【特集】スペイバーン蒸留所(Speyburn)|場所・歴史・製法・味と種類|ウイスキーラウンドアップ

記事の概要

世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。

今回はスコットランドより「スペイバーン蒸留所」になります!

Points!「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」

キーワード

ドラム式モルティング/チャールズ・ドイグ/ダイヤモンドジュビリー

スペイバーンの特徴

柑橘系の爽快な風味/バランスが良い/スペイサイドらしく華やか/バーボン樽とシェリー樽

スペイバーン蒸留所

スペイバーン蒸留所の立地・歴史・製法についてまとめていきます。

蒸留所の概要

創業年1897年
所有会社インターナショナルビバレッジホールディングス社
地域分類スコットランド
スペイサイド ローゼス地区
発酵槽ダグラスファー製4基・ステンレス製15基
ポットスチル初留1基・再留2基
仕込み水グランティ川
ブレンド先キングジョージ4世
インバーハウスなど

「スペイバーン蒸留所」蒸留所の立地

ポイント

スペイバーン蒸留所はスコットランドのスペイサイド,ローゼス地区に位置しています。具体的には緑豊かな森林を有するローゼスの谷の狭間に位置しています。

チャールズ・ドイグ氏の設計で建てられた蒸留所の建屋は,あまり広くないスペースを最大限に活かすために背が高く作られています。自然豊富な谷の中でこの背の高い建物は目立ちつつも不思議と景色に調和しており,かつて使用されていた製麦塔のパゴダ屋根は強く印象に残ります。

また蒸留所が建っている場所はかつて処刑場であったらしく,それを知る創業当時の職人たちは,恐れを感じていたため夜間勤務に強い抵抗を覚えていたという逸話もあります。

「スペイバーン蒸留所」蒸留所の歴史

スペイバーン蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!

西暦年内容
1897年ジョン・ホプキンス社によってスペイバーン蒸留所が創業される
スコットランドで初めてドラム式製麦機が導入される
1916年蒸留所がDCL社によって買収される
1930年戦争の影響により蒸留所が一時閉鎖される
1934年蒸留所が再開される
1939年再び戦争の影響によって蒸留所が一時閉鎖される
1947年蒸留所が無事再開される
1962年蒸留所の管理がDCL社のウイスキー部門にあたるスコティッシュモルトディスティラーズ社へと任される
スチルの加熱方式が蒸気による間接加熱方式に改められる
1968年特徴的なドラム式モルティングが廃止される
1986年会社合併によって所有者がUD社となる
1991年蒸留所がインバーハウスディスティラーズ社によって買収される
2001年インバーハウス社がパシフィックスピリッツ社に買収される
2006年パシフィックスピリッツ社がインターナショナルビバレッジホールディングス社に買収される
2008年鋳鉄製マッシュタンを最新のステンレス製セミロイタータンに交換する
2012年ブランドのオンラインコミュニテイである「Clan Speyburn」が結成される

スペイバーンに纏わるストーリー

ドラム式製麦機

スペイバーン蒸留所は建設にあたって,建物の設計を世界的に著名な建築家であるチャールズ・ドイグ氏が行いました。

ドイグ氏が発明した,モルトの乾燥塔における特徴的な形をした「パゴダ屋根」がスペイバーンにも設置されています。これは今でも蒸留所の伝統と歴史を象徴するシンボルとして残されています。

元々パゴダ屋根を有した乾燥塔はメッシュ状の床にモルトを広げ,下から熱源を焚くことで乾燥を行うといった仕組みの設備であり,屋根は空気の流れを最適化する役目を担っていました。

しかしながらスペイバーン蒸留所においてその生産スペースは非常に限られており,従来のスタイルでモルトの乾燥を行った場合には,その生産量に制約が生じてしまうことが予想されていました。

そこで考えられたのが狭いスペースながらモルトの乾燥を効率よく行うべく,ドラム式製麦機を3段に渡って計10基配置する方法でした。これによってスペースの制約を受けることなく,ウイスキー生産量の最大化を図ることができました。

このドラム式モルティングが導入されたのは,このスペイバーン蒸留所がスコットランドで初めてでありました。現在ではその産業的価値の高さから国の保存指定を受けており,使用こそされていないものの,当時の状況のまま設備が残されています。

ヴィクトリア女王

スペイバーン蒸留所の創業年である1897年はヴィクトリア女王の在位60年を記念するダイヤモンドジュビリーの年でした。

そこで当時のオーナーであるジョン・ホプキンス社のジョンとエドワードらは,どうしてもこの年のうちにウイスキーの生産に取り掛かりたいと強く思いつつ,蒸留所建設の進行を見守っていました。

そして迎えた12月の最終週,蒸留所の建つローゼスの谷は雪風の吹き荒ぶ極寒の様相の頃。蒸留所の生産設備自体は整っていたものの,窓やドアなどは未完成でした。

もちろん蒸留所の中は極寒でしたが,運営者たちはその強い思いから厚手の上着を着ながら初めての蒸留に取り掛かりました。

こうして1897年蒸留の原酒を無事に生み出すことができましたが,その分量はなんと1樽のみであったとか。

環境に負けず,自らの強い思いを実現させた当時の職人たちの熱量には強い敬意の念を感じてしまいますね。

「スペイバーン蒸留所」製法の特徴

製麦について

ポイント

スペイバーン蒸留所では1968年までドラム式モルティングによる自社製麦が行われていました。

それ以降現在にかけては原料となるライトリーピーテッドタイプのモルトを外部の専門業社より仕入れて使用しています。

麦芽の粉砕に使用するモルトミルは10トンサイズで2ローラー式のボビーミルが使用されています。

原料のモルトはこのモルトミルで粉砕してグリストとしたのち,糖化の工程へと進みます!


糖化について

ポイント

スペイバーン蒸留所では仕込み水として柔らかく純粋な湧水で構成されるグランティ川の水を採用しています。マッシュタンは1バッチあたり5.6トンのグリスト容量を誇るステンレス製のセミロイタータンになります。

製麦によって得られたグリストはマッシュタンに投入され,そこに加熱した仕込み水を3回に分けて注ぐことで糖化が進められます。この糖化手法はインフュージョン法と呼ばれています。

1サイクルあたり約4時間をかけて糖化が完了されると,糖分を多く含み,透明なウォートを得ることができます。

次の工程は発酵になります!


発酵について

ウォッシュバック 出典:スペイバーン公式

ポイント

スペイバーン蒸留所には容量25000リットルでダグラスファー製のウォッシュバックが4基,ステンレス製のウォッシュバックが15基設置されています。使用される酵母はクリーム状のものになります。

糖化によって得られたウォートは酵母が活性化する20度前後まで冷却されたのちに,酵母とともにウォッシュバックへと移されます。酵母がウォートに含まれる糖類を分解する過程で,ウイスキーの元となるアルコール分が生成されていきます。

発酵にかける時間は約48時間であり,一般的なスコッチウイスキーと同水準となっています。発酵が完了するとアルコール度数約8%のウォッシュを得ることができます。

次の工程は蒸留になります。


蒸留について

出典:whisky.com

ポイント

スペイバーン蒸留所には容量12500リットルのウォッシュスチルが1基,容量11500リットルのスピリットスチルが2基設置されています。形状はどちらもストレート型であり,銅との接触面積を増やすべく広い基部と細長いネックが特徴的となっています。

スチルの加熱方式は蒸気による間接加熱方式,冷却方式はウォッシュスチルがシェル&チューブ方式,スピリットスチルが伝統的な屋外設置のワームタブ方式となっています。

蒸留回数はスコッチウイスキーで一般的な2回となっています。

発酵によって得られたウォッシュはまずウォッシュスチルへと移されて初留が行われます。初留が完了するとアルコール度数約20%程度のローワインを得ることができます。

続いてローワインは2基のスピリットスチルに均等に配分されたのちに再留が行われます。再留によって得られるアルコールはスピリッツセイフと呼ばれる箱を通り,不安定な成分を含んだ部分を除去するミドルカットという工程を経ることとなります。

再留・ミドルカットを終えた段階でアルコール度数約69.3%のニューポットが得られています。

次の工程は熟成になります!


熟成について

出典:whisky.com

ポイント

スペイバーン蒸留所には伝統的なダンネージ式のウェアハウスが2棟あります。

熟成に使用される樽はバーボン樽ペドロヒメネスシェリー樽が組み合わせて使用されています。

蒸留によって得られたニューポットは基本的に加水を行うことなく樽詰めされて,ウェアハウスにて長い時間を眠ることとなります。


オフィシャルボトル一覧

スペイバーン蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!

スペイバーン
ブラダンオラック

ポイント

ブラダンオラックは2009年に免税店向けリリースされたスペイバーンです。その名称はゲール語でゴールデンサーモンを意味しており,ラベルもゴールドとなっているのが特徴的です。

免税店向けといえど現在通販等で出回っているところがよく見かけられ,価格も最もリーズナブルな価格帯となっています。

価格帯

Amazon:3580円

※2022年8月現在

香り

柑橘の爽快感/青リンゴ/カスタード/オレンジマーマレード/フローラル

味わい

軽やか/カスタード/レモン/ライム/ジンジャー系スパイシー

余韻

軽快な柑橘感が程よく残る

スペイバーン10年

ポイント

美しい水と冷涼な環境を有するスペイサイドで作られたスペイバーン。スペイサイドモルトらしい華やかで調和の取れた飲みやすいモルトです。

爽やかな風味のためストレートでもハイボールでも美味しく飲めて,価格帯も非常に良心的であることから常飲酒としての役割が期待されるシングルモルトですね!

価格帯

Amazon:3680円

※2022年8月現在

香り

レモン/黄桃/シナモン/ミント/ハーバル/草原/はちみつ

味わい

レモン/ライム/甘酸っぱい系/スッキリ爽やか/バランス感/はちみつ

余韻

柑橘系の爽快感を伴う余韻が長く続く

スペイバーン15年

ポイント

アメリカンオーク樽とスパニッシュオークのシェリー樽にて15年以上熟成された原酒のみで構成されたスペイバーンのモルト。チルフィルタリングやカラーリングをしていないのが特徴的です。

軽やかで華やかであるにもかかわらず力強さがしっかりと生きており,スペイバーンの個性にシェリー樽のリッチな口当たりが追加された豪華な一本です!

価格帯

Amazon:8950円

※2022年8月現在

香り

レーズン/シトラス/レモン/バニラ/はちみつ/スパイシー/ダークチョコ

味わい

オレンジ/ライム/レーズン/トフィー/バニラ/スパイシー/はちみつ

余韻

甘く軽やか,リッチで奥深い余韻がとても長く続く

スペイバーン18年

ポイント

バーボン樽とシェリー樽の18年以上の熟成を経た原酒のみで構成された最高級のスペイバーンです。長い熟成期間の中でネガティブな要素が削ぎ落とされて,ゴージャスなスペイサイドモルトが完成しています。

世界的な品評会でゴールドメダルを受賞したこともあり,第三者的目線でも評価されている,その美味しさが保証されているボトルでもあります。

価格帯

Amazon:14040円

※2022年8月現在

香り

極甘トフィー/砂糖/アーモンド/トロピカルフルーツ/レモン/オレンジ/バニラ/レーズン

味わい

ドライフルーツ/レモン/ダークチョコ/オレンジ/樽感/スパイシー/バニラ/レーズン/僅かにスモーーキー

余韻

濃密な甘さとウッディ,僅かにスモーキーな余韻が長く続く

参考資料

参考サイト:whisky.com / scotchwhisky.com / スペイバーン公式 / malt-whisky-madness.com / diffordsguide.com