記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回はスコットランドより「グレンオード蒸留所」になります!
Points!「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
製麦工場/新旧2生産棟体制/シングルトン/ディアジオ社内2位の生産規模
グレンオードの特徴
2008年以降ノンピート/バーボン樽とシェリー樽半々/クリーンかつフルーティ/コクがある/ナッティ/りんご/ビター
グレンオード蒸留所
グレンオード蒸留所の立地・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所の概要
創業年 | 1838年 |
所有会社 | ディアジオ社 |
地域分類 | スコットランド 北ハイランド |
発酵槽 | オレゴンパイン製22基 |
ポットスチル | 初留7基・再留7基 |
仕込み水 | ナムユン湖・ナムボナック湖 |
ブレンド先 | デュワーズ ジョニーウォーカー |
「グレンオード蒸留所」蒸留所の立地
ポイント
グレンオード蒸留所はスコットランドの北ハイランドに位置しています。具体的には北ハイランドの中心地であるインバネスから北西に20km程度の距離にある,ミュア・オブ・オードという名の街で1838年に創業されました。
かつてはこのミュア・オブ・オードの名前でシングルモルトがリリースされていた時期もありましたが,現在はシングルトンという名称で統一されています。
ディアジオ社の傘下蒸留所の中ではローズアイルに次いで2番目の生産規模を誇り,グレンオード蒸留所は2つの生産棟と製麦専門施設が一体となった大規模な工場となっています。
また蒸留所の少し北西にはブラックアイルというスコットランド最大級の大麦産地があるため,製麦工場の立地としても非常に優れています。
ちなみに仕込み水については,蒸留所から南西に数キロ程度の山奥にあるナムボナック湖とナムユン湖を水源とした軟水が採用されています。
「グレンオード蒸留所」蒸留所の歴史
グレンオード蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1838年 | トーマス・マッケンジー氏によってグレンオード蒸留所が創設される |
1847年 | 財政難によって蒸留所の稼働を停止し,売却先を探し始める |
1855年 | 蒸留所がアレクサンダー・マクレナン氏とトーマス・マクレガー氏によって購入される |
1870年 | マクレナン氏が亡くなる 蒸留所はアレクサンダー・マッケンジー氏へと引き継がれる |
1878年 | 蒸留所の多くが火事により破壊されてします |
1882年 | シングルモルトがグレノーランという名前で販売される |
1896年 | マッケンジー氏が亡くなる 蒸留所はジェームズ・ワトソン社に買収される |
1923年 | 蒸留所がジョン・デュワー&サンズ社に買収される シングルモルトの名称がグレンオードに戻される |
1925年 | 会社合併により所有者がDCL社となる |
1961年 | 蒸留所でのフロアモルティングが終了される 製麦装置としてサラディンボックスが設置される |
1966年 | ポットスチルが2基増設されて計6基体制となる |
1968年 | ドラム式モルティング施設を備えた製麦工場が建設される |
1983年 | サラディンボックス式の製麦が終了される |
1985年 | 会社合併により所有者がUD社となる |
1988年 | ビジターセンターがオープンされる |
1997年 | 会社合併により所有者がディアジオ社となる |
2002年 | グレンオード12年が発売される |
2006年 | 同年よりグレンオードのシングルモルトは「シングルトン・オブ・グレンオード」に統一される グレンオードでのピーテッドモルトの使用が廃止される |
2010年 | シングルトンブランドからグレンオード15年が台湾向けにリリースされる |
2012年 | グレンオードの大規模拡張計画が発表される |
2015年 | ポットスチルは8基増設されて計14基体制に,発酵槽も合計22基まで増設された 建物は新旧の2棟に分かれている |
グレンオード製麦所
グレンオード蒸留所には製麦専門の工場が併設されています。
製麦工場の体制は18基のスティープ(容量15トン)に同じく18基のドラム式製麦機,そして麦芽を乾燥させるキルンが4棟となっています。
ドラム式製麦機の容量は約31トンと,スティープ2杯分であり,キルンの容量はドラム式製麦機の1回分に相当します。また4棟あるキルンのうち3棟がノンピート用で1棟がピーテッド用となっています。
通常ウイスキーの原料となるスコットランドの大麦は通常8〜9月に収穫されます。よってこの時期に工場に大麦が届き始め,これらが1週間に900トンのペースで処理されていきます。これを年間に換算すると約4万5000トンに及びます。
ここで作られた麦芽はグレンオードはもちろん,クライヌリッシュやティーニニック,そしてスカイ島のタリスカーなどにも抜擢されています。タリスカーに関してはそのピーテッド麦芽のほとんどがここで作られています。
「グレンオード蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
1100万リットル - 仕込み水
ナムユン湖・ナムボナック湖 - ピーテッドレベル
全てノンピート - マッシュタン材質
ステンレス製フルロイタータン(旧棟1基,新棟1基)(※) - マッシュタン容量
12.5トン - ウォッシュバック
オレゴンパイン製22基(旧棟8基,新棟14基) - ウォッシュバック容量
56000L - 発酵時間
75時間
- 酵母
リキッドタイプ,1基あたり230L - スチル加熱方式
蒸気間接加熱 - ポットスチル(初留)
7基(旧棟3基17,000L/新棟4基16,000L) - ポットスチル(再留)
7基(旧棟3基 16,000L/新棟4基14,000L) - コンデンサー
シェル&チューブ - ウェアハウス形式
2階建て5棟(全て3段積みのダンネージ式) - 樽詰め度数
63.5%
※生産棟が新旧のふたつに分かれているので,各設備について内訳を記載しています。ちなみに新蒸留棟はコンピューターによってほぼ自動化されています。
製麦について
ポイント
グレンオード蒸留所では1961年まではフロアモルティングが,1983年まではサラディンボックス式モルティングが行われていました。1968年から現在にかけては,併設されたドラム式モルティング工場で製麦が行われています。
使用される大麦はコンチェルト種で,かつてはドイツやチェコ産のものも使用されていましたが,現在は全てスコットランド産となっています。
また2006年まではピーテッド麦芽を原料に採用していましたが,以降は一貫してノンピート麦芽のみで生産を行なっています。
原料のモルトはモルトミルで粉砕してグリストとされたのち,糖化の工程に進みます。
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糖化について
ポイント
グレンオード蒸留所では仕込み水としてナムユン湖およびナムボナック湖の水(軟水)を採用しています。
マッシュタンは1バッチあたり12.5トンの容量を誇る,ステンレス製のフルロイタータンです。2棟ある蒸留棟に1基ずつ配備されています。
製麦によって得られたグリストはマッシュタンへと投入され,加熱した仕込み水を2回に渡って,温度を上げながら(64℃→85℃)注ぐことで糖化が進められます。この糖化手法はインフュージョン法に基づきます。
最初のお湯の温度が比較的低めであることから,発酵製糖類が多く生じ,エステリーでクリアな酒質を得ることができます。
糖化が完了すると糖類を多く含んだウォートが約59,000リットル得られ,熱交換器で17℃まで冷却されたのちにウォッシュバックへと送られます。
次の工程は発酵になります!
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発酵について
ポイント
グレンオード蒸留所には容量56,000リットルでオレゴンパイン製のウォッシュバックが計22基設置されています。内訳は旧蒸留棟に8基,新蒸留棟に14基となっています。
使用される酵母はリキッドタイプで,ウォッシュバック1基につき約230リットル投入されます。
糖化によって得られたウォートは酵母が活性化する17℃まで冷却されたのちに,酵母と共にウォッシュバックに投入することで発酵が進められます。
発酵にかける時間は75時間と比較的長めに設定されており,発酵が完了するとアルコール度数約8%となったウォッシュを得ることができます。
次の工程は蒸留になります!
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蒸留について
ポイント
グレンオード蒸留所には容量ウォッシュスチルが7基(旧3基17,000L /新4基16,000L),容量16,000リットルのスピリッツスチルが7基(旧3基16,000L /新4基14,000L)設置されています。
形状はどれもストレート型であり背は低め,僅かに下を向いたラインアームを有しています。スチルの加熱方式は蒸気による間接加熱方式,コンデンサーはシェル&チューブ方式が採用されています。
コンデンサーについて,管を流れる冷却用の水に製麦設備から排出された温水を使用しており,ゆっくりと液化が進行することから銅との接触時間が長くなります。実際に蒸気の液化が完了するのはコンデンサーを抜けた先のアフタークーラーとなります。
発酵によって得られたウォッシュはウォッシュスチルへと移されて「初留」が行われます。初留が完了するとアルコール度数20%程度となったローワインを得ることができます。
続いてローワインはスピリッツスチルへと移されて「再留」が行われます。再留によって得られるアルコールはスピリッツセイフと呼ばれる箱を経由し,蒸留初期・終期の不安定な香味成分を有するアルコールが除去されます。
この工程はミドルカットと言い,スチルマンと呼ばれる熟練の蒸留技士の管理のもとで行われます。しかし新蒸留棟においては,機械制御により自動的にミドルカットを行うことが可能のため,スピリッツセイフも置かれていません。
再留・ミドルカットを終えた時点でアルコール度数が平均で約66%(ミドルは58〜75%)程度のニューポットを得ることができます。
次の工程は熟成になります!
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熟成について
ポイント
グレンオード蒸留所には2階建てのウェアハウスが5棟建てられており,全て3段積みのダンネージ式となっています。なおかつては合計8棟のウェアハウスがありましたが,3棟はビジターセンターに改装されています。
使用される樽はアメリカンオーク樽とオロロソシェリー樽が主であり,それぞれ半々程度の割合となっています。シングルトンブランドからリリースされるグレンオードはシェリー樽原酒が中心となっています。
蒸留によって得られたニューポットは,加水によってアルコール度数を63.5%に調整してから樽詰めし,ウェアハウスにて長い時間を眠ることとなります。
オフィシャルボトル一覧
グレンオード蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
シングルトン・オブ・グレンオード12年
ポイント
実はシングルトンブランドは地域によって中身のモルトが異なっており,アメリカではグレンダラン,ヨーロッパおよび日本ではダフタウン,アジアではグレンオードがボトリングされています。グレンオードを探している場合は「シングルトン・オブ・グレンオード」と書いてあるか注視してください(笑)
使用される原酒はヨーロピアンオークのオロロソシェリー樽で熟成されたものとされており,ベリー系のフルーティな味わいを特徴としています。
グレンオードでは現在ノンピート麦芽のみが使用されていますが,2006年まではピーテッド麦芽も使用されていたので,今後はこのボトルも徐々に味わいが変化してくるかもしれません。
ちなみにシングルトンブランドは,グレンオードを一番人気として急速に売り上げを伸ばしており,今の倍くらいにあたる年間100万ケースの売り上げを目標としているとのことです。
香り
ヘーゼルナッツ/焼き林檎/ドライフルーツ/黒糖/青リンゴ/シリアル/ドライ
味わい
ローストナッツ/ウッディ/ドライフルーツブラウンシュガー/コーヒー系ビター
ボトラーズボトル紹介
カーンモア
グレンオード2012 8年
ポイント
モリソン・スコッチウイスキー・ディスティラーズ社が手がける,カーンモア・ストリクトリーリミテッドシリーズからリリースされたグレンオードです。
同シリーズは通常度数47.5%の加水タイプですが,このボトルは日本限定版(204本)としてカスクストレングスでボトリングされています。
バーボンバレルで熟成された原酒で構成されているため,公式ブランドのシングルトンとはまた異なる個性を有しています。
シグナトリー
グレンオード2007 13年
ポイント
シグナトリー社のアンチルフィルタードコレクションからリリースされたグレンオード。
度数は46%の加水タイプですが,冷却濾過やカラーリングを適用しないことで,自然のままの味わいを感じることができます。
樽はバーボンバレルを解体し,ひとまわり大きく組み直したホグスヘッドが使用されています。比較的低価格帯であることも魅力の一つ!
ブティックウイスキー
グレンオード20年 バッチ1
ポイント
ブティックウイスキーからリリースされた20年熟成のグレンオードです。
このシリーズのラベルは,蒸留所にちなんだストーリーやジョークをモチーフとして考案されているのが特徴的。グレンオードは製麦工場が併設されていることから,ポルテウス社のモルトミルのロゴをイメージしたものとなっています。
世界293本限定リリースであり,モルティな味わいを特徴としています。
参考資料
参考サイト:whisky.com / scotchwhisky.com / WHISKY Magazine