記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回はスコットランドより「ダルモア蒸留所」になります!
Points!「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
勇者のウイスキー/鹿の紋章/ホワイト&マッカイ/特殊なポットスチル
ダルモアの特徴
バーボン樽とシェリー樽が主/ノンピート/雑味が少なく重厚感がある/オレンジマーマレード感/意外と初心者向き
ダルモア蒸留所
ダルモア蒸留所の立地・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所の概要
創業年 | 1839年 |
所有会社 | エンペラドール社 |
地域分類 | スコットランド 北ハイランド |
発酵槽 | オレゴンパイン製8基 |
ポットスチル | 初留4基・再留4基 |
仕込み水 | アルネス川 |
ブレンド先 | ホワイト&マッカイ クレイモアなど |
「ダルモア蒸留所」蒸留所の立地
ポイント
ダルモア蒸留所はスコットランドの北ハイランドに位置しています。具体的にはクロマティー湾の北部沿岸沿いにあるアルネスの町の郊外に位置しています。首都エジンバラからは300km弱程度の距離で,高速道路で4時間弱程度かかります。
古くは鹿狩りの栄えた土地でもあり,かつての鹿狩りにまつわるエピソードを背景として,現在ダルモアのボトルには鹿の紋章が施されています。
アルネスの町を通過して蒸留所のそばを通るアルネス川(アベロン川とも言う)は,ハイランド中心部にあるモリー湖から流出する水で構成されており,ダルモアではこの水が仕込み水に使用されています。
ちなみにダルモアはゲール語に由来があり,大草原を意味する「Dail Mòr」から名付けられています。
「ダルモア蒸留所」蒸留所の歴史
ダルモア蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1839年 | アレクサンダー・マセソン氏によってダルモア蒸留所が創設される |
1950年 | 蒸留所がサンダーランド家のリース所有となる |
1867年 | 蒸留所がマッケンジー3兄弟が運営するマッケンジー・ブラザーズ社のリース所有となる |
1886年 | 創業者のアレクサンダー氏が亡くなる |
1891年 | 蒸留所がマッケンジー・ブラザース社へと売却される この頃よりダルモアがホワイト&マッカイの原酒となる |
1917年 | 蒸留所に程近いファースがイギリス海軍の海底鉱山掘削の拠点とされてしまう |
1920年 | 鉱山の爆発事故と火災によって蒸留所が破壊される |
1922年 | ダルモア蒸留所の操業が再開される |
1956年 | フロアモルティングが廃止される サラディンボックス式の製麦設備が導入される |
1960年 | マッケンジー・ブラザーズ社がホワイト&マッカイ社と合併する |
1966年 | ポットスチルが4基増設されて計8基体制となる この時点で生産能力が世界25位となった |
1982年 | サラディンボックス式の製麦が廃止される |
1988年 | ホワイト&マッカイ社がブレントウォーカー社に買収される |
1990年 | ブレントウォーカー社がアメリカン・ブランズ社に買収される |
2002年 | 複数の合併と独立の末,ホワイト&マッカイ社が再形成される ※詳細は後述の通り |
2007年 | ホワイト&マッカイ社がユナイテッドスピリッツ社に買収される |
2014年 | ホワイト&マッカイ社がフィリピンのエンペラドール社に買収される |
2022年 | 蒸留所は改装工事のため閉鎖中 2024年にリニューアルオープン予定 |
所有会社の度重なる移ろい
ダルモア蒸留所は1960年頃よりホワイト&マッカイ社の所有となっていましたが,1990年のアメリカン・ブランズ社による買収以降,会社名がフラフラと移ろっていた時期がありました。
この時期の所有者と名称の変遷は確定的な情報がないため,いくつかのサイトに記載がある内容を私なりに筋道立てて整理して解説します。
まず1996年にはアメリカン・ブランズ社の内部にてジムビーム・ブランズ社とホワイト&マッカイ社が合併して「JBB(Greater Europe)社」が形成されます。しかし一応この名称には諸説があり,新会社名は「ホワイト&マッカイ・ディスティラーズ社」であったとする論調もあります。
そこから世紀末にかけては業界が敵対勢力の買収合戦のような状態となっており,2001年の段階でアメリカンブランズ社は合併の末にフォーチュンブランズ社という名称になっていたようです。
そしてこのフォーチュンブランズ社の傘下にあたるJBB社でしたが,2001年,このJBB社に包含されていた旧ホワイト&マッカイ社がMBOによって完全に独立することとなります。この独立した会社は「キンダルスピリッツ社」という名称になりました。
しかしながら2002年には再び名称変更が行われ,ここで社名が「ホワイト&マッカイ」に戻ることとなっています。
いやぁ。複雑。
勇者のウイスキー
1263年にまで遡るダルモアにまつわるちょっとした小話です。
1263年時点,スコットランドの国王はアレクサンダー3世という人物でした。またその当時,現在のダルモア蒸留所が位置する場所周辺は鹿狩りの盛んな地域となっており,アレクサンダー3世もここで狩りをしていました。
そしてある日のこと,アレクサンダー3世は大きなツノを持つ鹿に襲われてしまい,怪我を負ってしまいます。そんな絶体絶命の状況下にて,王様を助けたのがマッケンジー家の祖先にあたる人物だったと言います。
救われた王様はこのマッケンジー家に対して,12本のツノを持つ鹿の紋章を使用する権利を与えました。
そう。このマッケンジー家の末裔にあたる人物たちこそが,19世紀の後半からダルモア蒸留所の所有者となったマッケンジー3兄弟でした。
彼らはかつて祖先が王より賜った鹿の紋章をボトルの象徴とし,そのエピソードからダルモアは「勇者のウイスキー」と称されるようになりました。
「ダルモア蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
420万L - 仕込み水
アルネス川 - ピーテッドレベル
基本ノンピート - マッシュタン材質
ステンレス製セミロイター - マッシュタン容量
1バッチ10.4トン - ウォッシュバック
オレゴンパイン製8基 - ウォッシュバック容量
49,500L(張り込み45,000L)
- 発酵時間
50時間で統一 - スチル加熱方式
蒸気による間接加熱 - ポットスチル(初留)
特殊なスチル(16,500L2基/8,250L2基) - ポットスチル(再留)
特殊なスチル(11,000L2基/7,300L2基) - コンデンサー
シェル&チューブ - ウェアハウス形式
ダンネージ式・ラック式 - 樽詰め度数
63.5%
製麦について
ポイント
ダルモア蒸留所では創業から1956年までは伝統的なフロアモルティングによる製麦が,そこから1982年まではサラディンボックス式の製麦が行われていました。
以降現在にかけては蒸留所近辺のモルトスターより,原料のノンピート麦芽を仕入れています。ピーテッド麦芽は2011年にブレンデッド用原酒製造の目的で使用されて以来不使用です。
大麦の品種はコンチェルト種とクロニクル主が中心的となっています。
原料のモルトはポルテウス社製の4ローラー式モルトミルで粉砕してグリストとしたのち,糖化の工程へと進みます!
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糖化について
ポイント
ダルモア蒸留所では仕込み水としてアルネス川の水を採用しています。マッシュタンは1バッチあたり10.4トンのグリスト容量を誇る,ステンレス製のセミロイタータンになります。
アルネス川の水は流れてくる過程でピートに富んだ大地を経由しているため,少し茶色く濁っていますが,製造工程で粉に水を使用する際にも濾過等は行なっていないとのことです。そのため季節によってスピリッツの風味も変化が生じてくるとか。
通常糖化はグリストに3回お湯を注ぐことで完了しますが,ダルモアでは少し個性的な手法によって2回で完結させています。
具体的には,製麦によって得られたグリストはまず63.5〜64℃に調整した44,000リットルの初回のお湯が張られたマッシュタンへと投入されます。一番麦汁としては14,000リットル程度が確保されます。
続いて2回目のお湯はスプレー式に上からかける方法が採られており,得られるウォートの総量が48,500リットルとなるように調整しながらお湯を加えていきます。この際お湯の温度をは72〜82℃へと徐々に上げられていきます。
次の工程は発酵になります!
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発酵について
ポイント
ダルモア蒸留所にはオレゴンパイン製のウォッシュバックが8基設置されています。それぞれ容量は48,500リットルとなっています。また発酵に使用される酵母は一般的なリキッドタイプのディスティラーズ酵母です。(ドライタイプも予備で常備)
糖化によって得られたウォートは,酵母が効率的に活動可能な20℃程度(夏は16〜18℃・冬は18〜20℃)まで冷却されたのち,酵母と共にウォッシュバックへと投入することで,発酵が進行していきます。
発酵時間については全て50時間に統一されており,スコッチの製造では一般的な長さに設定されています。発酵が完了するとアルコール度数約8%程度のウォッシュを得ることができます。
次の工程は蒸留になります。
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蒸留について
ポイント
ダルモア蒸留所にはウォッシュスチルが計4基(容量16,500L2基・8,250L2基),スピリットスチルが計4基(容量11,000L2基・7,300L2基)設置されています。
加熱方式は蒸気による間接加熱方式,コンデンサーはシェル&チューブ方式が採用されています。
これらのスチルはどれも形状が非常に特徴的です。
初留釜は通常のランタン型をベースにネックが途中で水平に切断されたようなフラットなトップを有しています。ラインアームはネックの横から水平に伸びており,アルコール蒸気のスムーズな流出が防がれて,還流および銅との接触機会が増大される構造です。
一方で再留釜はバルジ型様の膨らみにローモンドスチルのような寸胴なネックを有するシェイプとなっています。ラインアームはヘッドの水平面から伸びていますが,ヘッド部には常に冷水が循環するチューリップ型のウォータージャケットが取り付けられており,この冷却効果によって蒸気の還流を促す構造です。
初留・再留共に蒸気の還流を促す工夫が採られており,生成物に残る雑味や不純物の低減を狙っていることが窺えます。
発酵によって得られたウォッシュは,ウォッシュスチルへと移され「初留」が行われます。初留が完了するとアルコール度数約20%程度となったローワインを得ることができます。
次いでローワインはスピリットスチルへと移されて「再留」が行われます。再留によって得られるアルコールはスピリッツセイフと呼ばれる箱を経由し,その中で蒸留初期・終期の不安定な香味成分が除去されます。
この工程はミドルカットと呼ばれており,スチルマンという熟練の蒸留技士の管理の元で厳格に行われています。
再留・ミドルカットを終えた段階で,アルコール度数が概ね69〜72%となったニューポットを得ることができます。
次の工程は熟成になります!
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熟成について
ポイント
ダルモア蒸留所には9棟のウェアハウスが建っており,内4棟が伝統的なダンネージ式,5棟がラック式となっています。貯蔵容量はおよそ65,000樽にも昇るとのことです。
熟成に使用される樽はアメリカンオークのバーボン樽とヨーロピアンオークのシェリー樽(ゴンザレス・ピアス社製)が主体的となっています。またマデイラやポートワインなどの各種ワイン樽も一部の原酒に適用されています。
蒸留によって得られたニューポットは,加水によってアルコール度数を63.5%に調整されたのち樽詰めされて,ウェアハウスにて長い時間を眠ることとなります。
オフィシャルボトル一覧
ダルモア蒸留所は現在フィリピンのエンペラドール社の所有となっており,主に東南アジアを中心にマーケットを展開。その結果ここ10年で販売量は6倍程度まで成長している人気のシングルモルトになります。
日本ではまだ熱狂的人気といった感じでもありませんが,間も無く人気の波が押し寄せて来るように感じます。
ダルモア蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
ダルモア12年
ポイント
ダルモア12年はダルモア蒸留所がリリースするシングルモルトのうち,最もスタンダードなボトルになります。樽構成はバーボン樽85%・シェリー樽15%となっています。
ボトルにあしらわれた鹿の紋章が印象的であり,これに纏わるストーリーから「勇者のウイスキー」とも呼ばれています。
イカつい見た目とは裏腹に,その風味は豊かなフルーツ香と柔らかい口当たりを特徴としており,意外と初心者向けだったりします。
そんな印象的なボトル外観と大衆的な風味から,プレゼントにも適した1本であると言えるでしょう。
香り
オレンジマーマレード/コーヒーハウス/ナッティ/モルティ/バター系クリーミー/フルーツボウル
味わい
オレンジマーマレード/フルーツケーキ/ココア/ダークチョコ/コーヒー/ナッツ
参考資料
参考サイト:ダルモア公式 / whisky.com / scotchwhisky.com / malt-whisky-madness.com