煮立てる」という意味を持っており,作業としてはマッシュの一部を取り出し,煮沸してから,再びマッシュに戻すという手法となっています。デコクション法もビールの製造でよく用いられる方法になります。


ウォートの冷却

糖化によって抽出された1番麦汁及び2番麦汁は60℃を超える高い温度となっています。次の発酵工程に進むにあたり,このままでは酵母が高温に耐えられず死滅してしまいます。

そこで一度熱交換器(ヒートエクスチェンジャー)を介することで,概ね20〜22℃まで冷却されます。

形式については複数ありますが,現在の主流はウォートが流れる管を垂直型のラジエーターに通すことで冷却するスタイルとなっています。

熱交換器の外観
出典:whisky.com

糖化の基礎知識

糖化に関する基礎知識として「糖類・デンプン・酵素」について解説します。

糖類とは…?

糖類を端的に説明すると,炭素・水素・酸素からなる炭水化物のことで,動植物の生体活動に必要なエネルギー源となる物質になります。これらの糖類は,通常動物はグリコーゲンとして,植物はデンプンとして,多くの分子が結びついた多糖類の形で貯蔵されています。

また糖には炭素原子が5個の五炭糖(ヘキトース)と6個の六炭糖(ペントース)がありますが,多く存在するのは六炭糖であり,グルコースやフルクトースなどがこちらに属しています。

これらの糖類は基本的に環状構造を有しており,最も小さい一つの環を一単位とみなして「単糖類と呼んでおり,この単糖類が結合した数によって二糖類,三糖類…と分類されていきます。

グルコースの構造

ここでウイスキー製造と少し関わるポイント。

ウイスキーの元となるアルコールは糖類を元に,酵母のアルコール発酵(資化)を利用することで生み出されますが,酵母が資化できる糖類には大きさの制約があります。

具体的には概ね四糖類と五糖類の間に境界があり,五糖類より大きな糖類は酵母によって資化されることがありません。そのため四糖類とそれより小さいの糖類を「発酵性糖類」,五糖類とそれより大きい糖類を「非発酵性糖類」と呼んで区別しています。

両者のウイスキー造りにおける特徴を簡単にまとめておきます!

  • 発酵性糖類

酵母が資化できる糖類のことで,グルコースやフルクトース,スクロース,マルトースなどがこれに該当します。糖化で抽出されるウォートに発酵性糖類は多く含有される場合は,発酵時に得られるアルコールの分量(アルコール収率)が向上します。

  • 非発酵性糖類

酵母が資化できない糖類のことで,五糖類以上の糖及び,イソマルトースなどのごく一部の2〜4糖類がこちらに該当します。これらは発酵には関与しませんが,含有量が多い場合は,発酵後の溶液(ウォッシュ)に糖類が残存するため,甘みが強く重い重い酒質が得られる傾向があります。


デンプンとは…?

デンプン((C6H12O6)n)は大麦を含む穀物や芋類の主成分であり,発酵に必要な糖類の元となる物質になります。

その構造は,単糖であるグルコースが多数結合したものとなっており,グルコースが直線上に結合して螺旋構造を取った「アミロース」と,グルコースが数十個単位で分岐しながら網目状に結合した「アミロペクチン」が混在する形で成立しています。

この構成比は穀物によって異なり,多くは「アミロース:アミロペクチン=2:8」程度ですが,もち麦のようにアミロペクチン100%で構成されるものもあります。


酵素とは…?

酵素は主に生体内の化学反応において,触媒の役割を果たすものであり,生物が作り出したタンパク質でできているものが多く存在します。

酵素の種類は4000種類(登録数は約2400種)程度あるとされており,それぞれが「基質特異性」と呼ばれる,ある特定の物質や反応のみに対して機能を果たす性質を有しています。また作用する環境にも条件を持つものが多く,温度や液体のpHなどを調整することで,狙った反応のみを進めることが可能です。

ウイスキー作りにおいてもこの性質を活用することで,麦芽に存在するデンプンやタンパク質を分解させており,特にデンプンの分解を促進する酵素は「アミラーゼ」,タンパク質の分解を促進させる酵素は「ペプチターゼ」と言います。

アミラーゼとペプチターゼの特徴についても簡単に説明しておきます。

  • アミラーゼ

アミラーゼはデンプンを分解させる酵素の総称であり,α-アミラーゼβアミラーゼなどに分けられます。αとβでは作用する温度やpHによって少し異なる他,最終的に分解できる糖類の単位が異なってきます。

αアミラーゼはpH5.6-5.8程度かつ温度65−70℃で最も活性化し,デンプンを7〜9糖類程度の非発酵性糖類の単位に分解します。一方βアミラーゼはpH5.4-5.6程度かつ温度57-66℃で最も活性化し,デンプンは単糖のマルトースの単位で分解します。

  • ペプチターゼ

ペプチターゼはタンパク質のペプチド結合を加水分解させることで,アミノ酸を生成させる酵素になります。発酵とは直接的に関係しないものの,多様な香味成分の生成に一役買っています。

使用機器について

糖化の工程で使用される機器について種類やその役割を説明しておきます!

モルトミル

モルトミルは麦芽を粉砕するために使用される機械であり,回転する金属棒を活用したローラーミルや,衝撃で砕くハンマーミルなどの複数の種類があります。

通常モルトウイスキーの製造においては粉砕物の粒度に幅を持たせることで,濾過層の役割も担わせていることから,粒度の微調整が可能なローラーミルが使用されます。

ローラーミルの仕組みは,動力により回転する金属棒とフリーな回転棒の間に麦芽を通すことで,2本のローラーの速度差を利用して砕くというものになります。2本の棒の間隔を調整することで粒度の調整を行うことが可能です。

ちなみにこの2ローラータイプのほか,2組の棒から成る4ローラータイプや3組の棒から成る6ローラータイプのモルトミルも存在しています。

モルトミル
出典:whisky.com

糖化槽(マッシュタン)

マッシュタンは実際に糖化作業が行われる槽のことであり,銅やステンレス製の円筒形の容器で,蓋は有るものと無いものがあります。

一部の蒸留所を除いて,ほとんどのマッシュタンにはレーキと呼ばれる熊手状の攪拌装置が設置されており,自動的にマッシュを攪拌することができます。このような機構を持つマッシュタンはロイタータンと呼ばれます。

タンの底部には,ロイター板という0.5〜1mm程度のスリットを有する濾し器が設置されており,ここからウォートが回収されます。

またロイタータンにはセミロイターとフルロイターに2種類があり,セミロイターはレーキが上下方向に動かず,フルロイターはレーキの上下稼働が可能です。レーキの上下稼働には内容物の沈澱を促す効果があり,得られるウォートがより清澄となります。

セミロイタータンでは,ロイター板で濾過しきれなかった浮遊物を沈殿・除去するアンダーバックと呼ばれる容器に繋がれています。

セミロイタータン内部
出典:whisky.com
フルロイタータン内部
出典:whisky.com

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参考資料

参考サイト:whisky.com