記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回は「トマーティン蒸留所」になります!
Points!
「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
日本企業所有第1号/超大規模拡張からの倒産
トマーティンの特徴
ノンピート&中ピート/軽やか/クリーン/ソフト/フルーティとピーティのバランス良
(余談までに…)
YOUTUBEも始めました!ぜひ遊びにきてね!
トマーティン蒸留所
トマーティン蒸留所の立地・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所の概要
創業年 | 1897年 |
所有会社 | 宝酒造社・丸紅社 |
地域分類 | スコットランド,北ハイランド |
発酵槽 | ステンレス製12基 |
ポットスチル | 初留6基・再留6基 |
仕込み水 | オルタ・ナ・フリス川 |
ブレンド先 | アンティカリーなど |
「トマーティン蒸留所」蒸留所の立地
ポイント
トマーティン蒸留所はスコットランドの北ハイランドに位置しています。より具体的には都市インバネスからA9号線を25km程度南下したところにあるトマーティン村のはずれに建てられています。
この場所において1700年代頃から密造という形態にて蒸留酒が製造されていたとされる考察が存在しますが,正式に創業されたとされているのは1897年6月8日,トマーティン・スペイ・ディスティラリー社が形成されたときでした。
蒸留所には見学ツアーや併設バーはもちろん,ハンドフィル体験によってカスクストレングスのウイスキーを記念品として持ち帰ることができるなど,観光客としては嬉しい要素の多い蒸留所です。
また1970年代の終盤ごろには,ウイスキーの生産の副産物として生じる温水を利用したうなぎの養殖を行っていた時代があり,兼ねてより日本企業との深い関わりを持っていたことの影響があった可能性が示唆されますね。
ちなみにトマーティン(Tomatin)はゲール語に語源を有しており「ねずの木の茂る丘(Tom aitionn)」を意味しているとされています。また仕込み水を採取するオルタ・ナ・フリス川も同様で,「鹿のいる森を流れる小川(Allt na Frithe)」を意味しているとされています。
「トマーティン蒸留所」蒸留所の歴史
トマーティン蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1897年 | トマーティン・スペイ・ディスティラリー社のもとでトマーティン蒸留所が創業される |
1906年 | 会社の倒産によって蒸留所が閉鎖されてしまう (パティソンズ社倒産の影響) |
1909年 | 蒸留所がロンドンのワイン商人に買収され,新たにトマーティン・ディスティラーズ社が設立される 併せてウイスキーの生産も再開される |
1956年 | 蒸留所の拡張により,ポットスチルが2基増設されて計4基体制となる |
1958年 | 2基のポットスチルが増設されて計6基体制となる |
1961年 | 4基のポットスチルが増設されて計10基体制となる |
1964年 | 1基のポットスチルが増設されて計11基体制となる |
1974年 | ポットスチルの総数が23基に達し,年間生産量も1,000万リットルを超える |
1986年 | ウイスキー需要低迷の影響により蒸留所が倒産する 蒸留所は日本の宝酒造と大倉商会が購入する |
1997年 | 宝酒造社がブレンディング会社のJWハーディー社と,そのブランドのジ・アンティクァリーを買収する |
1998年 | 倒産した大倉商会を丸紅社が買収する |
2000年 | 計23基あったポットスチルのうち,11基が稼働を停止し,以降12基体制で操業される |
トマーティンに纏わるストーリー
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「トマーティン蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
500万L - 仕込み水
オルタ・ナ・フリス川 - モルトスター
シンプソンズ,ブートモルト,ベアーズ - ピーテッドレベル
基本ノンピート
中ピート(15ppm) - マッシュタン材質
ステンレス製フルロイター - マッシュタン容量
1バッチ9トン - ウォッシュバック
ステンレス製12基 - 酵母
マウリ社製 - ウォッシュバック容量
56,800L
(張込み41,180L) - 発酵時間
55〜112時間
- スチル加熱方式
蒸気間接加熱 - ポットスチル(初留)
バルジ型6基 - ウォッシュスチル容量
16,820L
(張込み14,707L) - ポットスチル(再留)
バルジ型6基 - スピリッツスチル容量
16,820L
(15,600L) - コンデンサー
シェル&チューブ - 本留の度数
70% - 樽詰め度数
63.5% - ウェアハウス形式
ダンネージ式2棟,ラック式13棟
製麦について
ポイント
トマーティン蒸留所では現在自社製麦が行われておらず,製麦工程を外部の大手専門業社(モルトスター)であるシンプソンズ社,ブートモルト社,ベアーズ社などに委託しています。
スコットランド産の大麦のみを使用し,ピーテッドレベルは基本的にノンピートタイプとされていますが,一部フェノール値15ppmのミディアムピーテッド麦芽での仕込みも行われています。
このミディアムピーテッドタイプの麦芽を原料として生産されたウイスキーは,「ク・ボカン(Cu Bocan)」シリーズとしてリリースされており,ファンからの人気を獲得しています。
用意された原料のモルトは,ポルテウス社製のローラー式モルトミルで粉砕してグリストとしたのち,糖化の工程へと進みます!
↓工程の詳細な解説↓
ミディアムピーテッドタイプ
\\ク・ボカン//
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糖化について
ポイント
トマーティン蒸留所では仕込み水としてオルタ・ナ・フリス川の水を採用しています。マッシュタンは1バッチあたり9トンのグリスト容量を誇るステンレス製のフルロイタータンになります。
製麦によって得られたグリストは,1回目のお湯と混合されたのちにマッシュタンへと投入され,2,3回目のお湯をスパージングすることで糖化が進められます。この糖化手法はワンステップ・インフュージョン法と呼ばれています。
1回目のお湯は糖化酵素が最もよく作用する64.5℃とされており,接触後30分〜1時間放置されます。そして2回目のお湯は70℃,3回目のお湯は80℃に設定されています。
各回のお湯との接触ごとに,糖類を含有したウォートという溶液が抽出されており,通常糖類が多く含有されている1,2回目のウォートが発酵に回され,3回目のウォートは次回の糖化バッチにて,お湯と混合して注がれることとなります。
次の工程は発酵になります!
↓工程の詳細な解説↓
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発酵について
ポイント
トマーティン蒸留所には容量56,800リットル(張込み41,180リットル)でステンレス製のウォッシュバックが計12基設置されています。使用される酵母はマウリ社製のディスティラーズ酵母になります。
ウォッシュバックの材質について,現在全て腐食の危険性がなく維持管理性に優れたステンレス製とされていますが,過去にコールテン鋼製のものが使用されていた時期もあるようです。
糖化によって得られたウォートは,熱交換器(ヒートエクスチェンジャー)を介して19℃程度まで冷却されたのち,酵母と混合してウォッシュバックに投入することで発酵が始まります。
発酵にかける時間は48時間と,スコットランドで一般的な短めに設定されています。よって乳酸発酵が卓越する前に発酵が終了されることから,比較的重めで厚みのあるテイストが活かされることとなります。
発酵が完了するとアルコール度数約8%となったウォッシュを得ることができます。
次の工程は蒸留になります!
↓工程の詳細な解説↓
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蒸留について
ポイント
トマーティン蒸留所には容量16,820リットル(張込み14,707リットル)のウォッシュスチルが6基,容量16,820リットル(張込み15,600リットル)のスピリッツスチルが6基設置されています。
トマーティンのポットスチルは1970年代に一度合計23基まで一気にその数を伸ばしていました。しかし1986年の倒産と宝酒造社らによる買収を経て,2000年以降は23基のうち12基の稼働に留まっています。
形状はどれもバルジ型で初留・再留共に容量や形状は同じとされており,加熱方式は蒸気による間接加熱方式,コンデンサーはシェル&チューブ方式が採用されています。
−初留−
発酵によって得られたウォッシュはウォッシュスチルへと投入され,初留が行われます。初留ではウォッシュに含まれるアルコールの全量が抽出され,アルコール度数が20%強程度となったローワインを得ることができます。
−再留・ミドルカット−
続いてローワインは,前回蒸留時にカットされた前留・後留と共にスピリッツスチルへと投入され,再留が行われます。
再留によって得られるニューポットはスピリッツセイフと呼ばれる箱を経由し,その中でアルコール度数や含有成分の好ましくない蒸留初期・終期の蒸留液(前留・後留と言う)がカットされ,性質の優れた中間の本留のみが確保されます。
この作業はミドルカットと言い,後留のアルコール度数が1%となるまで継続されます。トマーティンにおいて,最終的に得られる本留はアルコール度数が約70%程度となり,樽詰めされるまではスピリッツレシーバーという容器に一時貯蔵されます。
トマーティンの蒸留作業は非常にゆっくりとしたスピード(初留13時間・再留12時間)で行われており,軽やかで柔らかいテイストに寄与する低沸点成分が多く得られるのが特徴的です。
次の工程は熟成になります!
↓工程の詳細な解説↓
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熟成について
ポイント
トマーティン蒸留所には伝統的なダンネージ式のウェアハウスが2棟,貯蔵容量に優れている近代的なラック式のウェアハウスが13棟建てられています。
熟成に使用される樽はバーボン樽やバーボン樽をひと周り大きく組み直したホグスヘッドはもちろんのこと,フィニッシュ用としてシェリー樽やポートワイン樽,アメリカンオークのバージン樽,焼酎樽などが使用される場合があります。
蒸留によって得られたニューポットは,加水によってアルコール度数を63.5%に調整されたのちに樽詰めされ,ウェアハウスにて長い時間を眠ることとなります。
↓工程の詳細な解説↓
オフィシャルボトル一覧
トマーティン蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
トマーティン12年
ポイント
「トマーティン12年」はトマーティン蒸留所の公式シングルモルトのうち,最もスタンダードな12年熟成のボトルになります。
バーボン樽,バーボン樽を解体してひと回り大きく組み直したホグスヘッド樽,シェリー樽で熟成された原酒をブレンドしたのち,8ヶ月に渡ってシェリー樽でフィニッシュをかけた原酒で構成されています。
トマーティンらしいモルティな甘みや12年の熟成期間で得られた円熟感,そして心地よく優しいピート香をバランスよく感じることができ,ドライかつパワフルな印象は飲むものを飽きさせません。
香り
モルティ/ドライフルーツ/はちみつ/バニラ/ウッディ/僅かにピートスモーク
味わい
モルティ/トースト/カラメル/はちみつ/レーズン/オークの樽香/適度なピートスモーク
余韻
香ばしい甘さとオークのウッディネスが長く続く
トマーティン レガシー
ポイント
「トマーティン レガシー」はトマーティン蒸留所の公式シングルモルトのうち,最もリーズナブルな価格帯で購入できるボトルになります。ちなみにレガシーという言葉には「受け継がれる財産」という意味があります。
一般的なバーボン樽とアメリカンオークのバージン樽で熟成された原酒のみで構成されており,熟成年に縛りのないノンヴィンテージのボトルです。
そのテイストの特徴としては,アメリカンオークが有する力強いウッディな樽香や,軽やかかつ繊細ながらも濃厚なバニラ・はちみつのような甘さを感じることができます。
トマーティン
カスクストレングス
ポイント
「トマーティン カスクストレングス」はトマーティンの原酒に冷却濾過を施さず,ボトリング時に度数調整を目的とした加水を行わないカスクストレングスタイプのボトルになります。
ファーストフィルのバーボン樽とファーストフィルのオロロソシェリー樽で熟成された原酒のみで構成されており,ファーストフィルらしい力強く濃厚でリッチな印象。
そのテイストは煮詰めたシロップの甘さやオレンジ系の柑橘香,洋梨,ナッツ,ジンジャースパイスなど,非常に多様な要素からなる満足感の高い仕上がりです。
トマーティン14年
ポートカスク
ポイント
「トマーティン14年 ポートカスク」は13年間に渡るリフィルバーボン樽での熟成ののち,その題名にもあるパイプサイズのポートワイン樽で1年間のフィニッシュを行なった原酒で構成されたボトルになります。
バーボン樽で培われた甘さとトマーティンらしい柔らかな酒質をベースとし,そこにポートワインが持つ甘く芳醇で豊かな果実香が融合。瑞々しいしいピーチや南国感のあるマンゴーのようなテイストを感じることができます。
ボトリング時に冷却濾過が施されておらず,アルコール度数も46%と高めであることから,樽で養われた本来の旨みを凝縮感抜群の状態で味わうことができる素晴らしいボトルですね。
トマーティン18年
ポイント
「トマーティン18年」は元バーボン樽を組み直したリフィルのホグスヘッドで16年間の熟成を経たのち,オロロソシェリー樽で2年間のフィニッシュを施した原酒で構成された,合計18年熟成の長熟ボトルになります。
力強い印象とマイルド円熟感が見事なバランス感を呈しており,シェリー樽原酒らしい芳醇な甘みやモルティな甘み,シトラス,ダークチョコなどを感じることができる,濃厚で奥深く,多層的な仕上がりとなっています。
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参考資料
参考サイト:トマーティン公式 / 国分社 / whisky.com / scotchwhisky.com / malt-whisky-madness.com