記事の概要
先日『通信販売酒類小売業免許』を取得しました。
昨今ウイスキー人気が加熱する中で,私の様に酒類の販売をやってみたいと考えている方も意外と多いのではないでしょうか。私自身もそんな方々の一人であり,数年前からボンヤリと『酒屋を運営する自分』という幻想を描いていました。
私自身には元手となる資金もかなり少なく,書類作成のノウハウもほぼ無し。そしてネットに出回る免許取得の経験談もほとんどないという絶望的な中で,”免許の取得が本当に可能なのか?”という確証がないまま個人で申請を進めていたため,かなりしんどかったのが正直なところです。
そこでこの記事では,『個人で通信販売酒類小売業免許の取得を考えている』という方々に向け,私の実体験に基づいて”こんな情報があったら助かったのに…”という様な内容を記事にまとめていきますので,是非ご参考としてください!
▽私の申請条件▽
個人での免許取得|扱う酒類はウイスキー(輸入酒類のみ)|父所有の実家マンションの一室を使用|事業資金は40万円程度
免許申請に必要な書類
申請に必要な書類(※私の場合)は下記の通りでした。個別の資料について,私がどのように記入したかという経験に基づいて順次解説していきたいと思います。尚,申請条件によっては必要書類が増える場合もあるので,これはあくまでも私の一例であることにご留意ください。
※私の場合の条件=「個人での免許取得|扱う酒類はウイスキー(輸入酒類のみ)|父所有の実家マンションの一室を使用」
- 様式(申請書,次葉,チェック表,誓約書など)
- 収支計算書
- 個人の履歴書・住民票
- 土地と建物,双方の全部事項証明書
- 市町村民税,都道府県民税の納税署名書
- 酒類販売管理研修受講証のコピー
- 銀行残高の証明書類
- 通販サイトの概要図
- (賃貸借契約書)
※賃貸や親族所有の物件を使用する場合は必要 - (マンション理事会の許可)
※集合住宅を使用する場合
酒類販売業免許申請書・次葉・誓約書・チェック表
これらの書類は基本的に国税庁の様式に沿って記入を進める形になります。申請の手引きをネット上で閲覧することが可能なので,その通りに進めましょう。(私の地域の場合ですが,税務署に問い合わせたところ,手引きの通りに進めてくださいと言われ,個別の相談等は必要なさそうでした。)
念の為各様式の中でも,少々書くのに難儀した部分をまとめておこうと思います。
酒類販売業免許申請書
この申請書は申請者の情報や販売場の場所,販売業の形態など,事業の概要的な情報を記入する様式になります。
基本的にはネット上の手引きに沿って入力すれば問題ありませんでしたが,1点だけ混乱したのが『販売場の所在地』の地番と住居表示を記入する部分でした。私のケースでは,法務局から取り寄せた全部事項証明書の通りに記載することでクリアできました。
次葉1〜3
次葉の1〜3は,酒類の販売場に関する場所や配置図等を記載する様式になります。
次葉1〜2について,私の場合マンションの一室での申請だったので,敷地の状況図と配置図の記載方法が分からなくて,少々難儀しました。そこで税務署に問い合わせて聞いてみたところ,次葉1にはGoogleマップのスクショにマンションの敷地内を赤で囲ったもの,次葉2には室内の全体図に使用する一部屋を赤で囲ったものと部屋内の倉庫と事務所の区分けを表記すれば良いとのことでした。尚,私は参考までにマンションのカタログ図面も添付して提出しました。
次葉3は,事務所や倉庫などの面積をどうするかが悩みどころだと思いますが,私の場合は建物の全部事項証明書に記載されている面積を敷地面積とし,カタログから計算した販売場となる一部屋の面積を建物面積としたところ,問題なく許可されました。なお事務所と倉庫の面積は,次葉2の図面から概算で算出しました。
次葉4〜5
次葉の4〜5は,事業の収支の見込みや,事業規模に対して所用資金が足りているかなど,資金関係の見込みを示す様式になります。
次葉4の作成においては,収入と支出を計算し,しっかりと酒屋さんを黒字経営する見込みがあるかどうかの見通しを立てる必要があります。私の場合は後述する「収支計算書」を表計算ソフトで作成し,その内容の通りに記入することで問題なく受理されました。
次葉5では,次葉4に基づいた仕入れ額の見込みや,設備投資の金額,そしてそれらに対して現在の所要資金が不足していないかを記入することとなります。私の場合は所用資金の金額が約40万円程度とかなり小規模の申請でしたが,その額で問題なく事業を回せるよう,仕入れの金額を計算することで問題なく突破できました。
これらのコツとしては,おおまかな収支計算書を作成したのち,様式の記入例に書かれている仕入額・利益・所用資金の『金額の割合』が,自分が作成した各種金額の割合と大きく逸脱していないかを確認する,というのが良いかと思います。
収支計算書
収支計算書はおそらく免許申請の難関のひとつと言えるでしょう。作成方法は人それぞれOKと思いますが,以下私の作成フローを記載しておきます。尚,私は小ビン詰替販売を想定して計算したので,酒類の仕入れと小ビン代金を分けて計上するのが大変でした。
- 所有資金から初月の仕入れ額,以降の月の仕入れ額を決める。
- 月当たりの在庫回転率を決める。(仕入れた分+在庫の合計の何割が1ヶ月に売れるのか)
※回転率は日本政策金融公庫の小規模企業の経営指標調査2023年を参考に,さらに低い数値を設定しておきました。 - 事業規模が拡大する水準を目安に,原価に対する粗利率を決める。
※私の場合は,仕入金額を定額のままにしても1年間は売上金額が減少しないギリギリを攻めた。 - 上記をもとに1年分の仕入れ・売上を計算する。
※「一月の売り上げ=(在庫+月の仕入れ)×在庫回転率×粗利率」を一年分積み上げる。 - 次葉4の必要事項を埋めていく。
※販売費一般管理費は,通販サイトの運営費や包装用品代などを計算して入れておいた。
個人の履歴書・住民票
自分の経験や住所などを示すものとして,履歴書と住民票の提出が必要です。
住民票については言わずもがな。履歴書に関しては通常よりも簡易なもので良いようで,顔写真等は不要。記載内容は名前と住所,生年月日,最終学歴と職歴だけで大丈夫でした。私は前職を辞めてから申請しましたが,在職中の方は副業の許可等が必要となる場合がありそうなので,細かくは税務署への問い合わせをオススメします。
土地・建物双方の全部事項証明書
販売場となる土地・建物の全部事項証明書が必要です。
私の場合は父が一室を所有するマンションでしたので,その部屋に係る証明書とマンションの建つ土地の証明書が必要でした。書類は法務局で取得することが可能ですが,私は実際に取りにいくのが面倒でしたので,ネット申請をして自宅に郵送してもらいました。
賃貸借契約書
免許を申請する販売上について,賃貸を初めとした誰かしらが所有している土地・建物でを使用する際には,賃貸借契約書が必要となります。
私の場合は所有者である父との話し合いの結果,賃貸料金は不要となりましたが,通常の賃貸借契約書を作成してしまうと金額の記載が必要とのことで少々難儀しました。最終的には「使用貸借契約書」という,無償での貸し出しを約束する書類の様式をネットから拾ってきて作成したところ,OKでした。
市町村民税・都道府県民税の納税証明書
滞納処分を受けたことがない旨や税金の滞納がない旨を示すために,市町村民税及び都道府県民税の納税証明書が必要となります。
私は市役所で取得できる市町村民税の納税証明書のみを提出してしまいましたが,指摘によって都道府県民税に関する書類が必要となる事実が発覚しました。また私は過去3年間のうちに2回引越しをしていたので,合計3自治体分の書類が必要となりかなり面倒くさかったです。引越し暦のある方はあらかじめ準備をしておきましょう。
酒類販売管理研修の受講証明書(コピー)
販売免許の申請に際して,免許取得までの間に酒類販売管理者講習を受講する必要があります。申請時点では受講していなくても大丈夫なようですが,最終的に受講証のコピーを提出する必要があるため,早めに受けておくと良いでしょう。
研修実施団体は複数ありますが,私の場合はネットで検索し,アクセスと日時の都合が良いものを選んで受講しました。参考までに受講料は5,000円で,申込時にクレジットカードで支払いました。
銀行残高の証明書類
酒屋開業に際し,必要な所有資金をきちんと持っていることを証明するために,銀行残高のわかる書類の提出が必要となります。
私は事業にメインで使おうと思っている口座について,次葉と相違ない残高であることが分かるように過去2ヶ月分の取引明細書(残高の記載あり)を添付しました。正直なところ,想定の事業規模が小さかったこともあり,この部分を一番危惧していたのですが蓋を開けてみれば指摘などは全くありませんでしたね。
通販サイトの概要図
最後,実際にネット販売を行う方法として,通販サイトの概要図や販売に関するメールの送信画面などの例示を行う必要があります。
私の場合は実際にネットショップ開設サービスを契約し,実際に運用するつもりでサイトを作り込み,販売画面や商品ページ,購入手続きの画面などのスクショや,販売手続き後に送信されるメールの案,納品書などを準備して添付しました。尚,20歳以下の人物に酒類を販売しない旨を示す文言を随所に入れる必要があります。ネットショップ開設サービスの利用にはお金がかかりますが,通販サイトの作り込みをゼロからイメージするのはほぼ不可能なので致し方ないでしょう。
マンション理事会の許可
マンションなどの集合住宅は,管理組合の規定によって事業利用が許されていない場合が多く,その場合は特別な許可をもらう必要があります。正直私はこれに一番難儀しました。
私の場合は10月中には税務署に書類を提出したいと考えていたため,マンションの管理者には10月上旬頃に事業利用の許可が欲しい旨を打診しました。しかしながら実際には住民との協議や書類の作成などが必要となり,最終的にマンションの使用許可書を頂いたのは12月13日となってしまいました。もしも急ぎで免許を取得したい場合は,このような外部からの許可をいかに早く貰えるかが鍵になりそうです。
【実体験】
私の申請スケジュールについて
最後に,免許取得の申請に関する実際のスケジュール感をまとめておきたいと思います。改めて振り返ったところ,免許取得を志してから約半年かかっていました。しかしながらマンションの許可に要した2ヶ月間と,税務署への書類提出後の2ヶ月間,これらの4ヶ月は減らすことのできない期間でしたので,行政書士を介さない個人での申請としては上手くいっているのではないかと振り返ります。
9月1日 | 前職を辞し,「通信販売酒類小売業免許」の取得を本格的に志す |
9月下旬 | 必要な書類を電話で税務署に確認したところ,ネットの手引きに基づいて書類作成し,郵送で提出する旨の説明を受けた。 →以降は順次各種様式の作成を行った(詳細は後述) →+α 外部の承認が必要な事項として「マンションの使用許可」が必要であったため準備を進める。 |
10月4日 | 酒類販売管理者研修を受講した。(私は日本ボランタリーチェーン協会にて受講) |
10月上旬 | マンションの管理会社に使用許可をいただきたい旨を打診し,許可書の様式を郵送にて提出した。 |
10月下旬 | 管理会社より住民との協議が必要となる旨の通達を受け,その日を11月11日に設定した。 |
11月11日 | マンション担当者及び住民代表者との面会を行い,住民に迷惑をかけない旨の説明及び念書の作成を約束し,なんとか部屋の事業利用許可をいただく。 |
11月26日 | 管理組合との間に念書を締結し,理事会からの使用承諾書を後日郵送で受け取ることを約束した。 |
12月上旬 | 前日の念書等の体裁について軽微な不備があり,少々工程が遅れる。 |
12月13日 | 申請書類の準備が完了した。 免許申請書類一式をポスト投函・郵送によって税務署に提出した。 |
12月25日 | 税務署から連絡が来ていなかったため,確認の電話を入れたところ,書類は無事受理されていた。 税務署担当者より,年明けに連絡が来るとのこと。 |
1月11日 | 税務署担当者より入電。不足書類「納税証明書」の提出を求められた。(過去に複数回引越しをしていたため,計3自治体分が必要であった) また収支計算書に関する簡単な質問や,免許取得後の提出書類の確認などを受けた。 |
1月中旬 | 住民税の納税証明書を再提出するも,更に都税・県税の納税証明書が必要であったため,書類を取得して再提出した。 |
2月14日 | 税務署から電話があり,免許を送付する旨を伝えられた。(最終的に書類の修正等の指摘は無かった。) |
2月下旬 | 登録免許税(30,000円)の納付を完了し,その領収書及び酒類販売管理者選任届を郵送によって提出した。 |
最後に
この記事では,ネット酒屋開業を夢見る人々の参考になるように,私の実体験に基づく申請の要点をまとめてみました。
私が申請する際にはネットに出回る体験談がほとんどなく,身近に教えてくれる人もいない。加えて行政書士さんに頼るお金もないということで,かなり暗中模索な申請となってしましましたが,結果として無事に免許を取得することができましたので,次は可能な限り同志を助けていきたい所存です。またあくまでも体験に基づいた助言しかできませんが,申請のお悩みをメールやSNS等でご相談頂ければ,もう少し具体的な内容をお伝えしたいと思います!