記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回はスコットランドより「ティーニニック蒸留所」になります!
Points!「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
ハンマー式モルトミル/マッシュフィルター/花と動物シリーズ
ティーニニックの特徴
ノンピート/バーボン樽のみ/りんご/緑茶系の草感/バニラとはちみつ
ティーニニック蒸留所
ティーニニック蒸留所の立地・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所の概要
創業年 | 1817年 |
所有会社 | ディアジオ社 |
地域分類 | スコットランド 北ハイランド |
発酵槽 | カラ松製18基・ステンレス製2基 |
ポットスチル | 初留6基・再留6基 |
仕込み水 | デイリーウェルの泉 |
ブレンド先 | ジョニーウォーカー,ヘイグなど |
「ティーニニック蒸留所」蒸留所の立地
ポイント
ティーニニック蒸留所はスコットランドの北ハイランドに位置しています。具体的にはクロマティ湾に面するロス州のアルネスの町,アルネス川を挟んでダルモア蒸留所の反対側周辺にあるのがティーニニックです。
このクロマティー湾は元来ネズミイルカの生息地として知られており,同蒸留所唯一のオフィシャルボトルである花と動物シリーズのラベルにもイルカが描かれています。しかし現在は北海油田関連の採掘場が海を席巻しており,イルカに対して優しく無い環境となってしまっています。
また蒸留所のすぐ近くにあるティーニニック城は,蒸留所の創業に際して工場の一部として改装されましたが,現在はホテルおよびレストランとして稼働しています。
ちなみにティーニニック(Teaninich)はゲール後に由来があり,訳すと「荒野の中に建つ家」という意味を持っています。
「ティーニニック蒸留所」蒸留所の歴史
ティーニニック蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1817年 | 土地の名手であるキャプテン・ヒューゴ・モンロー氏によってティーニニック蒸留所が建設される |
1831年 | 土地および蒸留所がモンロー氏の弟のジョンへと売却される |
1846年 | ヒューゴ・モンロー氏が死去する |
1850年 | 蒸留所がロバート・パティソン氏にリースされる (所有者のジョン氏は年の大半をインドで生活していたため) |
1869年 | 蒸留所がジョン・マクギルクリスト・ロス氏にリースされる |
1895年 | 蒸留所がムンロ&キャメロン社にリースされる |
1898年 | 蒸留所がムンロ&キャメロン社に買収される |
1904年 | 蒸留所がロバート・イネス・キャメロン氏の単独所有となる |
1933年 | キャメロン氏が死去する 蒸留所はDCL社に買収される |
1939年 | 戦争の影響によって同年から1946年まで生産が停止される |
1970年 | 蒸留所の横に6基のポットスチルを有する新蒸留棟が建設される 以降新蒸留棟がAサイド,旧蒸留棟がBサイドと呼ばれる |
1973年 | Bサイド(旧蒸留棟)が改築される |
1975年 | 蒸留廃液をダークグレーン(家畜の飼料)に加工する設備が建設される |
1984年 | Bサイド(旧蒸留棟)が閉鎖される |
1985年 | Aサイドも一時閉鎖されてしまう |
1986年 | 会社合併により所有者がUD社となる |
1991年 | Aサイドの生産が再開される |
1992年 | ティーニニック10年が花と動物シリーズからリリースされる |
1997年 | 会社合併により所有者がディアジオ社となる |
1999年 | Bサイドの設備が撤去される |
2000年 | 最新鋭のマッシュフィルターが導入される (詳細は下記糖化工程の解説を参照) |
2015年 | 蒸留所の拡張工事が実施される ポットスチルは計12基,ウォッシュバックは計20基となる |
ティーニニックに纏わるストーリー
ヒューゴ・モンロー氏
ヒューゴ・モンロー氏は地主であり,1817年に自分の領地にティーニニック蒸留所を創業しました。しかし当時は酒税法による課税が厳しく他の蒸留所と同じく密造の形態で稼働していました。
モンロー氏は課税に対して疑念を強く抱いており,国会の聴聞会でウイスキー産業の現状に言及するなど,法改正に向けた活動を意欲的に行っている人物でした。
彼を初めとして多くの業界人の活動の甲斐もあり,1823年に酒税法が改正。翌年のグレンリベットの政府公認を筆頭として,密造時代は終わりに向かっていくこととなりました。
この流れに併せてティーニニックの売上も順調に伸びていき,1830年代には創業当初の30倍程度の生産能力にまで成長しました。
とは言っても,蒸留所のあるロス州はかなり激しく密造が蔓延る地であったため,中には政府公認となったが故に廃業に追い込まれた蒸留所もあったとか…
「ティーニニック蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
1,020万リットル
(ディアジオ社内3位) - 仕込み水
デイリーウェルの泉 - ピーテッドレベル
ノンピート - モルトミル
ハンマーミル - マッシュタン
糖化タンクとマッシュフィルターが採用 - マッシュタン容量
1バッチ12トン - ウォッシュバック
カラ松製18基,ステンレス製2基 - ウォッシュバック容量
56,000リットル
- 発酵時間
75時間に統一 - スチル加熱方式
蒸気間接加熱 - ポットスチル(初留)
6基,容量17,500L - ポットスチル(再留)
6基,容量15,600L - コンデンサー
シェル&チューブ - ウェアハウス形式
敷地外(ファイフ),ラック式 - 樽詰め度数
63.5%
製麦について
ポイント
ティーニニック蒸留所では蒸留所での製麦は行っておらず,ディアジオ社内の製麦部門(グレンオード)から仕入れており,ピーテッドレベルはノンピートになります。
モルトの粉砕を行うモルトミルは,一般的にモルトウイスキーの製造ではローラー式が使用されていますが,ティーニニックではグレーンの製造に広く使用されているハンマー式を採用しています。
通常のローラー式ではモルトの粉砕時,粉砕物の粒度がハスク(粗)・グリッツ(中)・フラワー(細)の3水準となるように挽き分けていますが,ハンマー式では調整が効かないため,グリストは全てフラワー(粉状)となります。
粒度が細かいと糖化時により多くの糖類が溶出するためアルコール収率が向上しますが,ウォートの濾過が難しくなるという特徴があります。
またハンマー式モルトミルでは,大麦よりも物理的に硬い他の穀物も破砕することが出来るため,今後実験的な試みが行われる可能性があります。
モルトの粉砕を行ったのち,糖化の工程へと進みます。
↓製麦の詳細な解説はこちら↓
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糖化について
ポイント
ティーニニック蒸留所では仕込み水としてデイリーウェルの泉の水を採用しています。マッシュタンは通常のものではなく,1バッチあたり12トンのグリスト容量を持つ糖化タンクと最新鋭のマッシュフィルターを活用して糖化を行います。
製麦によって得られたグリストは糖化タンクに移され,加熱した仕込み水が3回に分けて,温度を上げながら注がれます。この各回において24枚の布製プレートでプレスして濾過を行い,糖分を多く含んだウォートが確保されます。
マッシュフィルターを活用した糖化では,より清澄度の高いウォートを得ることができ,これによってティーニニックの緑茶のようなエキゾチックな草の香りが生まれています。
余談ですがマッシュフィルターを使用するスコットランドの蒸留所はティーニニックとインチデアニーのみです。
次の工程は発酵になります!
↓糖化の詳細な解説はこちら↓
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発酵について
ポイント
ティーニニック蒸留所には容量56,000リットルでカラ松製のウォッシュバックが18基,ステンレス製のウォッシュバックが2基設置されています。発酵に使用される酵母は一般的なプレスタイプのディスティラーズ酵母です。
糖化によって得られたウォートは熱交換器を介して,酵母の活性が保たれる20℃前後まで冷却されたのち,酵母とともにウォッシュバックに投入することで発酵が始まります。
発酵にかける時間は75時間に統一されており,スコッチの中では比較的長めとなっています。発酵が完了するとアルコール度数約8%となり,オイリーかつ草感を既に有したウォッシュが完成します。
次の工程は蒸留になります!
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蒸留について
ポイント
ティーニニック蒸留所には容量17,500リットルのウォッシュスチルが6基,容量15,600リットルのスピリッツスチルが6基設置されています。1970年に設置された6基のスチルは全て現存しており,ウォッシュスチルとして使用されていた3基はスピリッツスチルに変更されています。
形状は全て環流ボウルを有したバルジ型であり,加熱方式は初留器が蒸気パン(ケトル),再留器が蒸気コイル,コンデンサーは全てシェル&チューブ方式が採用されています。
発酵によって得られたウォッシュは予熱されたのち,ウォッシュスチルに投入されて初留が行われます。初留が完了するとアルコール度数20%程度となったローワインを得ることができます。
続いてローワインはスピリッツスチルに投入されて再留が行われます。再留によって得られるアルコールはスピリッツセイフを経由し,蒸留初期および終期の不安定な香味成分を多く含んだ部分が除去されます。
この作業はミドルカットと呼ばれており,スチルマンという熟練の蒸留技士の管理のもとで行われています。再留とミドルカットを終えた時点でアルコール度数68〜69%程度のニューポットが完成します。
次の工程は熟成になります!
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熟成について
ポイント
ティーニニック蒸留所にはウェアハウスが無いため,ディアジオ社が所有する,アロアやファイフに近いカンバス蒸留所跡地に建設されたラック式のウェアハウスにて熟成を行います。
また樽詰めは同じくディアジオ社が所有するグラスゴーの施設で行い,ファーストフィル及びセカンドフィルのバーボン樽が使用されます。この際ニューポットは加水によって度数を63.5%に調整されます。
オフィシャルボトル一覧
ティーニニック蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
ティーニニック10年
花と動物シリーズ
ポイント
ディアジオ社が手がける「花と動物シリーズ」からリリースされた10年熟成のティーニニックです。同蒸留所のモルトのほとんどがブレンデッド用に使用されており,このボトルが唯一の公式リリースになります。
ラベルに描かれているイルカは「ネズミイルカ」であり,蒸留所に程近いクロマティー湾が生息地であることから起用されました。
りんご系のフルーティ感をベースとし,個性的な草の要素と厚みのあるリッチなボディ感を最大の特徴としています。ティーニニックはボトラーズからも多少のリリースがありますが,興味を持った際にはこのボトルから試してみましょう。
香り
りんご/ジューシー/アロマティック/ハーブ/草の要素/モルティ/柑橘の甘さ/フローラル
味わい
モルティ/バニラ/はちみつ/ビターチョコ/りんご系フルーティ/スパイシー/緑茶系草感
参考資料
参考サイト:whisky.com / scotchwhisky.com / malt-whisky-madnnes.com