【特集】ダフトミル蒸留所(Daftmill)|場所・歴史・製法・味と種類|ウイスキーラウンドアップ

記事の概要

世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。

今回はスコットランドより「ダフトミル蒸留所」になります!

Points!「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」

キーワード

本業は農家/フランシス氏が独力で生産/限定リリース争奪戦

ダフトミルの特徴

ローランドスタイルでフルーティ/ノンピート/自社農場の大麦/複雑で個性的/凝縮感のある多様な風味

ダフトミル蒸留所

ダフトミル蒸留所の立地・歴史・製法についてまとめていきます。

蒸留所の概要

創業年2005年
所有会社カスバート家
地域分類ローランド
発酵槽ステンレス製2基
ポットスチル初留1基・再留1基
仕込み水ダフトバーン
ブレンド先

「ダフトミル蒸留所」蒸留所の立地

ポイント

ダフトミル蒸留所はスコットランドのローランドに位置しています。具体的にはダンディーとグレンロセスの中間付近に当たる,ファイフ地方のクーパーという街に建っています。

蒸留所の建つ土地は長らくウォーカー家の所有地でしたが,カスバート家が1984年に購入し,野菜の栽培や畜産を営む360ヘクタールに及ぶ農地として活用してきました。この農地内でフランシス・カスバート氏が本業の農業の傍らの副業として,2005年に創業したのがダフトミル蒸留所でした。

また敷地内に立つ給水塔は地元のシンボルとなっており,家伝によるとかつてのウォーカー家所有時代にオランダ人の建築家によって建てられたとされています。

給水塔
出典:ダフトミル公式

「ダフトミル蒸留所」蒸留所の歴史

ダフトミル蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!

西暦年内容
1984年現在蒸留所の建っている農地をカスバート家が購入する
2003年フランシス・カスバート氏がナポレオン時代の工場を蒸留所にとして再建する計画を提出する
2005年ダフトミル蒸留所が完成する
ウイスキー製造のライセンスを獲得し,同年12月16日に最初の蒸留が行われた
2018年同年5月に最初のシングルモルトが629本限定でリリースされる

ダフトミルに纏わるストーリー

ウイスキー作りは副業

フランシス氏はファイフ地方に360ヘクタールの広大な農地を有するカスバート家の一員であり,2005年にダフトミル蒸留所を創業した人物です。

蒸留所の運営というとかなりの手間を有するように感じてしまいますが,カスバート家の本業は穀物や野菜などを栽培したり,牛や豚を飼っていたりと,れっきとした農家なのです。

そのため蒸留所としての操業は農業における閑散期にあたる,夏と冬の各2ヶ月ずつとなっており,フランシス氏が本業の傍で副業として,独力で生産活動を行なっているとのこと。

独力で運営しているだけあって,さすがに生産設備はコンパクトに運用しやすい配置とされていますが,もちろん生産規模は小さめ。そして本人も「農業が本業なので,蒸留してすぐにウイスキーを販売するつもりはない」と主張していることから,リリースも年に1〜2回程度の限定販売となっています。

販売の代理店はロンドン最古のワイン商であるベリー・ブラザーズ&ラッド社が行なっており,信頼の高い同社から販売されていることもあって,ダフトミルには人気が殺到していますね。

ちなみに本業で作った大麦は,ダフトミルに使用されるだけでなく,最大の顧客はあのマッカランを有するエドリントングループ社となっているようです。

「ダフトミル蒸留所」製法の特徴

  • 年間生産量
    6.5万リットル
  • 仕込み水
    ダフトバーン(敷地内の小川)
  • ピーテッドレベル
    ノンピート
  • マッシュタン材質
    ステンレス製セミロイター
  • マッシュタン容量
    1トン
  • ウォッシュバック
    ステンレス製2基
  • ウォッシュバック容量
    7,500リットル
  • 発酵時間
    72〜100時間程度
  • スチル加熱方式
    蒸気間接加熱
  • ポットスチル(初留)
    1基,3,000L
  • ポットスチル(再留)
    1基,2,000L
  • コンデンサー
    シェル&チューブ方式
  • ウェアハウス形式
    3段積みダンネージ式
  • 樽詰め度数
    63.5%

製麦について

ポイント

ダフトミル蒸留所では自社製麦を行なっておらず,アロアにあるクリスプ・モルティング社に委託しています。

使用される大麦はカスバート家が本業で栽培したコンチェルト種であり,ローズバンクのようなフルーティな酒質を理想としているため,ピートは全く焚かれていません。また大麦品種について2020年頃からローリエート種の栽培が行われているため,今後使用されることがあるかもしれません。

ちなみに自社の大麦のうち,100トンがダフトミル用に確保されており,これは製麦業者の中でも小規模なクリスプ・モルティング社に製麦委託を発注できる最小単位となっています。

原料のモルトはアランラドック社製の4ローラー式モルトミルで粉砕してグリストとしたのち,糖化の工程へと進みます!

糖化について

出典:google map

ポイント

ダフトミル蒸留所では仕込み水として,敷地内の農場を流れるダフトバーンという小川の水を採用しています。

マッシュタンは1バッチあたり1トンのグリスト容量を誇り,銅製の蓋を有するステンレス製のセミロイタータンを採用しています。

製麦によって得られたグリストはマッシュタンに投入され,加熱した仕込み水を温度を上げながら3回(64.5℃-77℃-88℃)に分けて注ぐことで糖化が進められます。この糖化手法はインフュージョン法と言います。

糖化が完了すると糖類を多く含んだウォートと呼ばれる溶液が得られます。

ちなみにダフトミルではウォート採取時の濾過に10時間程度の長い時間をかけており,可能な限り透明度の高いウォートを得ています。これは糖化を重要視するフランシス氏の強いこだわりです。

次の工程は発酵になります!

発酵について

ポイント

ダフトミル蒸留所にはステンレス製で容量7,500リットルのウォッシュバックが2基設置されており,発酵に使用される酵母はドライタイプです。

糖化によって得られたウォートは熱交換器を介して酵母の働きやすい20℃程度まで冷却されたのち,酵母と共にウォッシュバックに投入されることで発酵が進行していきます。酵母の分量は1バッチにつき5kgとなっています。

発酵にかける時間は72〜100時間程度と比較的長めに設定されており,ウォッシュバック1基あたり5,200リットル程度,エステルを豊富に含み,アルコール度数約7.5%程度となったウォッシュを得ることができます。

次の工程は蒸留になります!

蒸留について

出典:google map

ポイント

ダフトミル蒸留所には容量3,000リットルのウォッシュスチルと容量2,000リットルのスピリッツスチルが設置されています。

どちらもフォーサイス社製の小ぶりなストレート型であり,上向きのラインアームを有しています。スチルの加熱方式は蒸気による間接加熱方式,コンデンサーはシェル&チューブ方式が採用されています。

発酵によって得られた約5,200リットルのウォッシュは,半分量の2,600リットルずつウォッシュスチルに投入され,初留が行われます。初留が完了するとアルコール度数22%程度のローワインを約800リットル得ることができます。

続いてローワイン(800リットル)と前回の蒸留時に得られたフェインツ(800リットル)をスピリットスチルに投入し,再留が行われます。

再留によって得られるアルコールはスピリッツセイフと呼ばれる箱を経由し,蒸留初期・終期の不安定な香味成分を有する部分が除去されます。

この工程をミドルカットといい,通常は63〜73%でカットを行うところ,ダフトミルでは73〜78%というかなり高めの度数かつ狭い幅で行われています。またこの作業もフランシス氏自らの手によって行われます。

再留・ミドルカットを終えた時点で,アルコール度数が約75.5%となったニューポットが完成します。

次の工程は熟成になります!

フランシス氏のこだわり

フランシス氏は蒸留の工程について「蒸留速度を遅くしながらミドルカットの幅を狭めることで,スチルの形状よりも多くの影響をスピリッツに与えることができる」という見解を持っています。

また必要な作業が,ゆっくりと進行する蒸留を見守り決められた度数でカットを行うことだけであることから,「蒸留は簡単で猿でも訓練すれば覚えられる」とも言及していたとのこと(笑)

そのため現在の蒸留器についてもウイスキーのスタイルに関するこだわりは皆無であり,単に自分が好きな形状のものを選んだと言います。

このような見解の元,実際に再留後のミドルカットの幅は73〜78%とかなり高い度数かつ狭い範囲で行っており,これによって理想とするローランドスタイルが表現されています。

熟成について

出典:google map

ポイント

ダフトミル蒸留所には形式の異なるウェアハウスが3棟建っており,第1が土床のダンネージ式,第2がコンクリート床のダンネージ式,第3がラック式となっています。

使用される樽は約9割がバーボンバレルであり,ヘブンヒルから調達したものがその大部分を占めています。残りの1割にはシェリーバットが使用されます。両者ともに樽作りを専門とするスペイサイド・クーパレッジから仕入れています。

蒸留によって得られたニューポットは加水によってアルコール度数を63.5%に調整したのち,年間で100樽程度が樽詰めされてウェアハウスに安置されます。


オフィシャルボトル一覧

ダフトミル蒸留所のオフィシャルボトルは年間に1〜2回程度の限定リリースとなっており,夏・冬のふたつの時期に蒸留された原酒にフィーチャーしたサマーバッチウィンターバッチが販売されています。

通販に出回ることも稀ですが,たまに覗くと出品されていることもあるようなので飲んでみたい方は要チェックです!

ダフトミル
バッチリリース各種

ポイント

ダフトミルは生産量が極端に少ないため,シングルモルトリリースも限定品に限られており,サマーバッチ・ウィンターバッチ問わず日本への輸入数は概ね100〜300本程度となっています。

大麦の栽培からフランシス氏個人の手で生産され,大手酒販企業のベリー・ブラザーズ&ラッド社によって販売されるこのウイスキーは,世界中に多くのファンを抱えており,リリース時はまさに争奪戦。

幸運にも入手機会に恵まれた際には,絶対に逃してはいけないボトルのひとつです。

香り

りんご/バニラ/アプリコットジャム/レモン/バターブレッド

※2008サマーバッチリリース

味わい

オーク香/スパイシー/カルダモン/バニラ/カスタード/多様なフルーティ/ナッツ

※2008サマーバッチリリース


参考資料

参考サイト:WHISKY Magazine / scotchwhisky.com / ダフトミル公式サイト