記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回はスコットランドより「トミントール蒸留所」になります!
Points!「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
バランテュラン/アンガスダンディー/超巨大ボトル
トミントールの特徴
ノンピート中心/バーボン樽中心/フローラル/華やかなフルーツ香/バニラ/ナッティ
トミントール蒸留所
トミントール蒸留所の立地・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所の概要
創業年 | 1964年 |
所有会社 | アンガスダンディー社 |
地域分類 | スコットランド スペイサイド リベット地区 |
発酵槽 | ステンレス製6基 |
ポットスチル | 初留2基・再留2基 |
仕込み水 | バランテュランの泉 |
ブレンド先 | フィンドレーター ホワイト&マッカイなど |
「トミントール蒸留所」蒸留所の立地
ポイント
トミントール蒸留所はスペイサイドのリベット地区,バリンダロッホに位置しています。より具体的には,スペイ川の支流であるエイボン川沿いで,山奥の谷間のような場所に建っています。
トミントールという名は蒸留所から10キロほど南にあるトミントール村に由来していて,この村はハイランドで最も標高が高い村(350m)として知られています。
しかしながら蒸留所の建つ場所は村から離れているので,そこまで標高が高いわけではありません。実際に現在スコットランドで最も高い所にある蒸留所は,同地区に位置するブレイヴァル蒸留所(350m)になります。2位は北ハイランドのダルウィニー蒸留所(326m)です。
気候は冷涼であり,1年を通して気温差が比較的少ないですが,冬季には積雪によって周囲の道路が閉ざされることもあります。また付近に聳え立つケアンゴーム山脈が雨雲を遮ることから降雨量が少なく,乾燥した地域としても知られています。
ちなみにトミントールは元々ゲール語であり,「納屋の形をした小さな丘」の意味を持っています。
「トミントール蒸留所」蒸留所の歴史
トミントール蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1964年 | ヘイグ&マクロード社およびW&Sストロング社によってトミントール・ディスティラリー社が形成される |
1965年 | トミントール社によってトミントール蒸留所が創業される |
1973年 | 蒸留所がスコティッシュ&ユニバーサル・インベストメント・トラストによって買収される そして同時に買収されていたホワイト&マッカイ社に統合される |
1974年 | ポットスチルが2基増設されて計4基体制となる |
1978年 | 親会社にあたるスコティッシュ&ユニバーサル・インベストメント・トラストが投資会社のロンロ社に買収される |
1988年 | ロンロ社からホワイト&マッカイ社がブレントウォーカー社へと売却される |
1990年 | ホワイト&マッカイ社がアメリカンブランズ社に買収される |
1996年 | ホワイト&マッカイ社がジムビームブランズ社と合併してJBB社が形成される |
2000年 | トミントール蒸留所がアンガスダンディー社に買収される |
2002年 | トミントール10年がリリースされる |
2003年 | トミントール16年がリリースされる |
2004年 | トミントール27年がリリースされる |
2005年 | ピーテッドバージョンがオールドバランテュランというブランドでリリースされる |
2007年 | 2棟のウェアハウスが増設される |
2009年 | ボトル容量105.3リットルのトミントール14年が発売される これはギネスブックに登録されている |
トミントールに纏わるストーリー
所有者の変遷
上の年表のみを見ると所有者の変遷がチンプンカンプンになってしまうかと思います。(ごめんなさい)
わかりにくさの原因は親会社の頻繁な買収合戦によるものなので,今一度そこに着目して整理しておきました!
- 1965年〜1973年
トミントール・ディスティラリー社
(ヘイグ&マクロード社とW&Sストロング社が形成) - 1973年〜1978年
ホワイト&マッカイ社
(スコティッシュ&ユニバーサル・インベストメント・トラストの傘下企業) - 1978年〜1988年
ホワイト&マッカイ社
(ロンロ社の傘下企業) - 1988年〜1990年
ホワイト&マッカイ社
(ブレントウォーカー社の傘下企業) - 1990年〜1996年
ホワイト&マッカイ社
(アメリカンブランズ社の傘下企業) - 1996年〜2000年
JBB社
(アメリカンブランズ社の参加同士であるホワイト&マッカイ社とジムビームブランズ社が合併) - 2000年〜
アンガスダンディー社
巨大ボトル
トミントール蒸留所は2009年に14年熟成のボトルを公式リリースしましたが,地元のウイスキー専門店のとある提案を受け,併せて特殊な試みが行われていました。
それは高さ1.5m,内容量105.3リットルで重さ180kgオーバーの超巨大ボトルが製作されたことです。この容量は標準的なボトルに換算すると約150本分にも及びます。
当たり前ですがボトルも特注で,ドイツのグラスメーカーでもあるパイレックス社が手がけており,コルクの口径も20cmと超巨大。
ボトリングに際しては,14人のチームが組まれて2009年の8月にトミントール蒸留所内で行われたそうです。
もちろんこの巨大なボトルはギネスにも登録されています!
「トミントール蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
340万L - 仕込み水
バランテュランの泉 - ピーテッドレベル
ノンピート,年に2週間のみヘビリーピート(55ppm) - マッシュタン材質
ステンレス製セミロイター - マッシュタン容量
1バッチ12トン - ウォッシュバック
ステンレス製6基 - ウォッシュバック容量
59,500L
- 発酵時間
約54時間 - スチル加熱方式
蒸気間接加熱(ケトル) - ポットスチル(初留)
2基,容量約22,000L - ポットスチル(再留)
2基,容量約19,500L - コンデンサー
シェル&チューブ式 - ウェアハウス形式
計6棟,ラック式とパラタイズ式 - 樽詰め度数
68.5%
製麦について
ポイント
トミントール蒸留所では自社製麦を行っておらず,外部の専門業社(モルトスター)から原料のモルトを仕入れています。
ピーテッドレベルは基本的にノンピートですが,年に2週間だけ55ppmのヘビリーピーテッドタイプの麦芽が仕込まれます。このピーテッドタイプのウイスキーは「オールド・バランテュラン」というブランドで販売されています。
原料の大麦麦芽はポルテウス社製のローラー式モルトミルで粉砕し,グリストとしたのちに糖化の工程へと進みます!
↓製麦工程の詳細な解説↓
▼
糖化について
ポイント
トミントール蒸留所では仕込み水として,蒸留所背後のバランテュラン山にある泉の水を採用しています。蒸留所創業時は,この良質な水を湛える水源を見つけるまでに1年間を要しました。
マッシュタンは1バッチあたり12トンのグリスト容量を誇る,ステンレス製のセミロイタータンが採用されています。
製麦によって得られたグリストはマッシュタンに投入され,加熱した仕込み水を3回に分けて,温度を上げながら注ぐ(スパージング)ことで糖化が進められます。この手法はインフュージョン法と呼ばれています。
各回のスパージングごとに,糖類を多く含んだウォートという液体を得ることができ,通常1,2回目のウォートが発酵に回され,3回目のウォートは次回の糖化の際に混合されます。
トミントールではこの作業が週に概ね15回ほど行われています。
次の工程は発酵になります!
↓糖化工程の詳細な解説↓
▼
発酵について
ポイント
トミントール蒸留所には容量59,500リットルでステンレス製のウォッシュバックが6基設置されています。発酵に使用される酵母は一般的なディスティラーズ酵母です。
糖化によって得られたウォートは熱交換器を介し,酵母の働きやすい20℃前後まで冷却されたのち,酵母と共にウォッシュバックに投入することで発酵が始まります。
発酵にかける時間は概ね54時間程度とスコッチで標準的な長さに設定されており,発酵が完了するとアルコール度数が8〜9%程度となったウォッシュを得ることができます。
次の工程は蒸留になります!
▼
蒸留について
ポイント
トミントール蒸留所には容量約22,000リットル(張込みは15,000リットル)のウォッシュスチルが2基,容量19,500リットル(張込みは11,500リットル)のスピリッツスチルが2基設置されています。
形状は全て環流ボウルを有したバルジ型で,ネックが長くラインアームはやや上を向いています。加熱方式は蒸気ケトルによる間接加熱方式が,コンデンサーはシェル&チューブ方式が採用されています。
発酵によって得られたウォッシュはウォッシュスチルへと移されて初留が行われます。初留が完了するとアルコール度数約20%程度となったローワインを得ることができます。
続いてローワインはスピリッツスチルへと移されて再留が行われます。再留で得られるアルコールはスピリッツセイフと呼ばれる箱を経由し,その中で蒸留初期・終期の不安定な香味成分を有した部分が除去されます。
この作業はミドルカットと呼ばれており,スチルマンという熟練の蒸留技士の管理のもとで行われます。
再留・ミドルカットを終えた段階で,アルコール度数約69%となったニューポットが完成します。
次の工程は熟成になります!
▼
熟成について
ポイント
トミントール蒸留所には合計6棟のウェアハウスが建っており,ラック式とパラタイズ式が混在しています。このうち2棟は2007年に完成したものであり,これによって貯蔵容量は以前の75,000樽から111,000樽まで増加しました。
使用される樽はアメリカンオークのバーボンバレルが主となっていますが,複数の特別なボトルの原酒用として,オロロソシェリー樽やポートワイン樽が使用されることもあります。
蒸留によって得られたニューポットは加水を行うことなく樽詰めされ,ウェアハウスにて長い時間を眠ることとなります。
オフィシャルボトル一覧
トミントール蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!(代表的なものを抜粋)
トミントール10年
ポイント
トミントール10年はトミントール蒸留所の最もスタンダードなボトルになります。10年以上の熟成を経たバーボン樽原酒が中心に使用されています。
代表作の14年よりも熟成年こそ若いですが,蒸留所の持つフローラルかつ華やかな風味がしっかりと体現されています。
トミントールに興味を持ったならば,このボトルから飲んでみましょう。
香り
フローラル/はちみつ/バニラ/トースト/モルティ/まろやかなウッディネス/スパイシー
味わい
レモン/草の要素/フレッシュ/バニラクリーム/キャラメル/アーモンド/はちみつ
余韻
バター,オーク,シトラスのような多様な甘さが長く残る
トミントール
ピーティータン
ポイント
ピーティータンはピーテッド麦芽を活用し,深いスモーキーさを有したトミントールになります。スペイサイドではかなり珍しいクセあり系であり,ハイランド系のピーティ感が強く出ているため,苦手な方は気をつけましょう。
全体的なテイストとしてはスモークナッツ感とモルティな甘さ,そして柑橘系のフルーティさが感じられます。
トミントール12年
オロロソシェリーカスク
ポイント
最初の10年程度はアメリカンオークのバーボンバレルで熟成し,最後に仕上げとして,18ヶ月間にわたってオロロソシェリー樽で後熟させた原酒が使用された,12年熟成のトミントールになります。
通常のトミントールに見られるバーボンバレル由来の甘さに加えて,シェリー樽の個性的な風味が添加されることで,リッチな口当たりとより豊かな風味が生み出されました。
レーズンやオレンジピールなどの濃密な甘さと,ウッディなスモーク感を感じることができます。
トミントール14年
ポイント
トミントール14年はIWSC(インターナショナル・ワイン&スピリッツ・コンペティション)での金賞受賞歴を持つ,トミントール蒸留所のフラッグシップ的なボトルです。
かつてのリリース時には巨大なボトルを作成するプロジェクトにて,ギネス記録を打ち出したのもこの14年でした。
その味わいはナッティかつバニラの甘さを中心とし,多様なフルーツ香を持ち合わせたスペイサイドらしさ全開の仕上がりとなっています。
トミントールを好きになった際に常備したくなるのはコイツとなるでしょう。
トミントール16年
ポイント
トミントール16年は世界中の複数のコンペティションで受賞歴を持つ,同蒸留所の中では上位グレードに位置する公式ラインナップになります。
選び抜かれた高級なバーボンバレルで16年以上熟成された原酒で構成されており,強烈なインパクトと繊細なテイストの融合は必見。またこの熟成年数のスコッチの中では破格の価格帯であり,コスパの観点からも優秀と言えるでしょう。
トミントール25年
ポイント
25年熟成といえばもう何も言うことはないでしょうか(笑)
数あるスコッチの中でも25年はかなり長い熟成期間であり,トミントールの持つ華やかさはより深みを増し,甘さのニュアンスもより多層的に。しかしながら本来のフレッシュさは失わずといった素晴らしき一本。
間違いなくあなたに感動を与えることでしょう。
オールドバランテュラン
ポイント
トミントール蒸留所で年に2週間だけ仕込まれる,フェノール値55ppmのヘビリーピーテッド麦芽をもとに生産されたスモーキーなウイスキーで作られるブランド「オールドバランテュラン」。
珍しいピーテッドタイプのスペイサイドモルトということで,アイラモルトのスモーキーさとはまた異なり,どこかヘザーを感じさせるほのかな甘い煙を感じることができます。
各種SNS運用中!
フォローしてね👍
参考資料
参考サイト:whisky.com / scotchwhisky.com / トミントール公式 / malt-whisky-madness.com