記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回は「ノックドゥー蒸留所」になります!
Points!
「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
ブランド名は蒸留所名ではない|ウォームタブ式冷却|スコットランド最小規模の一角
ノックドゥー(anCnoc)の特徴
ノンピート(+限定ピーテッドライン)|バーボン樽主体|柑橘系|フローラル|はちみつ|軽快でフレッシュ

\\執筆者情報//
初谷(はつがい)
ウイスキーに関わるあらゆる情報をまとめ,「ウイスキーを知りながらより深く楽しめる記事」を発信しています。
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【経歴】東京都立大卒|元公務員・ネット酒屋開業
【資格】JWRC公認ウイスキーエキスパート|ウイスキー検定2級
【その他】バンド「Candid moment」のドラマー
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ノックドゥー蒸留所
ノックドゥー蒸留所の立地と概要・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所諸元
| 創業年 | 1894年 |
| 所有会社 | Inver House Distillers(International Beverage Holdings傘下) |
| 地域分類 | スコットランド,スペイサイド▶ノック(バンフシャー州) |
| ブランド名 | anCnoc(アンノック) |
| 年間生産量 | 約200万リットル |
| ウォッシュバック | オレゴンパイン製8基 |
| ポットスチル | 初留1基(10,350L)・再留1基(9,500L) |
| コンデンサー | ウォームタブ式(鋳鉄製) |
| 仕込み水 | ノック丘からの湧水 |
「ノックドゥー蒸留所」立地と概要
ポイント
ノックドゥー蒸留所はスコットランド北東部、バンフシャー州のノック(Knock)という小さな村に位置しています。スペイサイド地方に分類される蒸留所のなかでも、最も東端に位置する蒸留所のひとつです。ただしブランドとしての「anCnoc」はハイランドウイスキーとして表記・販売されており、これはスペイサイドがハイランド地方内に含まれるという行政上の定義と、そのウイスキーのスタイルがどちらかといえばハイランドモルトの個性に近い、という判断によるものです。
蒸留所の名称「Knockdhu(ノックドゥー)」はゲール語で「黒い丘」を意味しており、蒸留所の背後にそびえるノック丘(Black Hill)に由来しています。この丘こそが、仕込み水となる湧水の源でもあります。一方、シングルモルトのブランド名「anCnoc(アンノック)」はゲール語で「その丘」を意味し、「a-nock(ア・ノック)」と発音します。蒸留所名とブランド名が異なるという、ウイスキー界でも珍しい例のひとつです。その背景については、後述の歴史セクションで詳しく解説します。
蒸留所の規模はスコットランドでも最小クラスに属しており、ポットスチルはわずか1対(初留・再留各1基)のみを有する、いわゆる「ツースチラー(Two-stiller)」です。この小規模さがDCL時代に閉鎖の一因ともなりましたが、Inver Houseによる再稼働以降はその小ささを活かした丁寧なウイスキー作りが評価されています。

「ノックドゥー蒸留所」蒸留所の歴史
ノックドゥー蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
| 西暦年 | 内容 |
|---|---|
| 1892年 | ジョン・モリソン(John Morrison)がフィフ公爵からノック・エステートを購入する。DCL(Distiller's Company Limited)の依頼を受けての行動であり、周辺に広がる大麦畑、ピートの採取地、湧水、そして近接するグレート・ノース鉄道の存在が決め手となった |
| 1893年 | エルギンの建築事務所Gordon & Macbeyによって蒸留所の設計・建設が開始される |
| 1894年 | 10月、蒸留所が竣工し生産を開始。DCLが自社で建設した最初の蒸留所。地元産の灰色花崗岩を用いた堅牢な建屋は、当時の「近代的な蒸留所」の象徴とみなされた。週約2,500ガロンの生産を想定した16馬力の蒸気エンジンで稼働を開始した |
| 1894〜1931年 | 途切れることなく生産を継続。世紀末のウイスキーブームも追い風となり、スタッフ数は19名に達した |
| 1930年 | スコティッシュ・モルト・ディスティラーズ(SMD)が蒸留所を引き継ぐ |
| 1931年 | 世界恐慌の影響により蒸留所が一時閉鎖される |
| 1933年 | 生産が再開される |
| 1933〜1983年 | 約50年にわたり安定稼働を継続 |
| 第二次世界大戦期 | 大麦使用に対する戦時規制により生産が制限され、一時期は軍の兵舎として使用された |
| 1983年 | 業界全体の生産過剰と不況を背景に、DCL(ディアジオの前身)の判断により閉鎖される。小規模蒸留所は当時の整理縮小の波を受けやすく、ノックドゥーもその影響を直接受けた形となった |
| 1988年 | Inver House Distillersがノックドゥーを取得。これはInver Houseとして初めて購入した蒸留所であった |
| 1989年 | 2月6日、生産を再開。1894年当時とほぼ変わらない製法・設備構成を維持した形での再スタートとなった |
| 1990年 | 最初のオフィシャルボトリングがリリースされる |
| 1993年 | 「An Cnoc」名義での最初のオフィシャルシングルモルトがリリースされる |
| 2000年(諸説あり) | 近隣の「ノッカンドゥ(Knockando)」との名称混同を避けるため、ブランド名を正式に「anCnoc」へ変更。蒸留所名と製品名が異なるという異例の状況が生まれた |
| 2001年 | Pacific Spirits UKがInver Houseを買収(約8,500万ユーロ) |
| 2006年 | International Beverage Holdings(IB)がPacific Spirits UKを買収。以降、IBの傘下として現在に至る |
| 2019年 | 週7日稼働体制へ移行し、年間生産量が約200万リットルに拡大 |
| 2025年 | ウォームタブおよびスピリッツスチルのポット部の交換を含む大規模メンテナンスを実施。伝統的なスピリッツキャラクターの維持・継承を目的としたものであった |

「ノックドゥー蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
約200万リットル - 仕込み水
ノック丘からの湧水 - ピーテッドレベル
ノンピート(ピーテッドライン:約45ppm) - マッシュタン材質
ステンレス製ロイタータン - マッシュタン容量
1バッチ5.1トン - ウォッシュバック
オレゴンパイン製8基 - ウォッシュバック容量
30,000L
- 発酵時間
65時間 - スチル加熱方式
蒸気間接加熱 - ポットスチル(初留)
バルジベース型1基(10,350L) - ポットスチル(再留)
バルジベース型1基(9,500L) - コンデンサー
ウォームタブ式(鋳鉄製) - ウェアハウス形式
ダンネージ式
製麦について
ポイント
ノックドゥー蒸留所は外部モルトスターからモルトを調達しており、現在は自社製麦を行っていません。スタンダードラインにはノンピートのモルトを使用しており、anCnocの代名詞ともいえるフレッシュで柑橘系の酒質の基礎を形成しています。
一方で、年間を通じた生産の一部においては、約45ppmという高ピーテッドレベルのモルトも使用しており、これが「anCnoc Peatheart(ピートハート)」シリーズの原酒となります。通常のスタイルとは全く異なるヘビーピーテッドの原酒を同一の設備で作り分けるという点は、この規模の蒸留所としては異例の対応です。
ここが特徴!
- ノンピートとヘビーピーテッド(約45ppm)の2スタイルを同一設備で作り分けている
- ピーテッドモルトはInver Houseのブレンデッドウイスキーの原酒としても活用されている
次の工程は糖化になります!
↓工程の詳細な解説↓
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糖化について
ポイント
ノックドゥー蒸留所では仕込み水として、蒸留所の名前の由来にもなったノック丘からの湧水を使用しています。ミネラル分が抑えられたクリアな水質で、anCnocのクリーンな酒質に貢献しています。
マッシュタンはステンレス製のロイタータン(5.1トン容量)が設置されており、週あたり19〜20バッチのマッシングを行う稼働スケジュールが組まれています。ロイタータンはウォートをクリアに抽出できる構造であり、クリーンな酒質を追求するノックドゥーのスタイルと合致しています。
ここが特徴!
- 仕込み水はノック丘(Black Hill)由来の湧水。蒸留所名・ブランド名の語源と同じ「丘」がウイスキーの根幹を支えている
- ロイタータンによるクリアなウォート抽出がクリーンな酒質の基礎を作る
次の工程は発酵になります!
↓工程の詳細な解説↓
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発酵について
ポイント
ウォッシュバックはオレゴンパイン製8基が設置されており、各30,000リットルの容量を持ちます。木製ウォッシュバックは温度管理がステンレス製に比べてやや不安定ではあるものの、内部に棲みつく微生物叢(マイクロフローラ)がウォッシュの発酵に複雑さを加えると考えられており、伝統的なスタイルを守る意味でも現在も木製が維持されています。
発酵時間は65時間に固定されており、これは業界平均よりもやや長めの設定です。この時間帯が、anCnocのキャラクターであるフレッシュで「グリーン」な柑橘感の形成に関与していると考えられています。
ここが特徴!
- 発酵時間65時間は業界平均よりやや長め(リンクウッドの80時間には及ばないが、グレントファースの56時間より長い)
- オレゴンパイン製ウォッシュバックを現在も維持。木材由来のマイクロフローラがウォッシュに複雑さを付与する
次の工程は蒸留になります!
↓工程の詳細な解説↓
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蒸留について
ポイント
ノックドゥー蒸留所の蒸留設備の最大の特徴は、そのミニマルな構成とウォームタブ式コンデンサーの組み合わせです。
ポットスチルはウォッシュスチル1基(10,350L)、スピリッツスチル1基(9,500L)の計2基のみという、極めてコンパクトな構成です。両スチルとも球状に膨らんだベース(バルジベース)と背の高い漸縮型のネックを持つ独特の形状をしており、これにより蒸気のリフラックス(還流)が適度に促進され、軽くてフルーティな成分が選択的に蒸留されます。
冷却には現在のスコットランドではほとんど見られなくなった鋳鉄製のウォームタブ(Worm Tub)を採用しています。これはコイル状に巻かれた銅管(ウォーム)を冷水の入った槽に沈め、蒸留蒸気をその中で液化させるという、19世紀の製法そのままの伝統的な設備です。シェル&チューブ式に比べ銅との接触面積が少ないため、硫黄化合物がより多く残留しやすく、ノックドゥーのニューメイクには独特の硫黄感(サルファリー)が現れます。しかし熟成を経るとこの要素は昇華し、バタースコッチのような深みのある甘さへと変化します。
ここが特徴!
- ポットスチル1対のみというスコットランド最小規模クラスの構成
- バルジベース+背の高い漸縮ネックがリフラックスを促進し、軽快でフルーティな酒質を生む
- 鋳鉄製ウォームタブは現在のスコットランドでは希少な設備。ニューメイクの硫黄感が熟成でバタースコッチ的な甘さに変化する
次の工程は熟成になります!
↓工程の詳細な解説↓
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熟成について
ポイント
ノックドゥー蒸留所の熟成倉庫はダンネージ式が採用されており、分厚い花崗岩の壁が年間を通じた温度の安定に貢献しています。この自然な温度管理が、anCnocの一貫した品質と飲みやすいキャラクターの形成に寄与しています。
熟成樽はバーボン樽(アメリカンオーク)を主体とし、一部にスペイン産オーク(シェリー樽)を使用。バーボン樽主体の熟成が、anCnocの柑橘系・フローラル・バニラ的な軽快さを生み出す大きな要因となっています。
ここが特徴!
- ダンネージ式倉庫の分厚い花崗岩壁が自然な温度管理を実現し、熟成の安定性に貢献
- バーボン樽主体の熟成がanCnocらしい柑橘系・フローラルキャラクターの源泉
↓工程の詳細な解説↓

オフィシャルボトル一覧
ノックドゥー蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
anCnocのオフィシャルラインナップは大きく「コアレンジ(年数表記)」「ピーテッドシリーズ」「ヴィンテージシリーズ」の3つで構成されています。
anCnoc 12年(アンノック 12年)

ポイント
anCnocのスタンダードボトルであり、ブランドの顔となる一本です。バーボン樽とシェリー樽の原酒を組み合わせてボトリングされており、どちらかといえばバーボン樽のキャラクターが前面に出た仕上がりです。アルコール度数は40%で、入門としての飲みやすさを意識したスペックとなっています。モダンでスタイリッシュなボトルデザインは、伝統的な蒸留所のイメージとは一線を画す現代的な印象を与えており、若年層への訴求を意識したブランディングが見て取れます。
Tasting Note
- 香り
はちみつ|レモン|青りんご|フローラル|ほのかな麦芽の甘さ
- 味わい
柑橘のフレッシュな甘み|バニラ|ライトなモルト感|マーマレード的な酸味
- 余韻
すっきりと短め|柑橘と淡い甘さが続く
anCnoc 18年(アンノック 18年)
ポイント
18年熟成のコアレンジ。スペイン産オーク由来のオロロソシェリー樽とバーボン樽のいずれでも熟成が行われており、12年と比較するとボディの厚みとスパイシーさが増し、よりアダルトで複雑な印象を持ちます。アルコール度数は46%でボトリングされており、ノンチルフィルタード(非冷却濾過)での仕上げとなっています。
Tasting Note
- 香り
オレンジマーマレード|はちみつ|トフィー|ウッドスパイス|わずかにドライフルーツ
- 味わい
レモンとオレンジの柑橘感|バタースコッチ|シナモン|モルトの甘み|軽いタンニン
- 余韻
スパイシーで温かみのある余韻が中程度持続する
anCnoc Peatheart(アンノック ピートハート)シリーズ
ポイント
2014年より展開されているヘビーピーテッドのシリーズです。ピート採掘における道具の名称をボトル名に冠した複数のリリースが存在します。通常のanCnocとは全く異なるスモーキーで力強い個性を持ち、スタンダードラインと同一の設備で作り分けられていることがこのシリーズの面白さのひとつです。
- Flaughter(フラフター):ピートを切り出す道具の名称。スモーキーかつフルーティな個性
- Rutter(ラター):溝を掘る道具の名称
- Tushkar(タシュカー):ピート採掘に使うスペード型の道具の名称
- Cutter(カッター):2014年リリースの初期作

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参考資料
参考サイト:anCnoc公式(ancnoc.com)|whisky.com|scotchwhisky.com|distilando.com|maltspedia.com|diffordsguide.com







