記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回はスコットランドより「スプリングバンク蒸留所」になります!
Points!「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
キャンベルタウン/グレンガイル蒸留所/フロアモルティング
スプリングバンクの特徴
ノンピートのヘーゼルバーン/ライトリーピーテッドのスプリングバンク/ヘビリーピーテッドのロングロウ/全体に共通するのはブリニー感(塩気)
スプリングバンク蒸留所
スプリングバンク蒸留所の立地・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所の概要
創業年 | 1828年 |
所有会社 | J&Aミッチェル社 |
地域分類 | スコットランド キャンベルタウン |
発酵槽 | カラ松製6基 |
ポットスチル | 初留1基・再留2基 |
仕込み水 | クロスヒル湖 |
ブレンド先 | キャンベルタウンロッホなど |
「スプリングバンク蒸留所」蒸留所の立地
ポイント
スプリングバンク蒸留所はスコットランドの南西部にあるキンタイア半島,その先端にある街キャンベルタウンに位置しています。
キャンベルタウンは港町であり,ウイスキー作りに必要な自然資源が豊富であったことから,かつては狭い街中に30以上の蒸留所がひしめく,ウイスキー文化の中心地でありました。
しかし1920年ごろからアメリカで禁酒法が広がると,キャンベルタウンの業者が粗悪なウイスキーばかりを大量に輸出するようになり,ブランド価値が暴落,そして急速に市場が萎んでいくことになってしまいました。
また海上輸送のメリットも空輸に取って代わられてしまったため,今だにかつての栄光は取り戻すことができていません。
しかしながらキャンベルタウンに現存する「スプリングバンク」「グレンガイル」「グレンスコシア」の3蒸留所はどれも大人気であり,キャンベルタウンモルトのブランド価値は完全に回復していると言えるでしょう。
「スプリングバンク蒸留所」蒸留所の歴史
スプリングバンク蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1591年 | キャンベルタウンウイスキーに関する初めての記録が確認される |
1601年 | キャンベルタウンがウイスキー密輸の中心地となる 現在のウイスキーの語源にあたる「ウシュクベーハ」という呼び名が使用される |
1828年 | ウィリアム・レイド氏(ミッチェル家の義理の親)がスプリングバンク蒸留所のライセンスを取得したことにより,正式に創業される |
1837年 | 蒸留所がミッチェル家のジョンとウィリアムへと売却される |
1872年 | ウィリアムミッチェルがプロジェクトから離脱してグレンガイル蒸留所を創設する ジョンの息子であるアレクサンダー氏がスプリングバンクに入社する |
1883年 | 嵐の影響によって蒸留所の煙突が破損する |
1897年 | J&Aミッチェル社が創設される |
1904年 | 嵐の影響によってタンルームの屋根が破損する |
1926年 | アメリカ禁酒法の影響が波及し,蒸留所が閉鎖される |
1933年 | アメリカ禁酒法が廃止される 蒸留所が再開される |
1960年 | 自社製麦設備が閉鎖される |
1969年 | J&Aミッチェル社がボトラーズのケイデンヘッド社を買収する |
1979年 | 英国全体に渡る経済難によって蒸留所の閉鎖を余儀なくされる |
1987年 | かなり制約を受ける状況であったが,蒸留所が再開される |
1992年 | 自社製麦設備を復活させる |
1997年 | ヘーゼルバーンブランド用の原酒が初めて生産される |
2008年 | 需要増に対応するべく,半年間の生産休止を経てウェアハウスが増設される |
スプリングバンクに纏わるストーリー
ジョンとウィリアム
ジョンとウィリアムは同じミッチェル家の兄弟であり,スプリングバンクを早い段階で受け継いだ仕事仲間でもありました。
ところがある時兄弟喧嘩が勃発し,ウィリアムは家出。そしてスプリングバンクの真隣に新しくグレンガイル蒸留所を建設してしまったのです。
当初は各々がウイスキー作りに勤しんでいましたが,他のキャンベルタウンの蒸留所と同様に,アメリカ禁酒法の影響下では蒸留所の運営を続けることができず,長い低迷期を過ごすこととなってしましました。
転機は2000年,スプリングバンクのオーナーによって買収されたことを受けて,グレンガイルも再びウイスキー作りの第一線に返り咲くことができたのです。
この時のオーナーであるヘドレー・ライト氏は創業者のウィリアムの3代目の甥であるということで,まさしくスプリングバンクとグレンガイルは兄弟蒸留所ということができるでしょう!
ロングロウとヘーゼルバーン
いまやロングロウとヘーゼルバーンはスプリングバンクのシングルモルトブランドとしてその名を馳せています。
しかしこれらは独自に考案された名称ではなく,かつてキャンベルタウンに実在していた蒸留所の名前であります。特にヘーゼルバーンはかつて日本の竹鶴政孝が修行をしていた蒸留所としても知られていますね。
両者ともに,キャンベルタウンがウイスキーで繁栄していた時代にはスプリングバンクのライバル的立ち位置でした。
そんな蒸留所の名前をブランド化した背景には,現在まで残り続けているスプリングバンクなりの敬意が示されているのがヒシヒシと伝わってきます。
「スプリングバンク蒸留所」製法の特徴
製麦について
ポイント
スプリングバンク蒸留所では自社での伝統的なフロアモルティングを採用しています。原料の大麦も地元の農家から仕入れたものを主に採用しています。
またモルトの乾燥に使用するピートは蒸留所近郊のマクリハニッシュ産とスペイサイドのトミントール産のものが併用されています。
また3種類のブランド「ヘーゼルバーン」「スプリングバンク」「ロングロウ」はそれぞれ異なるピーテッドレベルのモルトを原料として生産されたシリーズです。
以下具体的に解説します!
- ヘーゼルバーン
熱風乾燥のみ(30〜36時間)/0ppm/ノンピート
- スプリングバンク
6時間ピート乾燥後,30時間熱風乾燥/12〜15ppm/ライトリーピーテッド
- ロングロウ
ピート乾燥のみ(48時間)/50〜55ppm/ヘビリーピーテッド
製麦が完了したモルトはポルテウス社製のモルトミルで粉砕してグリストとしたのち,糖化の工程へと進みます!
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糖化について
ポイント
スプリングバンク蒸留所では仕込み水として街の南側の丘の上にあるクロスヒル湖の水を採用しています。マッシュタンは1バッチあたり3.5トンのグリスト容量を誇る鋳鉄製になります。
製麦によって得られたグリストはマッシュタンへと移されたのち,加熱した仕込み水を3回に分けて温度を上げながら注ぐことで,糖化が進められます。この糖化手法をインフュージョン法と呼びます。
糖化が完了すると糖分を多く含んだウォートが完成します。
次の工程は発酵になります!
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発酵について
ポイント
スプリングバンク蒸留所には容量21000リットルでカラ松製のウォッシュバックが6基設置されています。
糖化によって得られたウォートは20度前後まで冷却されたのちに,酵母と共にウォッシュバックへと投入することで発酵が進められます。発酵にかける時間は72〜110時間と比較的長めに設定されています。
通常発酵が完了した段階で完成するもろみのアルコール度数は約8%程度となっていますが,スプリングバンクでは4〜4.5%とかなり低めの度数で回収しています。
その背景にあたるものとして,今となっては「昔からのやり方だから」という理由しかありませんが,大人気のスプリングバンクの個性を形作る大きな一因として見ることができるかと思います!
次の工程は蒸留になります!
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蒸留について
ポイント
スプリングバンク蒸留所には容量10,000リットルのウォッシュスチルが1基,容量6,000リットルのスピリットスチルが2基設置されています。形状は全てストレート型です。
加熱方式についてウォッシュスチルは蒸気による間接加熱方式と直火加熱方式の双方が可能,2基のスピリットスチルは蒸気による間接加熱方式のみとなっています。
冷却方式はウォッシュスチル(左)とスピリットスチルNo.2(右)がシェル&チューブ方式,スピリットスチルNo.1(中央)が伝統底なワームタブ方式となっています。
蒸留回数やニューポットの度数にもブランドごとに独特な設定があるので,以下簡単にまとめます!
- ヘーゼルバーン
初留⇨No.2⇨No.1の順に3回蒸留/ニューポットの度数は74%
- スプリングバンク
ローワインの一部を3回蒸留する「2.5回蒸留」/ニューポットの度数は71%
- ロングロウ
初留⇨No.2の順に2回蒸留/ニューポットの度数は68%
ちなみに上記3ブランドの生産割合は概ね「ヘーゼルバーン:スプリングバンク:ロングロウ=1:8:1」となっています!
次の工程は熟成になります!
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熟成について
ポイント
スプリングバンク蒸留所にはラック式とダンネージ式の2種類のウェアハウスが敷地内に建てられています。
使用される樽はバーボン樽とシェリー樽(ホグスヘッドやバットなど複数のサイズ)が中心となっています。
ニューポットは加水によって樽熟成に適したアルコール度数に調整されたのち,樽詰めされて,長い時をウェアハウスで眠ることとなります。
オフィシャルボトル一覧
スプリングバンク蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
※全数紹介すると分量が多くなってしまうので一部にとどめます!
スプリングバンクシリーズ
スプリングバンク10年
ポイント
スプリングバンク10年は愛好家の中で「モルトの香水」と呼ばれるほど香り華やかであり,熟成環境に由来するブリニー感(塩味)が非常に強いことで有名なボトルです!
似たジャンルに属するウイスキーを発見するのが容易でないことから,近年では日本の多くのモルトファンが入手を切望しているボトルとも言えるでしょう。
見つけた時は絶対に飲んでおきたいウイスキーです!
価格帯
Amazon:23,980円
※2022年8月現在
香り
潮風/洋梨/バニラ/柑橘/モルティ/白煙/豊かすぎる甘さ
味わい
ブリニー/モルティ/バニラ/オーク甘さ/スパイシー/コク有り/奥深く複雑
余韻
ほのかなブリニーさと薄く香ばしいピート感がとても長く続く
スプリングバンク18年
ポイント
スプリングバンク18年は80%以上シェリー樽原酒で構成された,甘くリッチなフレーバーを特徴としているボトルになります。
モルトの個性と長熟,シェリー樽,熟成環境など様々な要因が絡み合い,圧倒されるような深く複雑な風味が優雅に広がっていくのが特徴的です。
まさしくみんなが追い求めるボトルといった感じです…
価格帯
Amazon:114,000円
※2022年8月現在
香り
レーズン/パイナップル/伊予柑/白葡萄/バニラ/オーク/モルティ/潮感/僅かな煙
味わい
ブリニー/チェリー/シトラス/煮りんご/レーズン/チョコ/オレンジピール/ビター
余韻
多様で複雑な香味がとても長く残り続ける
ヘーゼルバーンシリーズ
ヘーゼルバーン10年
ポイント
ヘーゼルバーンはスプリングバンク蒸留所で作られるウイスキーのうち,ノンピート麦芽を原料に3回蒸留を経た原酒のみで構成されるブランドになります。
ヘーゼルバーン10年は100%バーボン樽原酒のみが使用されています。
価格帯
市場価格:5000〜20000円程度
※出品中の通販はほとんど無し
香り
洋梨/アップルパイ/はちみつ/キャラメル
味わい
バニラ/オレンジピール/はちみつ/スパイシー/ミルクチョコ
余韻
クリーミーで甘めの余韻が非常に長く続く
ロングロウシリーズ
ロングロウ
ポイント
ロングロウはスプリングバンク蒸留所のシングルモルトのうち,ヘビリーピーテッドタイプの原酒で構成されたブランドになります。
麦芽のフェノール値は50〜55ppm程度,2回の蒸留を適用した重心の低いオイリーな酒質が特徴的です。
価格帯
Amazon:14,000円
※2022年8月現在
香り
クリーミー/バニラ/カスタード/濃密なスモーク感/海感/草っぽさ
味わい
卓越したバランス感/クリーミー/バニラ/薬品系ピート感/スモーキー/ブリニー
余韻
強く香ばしいピートスモークが非常に長く続く
参考資料
参考サイト:whisky.com / scotchwhisky.com / スプリングバンク公式