記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回はスコットランドより「ベンロマック蒸留所」になります!
Points!「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
大手ボトラーズG&M社が再建/伝統のスペイサイドモルトを再現
ベンロマックの特徴
1stフィルのバーボン樽・シェリー樽/ライトリーピーテッド/甘さとピートスモークのバランス/リッチで深みがある
ベンロマック蒸留所
ベンロマック蒸留所の立地・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所の概要
創業年 | 1898年 |
所有会社 | ゴードン&マクファイル社 |
地域分類 | スコットランド スペイサイド フォレス地区 |
発酵槽 | カラ松製13基 |
ポットスチル | 初留1基・再留1基 |
仕込み水 | チャペルトンの泉 |
ブレンド先 | ジ・アンティカリー スペイキャストなど |
「ベンロマック蒸留所」蒸留所の立地
ポイント
ベンロマック蒸留所はスペイサイドのフォレス地区に位置しています。より具体的にはエルギンとインバネスを東西方向に繋いでいる幹線道路,A96号線沿いにあるフォレスの町の北側に位置しています。
ベンロマックはスペイサイドの蒸留所密集地帯からは西側に少し離れており,同じスペイサイドで最も近い蒸留所は東に8.5キロ程度の距離にあるグレンバーギ蒸留所です。
仕込み水はフォレスの町近郊のロマックヒルズにあるチャペルトンの泉から採取していますが,この水は19世紀の創業時から使用されているものと変わりありません。
ちなみにフォレスという町名はゲール語で「潅木の茂み」の意味を持ち,2000年前のローマ人が作成したブリテン島の地図にも載っているという,非常に長い歴史を有する町になります。
「ベンロマック蒸留所」蒸留所の歴史
ベンロマック蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1898年 | ダンカン・マッカラム氏とFWブリックマン氏の共同出資の元でベンロマック蒸留所が創業される |
1900年 | 資金難を理由として蒸留所が閉鎖される |
1907年 | ダンカン氏の元でフォレス蒸留所として稼働する |
1910年 | 蒸留所が再び閉鎖される |
1918年 | 蒸留所が再開される |
1931年 | 蒸留所が再び閉鎖される |
1936年 | 蒸留所が再開される |
1938年 | 蒸留所がジョセフ・ホップス氏に買収される 蒸留所がジョセフ氏からトレイン&マッキンタイア社(※)に譲渡される |
1953年 | トレイン&マッキンチア社がDCL社に買収される 蒸留所もDCLの所有となる |
1966年 | 施設の改装が行われ,自社によるフロアモルティングが廃止される |
1983年 | 蒸留所が閉鎖・解体される (ウォッシュバックだけは残置された模様) |
1987年 | DCL社は合併によりUD社となる |
1993年 | 蒸留所をゴードン&マクファイル社が買収する 生産再開に向けて大規模な改修工事・設備新設が開始される |
1998年 | 工事が完了し,ポットスチル2基が設置される 同年10月15日,生産が公式に再開される |
1999年 | ビジターセンターをオープンさせる |
2004年 | ベンロマック・トラディショナルが再開後初のリリースとなる |
2009年 | ベンロマック10年がリリースされる |
2013年 | 需要の拡大を受けてウェアハウスが2棟増設される |
2015年 | ベンロマック15年がリリースされる |
※より具体的には傘下のアソシエイテッド・スコティッシュ・ディスティラーズ・リミテッド社(<トレイン&マッキンタイア社<ナショナル・ディスティラーズ・オブ・アメリカ社)
ベンロマックに纏わるストーリー
「ベンロマック蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
70万L - 仕込み水
チャペルトンの泉 - モルトサプライ
ベアーズ,クリスプ,ブートモルトなど - ピーテッドレベル
ライトリーピーテッド
(8〜12ppm) - マッシュタン材質
ステンレス製セミロイター - マッシュタン容量
1バッチ1.5トン - ウォッシュバック
カラ松製13基 - ウォッシュバック容量
11,000L
(張込み7,500L) - 酵母
ビール・ディスティラーズ併用
- 発酵時間
72〜120時間 - スチル加熱方式
蒸気間接加熱 - ウォッシュスチル
1基,ストレート型 - ウォッシュスチル容量
10,000L
(張込み7,500L) - スピリッツスチル
1基,バルジ型 - スピリッツスチル容量
6,000L
(張込み4,500L) - コンデンサー
シェル&チューブ - ウェアハウス形式
ダンネージ式3棟 - 樽詰め度数
63.5%
製麦について
ポイント
ベンロマック蒸留所では1966年まで自社でのフロアモルティングが行われていました。G&M社傘下となった以降からはベアーズ,クリスプ,ブートモルトなど様々な製麦専門業社(モルトスター)から原料のモルトを購入しています。
使用されるのはスコットランド産の有機大麦のみで,ピーテッドレベルは8〜12ppm程度のライトリーピーテッドとされています。これには古き良き伝統的なスペイサイドモルトがライトリーピーテッドであったことを受け,それを再現するという意図が込められています。
約120年前に作られた4ローラー式のボビーミルを活用し,原料のモルトを粉砕してグリストとしたのち,糖化の工程へと進みます!
↓工程の詳細な解説↓
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糖化について
ポイント
ベンロマック蒸留所では仕込み水としてチャペルトンの泉の水を採用しています。マッシュタンは1バッチあたり1.5トンのグリスト容量を誇るステンレス製のセミロイタータンになります。
マッシュタンはG&M社が蒸留所を買収した時に新設されたものですが,仕込み水は創業時と同じものを使用しています。
製麦によって得られたグリストは,1回目のお湯と混合されたのちにマッシュタンへと投入され,2,3回目のお湯を温度を上げながらスパージングすることで糖化が進められます。この糖化手法はワンステップ・インフュージョン法と呼ばれています。
各回のお湯との接触ごとに,糖類を含有するウォートが抽出されており,通常糖類の含有量が多い1,2回目のウォートが発酵に回され,3回目のお湯は次回の糖化バッチに混合されることとなります。
ベンロマックのウォートはやや濁り気味とされており,純粋にアルコール収率を追求しているわけではなく,重心の低いリッチな酒質を目指していることが読み取れます。
次の工程は発酵になります!
↓工程の詳細な解説↓
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発酵について
ポイント
ベンロマック蒸留所にはカラ松製で容量11,000リットル(張込み7,500リットル)のウォッシュバックが13基設置されています。
発酵に使用される酵母はビール酵母とディスティラーズ酵母が併用されています。ビール酵母はアルコール収率に優れていないのでスコッチの業者が使用することは稀ですが,最終的にはより複雑なフレーバーを呈することから採用されました。
糖化によって得られたウォートは,熱交換器を介して20℃前後まで冷却されたのち,酵母と混合してウォッシュバックに投入することで発酵が始まります。
発酵にかける時間は72〜120時間と,かなり長めに設定されており,酵母と同様に複雑で多様性に富んだテイストを目標としています。発酵が完了するとアルコール度数約8%程度のウォッシュを得ることができます。
次の工程は蒸留になります!
↓工程の詳細な解説↓
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蒸留について
ポイント
ベンロマック蒸留所には容量10,000リットル(張込み7,500リットル)でストレート型のウォッシュスチルが1基,容量6,000リットル(張込み4,500リットル)でバルジ型のスピリッツスチルが1基設置されています。
加熱方式は蒸気による間接加熱方式,コンデンサーはシェル&チューブ方式となっており,これらのスチルはG&M社による蒸留所の買収後,再建を行う際に特注で新設されたものになります。
またスチルは両者ともにネックが細長く背が高いですが,スピリッツスチルについては還流ボールがありながら容量が非常に小さいため,独特なシャープでスパイシーな酒質が得られることとなります。
発酵によって得られたウォッシュはウォッシュスチルに投入されて初留が行われます。初留が完了するとアルコール度数が20%程度となったローワインを得ることができます。
続いてローワインは,前回蒸留の前留・後留と共に,スピリッツスチルへと投入され,再留が行われます。
再留によって得られるニューポットはスピリッツセイフと呼ばれる箱を経由し,その中でアルコール度数や含有成分の好ましくない蒸留初期・終期の蒸留液(前留・後留)がカットされ,性質の優れた中間の本留のみが確保されます。
この作業はミドルカットといい,熟練の技術と経験を有する蒸留技士(スチルマン)の管理のもとで行われます。
ベンロマックにおいて最終的に得られる本留は,アルコール度数は概ね70%程度で,甘みを有するどの熟成年数にも適した酒質となり,樽詰めまでの間はスピリッツレシーバーに保管されます。
余談ですが,このスピリッツレシーバーは100年以上前の創業時から使用されていたものになります。
次の工程は熟成になります!
↓工程の詳細な解説↓
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熟成について
ポイント
ベンロマック蒸留所には伝統的なダンネージ式のウェアハウスが3棟建てられています。熟成に使用される樽はファーストフィルのバーボン樽・シェリー樽を中心とし,ワイン樽やその他の酒精強化ワイン樽など多様なものが使用されています。
ボトラーズ企業でもあるG&M社は,「良い樽が良いウイスキーを作るための絶対条件」であることを熟知しており,樽の選定から熟成中の管理まで,徹底した注意を向け続けています。
蒸留によって得られた本留は,加水によってアルコール度数を熟成に適した63.5%に整えたのち,手作業で樽詰めされます。そしてダンネージ式ウェアハウスまで転がしていき,倉庫に安置されてからはモルトウイスキーの熟成に最適な環境で長い時間を眠ることとなります。
オフィシャルボトル一覧
ベンロマック蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
ベンロマック10年
ポイント
G&M社が1993年にベンロマックを買収していこう,再建やブランド再構築に努力を重ね,2009年にようやくリリースに漕ぎ着けた悲願のシングルモルトです。
5年間の試行錯誤の末に決定された新たなベンロマックの方向性は,ライトリーピーテッド麦芽が使用されていた時代の古き良き伝統的なスペイサイドモルト。このボトルもライトリーピーテッド麦芽で仕込まれた原酒が使用されています。
熟成には高品質のシェリー樽とバーボン樽を使用してオロロソシェリー樽でのフィニッシュを実施。各バッチのウイスキーは「ソレラ方式」で,一部が次のバッチの混合されており,安定した風味と高品質がキープされています。
G&M社のこだわりが詰まった熟成感に長けた10年熟成のベンロマックです!
香り
青リンゴ/ダークなはちみつ/バニラ/穏やかなピートスモーク/洋梨/レーズンの甘み
味わい
モルティなシリアル/煮込んだフルーツの甘さ/トフィー/ブラックチェリー/バニラ
余韻
モルティな甘みと香ばしく優しいピートスモークが長く続く
ベンロマック15年
ポイント
2015年にリリースされた15年熟成のベンロマックになります。通常のバーボン樽やシェリー樽のほか,チャーされた樽による熟成を経ることで濃密なウッドスモークやバニラの甘さが養われています。
リリース以降世界中で多くの賞を獲得しており,2018年のWWAではベストスコッチスペイサイドシングルモルトに輝いたことで,文字通りスペイサイドモルトの頂点となったボトルです。
ベンロマック21年
ポイント
G&M社の買収以降に生産された原酒を使用したリリースでは最長熟のオフィシャルボトルになります。
厳選された最高級のファースフィルのバーボン樽・シェリー樽による長期熟成を経て,ふくよかなシェリーの甘さやスパイス,ラズベリー,心地よいスモーキーなどの味わいが付与されており,バランスの良い壮大なスケールを感じることができます。
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参考資料
参考サイト:whisky.com / scotchwhisy.com / ベンロマック公式 / ジャパンインポートシステム / malt-whisky-madness.com / scotchwhisky.net