記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回は「フェッターケアン蒸留所」になります!
Points!
「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
グラッドストン家|ホワイト&マッカイ|旧型マッシュタン|特殊な再留器
フェッターケアンの特徴
ノンピート多|ピーテッド少|モルティ|ナッティ|柑橘|ハーブ|ハチミツ
\\執筆者情報//
初谷(はつがい)
ウイスキーに関わるあらゆる情報をまとめ,「ウイスキーを知りながらより深く楽しめる記事」を発信しています。
【Shop】ウイスキー専門店『Drinkable books』
【経歴】東京都立大卒|元公務員・ネット酒屋開業
【資格】JWRC公認ウイスキーエキスパート|ウイスキー検定2級
【その他】バンド「Candid moment」のドラマー
各種SNSも運用中!
フェッターケアン蒸留所
フェッターケアン蒸留所の立地と概要・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所諸元
創業年 | 1824年 |
所有会社 | エンペラドール社 |
地域分類 | スコットランド,東ハイランド |
年間生産量 | 320万リットル |
発酵槽 | オレゴンパイン製11基 |
ポットスチル | 初留2基・再留2基 |
仕込み水 | ケアンゴーム山脈の2つの泉 |
ブレンド先 | ホワイト&マッカイ |
「フェッターケアン蒸留所」蒸留所の立地と概要
出典:whisky.com
ポイント
『フェッターケアン蒸留所』は,スコットランドの東ハイランド,グランピアン山脈の南東の麓にあるフェッターケアンの街に建てられています。その創業は1824年で,元々とうもろこし工場として使われていた建物を改装して使用しており,創業当初はその工場の名称から”ネザーミル蒸留所”と呼ばれていたことが知られています。
現在はホワイト&マッカイを手がけるフィリピンのエンペラドール社によって運営されていますが,その歴史上では100年間ほど,ブレンデッド業界を政界から盛り上げたグラッドストン家に所有されていた時期もある由緒正しい蒸留所です。
ウイスキーの製造ではノンピートとピーテッド双方のスタイルを使い分けたり,ネック外部を冷水が伝う特殊なポットスチルによる蒸留を行ったりと伝統的ながら革新的。多様性の犇くハイランドらしい程よい個性を持ったウイスキーが生み出されています。
ちなみに『フェッターケアン』という名称は,ゲール語で斜面を意味する”fetter”と,森を意味する”Cairn”から名付けられており,「斜面の上の森」という意味を持ってると考えられています。
「フェッターケアン蒸留所」蒸留所の歴史
フェッターケアン蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1824年 | 地主のアレクサンダー・ラムゼイ氏によってフェッターケアン蒸留所が設立される |
1830年 | 土地と蒸留所がジョン・グラッドストン卿へと売却される |
1887年 | 蒸留所が火災による被害を受ける 復旧には3年ほどの年月を要した |
1923年 | 蒸留所がロス&コールター社へと売却される |
1926年 | 蒸留所が閉鎖される |
1939年 | 蒸留所が政府の補助金を受けたアソシエイテッド・スコティッシュ・ディスティラーズ(ASD)社によって買収される ウイスキーの生産も再開された |
1954年 | 蒸留所がトム・スコット・サザーランド氏に買収される |
1966年 | 業績好調により,ポットスチルが2基から4基に増設される |
1971年 | 蒸留所がトミントール・グレンリベット社に買収される |
1973年 | 蒸留所がホワイト&マッカイ社に買収される |
1989年 | 蒸留所のビジターセンターが一般公開される |
2007年 | ホワイト&マッカイ社がユナイテッド・スピリッツ社に買収される |
2014年 | ユナイテッドスピリッツ社が,ホワイト&マッカイ社をエンペラドール社へと売却する |
2018年 | フェッターケアンのオフィシャルラインナップが刷新される |
フェッターケアンに纏わるストーリー
ウイスキー文化に最も理解を示した英国首相=ウィリアム・グラッドストン
フェッターケアン蒸留所を1830年に引き継いだジョン・グラッドストン氏の子息,ウィリアム・グラッドストン氏は,蒸留所の運営には直接的に関与していないものの,著名な英国政治家としてスコッチ産業界で大きな働きをした人物でした。
具体的には自由党の党員として60年以上のキャリアを持ち,その内1868年から194年にかけては,非連続ながら4期(12年)にわたって英国首相を務めており,ウイスキーに関連する政策の決定も複数こなしたことが知られていいます。例えば原料となる穀物類の輸入関税の撤廃,庫出し税の制定,スコッチの瓶詰め販売の許可などが挙げられます。
この中でも特に庫出し税制定の意味は大きく,以前は蒸留する度に税金が取られるケースなどがありました。しかし,それらが倉庫から市場への出荷の際のみに課税される庫出し税に一本化されることにより,ブレンデッドウイスキー業界の発展が大きく促進されました。
このようにグラッドストン家は1800年代にフェッターケアンを所有していただけでなく,特にウィリアム氏は政治を通してウイスキー業界の発展に大貢献をしました。その偉大なDNAを受け継ぐフェターケアン蒸留所には大きな存在意義があると言えるでしょう。
「フェッターケアン蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
320万L - 仕込み水
ケアンゴーム山脈の2つの泉 - モルトスター
外部,様々 - ピーテッドレベル
ノンピート
一部ヘビーピート - マッシュタン諸元
旧型プラウ&レイキ式 - マッシュタン容量
1バッチ5トン - ウォッシュバック
オレゴンパイン製11基 - ウォッシュバック容量
25,000L - 酵母
様々
- 発酵時間
48時間 - スチル加熱方式
蒸気間接加熱 - ポットスチル(初留)
ストレート型2基 - ウォッシュスチル容量
13,000L×2 - ポットスチル(再留)
ストレート型2基
(特殊な冷却機能付) - スピリッツスチル容量
13,500L・11,500L - コンデンサー
シェル&チューブ式
(ステンレス製) - 本留の度数
平均69% - ウェアハウス形式
全てダンネージ式
製麦について
出典:whisky.com
ポイント
フェッターケアン蒸留所では,1960年代以降自社製麦を実施しておらず,製麦工程は外部の専門業社(モルトスター)に委託をしています。
ピーテッドレベルは基本的にノンピートタイプとされていますが,1年のうち僅かにライトリーピーテッド,ヘビリーピーテッドの原酒が作られる期間もあります。
用意された原料のモルトはローラー式のモルトミルで粉砕し,グリストとされます。一般的にグリストはその粒径によってハスク(粗)・グリッツ(中)・フラワー(細)に分類され,それぞれの構成比は「2:7:1」とされます。
次の工程は糖化になります!
↓工程の詳細な解説↓
▼
糖化について
出典:whisky.com
ポイント
フェッターケアン蒸留所では,仕込水としてケアンゴーム山脈にある2つの泉の水を採用しています。またマッシュタンは伝統的な旧型のレイキ&プラウ式を採用しており,グリスト容量は1バッチあたり5トンとされています。
ここが特徴!
- ウォートは透き通った状態で確保されるため,採取的に完成するウイスキーはクリアな酒質になりやすい
次の工程は発酵になります!
↓工程の詳細な解説↓
▼
発酵について
出典:whisky.com
ポイント
フェッターケアン蒸留所には,容量25,000リットルでオレゴンパイン材の木製ウォッシュバックが11基設置されています。酵母は多様な種類のものを採用しており,発酵にかける時間は概ね48時間程度とされています。
ここが特徴!
- 木製ウォッシュバックでは,槽内の常在細菌の影響によって,蒸留所独特の風味が育まれている可能性がある。
- 48時間という発酵時間は比較的短めであると言え,乳酸発酵の影響を受けていないどっしりとしたテイストが養われていると考えられる。
次の工程は蒸留になります!
↓工程の詳細な解説↓
▼
蒸留について
出典:whisky.com
ポイント
フェッターケアン蒸留所には,容量13,000リットルのウォッシュスチルが2基,容量13,500リットル・11,500リットルの2サイズのスピリッツスチルが各1基ずつ,計2基設置されています。形状はどれもストレート型ですが,スピリッツスチルにはネックの外表面に流水を流し,蒸留時に蒸気の環流を促すことができる特殊な装備が実装されています。
ラインアームはやや下向きに伸びており,コンデンサーはシェル&チューブ方式が採用されています。このコンデンサーについて,現在は銅製となっていますが,1990年代まではステンレス製の特殊なものが採用されていました。
ここが特徴!
- ストレート型の蒸留器では,形状に起因する蒸気の環流が生じにくいが,特に再留器には外表面を流水が伝うシステムが導入されており,十分な蒸気の環流が生じる。
- 蒸気の環流が生じやすくなると,より軽やかでクリーンな成分を有したアルコール蒸気を多く厳選することが出来る。
次の工程は熟成になります!
↓工程の詳細な解説↓
▼
熟成について
出典:whisky.com
ポイント
フェッターケアン蒸留所には,敷地内に14棟のダンネージ式ウェアハウスが併設されており,およそ30,000樽程度を収容することが可能となっています。また熟成に使用する樽の種類については,一般的なバーボン樽とシェリー樽が中心とされていますが,一部の特殊なリリースに向けて特殊な樽を採用する場合もあります。
蒸留によって得られたニューポットは,加水によってアルコール度数を63.5%に調整したのちに樽詰めされ,ウェアハウスにて長い時間を眠ることとなります。
↓工程の詳細な解説↓
オフィシャルボトル一覧
フェッターケアン蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
フェッターケアン12年
ポイント
『フェッターケアン12年』はアメリカンオーク製のバーボン樽で12年以上の熟成を経た原酒で構成された,当蒸留所の最もスタンダードなオフィシャルシングルモルトになります。
標準的なバーボン樽で熟成されたこのウイスキーは愚直にフェタ~ケアンの美味しさを表現しており,ナッツのような香ばしい風味やトロピカルな華やかさが第一に感じられる印象。そのほかにもバニラやハチミツの甘さが続き,余韻にかけては柔和なスパイス感やコーヒーのようなビター感も現れてくる適度な個性が魅力的です。
Tasting Note
- 香り
穀物とハーブ|レモンとライム|ナッティ|バニラ|ハチミツ|薄く煙たさ
- 味わい
スイートな穀物感|香ばしいナッツ|トロピカル&柑橘|バニラ顆粒|木の苦味|うっすらスモーク
- 余韻
暖かいジンジャースパイス|ブラックコーヒー|ウッディビター
フェッターケアン16年
ポイント
『フェッターケアン16年』は2020年から毎年限定リリースされているシリーズ商品であり,毎回樽構成などが異なっています。
例として第2弾となる2021年リリースのボトルを取り上げると,こちらは1stFillオロロソシェリー樽,ReFillオロロソシェリー樽,1stFillパロ・コルタドシェリー樽の3種類の樽で熟成された原酒によって構成されています。その味わいでは砂糖をまぶしたアーモンドやドライフルーツ,芳醇な柑橘感などの華やかな要素を多く感じることができ,12年とは毛色が大きく異なる魅力を有しています。
Tasting Note
- 香り
香ばしいナッツ|レーズンとドライフルーツ|タンニン感|モルティ|ベリーっぽさ
- 味わい
シナモンスパイス|砂糖をまぶしたアーモンド|ドライフルーツ|木の苦味|ハーバル|バニラ
- 余韻
ウッディなビター感|スパイシー&ハーバル|アーモンド感
各種SNS運用中!
フォローしてね👍
参考資料
参考サイト:フェッターケアン公式|whisky.com|scotchwhisky.com|malt-whisky-madness.com|whiskipedia.com