記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回はスコットランドより「ノックドゥー蒸留所」になります!
Points!「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
DCL社が自ら建てた/仕上げ発酵/アンノックブランド
アンノックの特徴
基本ノンピートで甘くフルーティ/「ピートハート」のみヘビリーピートでハイランド的スモーク感/バーボン樽とシェリー樽/
ノックドゥー蒸留所
ノックドゥー蒸留所の立地・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所の概要
創業年 | 1893年 |
所有会社 | タイ・ビバレッジ社 |
地域分類 | スコットランド 東ハイランド |
発酵槽 | オレゴンパイン製8基 |
ポットスチル | 初留1基・再留1基 |
仕込み水 | ノックヒルの泉 |
ブレンド先 | インバーハウス J&Bなど |
「ノックドゥー蒸留所」蒸留所の立地
ポイント
ノックドゥー蒸留所はスコットランドの東ハイランドに位置しています。具体的には都市キースの郊外にあるノックの村に建設されました。
この場所は鉄道の接続がよく,地元で大麦の確保が可能,そしてピートや良質な水も豊富に確保できたことから,DCL社の創業メンバーらによって蒸留所の建設が決定されました。
DCL社はかつてスコットランドのウイスキー産業を席巻した大企業でしたが,自ら建設した蒸留所はごくわずかであり,ノックドゥーは貴重なそのひとつになります。
ちなみにノックドゥーはゲール語で「黒い丘」を意味しています。また同蒸留所のシングルモルトブランドであるアンノック(anCnoc)は「小さな丘」を意味しています。
「ノックドゥー蒸留所」蒸留所の歴史
ノックドゥー蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1877年 | スコットランドでディスティラーズカンパニーリミテッド社(DCL社)が形成される |
1893年 | DCL社がノックドゥー蒸留所を建設し,翌年から生産が始められる |
1914年 | DCL社がウイスキー関連部門としてスコティッシュモルトディスティラーズ社(SMD社)を創設する |
1930年 | ノックドゥー蒸留所の管理がSMD社に引き継がれる |
1931年 | 経済不況の影響を受けて以降数年間に渡り蒸留所が閉鎖状態となる |
1940年 | 戦争の影響によって以降5年間蒸留所が閉鎖される |
1983年 | ウイスキー需要の落ち込みの影響を受けて蒸留所が再び閉鎖される |
1988年 | 蒸留所がインバーハウスディスティラーズ社によって買収される |
1989年 | 生産が再開される |
1990年 | ノックドゥーのシングルモルトが初めて公式リリースされる |
1993年 | ノックドゥの新たなシングルモルトブランドとして「アンノック」が登場する |
2001年 | パシフィック・スピリッツ社がインバーハウス社を買収する |
2006年 | パシフィック・スピリッツ社がタイ・ビバレッジ社によって買収される |
ノックドゥーとノッカンドゥー
ノックドゥー(Knockdhu)とノッカンドゥー(Knockando)。パッと見だとどっちがどっちなのかわからないと困惑してしまう人も多いのではないでしょうか。
既にご存知の方も多いとは思いますが,今回の記事のメインであるノックドゥーとは別に,スペイサイドにノッカンドゥーという蒸留所があります。発音にとどまらず,カタカナで書いても非常に紛らわしいですね。
どうやらこの困惑は今に始まったことではないようです。
ノックドゥーが初めてシングルモルトとしてリリースされた1990年には,既にノッカンドゥーが存在しており,かつてのノックドゥーの経営陣ですら同じ悩みを持っていたとか。
そこで,発売当初こそノックドゥーの名称でシングルモルトを販売していましたが,1993年以降は混同を避けるために,新しくアンノック(anCnoc)というブランド名でウイスキーを販売することが決定されました。
こうして「名前似すぎ問題」は解決されることとなったのです。ちなみにノックドゥーとノッカンドゥーになにか関係があったわけではありません。
「ノックドゥー蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
200万リットル - 仕込み水
ノックヒルの泉 - ピーテッドレベル
7割ノンピート/3割へビリーピート(45ppm) - マッシュタン材質
ステンレス製セミロイター - マッシュタン容量
5トン - ウォッシュバック
オレゴンパイン製8基 - ウォッシュバック容量
22,600リットル
- 発酵時間
45+20時間 - スチル加熱方式
蒸気による間接加熱方式 - ポットスチル(初留)
バルジ型1基・容量10,350L - ポットスチル(再留)
バルジ型1基・容量9,500L - コンデンサー
屋外設置のワームタブ(初留のみシェル&チューブ併用) - ウェアハウス形式
ダンネージ式 - 樽詰め度数
69%
製麦について
ポイント
ノックドゥー蒸留所では自社製麦を行っておらず,原料のモルトは外部のモルトスター(クリスプモルト社及びブートモルト社)から仕入れています。
ピーテッドレベルは2水準設けられており,全体の70%がノンピーテッドタイプ,30%がフェノール値45ppmのヘビリーピーテッドタイプになります。これらのうちヘビリーピーテッドタイプの原酒は,現在「ピートハート」という名前でボトリングされています。
原料のモルトはローラー式のモルトミルで粉砕してグリストとしたのち,糖化の工程へと進みます!
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糖化について
ポイント
ノックドゥー蒸留所では仕込み水としてノックヒルの泉の水(軟水)を採用しています。
マッシュタンは1バッチあたり5トンのグリスト容量を誇るステンレス製のセミロイタータン(銅製の蓋付き)になります。
製麦によって得られたグリストはマッシュタンへと投入され,加熱した仕込み水を3回に分けて,温度を上げながら注ぐことで糖化が進められます。この糖化手法はインフュージョン法と呼ばれています。
糖化が完了すると,糖分を多く含んだ透明感のあるウォートを得ることができます。
次の工程は発酵になります!
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発酵について
ポイント
ノックドゥー蒸留所には容量22,600リットルでオレゴンパイン製のウォッシュバックが8基設置されています。発酵に使用される酵母はマウリ社製及びピナクル社製のペースト状のものになります。
糖化によって得られたウォートは,酵母が活発に活動可能な20℃前後まで冷却されたのち,酵母と共にウォッシュバックに投入することで発酵が進行していきます。
この際最初にウォートと酵母が投入されるのは全8基中6基のウォッシュバックです。この中で45時間発酵させたのち,内容物を残りの2基の”仕上げ発酵用”のウォッシュバックに移して,20時間程度追加で発酵させています。
発酵が完了するとアルコール度数約8%程度のウォッシュが完成します。
次の工程は蒸留になります!
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蒸留について
ポイント
ノックドゥー蒸留所には容量10,350リットルのウォッシュスチルが1基,容量9,500リットルのスピリットスチルが1基設置されています。形状はどちらもバルジ型であり,加熱方式は蒸気による間接加熱方式が採用されています。
コンデンサーは伝統的な屋外設置のワームタブ方式になります。1点独特なのはウォッシュスチルについて,ワームタブの前に水平設置のシェル&チューブが装備されており,冷却効果を高めつつ銅との接触機会が増大されています。
発酵によって得られたウォッシュは,まずウォッシュスチルへと移されて初留が行われます。初留が完了するとアルコール度数約20%となったローワインを得ることができます。
次いでローワインはスピリッツスチルへと移されて再留が行われます。再留によって生じるアルコールはスピリッツセイフと呼ばれる箱を通り,蒸留初期・終期の不安定な香味成分を含有する部分が除去されます。
この工程はミドルカットと呼ばれており,スチルマンという熟練の蒸留技士の管理のもとで行われています。
再留・ミドルカットを終えた段階でアルコール度数約69%のニューポットが完成します。
次の工程は熟成になります!
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熟成について
ポイント
ノックドゥー蒸留所にはラック式のウェアハウスが1棟,ダンネージ式のウェアハウスが3棟建てられています。
また熟成に使用される樽は,アメリカンオークのバーボン樽及びスパニッシュオークのシェリー樽が主となっています。
アルコール度数が約69%であったニューポットはそのまま樽詰めされたのち,ウェアハウスにて長い時間を眠ることとなります。
オフィシャルボトル一覧
ノックドゥー蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
アンノック12年
ポイント
アンノック12年はノックドゥー蒸留所の公式ボトルのうち,最もスタンダードなシングルモルトになります。
ノンピート麦芽を原料としてバーボン樽とシェリー樽で熟成された原酒を主軸に,バランスよくスムーズなテイストが表現されています。
かつてのウイスキー業界を席巻していたDCL社の面影をここに感じることができるでしょう。
香り
柔らかい/アロマキャンドル/フローラル/はちみつ/レモン/シナモン/バニラ
味わい
フルーティで甘い/滑らか/バニラ/はちみつ/フローラル/ややスパイシー
アンノック18年
ポイント
18年という長熟の域に達した至高のアンノックです。
シェリー樽とバーボン樽で熟成された原酒が,ノンチルフィルターかつノンカラーでボトリングされています。樽で培われた個性が自然に感じられ,アロマティックかつ芳醇な甘みを有しています。
香り
ドライフルーツ/優しいスパイス/チョコ/濃厚なオレンジ/オイリー/とても甘くフルーティ
味わい
大胆なスパイシー/フルーツ盛り/モルティ/レモンピール/バニラ/ハチミツ・キャラメル
アンノック24年
ポイント
ハイランドの伝統を守りつつも,モダンな革新を掲げるノックドゥー蒸留所の個性が体現された24年熟成のボトルになります。
ノンチル・ノンカラーのため,伝統的な生産工程で培われた多様な風味を自然のままに感じることが可能です。
香り
ショートケーキ/超甘くフルーティ/スパイシー/バニラ/トフィー/レモンピール/リッチ
味わい
スパイシー/砂糖漬けのオレンジ/はちみつ/革/樽熟間/ウッディネス
アンノック
ピートハート
ポイント
ノックドゥー蒸留所において全体の30%程度生産されているヘビリーピーテッドタイプの原酒をボトリングしたシリーズになります。
フェノール値40ppmという,ハイランドらしさのある濃厚なスモーキーさが特徴的です。真っ黒なボトルもその個性的な味わいを表しているかのように感じますね。
香り
優しいピートスモーク/コゲ感/パイナップル/洋梨/トフィー/りんご/バニラ/レモンピール
味わい
リッチで濃厚なピートスモーク/砂糖の甘さ/干草/ダークチョコ/スパイシーだが甘い
アンノック22年
香り
はちみつ/トフィー/スパイシー/フレッシュなレモン/青リンゴ/ウッドスモーク
味わい
フルボディ/レーズン/スパイシー/ブラッドオレンジ/バニラ/レザー感
アンノック2001
香り
搾りたてレモン/完熟オレンジ/バニラ/クリーミー/スパイシー/レザー
味わい
ライム/レモンピール/バニラ/チョコ/豊かで甘くフルーティ
参考資料
参考サイト:ノックドゥー公式 / whisky.com / scotchwhisky.com / 三陽物産株式会社