記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回はスコットランドより「ハイランドパーク蒸留所」になります!
Points!「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの紹介」
キーワード
最北端の主要蒸留所/ヴァイキング/北の巨人/マグナス・ユウンソン
の特徴
ピーテッド2割ノンピート8割/9割シェリー樽熟成/独特なヘザーハニーの甘さ/甘くフローラルなピートスモーク
ハイランドパーク蒸留所
ハイランドパーク蒸留所の立地・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所の概要
創業年 | 1798年 |
所有会社 | エドリントングループ社 |
地域分類 | スコットランド オークニー諸島 メインランド島 |
発酵槽 | 米松・カラ松等の木製12基 |
ポットスチル | 初留2基・再留2基 |
仕込み水 | クランティットの泉 |
ブレンド先 | フェイマスグラウス カティサークなど |
「ハイランドパーク蒸留所」蒸留所の立地
ポイント
ハイランドパーク蒸留所は地域分類上はアイランズに属し,スコットランド本島の北に浮かぶオークニー諸島に位置しています。より具体的には諸島の中心となるメインランド島のカークウェルのはずれに位置しています。
このオークニー諸島及びさらに北にあるシェットランド諸島は,8世紀頃からヴァイキングが支配してきた島であり,現在でもヴァイキングの精神や文化のようなものが残っていることで有名です。
その北緯は59度と,北海道最北端の択捉島(北緯45度程度)と比較してもかなり北に位置しており,スコットランドで稼働している主要な蒸留所の中では,現在最北端に建つ蒸留所として扱われています。
このことからハイランドパークのウイスキーには「北の巨人」という愛称もつけられていますね。
しかし実際にはオークニー諸島のサンダー島にキンブランド蒸留所が小規模ながら2017年オープンしていたり,シェットランド諸島にて,ジンを作っているサクサヴォード蒸留所がウイスキー作りへの参入を表明していたりという情報があり,やや曖昧。
またかなり高緯度な地域のため,極寒の地を想像するかもしれませんが,意外にも気温は年間を通して2〜16℃程度の冷涼な水準で推移しており,ウイスキー作りには適した気候を言えるでしょう。
「ハイランドパーク蒸留所」蒸留所の歴史
ハイランドパーク蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1798年 | デビット・ロバートソン氏によってハイランドパーク蒸留所が創業される |
1816年 | 生産の管理がジョン・ロバートソン氏に引き継がれる |
1825年 | 蒸留所がリチャード・マッケイ氏に引き継がれる |
1826年 | 蒸留免許を取得し,政府公認の蒸留所となる 蒸留所はロバート・ボーウィック氏に引き継がれる |
1840年 | 蒸留所がロバート氏の息子であるジョージ氏に引き継がれる |
1869年 | 蒸留所がジョージ氏の兄弟にあたるジェームズ氏に引き継がれる 同氏の元で蒸留所の売却され,スチュアート&マッケイ社に購入される |
1876年 | スチュアート&マッケイ社の元でノルウェーとインドへの輸出が開始される |
1878年 | スチュアート&マッケイ社がスチュアート&グラント社に改名される |
1895年 | 蒸留所がグレンリベットのジェームズ・グラント氏に買収される |
1898年 | ポットスチルが増設されて計4基体制となる |
1937年 | 蒸留所がハイランド・ディスティラーズ社によって買収される |
1986年 | ビジターセンターがオープンされる |
1999年 | ハイランド・ディスティラーズ社がエドリントングループ社とウィリアム・グラント&サンズ社によって買収される ハイランドパーク蒸留所はエドリントンの傘下となる |
2006年 | 公式ラインナップのボトルデザインが変更される |
2008年 | ハイランドパーク40年がリリースされる |
2010年 | ニューポットをボトリングした商品がリリースされる |
ハイランドパークに纏わるストーリー
マグナス・ユウンソン
マグナス・ユウンソン氏はかつて「伝説の密造者」と称されていた人物で,彼が密造を行っていた場所の跡地にハイランドパーク蒸留所が建っています。
そんな縁があるので,彼に纏わる話を少しだけ。
マグナス氏はヴァイキングの末裔であり,カークウェルにあるセント・ナグナス大聖堂の教会の長であり,村人たちからは熱い信頼を受けていたとか。
そんな彼はウイスキーの密造を行い,税吏からは話術・策略を駆使して逃れる様から,村人に美味しいウイスキーをもたらす闇のヒーロー的な一面も有していました。
もちろん密造酒は隠しておく必要があり,主に教会の教壇の下や壁の裏などにに隠していましたが,いざ視察が訪れるとそれらを自宅に運び,
とある策略を発動…
その策とはウイスキーの入った樽に白布を被せて天然痘(スモールポックス)による死者であるかのように見せ,マグナス氏自ら読経することで,あたかも葬儀を行なっているかのように装ったのだとか。
加えて偽物の参列者たちに「スモールポックス…」と呟かせることで,税吏をビビらせて退散させたのです。
教科の長として村人の信頼を勝ち取っていたからこそ為せる技です。流石にこれは「伝説の密造者」と呼ばれるのも納得ですよね…
そんなマグナス・ユウンソン氏にインスパイアを受け「ハイランドパーク ダークオリジンズ」というボトルまで作られています。
「ハイランドパーク蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
250万L - 仕込み水
クランティットの泉 - 製麦
フロアモルティングおよびシンプソンズ社から購入 - ピーテッドレベル
ヘビリーピーテッド,
ノンピートを混合 - マッシュタン材質
ステンレス製セミロイタータン - マッシュタン容量
12トン(仕込みは6トン) - ウォート量
29,000L - ウォッシュバック
12基(オレゴンパイン製とカラ松製が混在)
- ウォッシュバック容量
36,000L
(張込み29,000L) - 発酵時間
52〜96時間 - スチル加熱方式
蒸気コイル - ポットスチル(初留)
2基
18,000L(張込み14,500L) - ポットスチル(再留)
2基
12,000L(張込み9,000L) - コンデンサー
シェル&チューブ - ウェアハウス形式
19棟ダンネージ式
4棟ラック式 - 樽詰め度数
69.5%
製麦について
ポイント
ハイランドパーク蒸留所では現在も蒸留所内にてフロアモルティングが行われています。設備としては1度に8トンの大麦を処理可能なフロアが計5ヶ所あり,週に40トン程度の製麦を行うことができる計算です。
2棟あるキルンも,片方は1860年に建設されたものらしいですが,現役で使用されています。
自社製麦のモルトはピート(※)による乾燥を行っており,フェノール値が概ね40〜42ppmのヘビリーピーテッドタイプとなります。
また他にもモルトスターのシンプソンズ社からノンピートタイプの麦芽も仕入れており,「自社:外部=2:8」程度の比率で混合してから仕込みが行われます。
これにより最終的なフェノール値は概ね10〜15ppm程度のライトリーピーテッドとなります。
原料のモルトはモルトミルで粉砕してグリストを得たのち,糖化の工程に進みます!
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糖化について
ポイント
ハイランドパーク蒸留所では仕込み水としてクランティットの泉の水(中硬水)を採用しています。
マッシュタンは1バッチあたり12トン(実際は6トンしか投入しない)の容量のステンレス製セミロイタータンです。
製麦によって得られたグリストは1回目のお湯と混合されたのち,マッシュタンへと投入され,2,3回目のお湯をスパージングすることで糖化が進められます。
各回のお湯との接触ごとに,糖類を多く含有したウォートが絞り出すことができ,通常1,2回目のウォートが発酵に回されて,3回目のウォートは次回の糖化バッチの混合されます。この手法はインフュージョン法と呼ばれています。
糖化1バッチあたりで得られるウォートの総量は概ね30,000L弱となり,これが週に9回程度(繁忙期で13回)行われています。
次の工程は発酵になります!
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発酵について
ポイント
ハイランドパーク蒸留所には容量29,000リットルで数種類の木製のウォッシュバックが計12基設置されています。使用される酵母はケリー社製のディスティラーズ酵母になります。
ウォッシュバックの材質については,米松の一種であるオレゴンパイン製とダグラスファー製のほかに,スカンジナビアのカラ松の一種であるサイベリアンラーチ製のものが混在しています。
このサイベリアンラーチはかつて存在したヴァイキングがロングシップを作る際に利用されていた木材になります。
糖化によって得られたウォートは,熱交換器を介して酵母の活性が確保される20℃前後まで冷却されたのち,酵母とともにウォッシュバックに投入することで発酵が進められます。
発酵にかける時間は52〜96時間程度とやや長めに設定されており,完了するとアルコール度数約8%となったビール状のウォッシュを得ることができます。
次の工程は蒸留になります!
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蒸留について
ポイント
ハイランドパーク蒸留所には容量18,000リットル(張込み14,500リットル)のウォッシュスチルが2基,容量12,000リットル(張込み9,000リットル)のスピリッツスチルが2基設置されています。
形状はどれもストレート型でネックは短く小ぶり。そしてラインアームは地面に対してほぼ水平です。加熱方式は蒸気ケトルによる間接加熱方式,コンデンサーはシェル&チューブ方式が採用されています。
外観からわかるように,アルコール蒸気の還流がほとんどなく,厚くヘビーな酒質を得ることができます。
発酵によって得られたウォッシュはウォッシュスチルへと移されて初留が行われます。初留が完了するとアルコール度数約20%となったローワインを得ることができます。
続いてローワインはスピリッツスチルへと移されて再留が実施されます。再留によって生じるアルコールはスピリッツセイフと呼ばれる箱を経由し,その中で蒸留初期・終期の不安定な香味成分を多く含有する部分が除去されます。
この作業はミドルカットといい,熟練の蒸留技士であるスチルマンの管理のもとで行われます。
再留・ミドルカットを終えた段階で,アルコール度数約70%となったニューポットを得ることができます。
次の工程は熟成になります!
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熟成について
ポイント
ハイランドパーク蒸留所の建つオークニー諸島は,年間を通して気温が2〜16℃と冷涼な水準で安定しており,ウイスキーの長期熟成には最適な環境を有しています。
貯蔵庫については,19棟のダンネージ式ウェアハウスと4棟のラック式ウェアハウスが建っています。また熟成に使用される樽は約9割がヨーロピアンオークかアメリカンオーク製のオロロソシェリー樽になります。
このシェリー樽はハイランドパークが厳選した木材で作られた樽を,スペイン南部のヘレスに輸送し,2年程度スパニッシュオロロソシェリーでシーズニングすることで作られています。
蒸留で得られたニューポットは加水によって度数を約69.5%に調整したのち,樽詰めされてウェアハウスに安置され,長い時間を眠ることとなります。
ボトリングに際してはリリースするバッチごとに,マスターディスティラーのゴードン・モーション氏が150樽程度の原酒を厳選し,それらヴァッティングしたのちにさらに最低1ヶ月間寝かされます。
オフィシャルボトル一覧
ハイランドパーク蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
ハイランドパーク12年
ヴァイキング・オナー
ポイント
ハイランドパーク12年は同蒸留所の最もスタンダードな公式シングルモルトになります。
ヴァイキング・オナーは「ヴァイキングの名誉」という意味であり,オークニー諸島の人々が「我が道を行く」というヴァイキングの伝統的精神を引き継いだ,ユニークな文化を有していることから名付けられています。
アイランズモルトらしく,他の何者でもない唯一の味わいを有しており,オークニーのヘザーを豊富に含んだピートに由来する甘い煙のニュアンスが絶妙に美味。これぞ「北の巨人」と言わんばかりの尊大なる個性。
ハイランドパークの魂が込められた,まさしく蒸留所を代表するテイストが表現されているので,まだ飲んだことのない人はこのボトルから入るのが最適でしょう。
香り
ヘザーハニーの甘さ/甘く香ばしい煙/複雑でオイリー/ハーブ感/フローラル/シトラス
味わい
ヘザーハニーの甘さ/甘い煙/モルティ/リッチ/チョコレートの甘さ/ほのかにスパイシー/オレンジマーマレード/エキゾチックな緑茶の要素
余韻
胡椒系のスパイス感とヘザー調の煙をまとった甘い木の要素が長く続く
ハイランドパーク14年
ロイヤルティ・オブ・ザ・ウルフ
ポイント
ボトル名称の通りオオカミとヴァイキングに対する敬意を表して作られたボトルになります。
アメリカンオークのシェリー樽やバーボンバレルを中心とし,仕上げにはリフィルカスクを駆使して14年以上熟成された原酒で構成されるウイスキーです。
バニラや焼き林檎,シナモンのような濃厚な甘さを感じることができます。
ハイランドパーク15年
ポイント
ファーストフィルのヨーロピアンオーク製シェリー樽およびアメリカンオーク製シェリー樽を中心に15年以上熟成された原酒を,リフィルカスクで仕上げたウイスキー。ボトルはリサイクル可能なセラミック製であり,環境への配慮が感じられます。
そのテイストからはオークニー諸島特有のヘザーハニーの甘さが感じられるほか,バニラやレーズン,シナモン系のスパイス感など複雑な風味が表現されています。
ハイランドパーク18年
ヴァイキング・プライド
ポイント
18年以上の長期にわたる熟成を経たハイランドパーク。樽構成は12年や15年と同じく,アメリカンオーク・ヨーロピアンオーク製のファーストフィルシェリー樽です。
Spirits Journal誌において「ベスト・スピリッツ・イン・ザ・ワールド」に2度も輝いた至高のボトルであり,ハイランドパークの「ヴァイキング・プライド」が完璧に表現されています。
ヘザーハニーの甘さの他に,多様なフルーツで作られるジャムの甘さやフローラル感,エスプレッソのような香ばしさを感じることが出来ます。
ハイランドパーク
カスクストレングスシリーズ
ポイント
マスターディスティラーのゴードン・モーション氏が「ハイランドパークを愛してくださる方々に,私たちのウイスキーの最もピュアな状態を味わってほしい」という想いから作られたシリーズになります。
ヨーロピアンオークとアメリカンオークのシェリー樽のほか,バーボン樽原酒を少量加えることで,バランスの良いフルーティさとスパイシー感が体現されています。
ハイランドパーク
ヴァルクヌート
ポイント
オークニーに伝わるヴァイキングの伝説にインスパイアされた「ヴァイキング・レジェンド・シリーズ」からヴァルキリーに次ぐ第2弾としてリリースされたボトル。
アメリカンオーク樽で熟成された原酒とピーテッドタイプの原酒の比率を大きく上げ,よりインパクトの強いアロマティックなテイストが表現されました。またスモーキーなニュアンスを強調するべく,オークニー産のタータン大麦を取り入れている点も特徴的です。
ハイランドパーク
ヴァルファーザー
ポイント
ヴァルクヌートに続き,「ヴァイキング・レジェンド・シリーズ」の最後を飾る第三弾として発売されたボトル。ヴァルファーザーは北欧神話の最高神オーディンを表しており,その力強さが味わいに表現されています。
りんごやバニラの甘みをベースにフローラルなヘザー系の強力なスモーク感を感じることが出来ます。
ハイランドパーク
トリスケリオン
ポイント
ハイランドパークの歴代マスターディスティラーである「ゴードン・モーション氏」「マックス・マクラーレン氏」「ジョン・ラムゼイ氏」ら3人が選定した樽の原酒をバッティングして作られたボトル。
オレンジピールやクリームブリュレの甘さに加えて,ハイランドパークの個性でもあるヘザーハニーを纏ったフローラルなピートスモークがしっかりと感じられます。
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参考資料
参考サイト:ハイランドパーク公式 / whisky.com / scotchwhisky.com / 三洋物産株式会社 / malt-whisky-madness.com / smwsjapan.com