記事の概要
ウイスキーはその製造工程の中で、樽熟成を行っています。
ひとえに「樽」といっても大きさや木材など様々な種類があります。
その種類によって完成するウイスキーの味わいも全く異なるものになるのです。
この記事では樽の「木材の種類」「樽の大きさ」「履歴」と味わいの関係をとりまとめていきます!
・自分好みのウイスキーを選べるようになりたい
・樽の種類について知識が曖昧で気になっていた
・違った系統のウイスキーにチャレンジしたい
といった方々の参考となれば幸いです!
樽のきほん
樽の形状と製作
ウイスキーの熟成に使用する樽は、一般に専門の樽造り業者「クーパレッジ」によって製作されます。
樽造りは基本的に手作業で行われていて、木を組む際に釘などの金属は使用されません。
樽の側板に使われる木材は、もともとはまっすぐな柾目の板です。
この木材を熱処理で曲げることによって、皆さんがよく知るふっくらとした形状の樽が作られています。
アーチ状の構造は強度の高さと転がしやすさが考慮されているという経験的側面があります。
樽の内面処理
ウイスキーの熟成に使用する樽は、成分をより多く溶出させるために、内面に熱処理が施されています。
熱処理の手法には次の2種類があります!
- チャー
▶ガスバーナーなどの強力な火力で木材を炭化させる方法
- トースト
▶遠赤外線高価等を活用してゆっくりと樽を加熱する方法
熱処理を行うことで、甘みやリグニンに由来するバニラ香を始めとして、様々な香味成分が溶出しやすくなります。
また樽は一度だけ使用されるわけではありません!
幾度か使われた後に再度熱処理(リチャー及びリトースト)を行い複数回使用されます。
再加熱された樽は再び成分が活性化されてその後50年以上に渡って熟成に使用することができます。
樽に使われる木材
ウイスキーの熟成に使用される樽は、基本的に全てオーク製です。
このオークという括りの中に様々な種類がありますが、ウイスキー造りに使用されるものは大きく4種類あります。
もちろんその品種によってウイスキーの味わいも変わってきます!
オークの品種と味わいの関係について見ていきましょう!
アメリカンホワイトオーク
文字通り、北米産のホワイトオークのことを指します。
ウイスキーの熟成に使用される樽の中では、このアメリカンホワイトオークが最もスタンダードです!
最近ではウイスキーの他にも、ワインやシェリー酒の保存にも使用されるようになっています。
↓↓ウイスキーに付与される味わい↓↓
バニラ/はちみつ/ナッツ/カラメル
スパニッシュオーク
ヨーロッパに生息するオークで、2大オークの一角を担う品種です。(別名コモンオーク)
かつてはワインやウイスキーの熟成に使用する樽材のうち、主流なものでした。
最近では故意的にシェリー酒を詰めてからシェリー樽(詳細は後述)として使用されることが多いです!
このオークはポリフェノールやタンニンを豊富に含んでおり、熟成に使うと非常に濃い色のウイスキーが完成します。
↓↓ウイスキーに付与される味わい↓↓
レーズン/ドライフルーツ/チョコレート/若干の渋み
フレンチオーク
こちらもヨーロッパに生息するオークの品種で、スパニッシュオークと並んで2大オークに数えられます。(別名セシルオーク)
名前の通りフランスでメジャーな品種で、最初はワインの熟成に使う樽としてよく知られていました。
スパニッシュオークと比較してもタンニンがとても多く含まれています。
↓↓ウイスキーに付与される味わい↓↓
スパイシー/濃いレーズン/渋み
ジャパニーズオーク
北海道を主産地とする日本固有のオークで、もともとは高級家具に使われていた貴重な木材になります。(別名ミズナラ)
初めてウイスキーの樽にミズナラを使用したのは山崎蒸留所であり、戦争の時代に品薄となった他の樽の代用として使用されたのが始まりです。
樽造りに最適な成長度合いは樹齢100年以上であり、加工も非常に困難なことから、ミズナラ樽熟成のウイスキーも貴重・高価なものが多くなっています。
↓↓ウイスキーに付与される味わい↓↓
和テイストの強い甘み/白檀/伽羅/お線香
樽の大きさ
樽には様々なサイズのものがあります。そして異なるサイズでは原酒と触れ合う樽内面の面積が変化するため、熟成の進み度合いが変わってくるというのは皆さんもイメージできるのではないでしょうか。
事実としてサイズと熟成の進行には相関があり,基本的には樽が小さいほど容量あたりの接触面積が大きくなるため熟成が早く進むとされています!
ここではウイスキーの熟成に使用される樽のサイズとその呼び名をまとめていきます!(小さい順)
クォーター
容量45〜50リットルの樽です。
クォーターはバレルの4分の1のサイズの樽になります。
サイズが小さいため、ウイスキーに触れる内面の面積が大きいため、熟成の進みが早いという特徴があります。
逆に長く熟成させてしまうと樽の要素が強く出すぎてしまうため、長期熟成には向いていません。
オクタブ
容量48〜68リットル程度の樽です。
通常シェリー樽として使用されているバットの8分の1のサイズの樽です。
最近のウイスキー業界で使われることは稀ですが、ボトラーズ界隈で、より複雑なフレーバーを求めて使用されることがあります。
バレル
容量180〜200リットルの樽です。
バレルは現在のウイスキー業界で最も多く使用されている樽です。
主にアメリカでバーボンの熟成を行うために製造されるため、アメリカンスタンダードバレルとも呼ばれています。
バーボンの熟成に使用された樽はアメリカ国内では法律上再利用できないため、バーボン樽として世界各地に出回っています。
ホグスヘッド
容量250リットルの樽です。
バーボン樽を解体した後に、側板を増やして形を調整して胴回りを大きめに組み直した樽です。
名前はウイスキーを詰めた状態の樽の重さが豚1頭と同じくらいの重さであることに由来しています。
サイズが比較的大きいので熟成は穏やかに進み、長期熟成に適しています。
バリック
容量220〜300リットルの樽です。
通常はワインの熟成に使用される樽です。
しかし最近では台湾のカバランが熟成に使用し、バリック樽熟成のボトルがIWSCで金賞を獲得した実績があります。
パンチョン
容量300〜500リットルの樽です。
バットよりも背が低く胴回りが太い形状をした樽を指し、容量にはばらつきがあります。
もともとはビール用の容量327リットルのものとラム用の容量545リットルのものがありました。
ウイスキー業界ではサントリーが独自に容量500リットルのものを作製・使用しています。
スコッチなどではあまり見受けられません。
バット
容量500リットル程度の樽です。
バットはラテン語で「大きい樽」を意味する言葉に由来した呼称です。
これらは一般にシェリー樽として使われており、シェリーバットと呼ばれています。
パイプ
容量410〜650リットルの樽です。
パイプは主にポートワインの熟成に使用される樽です。
ウイスキー業界では味わいの仕上げとして後熟に使用されることが多いです。
代表作として「グレンモーレンジ14年キンタルバン」で使用されていることでよく知られているかと思われます。
ドラム
容量650リットルの樽です。
ドラムはマデイラワインの熟成に標準的に使用される樽になります。
パイプ同様ウイスキー業界では後熟に使用されることがあります。
代表作として「キルホーマン マデイラカスク」に使用されています。
樽の履歴
ひとことで樽の履歴というと何のことかさっぱりという感じがしてしまいますね(泣)ここで言う樽の履歴というのは、熟成に使用する樽が「前に何のお酒を詰めていたのか」ということを意味しています。
例えばシェリー樽であればシェリー酒、バーボン樽であればバーボンといった形です!感覚的にも予想がつくかと思いますが、詰めていたお酒の種類によってウイスキーの味わいも変わります。
そこでここでは樽の履歴とウイスキーの味わいについてまとめていきます!!
シェリー樽
シェリー酒はスペイン・アンダルシア地方のヘレス(英語でシェリー)周辺で作られている酒精強化ワインの一種になります。
使用されるぶどうの品種としてはパロミノ・ペドロヒメネス・モスカテルなどがあります。
またシェリー酒の中でも製法によりいくつかの種類に分けられ、甘口にはペドロヒメネス・モスカテル、辛口にはフィノ・マンサリーニャ・オロロソなど多様です。
これらのシェリー酒を詰めた履歴の樽を使用した場合、ウイスキーにどのようなフレーバーが生まれるのかを書いておきます!
ペドロヒメネス
ぶどう/ドライフルーツ/強い甘み
モスカテル
フローラル/柑橘系/マスカット/レーズン
フィノ
塩っぽさ/カモミール/爽快/アーモンド
マンサニーリャ
ブラウンシュガー/はちみつ/チョコ
オロロソ
ウッディ/くるみ/コク深い/ダークチョコ
シェリー樽≠シェリーの熟成に使用した樽
シェリー酒はソレラシステムという方法で作られています。
これはピラミッド状に積んだ樽のうち、一番下から容量の3分の1程度をボトリングして、その分を上の樽から補充するという方法になります。
ちなみにソレラシステムに使用される樽材はアメリカンホワイトオークが一般的です。
ここまで聞いて気づいた人もいるかも知れませんが、ソレラシステムでは空き樽が出ないのです!
それでは一体ウイスキーの熟成に使用されるシェリー樽は何なのでしょうか??
かつて瓶のない時代には、ソレラシステムを終えたシェリー酒は他の樽に詰め替えて出荷されていました。
ちなみにこの樽は、アメリカンオークよりも安価であるスパニッシュオークやヨーロピアンオーク製のものでした。
この「安価でシェリーの輸送用に作られた樽」がウイスキーの熟成に使用されるようになりました。
ビンが登場してからはシェリー酒が樽で輸送されることも少なくなってしまいました。
そのため現在使われているシェリー樽は、新たに調達した樽に意図的にシェリー酒を詰めて作製されているケースがほとんどです!
マデイラワインカスク
マデイラワインはシェリーと同様に酒精強化ワインのひとつで、ポルトガルのマデイラ島で作られています。
こちらも甘口・辛口などいくつかの種類がありますが、ウイスキーの熟成に使用される場合はマデイラワインカスクとして括られてしまうため、詳細は省略します!
得られる風味
シロップのような甘さ/ミント/シトラス/爽快感
※キルホーマンや日本の江井ヶ嶋酒造がマデイラワインカスクのボトルを出していますが、すでに売り切れです(泣)
ポートワインカスク
ポートワインも酒精強化ワインのひとつで、ポルトガル北部のポート港で作られています。
ポートワインは3種類に分けることができ、それぞれルビーポート・トゥニーポート・ホワイトポートになります。
ウイスキー関係でよく聞くのはルビーポートとトゥニーポートになります!
ルビーポートカスクの特徴
タンニン由来の渋み/スパイシー/酸味
トゥニーポートカスクの特徴
カシス/柑橘系の甘み/深み
ワイン樽
こちらは一般的な赤ワインや白ワインを詰めていた樽。
ウイスキーの熟成に多く使用されるのは赤ワイン樽であり、濃い赤色と果実味をもたらします。
もちろんワインが持つタンニン由来の渋みもウイスキーに反映されることとなります。
代表的なワインとその樽から得られる風味についてまとめます!
バローロ(赤)カスクの特徴
重厚感/タンニン/ドライ
バーガンディ(赤)カスクの特徴※ブルゴーニュワインの樽のこと
甘み/レーズン/すっきり/香り高い
ソーテルヌ(白)カスクの特徴
レモン/ナシ/もも/強い甘み
アマローネ(赤)カスクの特徴
リッチ/チョコレート/燻製香
※「アラン アマローネカスク」がありますが通販ではどこも売り切れです(泣)
バーボン樽
バーボンはアメリカで作られるとうもろこしを主原料としたウイスキーになります。
ウイスキーの熟成は伝統的にシェリー樽(運搬用)によって行われていましたが、ビンの登場以来出回るシェリー樽の数が大きく減ってしまいます。
そこでスコットランドの職人たちはアメリカの法律上「一度しか熟成に使用できない」という縛りがあり、入手のしやすいバーボン樽に目をつけました。
またフレーバーについても、バーボン由来のバニラ香や甘さを得ることができ、スコッチウイスキーにとって非常に適したものでした。
こうして「入手の容易さとフレーバー」に利点のあるバーボン樽はウイスキー業界で一般的となり、今ではスコッチの9割がバーボン樽熟成になっています!
得られる風味
強力なバニラ/甘み/ナッツ/はちみつ
ビール樽
ビールを詰めていた樽になります。
そして意外とビール樽熟成のウイスキーは多く存在しています。
イチローズモルトやグレンフィディックからIPAカスクフィニッシュが出ていました!
得られる風味
カカオ感/ビターめ/ホップ
ラム樽
サトウキビを原料として作られるラムを熟成させていた樽になります。
ラムはお菓子作りにも使われるほど甘みの強いお酒です!
最近ではデュワーズカリビアンスムースやグレンリベットカリビアンリザーブなどが発売されていました!
得られる風味
カラメル/焦げた砂糖の苦味/超甘
まとめ
この記事では…
「木材の種類」/「樽の大きさ」/「樽の履歴」
の3つの観点からウイスキーの味わいとの関係をまとめてきました。
その結果としてウイスキーの風味において「木材の種類」「樽の大きさ」がまずベースとしてあり、「樽の履歴」によって大きな味わいの方向性が決められていることがわかりました。
そのため前者2つはウイスキーをより楽しむための知識として持っておき、「樽の履歴」から飲んでみたいウイスキーを決定していくと良いと思います!
まだ味わったことのないウイスキーを飲みたい人は、マイナーな履歴の樽が使用されたボトルを探してみると、際限のない楽しみを感じられると思います(笑)興味のある人の参考となれば幸いです!!
参考資料
参考サイト:barrel365.com cask-investment.com whiskylabo.com