記事の概要
世界中の蒸留所図鑑完成を目標としたシリーズです。
今回はスコットランドより「ブナハーブン蒸留所」になります!
Points!「立地・歴史・伝統的な製法・オフィシャルボトルの簡単な解説」
キーワード
ノンピートタイプのアイラモルト/シェリー樽/アフリカ企業が所有者/ブラックボトル
ブナハーブンの特徴
60%がノンピート原酒/40%がピーテッド原酒/シェリー樽の要素/クセの少ないアイラモルト
ブナハーブン蒸留所
ブナハーブン蒸留所の立地・歴史・製法についてまとめていきます。
蒸留所の概要
創業年 | 1881年 |
所有会社 | ディステルグループ社 |
地域分類 | スコットランド アイラ島 |
発酵槽 | オレゴンパイン製6基 |
ポットスチル | 初留2基・再留2基 |
仕込み水 | マーガデイル川 |
ブレンド先 | カティサーク ブラックボトルなど |
「ブナハーブン蒸留所」蒸留所の立地
ポイント
ブナハーブン蒸留所はスコットランドのアイラ島の最北端に位置する蒸留所になります。
アイラ島の蒸留所はどれも辺鄙な土地にありますが,ブナハーブンはそれらの比ではなく,ポートアスケイグの港から名もない細い道を6キロ以上北上した場所にあります。
この隔絶された海岸沿いに蒸留所が建てられた背景には,かつてはアイラ島の蒸留所の物資確保が海運中心であったことと,ピートの影響を受けない澄んだ水を得ることができたという理由があります。
あまりに辺鄙であることから従業員用の住居の建設や専用道路の整備,物資受渡用の波止場も蒸留所と併せて建設されています。
ちなみにブナハーブンはゲール語で「河口」を意味しており,実際に蒸留所の位置が仕込み水を引いているマーガデイル川の河口にあることからこの名が付けられました。
「ブナハーブン蒸留所」蒸留所の歴史
ブナハーブン蒸留所の歴史を下表のとおり整理しました!
西暦年 | 内容 |
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1881年 | ウィリアム・ロバートソンとアイラディスティラーズ社のグリーンリーズ兄弟らによってブナハーブン蒸留所が創業される |
1883年 | ウイスキーの生産が開始される |
1887年 | アイラディスティラーズ社がウィリアム・グラント&Co社と合併し,ハイランド・ディスティラーズ社が設立される |
1930年 | 戦争の影響などによって蒸留所が以降7年間にわたって閉鎖される |
1963年 | 蒸留器が2基増設されて4基体制となる 自社でのフロアモルティングが廃止される |
1982年 | ウイスキー市場の低迷に伴い,蒸留所が休業される |
1984年 | 低水準の生産量で蒸留所が再開される |
1999年 | ハイランドディスティラーズ社がエドリントン社の傘下となる |
2003年 | 蒸留所及びブナハーブンのブレンデッドブランドであるブラックボトルがバーンスチュワート社へと売却される |
2006年 | ボトルデザインが一新され,12年・18年・25年がラインナップされる |
2013年 | バーンスチュワート社が南アフリカのディステルグループ社と合併される |
2017年 | 1,100万ポンドをかけた,3年間にわたる蒸留所のアップグレード計画が開始される 併せてボトルデザインなども一新される |
2021年 | 新たなビジターセンターがオープンされる |
ブナハーブンに纏わるストーリー
ブラックボトル
ブナハーブンは1990年頃まではかなりマイナーな蒸留所であり,生産される原酒の多くは,当時の所有者であるエドリントン社が手がけるフェイマスグラウスやカティサークなどのブレンデッド用となっていました。
1995年にはエドリントン社がブレンデッドウイスキーのブランドである「ブラックボトル」を買収し,アイラ島の個性を詰め込んだ仕上がりを目指すようになります。そしてブナハーブンは徐々にシングルモルトとしてその地位を高めつつも,このブラックボトルの原酒となりました。
その後ブナハーブンと共にブラックボトルはバーンスチュワート社,ディステル社と所有が移っていきますが,ブランドの実力は安定しており,2022年にはワールドウイスキーアワードのスコッチブレンデッド部門で最高金賞を受賞するほどの超有力銘柄に抜擢されるレベルに至っています。
そんな素晴らしい実力を持ちながらも2000円台で買えてしまうから恐ろしいんですよね,ブラックボトルは!
「ブナハーブン蒸留所」製法の特徴
製麦について
ポイント
ブナハーブン蒸留所では1963年以降自社製麦を行なっておらず,同じくアイラ島に位置するモルトスターのポートエレン社から原料のモルトを仕入れています。
大麦はコンチェルト種であり,ピーテッドレベルは6割がノンピート,4割がヘビリーピーテッド(34〜38ppm)と,合計2水準が設定されています。
創業時はノンピートスタイルでのブランディングがなされていましたが,1997年頃から試験的にピーテッド麦芽での仕込みが始まり,これらの原酒が2004年にモンニャの名称でリリースされたことで定着しました。
用意された原料のモルトはポルテウス社製の4ローラー式モルトミルで粉砕されてグリストとされたのち,糖化の工程へと進みます!
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糖化について
ポイント
ブナハーブン蒸留所では仕込み水としてマーガデイル川の水を採用しています。この水はアイラ島では珍しく,ピート層を経由していないクリーンな水質を特徴としています。
マッシュタンは1バッチあたり12.5トンにも及ぶスコットランド最大級のグリスト容量を誇り,銅製の蓋を有する,ステンレス製のセミロイタータンになります。
製麦で得られたグリストはマッシュタンに投入され,加熱した仕込み水を3回に分けて温度を上げながら注ぐことで糖化が進められます。この手法はインフュージョン法と呼ばれており,1サイクルは12時間となっています。
糖化が完了すると糖分を多く含んだウォートを概ね64,000リットルほど得ることができます。
次の工程は発酵になります。
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発酵について
ポイント
ブナハーブン蒸留所には容量70,000リットルでオレゴンパイン製のウォッシュバックが6基設置されています。発酵に使用される酵母はマウリ社製のドライイーストとなっています。
糖化によって得られたウォートは酵母が活発に作用可能な20℃前後まで冷却されたのち,酵母とともにウォッシュバックへと投入することで発酵が進められます。
発酵にかける時間は55〜110時間とかなり長めに設定されており,多くの香味成分がこの過程で精製されていることがわかります。
発酵が完了するとアルコール度数約7.5%のウォッシュが完成します。
次の工程は蒸留になります!
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蒸留について
ポイント
ブナハーブン蒸留所には容量16,800リットルのウォッシュスチルが2基,容量15,500リットルのスピリットスチルが2基設置されています。
形状はどれもストレート型であり,加熱方式は蒸気による間接加熱方式,コンデンサーはシェル&チューブ方式が採用されています。
発酵によって得られたウォッシュはまずウォッシュスチルへと移されて初留が行われます。初留が完了するとアルコール度数約20%のローワインを得ることができます。
次いでローワインはスピリットスチルへと移されて再留が行われます。再留によって得られるアルコールはスピリッツセイフと呼ばれる箱を通り,その中で蒸留初期及び終期の不安定な成分を除去するミドルカットという工程が適用されます。
再留・ミドルカットを終えるとアルコール度数約69%のニューポットを得ることができます。
次の工程は熟成になります!
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熟成について
ポイント
ブナハーブン蒸留所には敷地内の海岸沿いに伝統的なダンネージ式のウェアハウスが建てられており,20,000を超える樽を安置することが可能です。
熟成に使用される樽はバーボン樽とシェリー樽が中心となっています。
ウェアハウスについては2017年の蒸留所改築計画で再建が謳われており,進行中と思われます。その間ブレンデッド用の原酒は,所有者を同じとする本土の南ハイランドにあるディーンストンへと運ばれ,集中的に熟成されます。
蒸留によって得られたニューポットは加水によってアルコール度数を63.5%に整えてから樽詰めされ,倉庫にて長い時間を眠ることとなります。
オフィシャルボトル一覧
ブナハーブン蒸留所のオフィシャルボトルを紹介していきます!
ブナハーブン12年
ポイント
ブナハーブン蒸留所の公式シングルモルトであり,最もスタンダードなボトルになります。
ボトルの見た目もイカつく,アイラモルトでありながらスモーキーさはほとんどなく,優しい口当たりで飲みやすいのが特徴的です。
またボトリングに際して冷却濾過や色素添加を行なっておらず,アルコール度数も高めの46.3%に設定されているこだわりの1本でもあります。
香り
軽快なフルーツ香/レーズン/カカオ系ビター/ウッディ/ほのかな潮風
味わい
ドライフルーツ/レーズン/ダークチョコのビター感/ウッディ/潮の香り/青リンゴ
余韻
ほんのりした甘みとウッディネスが長く残る
ブナハーブン25年
ポイント
シェリー樽で25年以上熟成された原酒をメインに構成された,超長熟のブナハーブンになります。
熟成によって洗練されたブナハーブンの個性と濃密なシェリーの甘味を感じることができます。
12年同様ノンチル・ノンカラーで46.3%のこだわりのアルコール度数となっています。
香り
カラメル/レーズン/デザート調の甘み/オーク/レザー感
味わい
極甘ベリー/クリーム/芳醇なオーク/ローストナッツ/胡椒系スパイシー
余韻
柔らかくドライな印象/スパイシーとオークのウッディネスが長く続く
ブナハーブン ステュウラーダー
ポイント
ステュウラーダーという名称はゲール語で「操舵手」を意味します。
その構成はファーストフィルとセカンドフィルのシェリーカスクで熟成された原酒からなります。シェリーの要素を色濃く持つ,ピートの淡い不思議なアイラモルトです!
香り
ドライフルーツ/キャラメル/バニラ系クリーム/ナッティ/ウッディ
味わい
レーズン/ドライフルーツ/カラメル/バニラ/ナッツ感/オーク
余韻
フルーティな香味が長く残り続ける
ブナハーブン アン クラダック
ポイント
アンクラダックはゲール語で「海岸」を示しており,免税店向けにリリースされたボトルのひとつになります。
シェリーの影響を受けつつもブナハーブンらしさを感じるバランスの良い仕上がりの1本です!
香り
ドライフルーツ/キャラメルの甘さ/バニラ/濃密なシェリー香
味わい
クリーミー/リッチなシェリー香/ナッティ/スパイシー/海岸の潮風
余韻
ドラフルーツを思わせる甘く豊かな香りが長く残る
ブナハーブン
トチェック ア ガー
ポイント
トチェックアガーという聞きなれない名称の由来はゲール語にあり,「Smoky Two」という意味を持っています。
その意味の通り,通常ノンピートのラインナップが基本であるブナハーブンにおいて,異端のピーテッドタイプの原酒で構成されています。
シェリー樽とピーテッドブナハーブンの調和は異質ながら個性的。
香り
潮風を伴うピートスモーク/焦げウッド/レーズン/バニラ/プラム/はちみつ
味わい
オイリー/オレンジ/バニラ/上品なスモーキー/スパイシー/塩気/コーヒー
余韻
コーヒーを思わせるビター感とピートスモークが長く残る
ブナハーブン クラック モナ
ポイント
クラックモナはゲール語に語源を有しており,その意味は「積み重なるレンガ状の乾燥した泥炭」です。
このボトルも免税店向けのリリースであり,クラックモナの意のとおりピートが効いたタイプのブナハーブンになります。
香り
乾燥している/海岸の潮風/パンのようなモルティ/ピートスモーク
味わい
ピートスモーク/タールのよう/モルティ/胡椒系スパイシー/ハーバル
余韻
濃密なピートスモークが長く残る
参考資料
参考サイト:公式サイト / whisky.com / scotchwhisky.com