記事の概要
管理人によるボトルのレビューを通して、皆様にその魅力を伝える記事です。
今回は…
「三郎丸Ⅲ The Empress」
当記事では,このボトルについて
などなど詳しく解説していきます!!
\\執筆者情報//
初谷(はつがい)
ウイスキーに関わるあらゆる情報をまとめ,「ウイスキーを知りながらより深く楽しめる記事」を発信しています。
【Shop】ウイスキー専門店『Drinkable books』
【経歴】東京都立大卒|元公務員・ネット酒屋開業
【資格】JWRC公認ウイスキーエキスパート|ウイスキー検定2級
【その他】バンド「Candid moment」のドラマー
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「三郎丸」ってなに?
三郎丸の解説
- 蒸留所・ブランドの概要
『三郎丸蒸留所』は若鶴酒造社が富山県砺波市で操業するジャパニーズウイスキーの蒸留所になります。同社は1952年にウイスキーの製造免許を取得しており,国内においては比較的歴史の深い蒸留所であるという事ができます。
同社は1953年にブレンデッドタイプの「サンシャインウイスキー」をリリースしていますが,その記念すべき年に大規模な火災に見舞われた事が知られています。その火災によって工場や食堂,研究室,原料倉庫など様々な設備が全焼してしまい,一時は営業の継続が心配されるほどとなりましたが,地域住民の総力によって半年ほどで完全復活を遂げる事ができています。
しかしながら,当時のサンシャインウイスキーの売上は芳しくなかったようで,1960年代当時で1年に1升ビン140本ほど,ウイスキー最盛期の1980年代にも1年で3,000本ほどしか売れなかったとのこと。その背景には単純にウイスキーの美味しさに問題があった可能性が示唆されており,例えば”ウイスキーライジング”の著者はサンシャインウイスキーを「鼻が曲がるほど荒々しかった」と評していました。またその原因は,当時の三郎丸のポットスチルがステンレス製であったことによるものだろうと推察されており,銅製ポットスチルのような不快香味の除去が生じないことから,硫黄のようなサルファリー香が強かったものと考えられます。
その後もモルトウイスキー作りは継続されていましたが,2016年にはより本格的なシングルモルト作りを行うことを目的とした大規模な設備改修が実施されており,2017年から新たなスタイルでのウイスキー作りが展開されています。
また設備の改修や拡充については,2017年から現在にかけても複数回行われており,2018年には50年以上使用されたマッシュたんを最新多々に更新,2019年には世界初となる鋳造製蒸留器「ZEMON」を導入,そして2020年にはウッドラック式のウェアハウスの完成や木製ウォッシュバックの導入,アイラ産ピートの使用など,随時革新的な試みが行われています。
- ウイスキー作りの特色
『三郎丸蒸留所』では,本場のスコットランドと地元富山の原材料の両者を活用しつつ,スモーキーな風味を特徴としたウイスキー作りが展開されています。
まず原料の大麦については主に2種類の設定があり,ひとつはフェノール値50ppmのスコットランド産ヘビリーピーテッドモルト,もうひとつは富山県産大麦を県内でモルティングした富山モルトが使用されています。ピートについてはスコットランドのアイラ島で採取された海藻の含有量が多いものも使用されており,これによってアイラモルト特有のヨード感を生み出すことができます。
そして同蒸留所の個性を代表するのが,蒸留工程で使用される世界初の鋳造製ポットスチル『ZEMON』の存在であり,これによって「①型による成形を可能とすることにより短納期化に成功。②自由な造形によって部材交換・機能拡充の容易化に成功。③材質について,酒の味わいをまろやかにするとされる錫(スズ)を含有(銅90%,錫8%)」などを実現しています。
「三郎丸Ⅲ The Empress」ボトルの特徴
\\ボトル外観//
\\ボトル諸元//
ボトル名 | 三郎丸Ⅲ The Empress |
地域 | 日本 富山県 |
種類 | シングルモルト |
原料 | モルト |
容量 | 700ml |
度数 | 48% |
\\製法と特徴//
- タロットカード大アルカナ3番「The Empress」
▶︎ボトルタイトルのEmpressは,アイラピートによる豊穣の大地・超樹齢の木材で作られた発酵槽,自然に磨き抜かれた水による三位一体を表している。 - 2020年蒸留の原酒のみを使用
2020年からは新たにアイラピーテッドモルトの使用と,木製ウォッシュバックの使用が開始されており,これらの影響を十分に受けた新規制抜群の原酒も使用されている - アイラピーテッドタイプの麦芽を使用
▶︎アイラピーテッド麦芽を原料としたウイスキーによって構成されており,内陸ピートとは全く異なるヨード系の要素を持った本格的な風味が表現されている。 - 木製ウォッシュバックによる発酵
▶︎木製ウォッシュバックでは,原酒が常在の細菌の影響を受けており,特に乳酸発酵による複雑な風味の形成が進んでいると考えられる。
「三郎丸Ⅲ The Empress」テイスティングレビュー
さてさて、それでは早速「三郎丸Ⅲ The Empress」をテイスティングレビューしていきます!
色味
『三郎丸Ⅲ The Empress』の色味については,比較的薄めの金色と評する事ができます。
客観的な指標としてwhiskys.co.ukの色見本に準えて評価すると,"Yellow Gold"くらいであると言えるでしょう。
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香り
- 第一印象
薄く薬品臭,潮系スモーキー,杏ジャム,柑橘,少し人参っぽい(?)
アルコールの刺激は少なく,フルーティ&スモーキーな印象
- 経時変化で見える要素
灰っぽい煙たさ,パイナップルのドライフルーツ,キャラメル感
筆者の一言
香りでは意外にもド強い個性は感じられず,フルーティ&スモーキーのバランスの調和が取れた,まとまりの良さが目立っていました。日本の環境とアイラピートの両者の魅力がよく活かされているような印象を受けます!
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味わい
- 第一印象
弱く薬品系ヨード香,ピーティなスモーク,柑橘エステリー
アルコール感はゆっくりジワジワと目立ってくるが,さほど気にならない
- 経時変化で見える要素
アプリコット,グレープフルーツの苦味,甘ジョッパイ穀物,ウッディ
- 余韻に残る要素
カスタードクリーム,暖かい柑橘,スモーキー感は弱く消えていく
筆者の一言
味わいでは,ヨード感の強すぎない適度なアイラ系のスモーキーさが非常に心地よい印象でした。柑橘系のフレッシュな香味と,海を感じさせるほのかなスモーキー風味がよく馴染んでおり,とにかくこれは美味しい!
「三郎丸Ⅲ The Empress」総評
最後に総評に入りたいと思います!まずはレーダーチャートから!
さてさて、気になる点数は…
点数の理由と評価
- 香り:5/5|味わい:5/5
『三郎丸Ⅲ The Empress』の香りと味わいについては,全体的にスモーキー&フルーティのまとまりがよく,適度な個性を持ったバランスの良い仕上がりという印象が強く出ていました。
本作からアイラ島産のピートを使用するという独自の試みが導入されていますが,アイラモルトっぽいヨード感やピートスモークといった独特な要素をしっかりと持ちながらも,ZEMONや木桶発酵,そして日本の熟成環境の影響も多分に感じさせる唯一の個性を感じ取ることができます。要するに単なる日本生まれのアイラモルトではなく,アイラをルーツに持つ,しっかりとした独自性の完成が近づいているような感覚を覚えます。
兎角,個人的には最近飲んだウイスキーの中でも美味しかったという記憶が深く刻み込まれた印象的な味わいでした。
- 初心者向け度:2/5
続いて初心者向けかどうかという観点で『三郎丸Ⅲ The Empress』を見てみると,あまり適しているとは言えなさそうです。
というのも主たる原料がアイラ島産のピートが焚かれたモルトということで,やはりアイラ系の独特なスモーキー風味はしっかりと出ており,これは一般的に初心者向けではないと言われているものに等しいと言えるでしょう。しかしながらフルーティな香味もわりかし強く,ヨード感はさほど強くない構成となっているので,アイラモルトで言えばボウモアと同じくらいの,スモーキー系ウイスキーの入門レベル程度と捉えると良いかもしれません。
- 入手性:-/5|コスパ:4/5
最後に『三郎丸Ⅲ The Empress』の入手製とコスパについては,入手製は最悪,コスパは希望小売価格付近であれば良好と言えるでしょう。
まず入手性については,三郎丸自体がジャパニーズの中でもかなり強い人気を誇っていることや,このボトルの生産本数が国内外含めて12,000本とそこまで多くないことも相まって,非常によろしくないと評する事ができます。発売日も11月末ごろでしたので,既に店頭・通販などで見つけることは非常に難しくなってしまっているものと思います。
またコスパについては,現状メーカーの希望小売価格と市場価格に既に大きな乖離が生じてしまっており,一概に言及することが難しくなってきていますが,希望小売価格ベースで議論するならば「十分に購入の価値アリ」と言えます。アイラピーテッドのジャパニーズウイスキーというコアなジャンルということで,特にスモーキーなアイラモルトを好む方々からの需要は絶え無さそうです。