記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回はスコットランドより「グレンタレット蒸留所」になります!
Points!「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
タウザー/フェイマス・グラウス/ジェームズ・フェアリー氏/最古の蒸留所
グレンタレットの特徴
バーボン樽とシェリー樽/柑橘とバニラ/華やかなアロマフレーバー/ドライフルーツ/オイリーで重厚な甘さ/モルティ
グレンタレット蒸留所
グレンタレット蒸留所の立地・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所の概要
創業年 | 1775年 |
所有会社 | ラリックグループ社 |
地域分類 | スコットランド 南ハイランド |
発酵槽 | ダグラスファー製8基 |
ポットスチル | 初留1基・再留1基 |
仕込み水 | タレット湖(軟水) |
ブレンド先 | フェイマスグラウス |
「グレンタレット蒸留所」蒸留所の立地
ポイント
グレンタレット蒸留所はスコットランドの南ハイランドに位置しています。具体的にはパースシャーのクリフの街から北西に3km程度の場所であり,首都のエジンバラからは100km程度と比較的好立地な蒸留所です。
グレンタレットは前身にあたるホッシュ蒸留所は,現在と同じ場所で1775年に創業されており,途中で一度廃業されていますが,現在も創業時の建物が修繕を経て利用されています。
蒸留所で使用される水は北西にあるタレット湖から引いていますが,この水は火成岩の地層を有するグランピアン山脈から流下してきた軟水で構成されています。
蒸留所にはカフェやレストラン,ビジターセンター,数種類のツアーが完備されているため,観光地としても優れているのが特徴的です。
「グレンタレット蒸留所」蒸留所の歴史
グレンタレット蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
---|---|
1775年 | グレンタレットの前身にあたるホッシュ蒸留所が創業される 当時はもちろん密造であった |
1818年 | ジョン・ドラモンド氏が同蒸留所での蒸留ライセンスを獲得する |
1852年 | ジョン・マッカラム氏が同蒸留所での蒸留ライセンスを獲得する |
1875年 | トーマス・スチュワート氏が同蒸留所での蒸留ライセンスを獲得する 蒸留所名がホッシュからグレンタレットに変更される |
1907年 | 蒸留所がミッチェル・ブラザーズ社によって買収される |
1923年 | アメリカ禁酒法の影響が波及して蒸留所が閉鎖される 5年後の解体までは保管庫としてのみ利用される |
1928年 | ミッチェル・ブラザーズ社が倒産する 蒸留設備が解体されて,地元の農家の用具置き場といて活用される |
1957年 | 旧蒸留所の建物をジェームズ・フェアリーが買収する 元の設備の修繕が終わるまでは,タリバーディンのスチルとマッシュタンを導入してグレンタレット蒸留所を再稼働させる |
1981年 | レミー・コアントロー社が蒸留所を買収し,ビジターセンターを開設する |
1990年 | ハイランド・ディスティラーズ社が蒸留所を買収する |
1991年 | 蒸留所訪問者数が100万人を突破する |
1999年 | ハイランド・ディスティラーズ社がエドリントン社とウィリアム・グラント&サンズ社に買収される グレンタレット蒸留所はエドリントン社の所有となった |
2002年 | ビジターセンターを「フェイマスグラウス エクスペリエンス」としてリニューアルする |
2014年 | ケンブリッジ公爵夫妻が蒸留所を訪れる |
2019年 | 蒸留所がラリック・グループ社主催のジョイントベンチャーに買収される ブレンダーに元マッカラン蒸留所のボブ・ダルガーノ氏が就任する |
2020年 | 各種公式ボトルの外観がスクエアで高級感のあるデザインに変更される |
ジェームズ・フェアリー氏
グレンタレット蒸留所は1928年に一度解体されてしまい,その後約30年間は沈黙を継続していました。
再びグレンタレットに動きが生じたのは1957年,ジェームズ・フェアリー氏が旧蒸留所の建物を買収した時でした。彼は「伝統的な蒸留方法を維持し,ウイスキーの評価を高める」という方針を持った人物であり,蒸留所復活においてはまさに彼が最適でした。
買収直後こそタリバーディン蒸留所のポットスチルとマッシュタンを使用して生産を行いましたが,元の蒸留設備の復旧も並行して行い,先駆者たちが紡いだ思いと伝統を現代に復活させていきます。
彼の功績は生産にまつわることだけではなく,1980年にはスコットランドで2カ所目となる蒸留所ビジターセンターを設立したことでも知られています。
グレンタレットはとある訪問者から「スコットランドの個人経営の蒸留所に最も近い存在」と称されるほど規模の小さい蒸留所ですが,それこそがフェアリー氏が再現したかったグレンタレットの伝統と歴史なのでした。
ちなみに今でも蒸留所の方針として,職人の繊細な手によって少量生産される高品質ウイスキーに強いこだわりを持っています。
タウザーと雷鳥
グレンタレット蒸留所にはかつて「タウザー」と名付けられた猫がいました。
タウザーは存命していた23年11ヶ月という期間内で2万8899匹ものネズミを駆除した,文字通りウイスキーキャット界のチャンピオンとも言える伝説的な猫でした。もちろんこの記録を超える猫はおらず,現在もギネスブックに認定されています。
そんなエピソードから蒸留所ではタウザーグッズが販売されていた他に,タウザーの像も設置されていました。
しかし2002年にエドリントン社に買収されて以降,グレンタレットが雷鳥をモチーフとしたフェイマスグラウスのキーモルトとして活用されるようになってから転機が訪れます。
エドリントンのブランディングにより,売店のタウザーグッズは淘汰され,雷鳥の大きなオブジェが設置され,ビジターセンターまでもがフェイマスグラウスにフィーチャーしたものにリニューアルされてしまいました。
そしてタウザー目当てに蒸留所を訪れる人はだいぶ減ってしまい,悲しいことに売店は雷鳥グッズ一色になってしまいました。
現在タウザーが脚光を浴びるのはその命日であり,当日は多くの人が像の前に献花に訪れています。
ちなみに猫と雷鳥は天敵同士です。
「グレンタレット蒸留所」製法の特徴
- 年間生産量
34万リットル - 仕込み水
タレット湖 - ピーテッドレベル
ライトリーピーテッド - マッシュタン材質
ステンレス製,蓋なし,人力 - マッシュタン容量
1.05トン - ウォッシュバック
ダグラスファー製8基 - ウォッシュバック容量
6,000リットル
- 発酵時間
最大100時間程度 - スチル加熱方式
蒸気間接加熱 - ポットスチル(初留)
1基,容量12,500L,ストレート型 - ポットスチル(再留)
1基,容量9,000L,バルジ型 - コンデンサー
シェル&チューブ - ウェアハウス形式
ダンネージ式6棟 - 樽詰め度数
63.5%
製麦について
ポイント
グレンタレット蒸留所では現在も伝統的なフロアモルティングによる製麦が行われています。大麦自体は地元含めスコットランド国内産にこだわっており,全国各地から供給されています。
ピーテッドレベルはライトリーピーテッドが主流ですが,マスターディスティラーの要望に沿う形で一部ノンピーテッドやへビリーピーテッドタイプも生産されています。
特にグレンタレットが作るへビリーピーテッドタイプのウイスキーはルーアックモアと呼ばれています。
準備されたモルトは,過去1世紀以上にわたって使用されているポルテウス社製のモルトミルで粉砕してグリストとされたのち,糖化の工程へと進みます!
▼
糖化について
ポイント
グレンタレット蒸留所では仕込み水として,グランピアン山脈から流出した軟水を湛える,タレット湖の水が使用されています。
マッシュタンはステンレス製で1バッチあたり1.05トンのグリスト容量を誇り,最も旧式なオープンスタイルのものになります。レイキなどの攪拌を支援する電動設備なども一切なく,職人が木の棒を使って撹拌しています。
製麦によって得られたグリストはマッシュタンへと投入され,加熱した仕込み水を3回にわたって,徐々に温度を上げながら注ぐことで糖化は進められます。この糖化手法はインフュージョン法と呼ばれています。
各回ごとに糖類を多く含んだウォートがフィルターを通って確保できます。1,2回目のウォートは糖類を多く含有するので発酵に回され,3回目のウォートは含有される糖類が少ないので次回の糖化に混合するためにタンクで一時保管されます。
次の工程は発酵になります!
▼
発酵について
ポイント
グレンタレット蒸留所には容量6,000リットルでダグラスファー製のウォッシュバックが8基設置されています。
糖化によって得られたウォートはヒートエクスチェンジャーを経由し,酵母が活発に作用可能な20℃前後まで冷却されたのちに,酵母と共にウォッシュバックに投入することで発酵が始まります。
発酵にかける時間は最大で100時間程度と,比較的長めに設定されています。発酵が完了するとアルコール度数約8%程度のウォッシュを得ることができます。
次の工程は蒸留になります!
▼
蒸留について
ポイント
グレンタレット蒸留所には容量12,500リットルでストレート型のウォッシュスチルが1基,容量9,000リットルでバルジ型のスピリッツスチルが1基設置されています。
加熱方式は蒸気による間接加熱方式,コンデンサーは屋外設置のシェル&チューブ方式が採用されています。
グレンタレットの蒸留プロセスにおける個性は,その速度の遅さにあり,アルコール蒸気と銅の接触時間が増えることでスムーズかつ華やかな風味が錬成されます。
発酵によって得られたウォッシュはウォッシュスチルへと移されて初留が行われます。初留が完了するとアルコール度数約20%程度となったローワインを得ることができます。
次いでローワインはスピリッツスチルへと移されて再留が行われます。再留によって得られるアルコールはスピリッツセイフと呼ばれる箱を経由し,蒸留初期・終期の不安定な香味成分が除去されます。
この工程はミドルカットと呼ばれ,スチルマンという熟練の蒸留技士の管理のもとで行われています。
再留・ミドルカットを終えた時点でアルコール度数約70%程度のニューポットが完成します。
次の工程は熟成になります!
▼
熟成について
ポイント
グレンタレット蒸留所には伝統的なダンネージ式のウェアハウスが6棟設置されており,最大で10,000樽程度収容することが可能です。
熟成に使用される樽はアメリカンオークのバーボン樽とヨーロピアンオークのシェリー樽が中心となっています。
またフェイマスグラウスに使用される原酒は蒸留所の敷地外にある熟成庫に運ばれて熟成されます。
蒸留によって得られたニューポットは,加水によってアルコール度数を63.5%に整えたのちに樽詰めされ,ウェアハウスにて長い時間を眠ることとなります。
オフィシャルボトル一覧
グレンタレットは2020年にボトルデザインを変更しましたが,現在の流通状況としては双方が入り混じったような形となっています。新・旧どちらかを狙う場合は間違えないように気をつけてください!
グレンタレット蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
(新・旧)
ザ・グレンタレット
トリプルウッド
ポイント
トリプルウッドは「アメリカンオーク樽・シェリー樽・バーボン樽」の3種類の樽で熟成された原酒から構成されるボトルになります。
グレンタレットの伝統的な甘くフルーティなスタイルが忠実に再現された,まさに原点と言えるシングルモルトになります。
グレンタレットを飲んだことがない方は是非穂のボトルから!
香り
オレンジピール/バニラ/シナモン系柑橘感/ココナッツ/サルファリー/レモンタルト
味わい
熟したりんご/オレンジ/レモン/バニラ/シナモン/ウッディ/オークの甘さ/レーズン
(旧)
ザ・グレンタレット
ピーテッド
ポイント
ルーアックモアと呼ばれる,グレンタレットで作られたヘビリーピーテッド麦芽を原料として,生産された原酒が使用されたボトルになります。
グレンタレットらしいフルーティさと濃密なピートスモークが絡み合い,バランスが良く奥深い風味となっています。
ハイランドのピーテッド系ウイスキーは本当に美味しい…
(旧)
ザ・グレンタレット
シェリーカスク
ポイント
ヨーロピアンオークのシェリー樽で熟成された原酒ので構成されるボトルになります。
多様な果実香ととて濃厚な甘さが特徴的であり,複雑かつリッチな仕上がりの一本。
(旧)
ザ・グレンタレット10年
ポイント
ノンピートタイプの麦芽を原料とし,アメリカンオークのシェリー樽で10年以上熟成された原酒で構成されたボトルになります。
グレンタレットの個性を代表するボトルのひとつであり,柑橘やりんごを思わせるフルーティな仕上がりとなっています。
(新)
ザ・グレンタレット10年
ピートスモークド
ポイント
ルーアックモアで知られるヘビリーピーテッドタイプのグレンタレットです。
新ボトルでは年数表記がつき,度数も50%という高めの水準でボトリングされるようになりました。
スモーキーであることはもちろん,濃厚な甘みとの共演を楽しむことができます。
(新)
ザ・グレンタレット12年
ポイント
グレンタレットの精神でもある,職人の手をフル活用した伝統的製法を最も体現するボトルになります。
手作業で丁寧にヨーロピアンオーク樽に詰めた原酒が12年以上の熟成を経て,スモールバッチでブレンドされています。
奥行きのある多層的なフルーティさが特徴的です。
(新)
ザ・グレンタレット15年
ポイント
15年は単に熟成期間を伸ばしただけではなく,リフィル樽の特徴を最大限に活かした構成となっています。
リフィル樽では各樽の個性が大人しめとなることから,グレンタレットの原酒が持つ本来のニュートラルな個性が引き立てられています。
柑橘とバニラを基調とし,ドライフルーツのような強い甘さが感じられます。
(新・旧)
ザ・グレンタレット30年
ポイント
グレンタレットの歴史が詰まった30年熟成の原酒と,新オーナーと新ブレンダーの技術が組み合わさることで生まれた集大成的シングルモルトです。
参考資料
参考サイト:whisky.com / scotchwhisky.com / malt-whisky-madness.com / グレンタレット公式 / 都光