記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回はスコットランドより「バルミニック蒸留所」になります!
Points!「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
※名称について日本語でバルミニック派とバルメナック派がいます
キーワード
クロムデイルヒル/税吏の指摘と政府公認/カルーンジン
バルミニックの特徴
OBなし/ノンピート/厚みとコク/スイートでなめらか/秀逸なバランス感
バルミニック蒸留所
バルミニック蒸留所の立地・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所の概要
創業年 | 1824年 |
所有会社 | インターナショナル・ビバレッジ・ホールディングス (タイビバレッジ社傘下) |
地域分類 | スコットランド スペイサイド スペイ川中流域 |
発酵槽 | ダグラスファー製6基 |
ポットスチル | 初留3基・再留3基 |
仕込み水 | クロムデイルヒルの泉 |
ブレンド先 | ピータードーソン ロイヤルカリスなど |
「バルミニック蒸留所」蒸留所の立地
ポイント
バルミニック蒸留所はスペイサイドのスペイ川中流域に位置しています。より具体的にはスペイサイドの蒸留所密集地帯から南西に離れた位置にある,クロムデイルヒルの西側に位置しています。周辺にはクロムデイルヒルから流出した無数の小川が流れる自然豊かな土地です。
そして特に蒸留所のすぐ上にあるトムレゼンドリーの丘については,かつてスコットランド独立を目指したジャコバイトたちが最後まで抵抗した地であり,敗戦時の悲劇を歌った民謡にも残されています。
元々バルミニックはジェームズ・マクレガーという人物が農場経営の傍らに敷地内でウイスキーの密造を行なっていましたが,1824年に政府公認となり,現在はこれを正式な創業年としています。(公認に纏わるストーリーは後述)
また前述の通り蒸留所密集地隊から離れていることに加えて,蒸留所独自のツアーやビジターセンターなどが存在しないため,観光目的で訪れるには難易度の高い蒸留所です。
ちなみにBalmenachはゲール語で「真ん中の農場」とする解釈があり,日本語で表記する場合には「バルミニック」と「バルメナック」の2通りが見受けられますが,個人的に発音としてはバルミニックに近いと思っています。
「バルミニック蒸留所」蒸留所の歴史
バルミニック蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1824年 | 同年以前バルミニック蒸留所はウイスキーの密造を行なっていた 当時蒸留所を運営していたジェームズ・マクレガーによってバルミニックは政府公認となる |
1897年 | 会社の合併によりバルミニック・グレンリベットディスティラリー社が所有者となる |
1922年 | 蒸留所がマクドナルド・グリーン氏,ジェームズ・ワトソン氏,ピーター・ドーソン氏らを中心としたブレンダーグループの所有となる |
1925年 | 蒸留所がDCL社に買収される |
1930年 | 蒸留所がDCL社傘下のSMD社の所有となる |
1941年 | 戦争の影響によって蒸留所が閉鎖される |
1947年 | 蒸留所が再開される |
1962年 | ポットスチルが増設されて計6基体制となる |
1964年 | 自社によるフロアモルティングが廃止される サラディンボックス式の製麦設備が導入される |
1968年 | マッシュハウスの改装が行われる |
1980年代 半ば | サラディンボックス式製麦設備の使用が終了される |
1987年 | 会社合併により蒸留所の所有者がUD社となる |
1993年 | 蒸留所の稼働が停止される |
1997年 | 蒸留所がインバーハウス・ディスティラーズ社に買収される |
1998年 | 蒸留所が再稼働される |
2001年 | 会社がパシフィック・スピリット社に買収される |
2006年 | 会社がタイ・ビバレッジ社傘下のインターナショナル・ビバレッジ・ホールディングスに買収される 古い鋳鉄製マッシュタンにセミロイター設備が装備される |
2009年 | カルーンと名付けられたジンの生産が始まる |
2014年 | 鋳鉄製マッシュタンがステンレス製セミロイタータンに交換される |
バルミニックに纏わるストーリー
バルミニックに関係する小話を2点まとめてみました!タップで開いてみてください!
「バルミニック蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
280万リットル - 稼働時間
週5日
日曜夜22時〜金曜夜22時 - 仕込み水
クロムデイルヒルの泉 - ピーテッドレベル
ノンピート - マッシュタン材質
ステンレス製セミロイター - マッシュタン容量
8トン - ウォッシュバック
ダグラスファー製6基
- 発酵時間
平日56時間
週末90時間 - スチル加熱方式
蒸気間接加熱 - ポットスチル(初留)
3基,バルジ型 - ポットスチル(再留)
3基,バルジ型 - コンデンサー
ワームタブ式 - ウェアハウス形式
ダンネージ式3棟
製麦について
ポイント
バルミニック蒸留所では1964年には自社でのフロアモルティングによる製麦が,以降1980年代半ばまではサラディンボックス式での自社製麦が行われていました。
以降製麦は外部の専門業者(モルトスター)に委託しており,ピート処理を行わないノンピートタイプの麦芽を購入して原料としています。
モルトミルにて原料のモルトを粉砕してグリストとしたのち,糖化の工程へと進みます!
↓製麦工程の詳細な解説↓
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糖化について
ポイント
バルミニック蒸留所では仕込み水としてクロムデールヒルの泉の水を採用しています。マッシュタンは1バッチあたり8トンのグリスト容量を誇るステンレス製のセミロイタータンが設置されています。
このマッシュタンは2014年に新装されたものであり,以前はセミロイター設備を装着した鋳鉄製のものが使用されていました。
製麦によって得られたグリストは,1回目のお湯と混合されたのちにマッシュタンへと投入され,2,3回目のお湯を温度を上げながらスパージングすることで糖化が進められます。この糖化手法はインフュージョン法と呼ばれています。
各回ノオ湯との接触ごとに糖類を含有するウォートを得ることができ,通常糖類の含有率が高い1,2回目のウォートが発酵に回され,3回目のウォートは次の糖化バッチに混合されることとなります。
バルミニックでは糖化の管理をコンピューターで行っておらず,熟練の職人自らが温度管理やウォートの抽出速度を管理しています。
次の工程は発酵になります!
↓糖化工程の詳細な解説↓
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発酵について
ポイント
バルミニック蒸留所にはダグラスファー製のウォッシュバックが6基設置されています。発酵に使用する酵母は通常のディスティラーズ酵母になります。
発酵槽について,一般的にステンレス製の方が管理が容易く,効率性に優れるとされますが,バルミニックでは管理性よりも,ゆるやかな温度変化の発酵が可能である木製を採用しました。
糖化によって得られたウォートを,熱交換器を介して20℃前後まで冷却されたのち,酵母と共にウォッシュバックに投入することで発酵は始まります。
発酵にかける時間は連日稼働する平日は56時間,休日を挟む週末は90時間と,比較的長めに設定されています。発酵が完了するとアルコール度数約8%となったウォッシュを得ることができます。
次の工程は蒸留になります!
↓発酵工程の詳細な解説↓
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蒸留について
ポイント
バルミニック蒸留所には初留用のウォッシュスチルが3基,再留用のスピリッツスチルが3基設置されています。形状はどれもバルジ型で,ネックがかなり長く,ラインアームはやや下向きとなっています。
これらのポットスチルを手掛けたのはDCL社傘下であったアバクロンビー社であり,6基のうち1基はクイーンジュビリーの年(1977年)にロンドンの博覧会で展示された経歴があります。
加熱方式は蒸気による間接加熱方式,コンデンサーは90mの銅製パイプを備えた伝統的なワームタブ方式が採用されています。
発酵によって得られたウォッシュはまずウォッシュスチルに投入されて初留が行われます。初留が完了するとアルコール度数約20%程度となったローワインを得ることができます。
続いてローワインは前回蒸留の前留・後留とともにスピリッツスチルへと投入されて再留が行われます。再留によって得られるニューポットはスピリッツセイフと呼ばれる箱を経由し,度数や成分が好ましくない蒸留初期・終期の蒸留液(前留・後留)がカットされ,中間の本留のみが確保されます。。
この作業はミドルカットと呼ばれており,熟練の蒸留技士の管理のもとで行われます。
最終的に得られる本留は,アルコール度数が70%程度となっており,熟成までの間はスピリッツレシーバーと呼ばれる容器に保存されます。
次の工程は熟成になります!
↓蒸留工程の詳細な解説↓
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熟成について
ポイント
バルミニック蒸留所には伝統的なダンネージ式ウェアハウスが3棟設置されており,合計10,000樽程度の収容力があります。熟成に使用される樽はシェリー樽を中心として,バーボン樽などが使用されています。
多くの蒸留所で樽は何度も再利用されますが,使用されるたびに頭を使用回数を表す色に塗り替えるのが一般的であるところ,バルミニックでは毎回側板(ステーブ)にパンチマークを刻むことで,誰が見ても再利用回数がわかるように工夫をしています。
このマークが5つになるとリチャーを行い,パンチマークをスラッシュで区切ることでリセットされます。この方法はインバーハウス社(現在はタイ・ビバレッジ傘下)の5つの蒸留所全てで採用されています。
蒸留で確保された本留は,加水によってアルコール度数を熟成に適した63%程度に調整したのち,樽詰めされてウェアハウスにて長い時間を眠ることとなります。
ボトル紹介
バルミニック蒸留所のウイスキーはブレンデッド需要が非常に大きいため,現在公式リリースが行われていません。
かつてUD社の時代には花と動物シリーズから唯一のOBが出ていましたが,インバーハウス社に移ってからは無くなってしまいました。
そのためこの記事ではボトラーズボトルをいくつか紹介していきます!
ダグラスレイン
プロベナンス
バルミニック10年 2011
ポイント
スコットランドのダグラスレイン社が手がける長年人気のシリーズ,度数を46%で統一した「プロベナンス」からリリースされた,10年熟成のバルミニックです。
同社が所有する原酒の中からひと樽のみを厳選し,シングルカスクとしてノンチル・ノンカラーでボトリングされたのものが,このボトルになります。
リフィル樽で熟成されているため,樽由来の個性は控えめとなり,バルミニック本来の美味しさが詰まった1本となっています。また最も低価格帯でバルミニックを味わえるボトルでもあります!
香り
モルトの甘味/マーマレード/ブラウンシュガー/トフィー/柑橘のフレッシュ感
味わい
柑橘の甘さ/バター系の洋菓子/バニラ/ジンジャー/シナモン系スパイシー/キャラメル/トースト
ウイスキーエージェンシー
「アートワーク」
バルミニック9年 2012
ポイント
ウイスキーエージェンシーは世界中で話題となり,注目を浴びているドイツのボトラー企業です。
このボトルはウイスキーエージェンシーと日本の輸入企業であるスリーリバーズ社が両者でテイスティングし,優れた品質と認めた原酒で構成された「アートワーク」シリーズの1本になります。
ペドロヒメネスのシェリーホグスヘッドで9年間熟成された,2012年蒸留のバルミニックです!
香り
レーズン/チョコ/オークの甘さ/スパイシー
味わい
チョコレート/レーズン/香ばしい焼き菓子/オーク/コーヒー系ビター感
ダグラスレイン
オールドパティキュラー
バルミニック15年 2004
ポイント
スコットランドのダグラスレイン社が手がけるメインシリーズである「オールドパティキュラー」からリリースされた,15年熟成のバルミニックです。
リフィル樽で熟成されており,原酒本来の魅力がしっかりと生かされているのが特徴。樽の個性よりもバルミニックらしさを感じることのできる数少ないボトルです。
香り
フレッシュな柑橘/ジューシー/モルティな甘み/バニラ/カスタードクリーム
味わい
焼き林檎/ホワイトペッパー/香ばしいオーク/バニラ/柑橘/はちみつ/スパイシー
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参考資料
参考サイト:whisky.com / scotchwhisky.com / scotchwhisky.net / malt-whisky-madness.com / smws.hk / distilando.com / whiskyantique.com