スコットランド・ハイランドのスペイサイド蒸留所を、代表的なボトル・場所・歴史・製法の順に解説します。
2026年11月時点の状況
2025年4月、建物の賃貸契約が終わったことにともない、キンユーシー近郊のグレントロミー(トロミー・ミルズ)での生産を終了しました。運営会社は、ここで造られた原酒は今後「失われた蒸留所」の原酒になると発表しています。
新しい蒸留所はラガン近くのストラスマッシーに計画され、2023年に建設の許可を得ていますが、2026年6月時点では着工しておらず、許可の期限の延長が認められた段階です。SPEY(スペイ)ブランドは旧蒸留所の在庫原酒を使い、割り当て制で販売を続けると発表されています(ベイン・ドゥを含め、旧蒸留所での新たな製造はありません)。なお、元の建物は2021年から所有するグラスゴー・ウイスキー社が、新しい蒸留所に改修する計画です。
- たった1人の石工が約25年かけて建てた建物で、4人の職人が手作業中心で造っていた小さな蒸留所
- ノンピートの麦芽を、スコットランドでも小ぶりなスチルでゆっくり蒸留した軽やかな原酒
- バーボン樽熟成を軸に、ポートワイン樽などのフィニッシュで果実の甘さを足したボトルが多い
代表的なボトル:スペイ テネ

「スペイ」シリーズのうち、ハーベイズ社とゆかりのある詩人バイロン卿にちなんだ「ラテン・コレクション」の1本です。テネ(TENNE)はラテン語で「黄褐色」という意味です。
バーボン樽で熟成させたあと、トゥニーポートワイン樽で約半年のフィニッシュをかけた原酒を使っており、ジャムのような濃い果実の甘さが特徴です。生産終了後のスペイは旧蒸留所の在庫原酒による限られた供給になるため、気になる方は早めに試しておくのがおすすめです。
| 香り | 強いフルーツ香/フローラル/いちごジャム/オレンジマーマレード/適度なスパイス感 |
|---|---|
| 味わい | 軽やか/優しいフルーティネス/ドライフルーツ/アーモンド系のナッティさ |
そのほかのオフィシャルボトル(2)
スペイ トゥルティーナ:同じラテン・コレクションの1本で、トゥルティーナは「ありのまま」の意味。バーボン樽の原酒だけで造る、蒸留所の素の味に近いボトルです。香りはフルーティで華やか、柑橘やバナナブレッド、味わいはヌガーやキャラメル、ミルキーな甘さ。

ベイン・ドゥ(Beinn Dubh):内側を強く焦がしたルビーポート樽で熟成させた、ルビーブラックの色の「黒いウイスキー」。名前はゲール語で「黒い山」の意味で、ケアンゴーム山脈のベン・マクドゥイにちなみます。レーズンやダークチョコレートのような味わい。生産終了により、新たな製造の予定は発表されていません。

スペイサイド蒸留所の基本データ
| 創業年 | 1956年に用地を取得(1990年に生産開始) |
|---|---|
| 所有会社 | スペイサイド・ディスティラーズ社(ハーベイズ・オブ・エジンバラ系) |
| 稼働状況 | 生産終了(2025年4月)・ストラスマッシーへの移転を計画中 |
| 地域 | ハイランド(スペイ川上流のキンユーシー近郊) |
| 年間生産能力 | 約60万リットル(グレントロミー時代) |
| 主なブランド | スペイ、ベイン・ドゥ(旧名:ドラムイッシュ、グレントロミーなど) |
場所:スペイ川の上流、トロミー川のほとり
スペイサイド蒸留所があったのは、スペイ川の最上流部にあるキンユーシーの町のやや東、支流のトロミー川沿いです。まわりは草原と木立に囲まれ、ケアンゴーム国立公園の山あいにあります。建物はBBCのドラマ「Monarch of the Glen」にも登場しました。
名前は「スペイサイド」ですが、場所はいわゆるスペイサイド地域の外にあり、地域の区分ではハイランドにあたります。移転先のストラスマッシーは、ここからさらに西、ラガンの村の近くで、運営会社は新しい蒸留所の原酒はハイランドの原酒として別の名前で売り出すとしています。
歴史
| 1956年 | ジョージ・クリスティーが蒸留所の用地を取得 |
|---|---|
| 1962年 | 地元の石工アレックス・フェアリーが建設を始める |
| 1987年 | 約25年かけて建物が完成 |
| 1990年 | 12月にウイスキーの生産を開始 |
| 2000年 | クリスティー家を含む民間の投資グループが買収 |
| 2001年 | スペイサイド10年を発売 |
| 2012年 | ハーベイズ・オブ・エジンバラが買収 |
| 2014年 | スペイシリーズを発売。台湾で大きな人気に |
| 2021年 | グラスゴー・ウイスキー社が建物と用地を取得(スペイサイド・ディスティラーズ社は賃貸で操業を継続) |
| 2023年 | ストラスマッシーでの新しい蒸留所の建設が許可される |
| 2025年 | 4月に賃貸契約が終わり、グレントロミーでの生産を終了。「失われた蒸留所」に |
| 2026年 | 6月、ストラスマッシーの建設許可の期限延長が認められる |
1人の石工が25年かけて建てた蒸留所
創業者のクリスティー家は家族経営の小さな事業者で、1980年代は多くの蒸留所が閉鎖に追い込まれたウイスキー業界の冬の時代でした。それでも自分の蒸留所を持ちたかったジョージ・クリスティーは、地元の石工アレックス・フェアリーに建設を任せます。
アレックスは地元の花崗岩や砂岩、石灰だけを使い、スコットランドの伝統的な工法でゆっくりと建物を積み上げ、1987年に完成させました。もとは1760年代の大麦の製粉所だった場所で、実際の創業年よりずっと古い歴史を感じさせる外観になっています。
19世紀にあった「先代」のスペイサイド蒸留所
キンユーシーの町には、かつて同じ名前の蒸留所がありました。1895年に、バリンダルロッホ城の城主サー・ジョージ・マクファーソン・グラントが建てたもので、創業者の死をきっかけに1911年に閉鎖されています。クリスティーの蒸留所とは場所も設備も別で、直接のつながりはありません。
製法の特徴
| 年間生産能力 | 約60万リットル |
|---|---|
| 仕込み水 | トロミー川 |
| ピート | ノンピート |
| 糖化 | ステンレス製ロイタータン(1回4.2トン) |
| 発酵槽 | ステンレス製4基(各23,000リットル) |
| ポットスチル | 初留1基(11,000リットル)・再留1基(7,000リットル) |
| 熟成 | 敷地外(グラスゴー)・バーボン樽中心 |
4人の職人で回す手作りの蒸留所
コンピューター制御はほとんど入れず、工場長のシャンドを含む4人の職人だけで、仕込みから設備の補修、草刈りまでこなしていました。それでも年間4,000樽以上を貯蔵庫へ送り出していたといいます。
小さなスチルでゆっくり蒸留
もともと大量生産を前提にしていないため、スチルはスコットランドでも小さな部類です。スリムで長いネックのスチルでゆっくり時間をかけて蒸留し、軽やかでクリーンな原酒に仕上げていました。発酵も軽い酒質をねらって長めに取っていたとされます。
熟成はグラスゴー、樽はバーボン樽が軸
敷地に貯蔵庫はなく、ニューポットは樽に詰めてグラスゴーへ運び熟成させていました。樽はバーボン樽が中心で、テネのトゥニーポートやベイン・ドゥのルビーポートのように、フィニッシュに様々な樽を使うのがこの蒸留所らしさです。
設備のその後
生産終了後、マッシュタン・ウォッシュバック・スチルは取り外され、ロセスの設備会社フォーサイス社で保管されています。2025年のスピリット・オブ・スペイサイド・フェスティバルでは、元のスチルの1基が展示されました。
ハイランドのほかの蒸留所
スペイサイド地域の蒸留所一覧(蒸留所データベース)を見る ›
参考:whisky.com / scotchwhisky.com / malt-whisky-madness.com / ballantines.ne.jp / Strathspey Herald(2025年5月1日) / Strathspey Herald(2026年6月19日) / Strathspey Herald(2023年11月) / The Spirits Business(2025年4月15日) / The Scotsman / Wikipedia
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