記事の概要
グレーンウイスキーは特徴や個性があまりないことから「サイレントスピリッツ」とも呼ばれています。
単体でリリースされることは多くありませんが,その無個性な飲みやすさを武器として,主に世界的にも大きなシェアを有するブレンデッドウイスキーの生産に活用されています。
この記事では「グレーンウイスキー」について,スコットランドに所在する7つの蒸留所と製法についてまとめました!
\\執筆者情報//
初谷(はつがい)
ウイスキーに関わるあらゆる情報をまとめ,「ウイスキーを知りながらより深く楽しめる記事」を発信しています。
【Shop】ウイスキー専門店『Drinkable books』
【経歴】東京都立大卒|元公務員・ネット酒屋開業
【資格】JWRC公認ウイスキーエキスパート|ウイスキー検定2級
【その他】バンド「Candid moment」のドラマー
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グレーンウイスキーの概要
まずは「グレーンウイスキーとはなんぞや?」という部分について,本場スコットランドでの定義や特徴などを踏まえつつ解説をしていきます!
スコットランドにおける定義
実はスコットランドの定義上でモルトウイスキーとグレーンウイスキーを大きく隔てる個別の定義はなく,基本的には同じ要件を満たしていることが求められています。その要件についてここで一覧に示しておきましょう。
- 原料として水,酵母,大麦麦芽及びその他の穀物を原料とすること
- スコットランドの蒸留所内で糖化・発酵・蒸留を行うこと
- アルコール度数94.8%以下で蒸留すること
- 容量700リットル以下のオーク樽で熟成させること
- スコットランド国内の保税倉庫で3年以上熟成させること
- 添加物は水及びスピリットカラメルのみ認められる
- アルコール度数40%以上でボトリングすること
グレーンウイスキーの製造
グレーンウイスキーは主に「原料の粉砕」「煮沸・糖化」「発酵」「蒸留」「熟成」という流れを経て生産されています。
各工程について簡単に解説をしていきます!
原料について
ポイント
グレーンウイスキーの主たる原料はとうもろこしや小麦,未発芽の大麦などのさまざまな穀物になります。基本的にグレーンは個性を追求するものではないため,原料の調達単価ベースで経済的なものを選択する場合が多いようです。例えば日本では北米や南フランスで採れたとうもろこしが使用されるケースが多くなっているとのこと。
またアルコールを発生させるためにはこのような穀物に含まれるデンプンを糖類に変換する「糖化」を行う必要があります。しかし一般的にグレーンの原料となる穀物には糖化を生じさせるだけの糖化酵素が十分に含まれていません。そこで主原料の総量の10〜20%程度に副原料として大麦麦芽(通常は六条大麦)を添加することでこの酵素を賄います。
市販されているシングルグレーンウイスキーの原料欄が「グレーン・モルト」となっているのはこれが理由となっています。
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粉砕について
ポイント
モルトウイスキーの製造と同様に原料の穀物はまず粉砕されることとなります。グレーンウイスキー製造における原料の粉砕は主に2つの方法が主流であり,それぞれ「ハンマーミルで細かく粉砕」と「ハンマーミルとローラーミルの併用」になります。
ハンマーミルというのはハンマーを有するディスクをギザギザの壁面を持つミルの中で回転させ,壁との衝突時の衝撃で粉砕するといった仕組みのミルになります。出口となる部分の目の粗さによって粉砕物の粒度を調整することが可能です。
モルトウイスキーと異なって原料の粉砕にハンマーミルを使用する背景には,グレーンウイスキーの場合は糖化後にハスクを天然の濾過剤とした濾過を行わない蒸留所が多く,粉砕後の粒の大きさにあまりこだわる必要がないから,といった理由があります。
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煮沸・糖化について
ポイント
未発芽の穀物は非常に固く,モルトウイスキーのように簡単に糖化を行うことができないため,予め煮沸(クッキング)を行う必要があります。
そのため粉砕された穀物(大麦麦芽以外)はスラリータンクと呼ばれる容器に移され,40〜70℃程度のお湯と混合されたのち,クッカーと呼ばれる巨大な圧力釜に投入されて90〜150℃まで加熱を行います。
このクッカーにはバッチ式と連続式の2種類があり,バッチ式は各バッチごとに90〜150℃の熱湯で20〜50分間かけて処理するもので,連続式は120〜150℃程度の高温で,バッチの区切りなく概ね5分間程度で処理する手法になります。また内部に加熱用の蒸気パイプと共に,冷却用のパイプが付いている場合がほとんどです。
ちなみに穀物によってクッキングに要する時間が異なり,代表的な穀物で比較をすると「大麦<ライ麦<とうもろこし」の順に長く時間がかかります。
クッキングを終えるとその溶液は一度60〜70℃程度まで冷却され,そこに酵素力の強い六条大麦の粉砕物と水の混合物を投入することで糖化が進められます。この混合物について,大麦を含む穀物と仕込み水の割合は「穀物:水=1:2.5」程度とされます。
麦芽投入以降の糖化に要する時間は概ね30分程度であり,濾過は行われない場合が多くなっています。
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発酵について
ポイント
糖化液は酵母の活性が保たれる18〜30℃程度まで冷却されたのち,糖液に対して0.05〜0.2%程度の分量の酵母とともに発酵槽に移されます。この酵母については,モルトウイスキーとは異なり,なるべく原酒に個性を与えないニュートラルな酒質を生むものが好まれます。
発酵に要する時間は概ね4日程度とモルトウイスキーよりも長めで,完成するもろみもアルコール度数約8〜11%程度とやや高めとなります。
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蒸留について
ポイント
グレーンウイスキーの蒸留では,モルトウイスキーの生産に用いられるポットスチルとは異なり,連続式蒸留器が使用されます。
連続式蒸留器は内部に数十段にも上る棚段を持つ塔状の蒸留器であり,もろみが断続的に投入されつつ各棚でアルコールの精留が繰り返され,最終的には度数90%を超えるスピリッツが連続的に得られます。熱効率に非常に優れており,大量の原酒をまとめて作ることが可能です。
また任意の棚から蒸留液を回収することもできるため,酒質やアルコール度数について,求める水準のものを得ることが可能です。
※連続式蒸留器の詳細な機構や種類については,かなり理解が難しいものとなっているので,後日連続式蒸留器に特化した記事を作成します!
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熟成について
ポイント
蒸留液はモルトウイスキーと同様に加水を行い,アルコール度数を60〜70%程度まで調整してから樽詰めされます。
グレーンウイスキーにはニュートラルな酒質が求められるため,樽成分の溶出が少ないリフィル樽を使用することが一般的です。またそもそも含有される香味成分が多様性に乏しいことから,長期間熟成させても変化が少ないのが特徴です。
スコットランドのグレーン蒸留所一覧
現在スコットランドには7つのグレーンウイスキー蒸留所があります。
ここでは各蒸留所の情報を端的にまとめていきます!
①キャメロンブリッジ
所在地 | ローランド ウィンディーゲーツ |
所有者 | ディアジオ社 |
創業年 | 1824年 |
ポイント
キャメロンブリッジ蒸留所はヘイグ家主導の元,ロバート・スタイン氏がピストリウスの3連式蒸留装置を原案として発明した連続式蒸留器をいち早く採用し,1824年に創業しました。
同家は1877年にDCL社設立メンバーに名を連ねており,キャメロンブリッジの経営を同社に移転,その後1920年代ごろまではモルトウイスキーの生産も行っていました。
現在の年間生産量は約1億リットルと莫大であり,シングルグレーンの販売やジンやウォッカの生産も行われています。
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②ストラスクライド
所在地 | ローランド グラスゴー |
所有者 | ペルノ・リカール社 |
創業年 | 1928年 |
ポイント
ストラスクライド蒸留時は現在のグラスゴーのゴーバルス地域の衰退した工業地帯の一角にあたる場所にて,1928年にシーガー・エバンス社の傘下にあたるスコティッシュ・グレーン・ディスティリング社の元で創業しました。
エバンス社はのちにシェンレー社に買収され,同社の元では敷地内に今は亡きモルトウイスキー工場であるキンクレイス蒸留所が併設されました。その後1958年にはロング・ジョン社に買収され,アライドグループ社を経て,現在はペルノリカール社の所有となっています。
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③ガーヴァン
所在地 | ローランド ガーヴァン |
所有者 | ウィリアム・グラント&サンズ社 |
創業年 | 1964年 |
ポイント
ガーヴァン蒸留所はウィリアム・グラント&サンズ社によって,グランツの原酒を作る目的で1964年に創業されました。
創業時はパテントスチルを導入しており,このスチルは今でも使用されています。また途中でパテントスチルの増設やカフェ式連続式蒸留器の追加が行われています。
グレーン生産設備の他に飼料処理プラントやブレンディング工場,アイルサベイ蒸留所,ジン(ヘンドリックス)の蒸留所など多数の施設を有する複合的な工場です。
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④ノース・ブリティッシュ
所在地 | ローランド エジンバラ |
所有者 | エドリントングループ社/ディアジオ社 共同出資 |
創業年 | 1887年 |
ポイント
ノースブリティッシュ蒸留所は1887年,DCL社に対抗するためにアンドリューアッシャー率いるエジンバラのブレンド企業と販売業社が共同出資にて設立しました。
カフェ式連続式蒸留器を備える他,サラディンボックス式のモルティング設備も備えた大規模な蒸留所となっており,グレーンの年間生産量は約1,200万リットルです。
また現在エドリントングループ社とディアジオ社の共同所有となっている稀有な蒸留所でもあります。
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⑤インバーゴードン
所在地 | 北ハイランド インバーゴードン |
所有者 | エンペラドール社 |
創業年 | 1961年 |
ポイント
インバーゴードン蒸留所は1961年よりカフェ式連続式蒸留器1基で生産を始め,のちに計4基の連続式蒸留器が増設されました。これらの5基のうち1基はニュートラルスピリッツの生産位使用されています。
また1965年〜1977年の間は同じ敷地内でモルトウイスキーを生産するベンウィヴィス蒸留所が稼働していました。
現在インバーゴードン蒸留所はフィリピンのエンペラドール社傘下であるホワイト&マッカイ社が所有しており,生産するグレーンの大部分が同社のブレンデッドウイスキーに使用されています。
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⑥ロッホローモンド
所在地 | 南ハイランド アレキサンドリア |
所有者 | ロッホローモンド |
創業年 | 1966年 |
ポイント
ロッホローモンド蒸留所はモルトとグレーンの両方を生産することができるスコットランドで唯一の蒸留所になります。
連続式蒸留器とポットスチルはもちろん,ブレンディング工場やボトリング施設まで保有しているため,独自に製造販売を行うことが可能です。
ちなみにスコットランド唯一のシングルブレンデッドウイスキーである「ロッホローモンド・シグネチャー」は私のイチオシウイスキーです!
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⑦スターロー
所在地 | ローランド |
所有者 | ラ・マルティニケーズ社 |
創業年 | 2010年 |
ポイント
スターロー蒸留所は,グレマレイ蒸留所を所有するフランスのラ・マルティニケーズ社によって,2007年に設立(2010年から生産開始)された新興のグレーン蒸留所です。年間生産能力は2,500万リットルになります。
グレーンウイスキーとニュートラルスピリッツの生産を行っている他,熟成庫やブレンディング設備,ボトリング設備などが併設されています。