【特集】アビンジャラク蒸留所(Abhainn Dearg)|場所・歴史・製法・味と種類|ウイスキーラウンドアップ

記事の概要

世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。

今回はスコットランドより「アビンジャラク蒸留所」になります!

Points!「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」

キーワード

畑から瓶詰めまで/赤い川/大きな密造用ヒルスチル

アビンジャラクの特徴

強めのピート香/潮の要素/モルティ/溶剤系の甘さ/オイリー/ウッディ

アビンジャラク蒸留所

アビンジャラク蒸留所の立地・歴史・製法についてまとめていきます。

蒸留所の概要

創業年2008年
所有会社マーク・テイバーン氏
地域分類スコットランド ルイス島
(アイランズモルト)
発酵槽ダグラスファー製2基
ポットスチル初留1基・再留1基
(ヒルスチル)
仕込み水アビンジャラク川
ブレンド先

「アビンジャラク蒸留所」蒸留所の立地

出典:google map

ポイント

アビンジャラク蒸留所はスコットランドのルイス島に位置しています。具体的には島の西海岸沿いのウイグの地にあった,サーモンの孵化養殖場であった建物を改装した蒸留所となっています。

ルイス島はスコットランド北西のアウターへブリディーズ諸島最大の島であり,面積は約2200平米と東京都と同じくらいです。

島の人口は1万9,000人ほどですが,その半数以上が島の中心付近にあるストーノウェイの街に集中しており,そこを離れると殺風景な高木のない不毛な大地が続いています。

ちなみにアビンジャラクはゲール語で「赤い川」を意味しており,この赤は血に由来しています。

何故「」なのかというと,かつてルイス島は海賊の支配を受けており,彼らは毎年税金を収めるように税吏を送り込んできていました。しかしある時島民の怒りが爆発し,送り込まれた税吏を倒して川に投げこんでしまいました

そんなストーリーから「赤い川」を意味するアビンジャラクが蒸留所の名前として採用されました。

「アビンジャラク蒸留所」蒸留所の歴史

アビンジャラク蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!(アビンジャラクの歴史と併せてルイス島のウイスキーの歴史もまとめておきます。)

西暦年内容
1600年代この頃より3種類程度の密造酒が生産されていたと,ライターのフィンズ・モリソン氏が言及している
生産されるウイスキーは質が低く,スプーン2杯を超えて飲むと死に至るほどであった
1800年頃ルイス島のコルやグレスにて密造酒が作られていた
1830年ルイス島でスチュワート・マッケンジー氏が政府公認のシューバーン蒸留所を創業する
1833年島内のストーノウェイの街にてシューバーンのウイスキーの需要が拡大する
1840年正確な理由は不明だが,おそらく経済的な問題によってシューバーン蒸留所が閉鎖される
以降アビンジャラク蒸留所の創業までルイス島でウイスキーが生産されることはなかった
1844年ルイス島が禁酒主義者であるジェームズ・マセソン卿へと売却される
シューバーンの建物はこの時に取り壊されてしまう
2008年マーク・テイバーン氏がルイス島にてアビンジャラク蒸留所を創業する
2010年アビンジャラク最初のリリースとして,「スピリッツオブルイス」と題された3年熟成のウイスキーがリリースされる

謎の風習

これは概ね1700年代のストーノウェイ教区のコリン・マッケンジー牧師の記録の話になります。

ルイス島のストーノウェイの街では召使いが雇われることがほとんどありませんでした。この背景にはウイスキーが絡んだとある風習があったようです。

その風習の内容とは「召使い達は毎朝,主人が提供するワイングラスを満たしたウイスキーを飲む」というものでした。

この風習はなぜか定着していたようで,もしも忘れてしまうと召使い達は不満を露わにし,怠惰な働きしかしなくなってしまうとか。

そんな謎の風習があったことから,ストーノウェイの街では召使いを雇うことがあまりなくなっていたとのことでした。

「アビンジャラク蒸留所」製法の特徴

  • 年間生産量
    20,000リットル
  • 大麦の品種
    ルイス島産
    ゴールデンプロミス種
  • マッシュタン材質
    ステンレス製2基
  • ウォッシュバック
    ダグラスファー製2基
  • 発酵時間
    約96時間
  • スチル加熱方式
    蒸気による間接加熱方式
  • ウェアハウス形式
    ダンネージ式
  • 仕込み水
    アビンジャラク川
  • ピーテッドレベル
    ピーテッド(約40ppm)
    ルイス島産
  • マッシュタン容量
    0.5トン
  • ウォッシュバック容量
    7,500リットル
  • ポットスチル形状
    密造スチルをモチーフとしたヒルスチル
  • コンデンサー
    屋内設置のワームタブ方式

製麦について

出典:google map

ポイント

アビンジャラク蒸留所では「畑から瓶詰めまで」という目標が掲げられています。そのため原料の大麦については,現在同じルイス島のウイグ地区を初めとした島内の農家の手で生産されたゴールデンプロミス種の大麦を原料として採用しています。

しかしウイスキー作りに必要な大麦の量を確保することは,限られた島内の農地を圧迫することになり兼ねませんでしたが,輪作を行うことでこの問題を解決しました。

大麦を麦芽にする製麦の工程は他社に一任されることが一般的な昨今ですが,アビンジャラクでは自社にて伝統的な製麦を実施しています。麦芽の乾燥時には同じくルイス島に豊富に存在しているピートが炊き込まれています。

原料のモルトはモルトミルで粉砕されてグリストとしたのち,糖化の工程へと進みます!


糖化について

出典:google map

ポイント

アビンジャラク蒸留所では仕込み水として,ミネラルを含んだ軟水を湛えるアビンジャラク川の水を採用しています。

マッシュタンはステンレス製ですが,非常にサイズが小さく,1バッチあたりのグリスト容量は0.5トンとなっています。

製麦で得られたグリストはマッシュタンへと投入され,加熱した仕込み水を3回に分けて,温度を上げながら注ぐことで糖化が進められます。この手法はインフュージョン法と呼ばれています。

糖化が完了すると糖分を多く含んだウォートを得ることができます。

次の工程は発酵になります。


発酵について

出典:google map

ポイント

アビンジャラク蒸留所には容量7500リットルでダグラスファー製のウォッシュバックが2基設置されています。

糖化によって得られたウォートは酵母が活発に活動可能な20℃前後まで冷却されたのち,酵母と共にウォッシュバックへと投入することで発酵は進められます。

発酵にかける時間は概ね96時間程度と,比較的長めに設定されており,複雑な香味成分がこの発酵中に生じていることが伺えます。

発酵が完了するとアルコール度数約8%程度のウォッシュが完成します。

次の工程は蒸留になります!


蒸留について

出典:google map

ポイント

アビンジャラク蒸留所には容量2,112リットルのウォッシュスチルが1基,容量2,057リットルのスピリットスチルが1基設置されています。

形状が非常に特徴的であり,かつてルイス島が密造で栄えていた時代に使用されていた「ヒルスチル」をそのまま巨大化したような見た目をしています。このスチルのデザインは創業者のマーク・テイバーン氏が手がけました。

スチルの加熱方式こそ今風な蒸気による間接加熱方式ですが,コンデンサーは伝統的な屋内設置のワームタブ方式が採用されています。

発酵によって得られたウォッシュは,まずウォッシュスチルへと移されて初留が行われます。初留が完了するとアルコール度数約20%程度のローワインを得ることができます。

次いでローワインはスピリットスチルへと移されて再留が行われます。再留によって得られるアルコールはスピリッツセイフと呼ばれる箱を経由し,そこで蒸留初期・周期の香味が不安定な部分を除去されることとなります。

この工程をミドルカットといいます。

再留・ミドルカットを終えるとアルコール度数約70%のニューポットが完成します。

次の工程は熟成になります!


熟成について

出典:google map

ポイント

アビンジャラク蒸留所が熟成に使用する樽はアメリカンオークのバーボン樽が主ですが,一部ヨーロピアンオークのシェリー樽なども使用されています。

また樽を貯槽するウェアハウスは伝統的なダンネージ式が採用されています。

蒸留によって得られたニューポットは加水によってアルコール度数を整えたのちに樽詰めされて,ウェアハウスにて長い時間を眠ることとなります。

またアビンジャラクはSDGs的概念も意識しており,樽を使用するたびに蒸留所の周りにオークやダグラスファーを植樹しています。


オフィシャルボトル一覧

アビンジャラク蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!

(生産量の少なさゆえ,入荷も不安定のため現在通販で入手可能なものを取り上げます。)

アビンジャラク10年
ソーテルヌワインカスク

ポイント

アビンジャラクがリリースする10年熟成のカスクストレングスシリーズのひとつになります。また蒸留所のこだわりとして着色やチルフィルターは適用されていません。

このボトルに使用される原酒は極甘口のソーテルヌワインを詰めていた樽で熟成された原酒のみで構成されています!

アビンジャラク10年
マデイラワインカスク

ポイント

基本的な情報は上記と同様になります。

このボトルはポルトガルの酒精強化ワインであるマデイラワインを詰めていた樽で熟成を行っており,ドライフルーツのような個性が養われています。

アビンジャラク10年
リオハワインカスク

ポイント

基本的な情報は上記のボトルと相違ありません。

このボトルはスペインのワイン名産地であるリオハの赤ワインを詰めていた樽で熟成した原酒で構成されています。赤ワインに由来する濃い色味,甘みやタンニンの要素が付与されています!

参考資料

参考サイト:アビンジャラク公式 / scotchwhisky.com / whisky.dog