記事の概要
ウイスキーを好む方が最終的に行き着く終着点。それはアイラ島の個性的なウイスキーである場合が多くあるでしょう。アイラ島のウイスキーは,薬品のような独特なヨードの香りや,スモーキーと呼ばれる個性的な煙たさを特徴としており,巷でも初心者は飲んではいけないと言われる個性的な逸品です。
この記事では,そんな万人受けを捨て去った玄人向けなアイラモルトについて,今でも比較的コスパ良く楽しむことができる銘柄を全部で10本厳選してきましたので,それぞれご紹介いたします!
\\執筆者情報//
初谷(はつがい)
ウイスキーに関わるあらゆる情報をまとめ,「ウイスキーを知りながらより深く楽しめる記事」を発信しています。
【Shop】ウイスキー専門店『Drinkable books』
【経歴】東京都立大卒|元公務員・ネット酒屋開業
【資格】JWRC公認ウイスキーエキスパート|ウイスキー検定2級
【その他】バンド「Candid moment」のドラマー
各種SNSも運用中!
”スモーキー”とは
ウイスキーの味わいにおいて,しばしばスモーキーと形容される要素があります。
これはその呼び方の通り燻製や焚き火の煙などの煙っぽい要素を指すときに使われる表現ですが,アイラモルトが持つ薬品のような要素もスモーキーと称されている場合が多くあります。
”スモーキー”はどこから生まれる?
このような独特なスモーキーテイストは,ほとんどの場合において原料の大麦麦芽から得られていると言えます。大麦麦芽を作る際には,発芽した後に何かしらの熱源を適用して乾燥させる必要がありますが,その際に「ピート(泥炭)」を焚いた場合,所謂スモーキーな風味が得られるようになります。
このピートはスコットランドで多く採取ができる伝統的な燃料であり,太古の植物が堆積し,長い年月をかけて泥状の炭と化したもの。ちなみにピートは”15cm堆積するのに1,000年かかる”と言われています。
またピートは植物由来のものであるため,もちろん地域や環境によって構成が異なり,異なるピートではウイスキーの味わいも完全に異なってくるのが面白いところ。例えばヘザーの含有量が多いオークニーのピートでは,ヘザーハニーのような甘い煙たさが。海藻の含有量が多いアイラ島のピートでは,薬品のようなヨーディな煙たさが。といった感じで,単にスモーキーと言っても様々な個性があります。
\\コスパ良く楽しめる//スモーキーなアイラモルト10選
フィンラガン オリジナルピーティ
度数 | 40% |
容量 | 700ml |
特徴 | 蒸留所名非公開 |
ポイント
『フィンラガン』は,スコットランドのグラスゴーに居を構えるボトラーズ企業,ザ・ヴィンテージ・モルト・ウイスキー・カンパニーが生産を手がける,蒸留所非公開(アイラ島)のシングルモルトウイスキーのブランドになります。
同社の創業は1992年と比較的最近のことであり,創業者はボウモアのスタッフを務めていたブライアン・クルック氏でした。またこのブランドに属するボトルは,全て蒸留名が非公開ではあるものの,ブランド名はアイラ島の北東部にある,ポートアスケイグ港やカリラ蒸留所に程近い”フィンラガン城”から採られたものであるため,世間ではカリラ説が有力となっています。
そしてこのフィンラガン・オリジナルピーティは,ブランドの最も標準的なボトルであり,近年人気の加速するアイラモルトの中では破格のコスパを誇る逸品。その味わいでは,アイラモルトらしさを代表するヨーディなピートスモークを強く感じることができるるほか,レモン系の柑橘感や,ほのかなバニラの甘みなど,本格的なアイラモルト感を楽しむことができます。
香り
BBQの灰と煙,塩辛いヨード香,ピート,微かに薬品臭,レモン汁,甘いバニラ感
味わい
キャンプファイヤー,枯れ草,ヨーディ,ピートスモーク,カラメルの苦味,潮風
▽
アイラストーム
度数 | 40% |
容量 | 700ml |
特徴 | 蒸留所名非公開 |
ポイント
『アイラストーム』は,スコットランドのボトラーズ企業であるジェームズ&サンズ社が生産を手がける,蒸留所名非公開のシングルモルトウイスキーのブランドになります。同社は2005年に設立された新興のボトラーズ企業ですが,同ジャンルである蒸留所名非公開系のアイラモルトブランドである,アイリークやフィンラガンなどを手がける,ヴィンテージ・モルト・ウイスキー・カンパニー社の傘下にある会社でもあります。
そしてこのアイラストームは,ブランドの最もベーシックなボトルであり,ホグスヘッド樽で熟成された蒸留所名非公開のアイラモルトがボトリングされている逸品。その味わいではフルーティな要素がかなり控えめとなっており,激しいヨード系のピートスモーク感や,滑らかな穀物やバニラの甘みなど,アイラモルトらしいダイレクトな個性を楽しむことができます。
香り
ヨーディなピートスモーク,乾いた潮風,ドライな穀物,ウッディ&バニラ,胡椒
味わい
ヨーディなピートスモーク,焚火の焦げ,蜂蜜ビスケット,バニラ,爽快なハーブ
▽
ピーツビースト
度数 | 46% |
容量 | 700ml |
特徴 | 蒸留所名非公開 |
ポイント
『ピーツビースト』は,ボトラーズ企業であるフォックス・フィッツジェラルド社が生産を手がける,蒸留所名非公開のシングルモルトウイスキーのブランドになります。同社は2010年に創業したばかりの新興ボトラーではありますが,創業者のエイモン・ジョーンズ氏は以前,ホワイト&マッカイのディレクターとしてダルモアやジュラなどの販売を手がけていた人物であり,卓越した知見を有しています。
そしてこのピーツビーストは,ブランドの最も標準的なボトルであり,公式サイトには「ピーツビーストはアイラ島由来かもしれないし,そうじゃないかも」と絶妙に気になる表現がされているものの,フェノール値35ppmのヘビリーピーテッド麦芽由来の個性的な風味が目立つ逸品。その味わいでは,沿岸の焚き火のような夏を思わせる力強さや,激しくヨーディなピートスモーク,そしてレモンや洋梨などの華やかな果実感など,アイラモルトファンを唸らせるような調和の取れた個性を楽しむことができます。
香り
沿岸の焚き火,潮風香るピートスモーク,レモンピール,グレフルの酸味,胡椒感
味わい
ヨーディなピートスモーク,沿岸の潮風,レモン&洋梨,スパイシー,モルティ感
▽
スカラバス
度数 | 46% |
容量 | 700ml |
特徴 | 蒸留所名非公開 リフィルバーボン樽 バージンアメリカンオーク樽 |
ポイント
『スカラバス』は,スコットランドのボトラーズ企業であるハンターレイン社が生産を手がける,蒸留所名非公開のシングルモルトウイスキーになります。
このスカラバスという名称は,古ノルド語で”岩の多い場所”という意味を持つアイラ島の秘境の地名から取られたもの。またブランドとの繋がりは皆無ですが,1800年代初頭には,僅か1年だけ稼働していたスカラバスという蒸留所が実在していたらしく,同ブランドの誕生を以て200年振りにその名称が世に出ることになりました。
そしてこのスカラバスの構成については,蒸留所の名称こそ明かされていないものの,スモーキーな個性が魅力のアイラモルトであることは歴然であり,リフィルバーボン樽とバージンアメリカンオーク樽で熟成された原酒が使用されている逸品。その味わいでは,仄かに薬品を想起させるヨード感や,激しい焚き火のようなスモーク感,そしてドライオレンジの粒が入ったダークチョコレートのような苦味など,パワフルなアイラ島の魅力を手頃に楽しむことができます。
香り
薬品系ヨード香,パワフルピートスモーク,焚き火の焦げ感,チョコ,オレンジ,穀物
味わい
ヨーディなピートスモーク,焚き火の煙,オランジェ,柑橘の酸味,スパイシー感
▽
スモークヘッド
度数 | 43% |
容量 | 700ml |
特徴 | 蒸留所名非公開 |
ポイント
『スモークヘッド』は,スコットランドのボトラーズ企業のイアン・マクロード社が生産を手がける,蒸留所名非公開のシングルモルトウイスキーになります。同社は1933年に創業された老舗のボトラーズ企業であり,現在はタムドゥーやグレンゴインなどの蒸留所も傘下に収める,業界大手の企業でもあります。
そしてこのスモークヘッドは,印象的なドクロのラベルデザインを冠した,アイラモルトにフィーチャーしたブランドであり,蒸留所名こそ非公開なものの,世間一般ではその中身は”アードベッグ”とも言われる逸品。その味わいでは,強烈なヨード香強めのピートスモークや,沿岸の潮風と共に漂うスパイシー感,そしてほのかにフルーティかつ美麗な華やかさが漂うなど,やはりアードベッグに近い美しい煙たさを楽しむことができます。
香り
メディカルなヨード香,強烈スモーキー,カスタードクリーム,柑橘果実,樽感
味わい
薬品系ヨード香,激しいピートスモーク,柑橘にフレッシュ感,カスタード,樽感
▽
ボウモアNo.1
度数 | 40% |
容量 | 700ml |
特徴 | ー |
ポイント
『ボウモア』は,アイラ島中央部にあるインダール湾の東岸に所在する,サントリー社傘下のボウモア蒸留所が生産を手がけるシングルモルトウイスキーのブランドになります。
同蒸留所では,自社が所有するピート採掘場から採取したピートを活用した,スモーキーなウイスキー作りが行われています。このピート採掘場はアイラ島の中ではやや高地にあり,アイラ島南岸のピートよりも海藻の含有量が少なくなっているため,そのウイスキーは,海藻のような強烈なヨード香は控えめで,柔和かつドライなスモーキーさが感じられるのがポイントです。
そんな個性的ながらも優しさのある風味から,「アイラの女王」とも呼ばれているのがボウモアであり,中でもこのボウモアNo.1は,蒸留所の入門ラインナップ的なボトルとしてその特徴をよく反映している代物。その味わいでは,以下にもボウモアらしいややハイランドよりなピートスモーク感や,沿岸に吹く潮風の要素,そしてレモンピールのような華やかな柑橘感など,蒸留所の魅力をリーズナブルに楽しむことができます。
香り
軽やかなピート香,沿岸の潮風ヨーディ,レモン&オレンジ,バニラ,花の蜜,樽感
味わい
軽快なヨーディピートスモーク,バニラ,オレンジ,チョコの苦味,フローラル感
▽
ラフロイグ セレクト
度数 | 40% |
容量 | 700ml |
特徴 | バーボン樽・PXシェリー樽 ヨーロピアンオークシェリー樽 |
ポイント
『ラフロイグ』はアイラ島の南岸部,アードベッグやラガヴーリンと並ぶように建っている,サントリー社傘下のラフロイグ蒸留所が生産を手がけるシングルモルトウイスキーのブランドになります。
そのウイスキーを端的に表せば,圧倒的に強力なヨード系のピートスモークが特徴となっており,世間では「Love it or hate it」,つまりこれを飲んだ人は,ラフロイグを好むか嫌うかの二択になると評されています。その背景には,アイラ島産の海藻を多く含んだピートをふんだんに焚いた,フェノール値50ppm程度の麦芽を原料に採用していたり蒸留工程ではミドルカットの幅をアルコール度数60%以下まで設けたりと,重くスモーキーな香味を得る工夫の実践が事実としてあります。
そしてこのラフロイグ・セレクトは,同蒸留所の入門グレード的なラインナップであり,バーボン樽,ヨーロピアンオークのシェリー樽,PXシェリー樽の3種類の樽で熟成された原酒が使用されている逸品。その味わいでは,好みが分かれる実験室のような薬品系のヨード感や,シェリー樽由来のややサルファリーな要素,そしてイチジクのような果実感など,かなり個性的な要素の数々を楽しむことができます。
香り
薬品ピートスモーク,炭っぽい苦味,樽感,自然な蜂蜜,イチジクの果実感,干し草感
味わい
潮風ピートスモーク,ヨーディな薬品香,正露丸,焦げた炭,柑橘果実,蜂蜜,木
▽
アードベッグ5年 ウィービースティ
度数 | 47.4% |
容量 | 700ml |
特徴 | バーボン樽 オロロソシェリー樽 |
ポイント
『アードベッグ』は,アイラ島の南岸部に所在する,ルイヴィトン社傘下のアードベッグ蒸留所が生産を手がけるシングルモルトウイスキーのブランドになります。
同蒸留所のウイスキー作りでは,フェノール値60ppm程度のかなり強くピートが焚かれた麦芽を原料されているのが最大の特徴ですが,意外にも発酵や蒸留の工程では,華やかかつフルーティな香味を得る工夫が多く凝らされているのがポイントです。具体的には,発酵は通常よりも少し長めの時間設定とすることで,発酵後期に卓越する乳酸発酵の影響を得ていたり,蒸留ではポットスチルのラインアームに,重い香味を持つ蒸気を環流させるピュリファイヤーがつけられていたりしており,煙たさに負けない華やかさが養われています。
そしてこのアードベッグ5年・ウィービースティは,同蒸留所の入門グレード的なラインナップであり,バーボン樽とオロロソシェリー樽で熟成された原酒が使用されている逸品。その味わいでは,短熟故に荒々しさが引き立てられたヨーディなピートスモーク感や,アードベッグらしい意外な果実系の甘み,そしてバニラのような滑らかな甘みなど,個性的な要素をバランスよく楽しむことができます。
香り
激しいピートスモーク,軽快なハーブ感,黒胡椒,タールの苦味,フレッシュ柑橘
味わい
ヨーディなピートスモーク,スパイシー,潮風,ハーブ,チョコレート,柑橘感
▽
ラガヴーリン8年
度数 | 48% |
容量 | 700ml |
特徴 | リフィルシェリー樽 リフィルバーボン樽 |
ポイント
『ラガヴーリン』は,アイラ島の南岸部でアードベッグ蒸留所などの近くに所在する,ディアジオ社傘下のラガヴーリン蒸留所が生産を手がけるシングルモルトウイスキーのブランドになります。
同蒸留所のウイスキー作りでは,ポートエレン社製で38ppm程度のヘビリーピーテッド麦芽を原料とし,ストレート型のポットスチルの容量をフルに活用した蒸留を行うなど,重くオイリーでスモーキーなテイストの確保が助長されているのがポイント。さらに蒸留時のミドルカットでは,アルコール度数70~60%の間という通常よりもやや低めの部分をニューポットとして確保しており,このようなケースでは,強力なスモーキーテイストを醸す成分が多く得られることがわかっています。
そしてこのラガヴーリン8年は,もともと蒸留所の200周年を記念して販売された限定ボトルでしたが,世界中からの好評を得て,今では16年と共に蒸留所を代表するオフィシャルボトルとして定番化した逸品。その原酒に関しては,リフィルのシェリー樽やリフィルのバーボン樽で熟成されたものを中心とした構成となっており,味わいでは,16年よりも若々しくアイラモルトらしい強烈なヨード系スモーク感や,ラガヴーリンらしい出汁感,そして干し草のようなドライな香味など,玄人向けの美麗なテイストを楽しむことができます。
香り
出汁の塩気,干し草強烈ピート,タール,レモン,弱ヨード,ドライなオーク香
味わい
潮っぽい出汁感,干し草,正露丸ピート,華やかな柑橘,木の苦味,穀物の甘み
▽
カリラ12年
度数 | 43% |
容量 | 700ml |
特徴 | バーボン樽原酒が中心 |
ポイント
『カリラ』は,アイラ島の北東部,ポートアスケイグ港のほど近くにアイラ島内で最大規模の拠点を構える,ディアジオ社傘下のカリラ蒸留所が生産を手がけるシングルモルトウイスキーのブランドになります。
そのウイスキー作りにおいては,ラガヴーリンとほぼ同じ諸元となる,ポートエレン製麦所製でフェノール値38ppm程度のヘビリーピーテッド麦芽を原料としているのが最大のポイント。また仕込水についても,ピート層を浸透してきたピーティな要素を持ち合わせるナムバン湖の水を使用するなど,重くスモーキーなテイストを表現する工夫が随所に凝らされています。
そしてこのカリラ12年は,当蒸留所の最もスタンダードなオフィシャルボトルであり,バーボン樽原酒を主体としていることから,ベーシックなカリラらしさがしっかりと表現されているのがポイント。味わいでは,ラガヴーリンと通づるものを感じる強烈なピートスモークと薬品のようなヨード香が非常に強く出ていながら,ベリーや柑橘ジャムのような濃い甘みが出ていたり,炭化した木のような強い苦味が出ていたりと,とにかく個性的かつ魅力的な風味を楽しむことができます。
香り
強いピート,薬品ヨード,濃密な柑橘感,干し草,枯れ草原,クリーム,ベリー感
味わい
干し草,強烈ピート,鬼ヨードチンキ,柑橘ジャム,炭化した木,潮スパイシー